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INTERVIEW
女性を産後クライシスから救い出す「育児プロジェクト」のマネジメント術
INTERVIEW

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BOOK MARK

「産休・育休が取れない」「子どもができたら辞めざるをえない」といった旧態依然とした会社はだいぶ少なくなってきました。けれども上司や同僚として、育休を終えて復帰する女性社員に対して、遠慮してあまり仕事を頼むことができず、他の社員との不公平感を招いたことのあるという人もいるのではないでしょうか。

男性や出産経験のない女性にとっては、「出産は大変」という漠然としたイメージで留まってしまい、実際に女性の心やからだにどんな変化があるのか、どういうサポートが効果的なのか、なかなか想像するのは難しいことです。そのため消極的な関わり方に終始してしまい、仕事復帰を果たした当人からすると、「子育ての悩みを理解してもらえない」「せっかく子どもを預けて仕事をしているのに、やりがいが感じられない」と疎外感を覚えることもあるようです。

そこで今回は、女性の産後ケアに取り組むNPO法人マドレボニータで産後セルフケアインストラクターとして活動し、自らの出産・産後体験を本に綴った吉田紫磨子さんに、出産直後に女性や夫婦が陥りがちな「産後クライシス」とはどんなものか、そして夫や友人、職場などまわりの人びとができるサポートについて話を伺いました。

産後セルフケアインストラクター 吉田紫磨子

PROFILE

産後セルフケアインストラクター 吉田紫磨子
吉田紫磨子
産後セルフケアインストラクター
第1子出産後に「産後うつ」を経験。マドレボニータの産後プログラムに出会い、からだを動かすことやパートナーと対話を重ねることでうつから回復。産後のヘルスケア、パートナーシップの必要性を感じ、インストラクターに。家族は夫と娘4人。著書に『産褥記 産んだらなんとかなりませんから!』、『産褥記1~3』

誰も教えてくれなかった産後の辛さ

ー吉田さんは第1子出産後に「産後うつ」を経験されたそうですが、どんな状態に陥ったのですか。

98年に結婚してから4年経って子どもを授かったのですが、待望だったこともあって、周到に準備をしたつもりでした。「3時間歩きなさい」と言われたら5時間歩いたり、食事に気を配ったり・・・「安産のためなら死ねる!」みたいな感じ(笑)

けれども実際に産んでみて衝撃を受けたんです。お腹もまだ出ているし、「負傷兵」みたいにトイレにも這っていかなきゃいけないくらいに全身辛くて、骨盤がぐらぐらで歩けない。「産後1カ月ぐらいは悪露(おろ:子宮内膜や胎盤がはがれ落ちた後の傷口からの出血)が続く」とは聞いていましたが、こんなにしんどいなんて誰からも教わっていませんでした。けれども母子手帳には当然子どもに関することしか書いてありませんし、街行く赤ちゃん連れのママたちも幸せそうで・・・「私だけがこんなに大変なの!?」とショックでした。

 

ーからだに想像以上のダメージを感じる中で、心にも変調が及んだのでしょうか。

そうですね。当時夫も仕事が忙しくて、早朝から深夜までずっと家には不在。言葉も通じない赤ちゃんと二人きりで、話すこともありません。私は専業主婦になっていて、夫も「家族を養わなきゃ」と頑張ってくれている負い目もあったので、「早く帰ってきて」のひと言が言えなかったんですね。いつしか泣いている赤ちゃんを見て自分も一緒に泣くような状態になって、わが子をだっこすることもできなくなってしまったんです。

夫からすれば、待ち望んだ赤ちゃんが産まれて幸せなはずなのに、どんどんやつれていく私を見て、帰宅しても腫れ物に触るような状態。「今日も赤ちゃんかわいかった?」なんて言うものだから、「そりゃあなたはかわいいところしか見ていないから」と、夫のことが憎くてしかたなくなってしまったんです。

 

ーそれがまさに「産後クライシス」だったというわけですね。

当時はそんな言葉もありませんでしたが、今思えばそうですね。「産後クライシス」には「産後うつ」、早期離婚や不仲など「夫婦の危機」、虐待など「乳児の危機」の3つがあると思います。乳幼児虐待はとくに社会問題として報道でもよく取り上げられていますが、もしかしたらなにかのきっかけで私もそうなっていたかもしれません。まったく関係のない世界の話ではなくて、だれしも起こりうることなんです。

 

ーそんなどん底の状態から、吉田さんはどうやって立ち直ったのでしょうか。

まずはなんとかからだを立て直さないと・・・ と思い、当時(マドレボニータ代表の)吉岡(マコさん)が主宰していた産後のボディケア&フィットネス教室に行ったんです。有酸素運動を行って、身体がラクになりました。そうするとちゃんと子どものことを「かわいい」と思えるようになったんです。想像以上にからだが心に影響を及ぼしていることに気づきました。

そしてなにより大きかったのが、他のお母さん方と知り合えたこと。不安を感じていたり、夫を憎らしく思っていたり(笑) 「自分だけではないんだ」と思えたんですね。そうしてまわりとコミュニケーションしていく中で、「こうしたい」というイメージが出てきました。出産前は専業主婦を続けるつもりでしたが、社会とのつながりを持ち続けられるように「はたらきたい」と思ったんです。

それで夫とお互いの将来像を話し合うようになりました。すると夫は夫で、これまで以上の長時間労働に辛さを感じていました。長時間働き続けてたくさん稼ぐよりは、お金はほどほどでいいから家族、子どもと一緒に過ごす時間をもちたい、、子どもを小さいころから私立に通わせるよりも、公立に通わせて地域で育てていきたい・・・ これまでそういう具体的な話をしたことがなくて、あらためてお互い「こうしなくては」という思い込みにがんじがらめになっていたことに気づきました。

産後セルフケアインストラクター 吉田紫磨子

「育児プロジェクト」のマネジメントが仕事にもつながる?

