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INTERVIEW
エゴを出せーー「優等生」の日本人にライゾマティクスが伝えたいこと
INTERVIEW

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スマートフォンで東京タワーの照明をコントロールするau主催の参加型イベント「FULL CONTROL TOKYO」、全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」の統合ブランディング、VRビデオゲーム「Rez Infinite」の共感覚スーツ「Synesthesia Suit」・・・

読者のみなさんも、いずれかを一度は目にしたことがあるかもしれません。実はこれらすべてのクリエイティブの裏側には、共通してある「クリエイティブ・カンパニー」がいるのです。それが、今回取材した齋藤精一さんが率いる、「ライゾマティクス」です。

同社は、テクノロジーやデザイン、建築を軸に、革新的な作品や表現で見る者を常に驚かせ、未来の可能性を感じさせてくれます。結果、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル、アルスエレクトロニカなど、国際的に受賞歴多数。

「今、世界で通用する数少ない日本のクリエイティブ・カンパニーと言えば・・・」、ライゾマティクスはまさにそのような存在で、世界に向けてビジョンを発信したい企業、行政から、企画や制作はもちろん、都市計画に至るまで依頼が舞い込んでいるのです。

「そうは言っても、創業当時はいち制作会社にすぎませんでした」、今となっては想像しがたいですが、齋藤さんはそう認めます。設立から10年あまりで今の居場所に到達し、常に「社会で変化を起こす側」であり続けられているのはなぜかーー。

今回はライゾマティクス代表の齋藤さんに、変化の激しい現代において、新たなものを生み出すために必要な思考法やチームビルディングの方法論について伺います。

株式会社ライゾマティクス 代表取締役、ライゾマティクスアーキテクチャー主宰 齋藤精一

PROFILE

株式会社ライゾマティクス 代表取締役、ライゾマティクスアーキテクチャー主宰 齋藤精一
齋藤精一
株式会社ライゾマティクス 代表取締役、ライゾマティクスアーキテクチャー主宰
1975年神奈川県生まれ。東京理科大学工学部建築学科卒業。コロンビア大学建築学科で建築デザインを学び、2000年からニューヨークで活動を開始。その後Arnell Groupにてクリエイティブとして活動し、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。フリーランスのクリエイティブとして活躍後、2006年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート、コマーシャルの領域で立体、インタラクティブの作品を多数作り続けている。2009~2014年国内外の広告賞にて多数受賞。2013年D&AD Digital Design部門審査員、2014年カンヌライオンズBranded Content and Entertainment部門審査員。現在、東京理科大学理工学部建築学科、京都精華大学デザイン学科非常勤講師

顧客に「これは売れない」、正直に言ったことが分岐点に

—ライゾマティクスは設立11年目に突入しました。創業からこれまで社会における会社の立ち位置はどのように変化してきましたか。

「自覚的に変えてきた部分」と「自然に変わってきた部分」とがあります。

創業当初は、やはり受託制作が中心のいち「制作会社」で、会社を回すために、商業的なものと自分たちの作品づくり、二足のわらじを履いている感じでした。

制作フローにはクライアント、広告会社、プロダクションとさまざまなレイヤーがありますが、僕らはその最下部にいて、上に立つプロダクションから指名を受けて、降りてきた要望に合うものを作る役割だったわけです。

そこから抜け出したのは、とあるメーカーの製品プロモーションに携わったことがきっかけでした。コンセプトと実際の製品の出来上がりがまったく違う。これをそのままプロモーションしたら、ユーザーの反感につながるのではないか。

普通なら言われるがまま、ことなかれ主義でプロモーションを考えればよかったんでしょうけど、「正直、これ売れないんじゃないですか」とメーカーの担当者に話したんです。そうしたら「僕もそう思うんだよね」、と。

そのとき、「言っていいんだ」とハッと気づきました。われわれみたいな「考えながら作る」会社は、相手がベンチャーだろうが、大企業や行政だろうが、「ダメなものはダメ」と正直に言わないといけない、と。

株式会社ライゾマティクス 代表取締役、ライゾマティクスアーキテクチャー主宰 齋藤精一

そのほうが当然、関わる人のモチベーションも上がるわけです。そうしているうちに、Webの制作だけだったのが、プロモーション全体の企画、オリンピックの演出・・・と、だんだんとレイヤーが高くなっていって、最近では僕の仕事の半分くらいは「都市計画」について考えることが多いんです。

—顧客に正直に言うことは勇気がいりますよね。

でも仕事を着実に進めて、相手との関係性ができてくると、言えるようになるんですよ。それは、ライゾマティクスを立ち上げる前にいたニューヨークにあるArnell Groupという代理店で働いていたときにも同じようなことはあって。

当時も、「せっかく自分がキレイなグラフィックを作ったのに、後からこんなコピーを乗せないでほしい」みたいな、衝突が起こっていた。でも誰が上か下かじゃなくて、「何を作りたいか」だけなんですよね。コピーが書けなくても、「自分の思い」がそこにあるから、それを伝えたいと思うわけです。

