ログインして記事ブックマーク、コメント投稿などすべての機能を使う。

close

INTERVIEW
「石の上にも三年」はあやしい? 社員が活躍できる職場、AIで実現 セプテーニに学ぶ
INTERVIEW

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
BOOK MARK

プロダクトやサービスにおいてAI(人工知能)の活用、実用化が進んでいます。「あなたの仕事がAIに置き換えられる」などといったニュース記事を読んで、人を脅威にさらすようなネガティブなイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。

まだ遠い未来のこと… と思われがちですが、先ごろ、人事業務領域において「AIを導入した」と大きな話題になった企業があります。ネットマーケティング事業などを手がけるセプテーニ・ホールディングスです。

セプテーニ・ホールディングスでは人材育成の柱に独自の考え方を置き、膨大な人材データをAIで分析することで、「人事の最適化」を図っています。今回は、その研究に取り組む人的資産研究所 研究員の進藤竜也さんに話を伺い、「AI人事」の真意とその実績、AIの活用方法を探ります。

株式会社セプテーニ・ホールディングス 人的資産研究所 研究員 進藤竜也

PROFILE

株式会社セプテーニ・ホールディングス 人的資産研究所 研究員 進藤竜也
進藤竜也
株式会社セプテーニ・ホールディングス 人的資産研究所 研究員
1988年埼玉県生まれ。早稲田大学創造理工学部卒業後、セプテーニ・ホールディングスに入社。新卒採用を担当し、採用分野にアナリティクスの仕組みを導入。採用業務と並行して科学的な人材育成の研究を進め、育成・配置の分野にもアナリティクスを導入。その技術支援を行う。現在はグループ内研究機関である人的資産研究所の初代研究員として業務に従事

『マネー・ボール』の方法論を人事領域にも

—「AI人事」とは、一体どういう仕組みで運用されているのでしょうか。

「AI」というものがあまりにセンセーショナルに取り上げられていて、なんとなく冷たい印象を持たれてしまって、不本意ではあるのですが…(苦笑)

もともと当社では、20年ほど前から「360°サーベイ」という人事考課制度を取り入れていました。部門の分けへだてなく、一人当たり約20〜50名が匿名で評価をつけるというもので、その平均値が高ければ高いほど「評判がいい」というわけです。社内では重要指標として位置づけられて運用を続けています。

当社はインターネット広告事業を手がけていることもあり、「人事にマーケティングを取り入れる」という発想になじみがあったと言えるかもしれません。このサーベイの結果をはじめとして、当社にはさまざまな人事データが蓄積されていました。けれどもデータベースとして一元化されていたわけではなく、活用しきれていない部分がありました。

私は2011年に入社して新卒採用を担当していたのですが、ちょうどそのころに当社の取締役でもあるグループ上席執行役員の上野の主導で、『マネー・ボール』の考え方を人事にも取り入れるプロジェクトが始まりました。

ブラッド・ピット主演の映画でも話題になった、メジャーリーグの「オークランド・アスレチックス」のゼネラル・マネジャーが、統計学にのっとった独自の手法で強豪チームを作り上げていくプロセスを描いたベストセラーです。

『マネー・ボール』マイケル・ルイス著(早川書房)
『マネー・ボール』マイケル・ルイス著(早川書房)

そこで、組織の最適化を支援する株式会社ヒューマンロジック研究所の協力のもと、「FFS理論」に基づいたデータ分析を行うことになりました。

FFS理論というのは、人の行動思考パターンを凝縮性、受容性、弁別性、拡散性、保全性の5つの因子に分け、どんな要因がストレスを引き起こすのかを定量的に表し、組織人事に役立てるものです。

言い換えれば、お互いの個性やストレスを定量的に理解し、人と人との相性や環境を整えることで仕事の生産性を高めることを説いた理論です。その理論と、当社の概念が組み合わされて、弾き出されたのが「育成方程式」です。

育成方程式

一人ひとりが持っている個性と、チームと仕事で構成される環境とを掛け合わせ、個性と環境の相性が良ければ良いほど本人、ないしはその成果も成長曲線を描く、というもの。

この方程式を実行するためには、個性と環境という定性的な情報を定量化する必要がありました。そこで、それまで蓄積されたデータを洗い出しつつ、新たに集める必要のあるデータを取得し、データベース化するところから始めました。