ーお互いのビジョンを共有したことで、信頼関係を取り戻したんですね。

仕事一辺倒だった夫も私がはたらくことをきっかけに、一緒に保育園の見学に行くようになりました。私はマドレボニータでインストラクターとしてはたらくようになりました。そうして心身ともに健康を取り戻したのですが、「産後うつ」が怖くてなかなか2人目を産む勇気が出ませんでした。そんなとき、夫が「今度は自分がはたらき方を変える」と言ってくれたんです。それでやっと一歩を踏み出せました。

夫は育休を取りませんでしたが、有休と土日を組み合わせて出産から2週間の休暇を取得。それから1年は定時で帰宅し、子育てを一緒にしてくれました。18〜21時のことを「魔の時間帯」と呼んでいるのですが、赤ちゃんは夕方になるとワケもなく「黄昏泣き」をはじめ、あやすのもままならない中、夕食を作り、自分の夕食はそこそこに授乳し、首や腰が据わらずぐにゃぐにゃの状態で入浴させ、寝かしつける・・・これらすべてを毎日この時間に行わなくてはいけないのです。そんなときに夫が居てくれるだけでどんなに助かることか!

 

ーとはいえ、男性が育休を取得し、定時で帰るのはまだまだ馴染みがない気がします・・・。

少なくとも、夫には「育児プロジェクトのマネージャー」になって欲しいですね。「料理は別に手作りじゃなくていいよ」と声をかけるとか、家事を担いきれないならヘルパーさんを頼むとか。「自分たちだけで乗り切ろう」じゃなくて、まわりに手伝ってもらったり、アウトソースしたり、どんどん委ねられるようになればいいんです。「パパだと寝かしつけられないから」と夫にすら委ねられない人も多いから、女性も意識改革が必要です。

私が推奨しているのは「産褥ヘルプ」。友人が出産するとたいてい「落ち着いたら遊びに行くね」なんて気軽に言う人がほとんどだけど、どんどん来てもらって手伝ってもらえばいいんです。私たち夫婦は沐浴や料理、洗濯物たたみなど手伝ってもらいたいことをリストアップして、夫がGoogleドライブを作って誰がいつ来るのかシフト表で管理していました。「産後クライシス」はまわりから幸せだと思われている時期に起こります。だからこそ、外の風を入れてあげることが大事なんです。

 

ーもし「育児プロジェクトのマネージャー」としてしっかりマネジメントできたら、仕事のマネジメントにもつながりそうですね。

本当にそうだと思います。実際、夫は残業をしないはたらき方に変えましたが、自分の時間が確保できたことで、ランニングするようになったり、夜間大学と大学院にまで行って、修士を取得したりしました。そして現在は管理職です。定時や時短での退社はネガティブなイメージを持たれがちですけど、それは生産性を上げ、短時間で成果を挙げるはたらき方を実現するということなんですよね。「1年間の定時退社」は難しいと思われるかもしれないけど、生産性を上げることは会社にとってもプラスだと思うんです。

職場からできるサポートのカタチは?

ー少し視点を変えますね。同じ職場に産休・育休前後の社員がいる方は多いと思うのですが、上司や同僚として、どう彼女たちをサポートしていけばいいのでしょうか。

まずは今までお話したようなことを知っておいていただくだけでも違うと思います。子どもが産まれて幸せいっぱいの状態だと思われがちだけど、大変なこともたくさんあること。そしてきちんとケアをすれば大丈夫だということ。腫れ物を扱うような態度ではなく、普通の引き継ぎと同じように考えればいいんです。休暇中はコミュニケーションが疎遠になりがちなので、7カ月くらい経って職場復帰への準備を始めるころに、職場や近くのカフェなどで、赤ちゃん連れで顔を合わせられるといいですね。すると復帰後がイメージしやすいですし、「あぁ、待っていてくれてるんだな」と復職へのモチベーションも変わると思うんです。

 

ーいきなり復帰するのではなく、事前ミーティングなどで少しずつ慣らしていくといいんですね。

産後は精神状態も不安定なので、「子どもを預けてまで仕事なんて・・・」と一時的にモチベーションが下がることもあるんですよ。けれども体力が戻ってくれば「やっぱりはたらきたい」って思うようになる。「これから産む人たちも働きやすい職場にしたい」というモチベーションさえも出てきたりするんです。

大きな話になるかもしれませんが、本当は会社全体・・・ 社会全体で長時間労働前提の働き方を見直していったほうがいいと思うんですよね。子どもは20~21時を過ぎれば眠くなりますし、ちょっと夜更かしした次の日には体調を崩したりします。30〜40代の方の多くが小さなお子さんをお持ちでしょうから、週に何日かは早く帰って、子どもと遊んだり、地域活動に参加したり、私生活を充実させていくことが、仕事にもいい影響をもたらすのではないでしょうか。

『産褥記 産んだらなんとかなりませんから!』(KADOKAWA)

『産褥記 産んだらなんとかなりませんから!』(KADOKAWA)

NPO法人マドレボニータ

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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