「時代の先」を行くチームに必要なのは、プロトコルと哲学

—ライゾマティクスはどのようなチーム編成で動いているのですか。

2016年に改めて、リサーチ/アーキテクチャ/デザインの3部門に編成しました。というのも、この10年活動を続けていて、良くも悪くもブラックボックス化したところがあったんです。

昔からいたあるメンバーは自分をWebデザイナーだと思っているし、ある人はアーティスト、ある人はディレクターと、それぞれ捉え方が違う。漠として、「だけど、ライゾマってなんでもできるよね」というイメージだけはあって。

でもメンバーも取引先も増えてくると、自分たちが何をしているのか、どこへ向かうのか指針として掲げてあげないといけないな、と思ったんです。

テクノロジーが進化し、洗練されてきたというのはもちろんあるのですが、僕らの仕事においては時代に合わせて、というより、時代の「先」へ行かないといけない。そのためには、チームとしてすべてのことに精通する必要がある。そのための組織変革でした。

株式会社ライゾマティクス 代表取締役、ライゾマティクスアーキテクチャー主宰 齋藤精一

よく絵本の『スイミー』に例えるんですけど、第1次産業革命のころはなるべく巨大で強い魚になることが、世の中へのインパクトにつながっていた。でも第4次産業革命の今、せいぜい2mくらいの魚でいいから、どれだけ速く動いて先を取れるかが重要。それを念頭に置いてチームのあり方や仕事の取り方を考えなくてはなりません。

いわゆる大企業が負け始めていたり、ありえないほど小さな石に躓いていたりするのは、そういうことだと思うんです。ですから、僕らみたいなチームは、己を信じつつ、まわりをリスペクトして巻き込んでいかないと、社会に対するインパクトが出せないんです。

—スイミーのように個々が集まってチームを形成するとき、重要なことはなんですか。

やはり、プロトコル(共通言語)と哲学だと思います。エンジニアやマーケティング、事業などそれぞれバラバラの言語を話す中で、できるだけ共通言語を持つということ。そして「なぜわれわれは集まって、チームを形成しているのか」「誰と一緒にいるべきか」「どんな方向へ進むべきか」と羅針盤になる哲学を持つことが重要です。

でも今は、「KPI」だの「ROI」だの、個人の生産性や経済効果が評価されて、ビジネス書にもノウハウばかりが書かれている。「哲学」なしでは働き方改革もテレワークもうまくいかないと思うんです。

2017、18年にはまた揺り戻しが来ているというか、チームを良識的に活用するためのチーム作りや、単なる定例会だけじゃない情報共有の方法を考えて、バラバラだった意識を集約して、共通認識にしていくことが求められると思います。

日本は「間違っていないけど、合ってもいない」優等生ばかり

—齋藤さんが今仕事をしている中で、日本の組織に感じる弱みはなんですか。

みんな、いいんですよ。間違っていない。でも、「合ってもいない」んです。

株式会社ライゾマティクス 代表取締役、ライゾマティクスアーキテクチャー主宰 齋藤精一

角がないというか、賛否両論が起こらないし、起こそうとしませんよね。みんな「優等生」なんですよ。キレイな丸は描けるけど、凸凹がない。

今の時代に求められているのがキレイな丸だから、というのもあるのでしょうけど、都市や街など分母の大きいものを作るときには、最初から人工的にキレイな丸を作っても仕方がない。川の上流にある石がどれもゴツゴツしているように、揉まれるうちに自然と丸くなるものが必要なんです。

本来、世の中にあるさまざまなものが賛否両論を得るべき。会社の若手社員も、何か上司のやっていることが間違っていたとしても、面と向かっては言わない。それでブログやSNSに書くとか、他のコミュニケーション手段を取ろうとする。以前だったら、血気盛んな人は「てめえ、この野郎」くらいの覇気で上司に食ってかかっていたじゃないですか。

みんな、リテラシーも道徳心も情報感度も高くて、10手先を読むことができるけど、もっと経営者的というか、大局的な視点を持った人が少なくなった気がします。全員が全員「担当者」なんですよね。下手すると社長でさえ、そうなっていることもある。企業にかぎらず、行政もですよね。「大それたラディカリズム(急進主義)」と呼んでいるのですが、それなくしては新しいものは生み出せません。

—今はあらゆるものが飽和化、均質化し、衝突や葛藤を起こすこと自体が難しくなっているのかもしれませんね。

なんとかしようとするなら、それこそ義務教育までさかのぼらないといけないのかもしれない。今、大学で学生たちに教えているのですが、話を聞いてると「ナンパなんかしない」っていうんですよ。SNSでナンパの失敗事例をさんざん見てきてるから、自分の脳の中に「危ない橋、渡るべからず」というのがある。