—AIはどういう形で活用されているのでしょうか。

AIと言ってもあくまで機械学習に近いのですが、データベースに蓄積されている情報を機械学習にかけることで、人間では定量的に算出できない一人ひとりについて予測したい情報を教えてくれます。

半年から1年ほどレビューを行っていたのですが、想像以上に手ごたえがあったので導入することにしました。

—個性や環境など、通常ではなかなか定量化できないものを方程式化していることが興味深いです。人事としてどんな課題意識を持っていたのでしょうか。

個人的な想いとしては、「社員一人ひとりを輝かせたい」ということですね。

既存の人事はあくまで画一的なプロセスで人材育成を行い、階層別で管理していくものですが、本来なら人によって築くキャリアは違うわけですから、適切な教育のタイミングや成長できる環境も異なるべき。いかに個人に最適化していくかが大切だと考えています。

一人当たり200種ものデータが1,000名分以上あり、時間を追うごとに時系列的にどんどん積み重なっていく。その膨大なデータの中から一人ひとりの最適解を導くためには、AIの手を借りる必要がありました。

「一人ひとりを輝かせるためのAIなんです」
「一人ひとりを輝かせるためのAIなんです」

AIが指摘する「石の上にも三年はあやしい」という現実

—AIの分析ではどんなことが分かるのでしょうか。

相性のデータに基づく職場との適性度や潜在退職率も分かります。

例えば、潜在退職率は、直近5年間の在籍・退職に関わるデータとそれらを説明し得る因子をAIで関連づけさせることで算出します。タイプによっては社内の特定のイベントに参加するか否かが潜在退職率に関連することがあります。

また、プレーヤータイプで個人の業績はいいけれど、人を育成するのは苦手な人も分かりますし、「この人はこの環境に異動することでパフォーマンスがこれくらい上がる可能性がある」というのも分かります。

—そこまで精度の高い分析が出るものなんですね。

実はある工夫をしたところから大きく精度が上がりました。ただ、そこは企業秘密ということで詳細は明かせませんが、理論や思想(当社の場合はFFS理論と育成方程式)をAIにきちんと理解させることが重要かと思います。

時々、「意外な分析結果」が出ることもあります。社内でも指折りの優秀な社員が、潜在退職率ランキングの上位に挙がってきたので、AIにその社員に異動をはじめ、さまざまな刺激を与えてみた場合をシミュレーションしてもらいました。しかし、何をしても潜在退職率が下がらず、結局その社員は辞めてしまいました。

退職理由は、とても前向きでしたが誰も予想していなかった内容でした。それでも、事前に分析結果が明確に出ていたため、「やっぱりそうだったんだね」と納得できました。

「退職はマネジメントのせい」というイメージもあるかもしれませんが、そうでない場合もあると思います。それが定量的に分かることが、その後のマネジメントを考える上でとても大事です。

なぜ当たるのかはもはや人間では理解できませんが、怖いくらいに当たるのでそこは割り切って活用する方向で動いています。

AIを活用して行った潜在退職率の分析結果
AIを活用して行った潜在退職率の分析結果

—分析結果をどのように人事に活かしているのでしょうか。

環境適応度が低かったり、潜在退職率が高かったりする社員が、どうすればもっとパフォーマンスを発揮できるようになるか、ツール上でいろんな変数を試してみて、配属や労働条件などに適用します。

「石の上にも三年」とよく言われますが、当社としてはその考えはあやしいと言わざるを得ません。入社当初に何らかのつまずきがあった人のデータを追いかけてみると、3年以上そのままがんばっている人は少数で、すでに退職していたり、異動したほうが成果の出ている人だったりしました。

一般論としても、一度落ちてしまった評判を同じ組織で上げるというのは難しいですよね。当社では特に新人時代は3カ月ごとにデータを分析して、もし思うような結果が得られない場合は異動やチームを変える提案をしたりします。

—3カ月というのは通常のセオリーでは考えられないスパンですね。

もともと業界の特性上、組織再編は頻繁に行うほうでしたが、この取り組みを始めてさらにその傾向は強まったと思います。

「セオリーにとらわれない」という意味では、ずっと特定の業務で活躍して、成果も出していたとある社員の潜在退職率が突然高くなったことがありました。本人の特性的に「飽きっぽい」ところがあり、今の業務に物足りなさを感じていることが分かったのです。実際に他部門への異動を打診してみたところ、今でも高いパフォーマンスを発揮しています。

—一般的に、成果が出ていないことが異動の要因となっている場合、受け入れ側の意識的に「この人は左遷されたらしい」とネガティブな印象を持たれがちです。そういったことは起こらないのでしょうか。

もともと当社での「異動」に対するイメージは、むしろ変化を起こすという意味でポジティブに受け取られているケースが多かったこともありますが、この仕組みを行っていく過程でも、そのような印象は実例に伴って払拭されてきたと思います。

実際にあった例としては、伸び悩んでいる人の部門との適応具合を定量的に見て、別の部門へ早期に異動を行いました。すると、すぐに「360°サーベイ」の結果が上がりました。こうなると、「これは個人の能力の問題ではなく、相性の問題だな」と分かるわけです。

そうすると異動してきた人を受け入れる側の意識も変わりますし、異動前の環境ではなかなか成果を出せないと悩んでいた人も、心機一転、新たなチャレンジに向き合えるようになるのです。

—「適材適所」を追求する一方、「本人としてはこれがやりたいけど、データ的には不適格だと見なされる」という食い違いも起こりうるのではないでしょうか。

起こるかもしれませんね。ただ、あくまでも本人への意思確認が前提となりますし、むやみに「AIがそう決めたから」と伝えるわけでもありません。

通常の人事異動のように、部門の責任者から内示してもらいます。人間の判断とAIの判断があまりにも一致している場合を除いては、最終的な判断は人間がするものだと考えています。

けれどもやはり本人の個性を重視した上で配属しているので、そこまで大きなミスマッチは起こっていないのが実情です。

最近明らかになったのですが、希望通りの配属された人と、希望通りとはいかないけれど相性は良いところに配属された人の評価を比べると、実は後者のほうが良いという結果が社内データから得られました。データを通して、本人の希望と適正を一致させる取り組みの必要性をますます感じています。

—在職中の社員だけでなく、採用にも活用しているとのことですが、その場合はどういったデータを参考にしているのでしょうか。

採用候補者からパーソナリティに関するデータや学生時代の行動データ、選考中の行動データを集め、当社のデータベースをもとに「入社可能性」「戦力化可能性」「定着確率」を予測します。

今までは2名の役員が最終面接を行い、どちらもいいと思った人を採用していたのですが、AIによる分析で「採用するべき」と診断された人の95%が役員面接でも合格評価を得る結果となりました。

AIによるその人を採用すべきかの分析結果
AIによるその人を採用すべきかの分析結果

この結果から、2年前からは、1名の役員判断とAIの判断で合否を検討する構造に切り替え、余った分の時間を内定者に対する魅力的なコンテンツの提供や、情報開示や資料作りなど、本来やるべきことにより注げるようになりました。

また、この仕組みを活用し、選考プロセスをすべてオンライン化し、自宅にいながら選考が完結するという時間と距離の壁を越えた地方学生向け採用プログラム「オンライン・リクルーティング」も今年度の新卒採用からスタートしています。

そもそも採用はなんらかのバイアスがかかりやすいもので、それは仕方ありません。例えば、学歴はもちろん、「Webの知識に長けていて、スタートアップ系の企業を好むような人」ばかりに内定を出してしまうなど。その人の好みもあるかもしれません。

けれども実際に社内を見渡してみると、おとなしくて、あまり話さないタイプだけど活躍している人もかならずいます。慎重であまり挑戦したがらないけど、プロジェクトを回すのが得意な人とか。なるべく、人のバイアスを調整するためにAIを使っているのです。

株式会社セプテーニ・ホールディングス 人的資産研究所 研究員 進藤竜也

仮説と明確なビジョンなくしてはAI活用はありえない

—AIにネガティブな印象を持っている人もいたと思います。導入の際に留意したことはありますか。

この話はAIというよりもデータを活かす必要性を啓蒙するために行った取り組みの話ですが、とある「ワークショップ」を行いました。参加者には「無作為でチームを作った」と伝えて、それぞれに課題を与えてディスカッションしてもらうのですが、実はそのチームは人材タイプ別に「攻め」と「守り」に分けていました。