僕らの若いころって、予測不可能なものがたくさんありましたよね。「この人と飲みに行ったら、僕の人生どうなっちゃうんだろう」みたいなヤバい先輩とか(笑) 教育や情報の取捨方法、リテラシーも「こうあるべきだ」というのが確立されて均質化されている。だからみんなアナーキーに、自分の頭で考えられないんです。

でもこれはまだ訓練できる余地があると思うんですよ。どんな小さなことでも「なんでこうなっているんだろう」「どうしてこうしなくてはならないんだろう」という疑問を見つけていく。「大人の事情」を感じるものに敏感になっていくんです。

エゴを出し、個人が刺激しあえるのが「強いチーム」

—優等生的ではないチームを顧客や社内外のクリエイターと作るために、具体的にどのように動いているのですか。

場づくりやブランドコンセプト設計など、それぞれの目的は異なるのですが、よくワークショップで参加者へ向けてお話しするのは、「人生で学んだことをすべて出し切ってください」ということです。

株式会社ライゾマティクス 代表取締役、ライゾマティクスアーキテクチャー主宰 齋藤精一

失敗したこと、感動したこと…デートとか超個人的な観点でもいい。それらを思い出しながら、「本来ならこうすればいいのに、どうしてやらないんだろう」と考える。すべての原則にあるのは「自分のエゴで考える」ということなんです。

—自分のエゴを出せない人もいますよね。自分の意見を問われる機会が少ない人もいます。

ワークショップでは最初に名刺交換をさせないんですよ。あくまで業界と名前だけとか。そうすると「あ、〇〇社ですか、いつもお世話になっています」みたいなバイアスがかからない。「大人の事情」はなるべく排除したほうがいいんです(笑)そして、ちゃんとファシリテートしてあげる、ということです。

最初から門戸を開いている人とそうでない人、さまざまな人がいます。だけど、そこで「人生で学んだことを出し切ってください」と言うと、意外とみんな安心するというか、自由でいいんだ、と心得て、面白いアイデアがボロボロ出てくるんですよね。やはりどこかで、組織人としての「リミッター」がかかっているんでしょう。それを外してあげるだけでも違います。

—外部のファシリテートだけでなく、社内のチームをマネジメントする上ではどんなことを意識されていますか。

お互いに心を開いた後、わーっと衝突や葛藤が始まったら、陰湿なものでなければ放っておきます。だけど、そこに「どこへ向かっているのか」という羅針盤をしっかり設定する必要だけはあります。それがマネジャーの役割かもしれない。

株式会社ライゾマティクス 代表取締役、ライゾマティクスアーキテクチャー主宰 齋藤精一

そうすれば、最終的にはちゃんと中和されるんですよ。モノづくりにおいては自分以外の他の力学が働かなくては、良いものは生まれない。明確なのは、当事者の熱が高いとき、その成果物も熱量の高いものになるということです。

チームって結局、個人の集まりですからね。メディア論的にはテクノロジーの力によって即時性のあるインフラができて、情報流通が変わったことで、クラスタ(群衆)がフラグメント(分割)化され、個人が立っていく時代になったわけです。広告制作でもターゲットを「F1層」「F2層」と呼び、建築においても「住民」と言っているようじゃ負けなんです。本当はもっと因数分解できるはずじゃないですか。

「チームは個人の集まりである」という前提に立っていれば、まず一人ひとりのプロフェッショナルのレベルが高いというのは当たり前。その上で哲学や共通言語がお互いにあって、自由自在に動ける、泳ぎたいほうに泳げる仕組みができてさえいれば、「チームのパフォーマンスが高い」というのは、つまり「お互いが刺激しあっている」ということ。個人として確固たるものがありつつ、必要に応じてチームに融合するイメージです。

—チームとして働く前提に個人として、自分本位の考えを持っている、ということが重要なんですね。そのためにできる訓練のようなものはありますか。

まずは自己判断を繰り返すこと。「これが好き」「これは嫌い」と些細なことからでいいから、考える習慣を持つことです。

そして、ミクロとマクロのスイッチング。おそらく多くの人は普段、ミクロ的な仕事に取り組んでいると思いますが、常にカメラポジションを意識するというか、「世の中の根源ってどう変わるんだろう」と、マクロに引いて見てみるといいと思います。

これは個人的な習慣なんですけど、あまり本を読む時間は取れないのですが、新聞だけは毎日読んでいるんです。見出しだけでもいいから、なんとなく頭の中に気になることをスクラップしていくような感じ。それでたまに、言葉と言葉、事象と事象がつながって、「あっ、これってこういうことだったんだ!」という瞬間がある。

1日の終わりに必ず、アイデアを付箋に書き留めて、壁に貼って、「あぁ、今日はこんなことを考えたんだ」と俯瞰してみたって、バーっとドミノ的に思考が広がっていく瞬間があります。考えることが仕事の人なら、そんな「瞬間」にいつも出会いたいですよね。

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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