話し合っている様子を見てみると、一目瞭然です。前者のチームは身振り手振りも激しく、立ち上がって話す人もいますし、声も大きい。一方、後者はみんな落ち着いて座り、物静かに話し合います。ワークショップの最後に種明かしをすると、「なるほど!」とみんな納得してくれました(笑)

ワークショップの様子。左が「攻め」、右が「守り」
ワークショップの様子。左が「攻め」、右が「守り」

AIやデータは、結局「よく分からない」が不安の原因になっているのだと思います。しかし予測が当たっているか当たっていないか、結果を検証し、レポートで開示すると、「やっぱりそうだね」と納得してもらえます。

—今後、人事領域にAIを活用することは浸透していくのでしょうか。

そうなっていくといいですね。ただ、「ラクそう」という理由では導入してほしくありません。「社内の意識調査の結果をAIに分析させてみよう」といった曖昧な目的だと、どうしてもうまくいかないからです。

「なかなか人が採用できない」「入社した社員がすぐに退職する」など切実な課題があって、仮説をしっかり立てた上で活用しなければ、そもそもどんなデータを集めればいいのか、出た結果をどう解釈して施策に活かすべきかが分かりません。

当社の場合、育成方程式が前提としてあって、それを具現化するための手段がFFS理論であり、AIでした。どうデータを使うかよりも、どんなことを目指して、どんなデータを集めるかのほうが本当は難しいのです。具体的に「これをこのように改善したらバリューが上がる」と細かく仮説を立てることが大切です。

また、運用や開発には泥臭いデータの整備をしたり長時間データと向き合ったりと、想像以上に労力もかかります。なので、それ相応の価値を出せる課題に対してAIを活用するべきだと思います。

加えて、人事のデータはいわゆるビッグデータほど大きなものではないので、仮説を立てる「勘」が大事。その勘はある程度、人事やマネジメント経験が必要となるので、AIやデータサイエンティストがいるだけではうまくいかないケースがあるでしょう。

なので、個人的には人事の役割が今後なくなったりはしないと思います。

株式会社セプテーニ・ホールディングス 人的資産研究所 研究員 進藤竜也

—AIを導入したことで見えてきた新たな課題としては、どういったものがあるのでしょうか。

当社は今、ネットマーケティングが主力事業となっていますが、もともとは新規事業として始まりました。「ひねらんかい」という社是のもと、社会環境に合わせて新しいことにチャレンジし、事業を変化することでこれまで成長を続けてきたのです。

現在運用しているAIの仕組みは、今までの積み重ねから得たデータをもとにしているので、現在のビジネスモデルに適合した人材を採用することは得意です。けれども、まったく想像もしないような新たなビジネスモデルにあった人材を採用するためには、これまでのセオリーに頼らない、精度の高い仮説を置くことが必要です。

現在は、その点は切り分けて採用判断を行っていますが、それを科学的にどう設定していくかは今後の課題です。それができれば永続的な企業成長に寄与できると思うので、引き続き研究していきたいと思います。

—AI人事が当たり前になる世の中で、これからのマネジャーに必要な力はどういったものでしょうか。

例えば、「営業」の定義にも、アカウント発掘型営業と行動設計型営業の2つがあります。人事として「この人はこの環境で営業をしたほうがいい」と配属することはできますが、新規開拓と既存客のフォローと、どちらが向いているのか・・・ 現場での仕事の進め方や細かい業務内容までは把握できません。

マネジャーが一人ひとりの個性を理解して、チーム内でどう仕事を割り振っていくか、どんな進め方で業務を遂行していくか。業務の棚卸しをした上で、適切にマネジメントしていくことが必要です。

株式会社セプテーニ・ホールディングス 人的資産研究所 研究員 進藤竜也

【 本記事の読者にはこちらもお薦めです 】
49%の職業が消えゆく人工知能時代に知っておきたい「天職」3つの観点
人工知能の浸透という大きな変化に、ビジネスパーソンはどう挑めばよいのか。

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

企業からオファーが届く無料サービス。
非公開求人や面接確約オファーなどの
求人情報が届くこともあります。
キャリアの可能性を広げる
スカウトサービス
スカウトサービス
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
BOOK MARK

いいね!していただくと
最新記事をお届けします。

コメントを送る

関連する記事

連載一覧を見る

タグ

タグ一覧を見る