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INTERVIEW
自分の給料に納得できないすべての人へ。給料を自己申告する会社が社員に与える「自由と自然淘汰」のリアル
INTERVIEW

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どこで働いても、いつ働いてもいい・・・ そんなワークスタイルのことを、最近は「柔軟な働き方」と表現します。しかし、結局のところ、自らの「収入」の決定権を他人に握られているかぎり、本当の意味で「柔軟」とは言えないのではないでしょうか?

リモートワークやフレックス勤務を認めてくれる会社なら、自分の好きな場所で、好きな時間、働くことはできるでしょう。それでも、「どのような仕事を、いくらで、どれだけ受けるのか」を自分で決めることはできません。

多くの会社員は、会社という他人が決めた評価軸の中でパフォーマンスを発揮することを求められ、その結果に対する最終責任を負うのは、自分ではなく会社や上司だからです。

そんな中、「誰かが誰かを評価して給料が決まるって、不自然やと思いませんか?」、そう問いかけるのは、創業27年目、大阪・東京・サンフランシスコ・台湾・ロンドン・オランダに拠点を構え、総勢約160名で企業のデジタルマーケティングを支援する「TAM」の代表、爲廣慎二さんです。

株式会社TAM 代表取締役社長 爲廣慎二

TAMは、「自分の給料を自己申告する」という制度を20年以上前から実践しており、メンバーは自分がどのくらい会社に貢献するのか、それと引き換えにどのくらいの給料を求めるかを、自分で決めることができます。

TAMのように、メンバーが自らの給料=収入の決定権を持つと、その人の行動やマインドはどのように変わるのか? 真に「柔軟な働き方」を手に入れ、自分の人生を自分で決める力を持つために必要なこととは何か、TAMの働き方を通じて探ります。

PROFILE

株式会社TAM 代表取締役社長 爲廣慎二
爲廣慎二
株式会社TAM 代表取締役社長
リクルート、大手商社、広告代理店勤務を経て1992年に独立。1995年に法人登記、2007年株式会社TAMへ社名変更。主に企業のデジタルマーケティング支援に従事。「勝手に幸せになりなはれ」「生きる力を鍛える場」をモットーに会社を経営。一人ひとりの経験・スキルと目指すべきキャリアに応じて、「自由と厳しさ」を柔軟に両立できる組織づくりを志向。そのために社員の給料は自己申告制にしている。

聞き手には、上場企業の事業部長としてフルリモート勤務やロング休暇制度を取り入れ、今年は世界を旅しながら働くチャレンジも予定している、柔軟な働き方の実践者の一人であるガイアックス社の管大輔さんをお迎えしました。

「自分の値段」どうやって決める? 自己申告という自由の裏にある、市場価値に向き合う厳しさ

―株式会社TAMでは、従業員の給料は自己申告を基にして決まるそうですね。

株式会社TAM 代表取締役社長 爲廣慎二

はい。だって、誰かが誰かに点数をつけて、その点数に基づいて給料が決まるというのが、意味が分からない人が人を評価するって、不自然でしょう。会社を始めて27年になりますが、一度も評価制度を導入したことはありません。

僕は会社を作った当初から、個人商店の集まりのような組織を作りたいと思ってました。フリーランスとか個人事業主の人って、「自分が市場で評価される人になるように」と考えるでしょ。会社特有のスキルではなく、市場価値のあるスキルを自然に磨く

でもこれって、会社員でもそうあるべきなんですよ。それなのに、勤め人になると自分の価値は会社が決める、というのが当たり前になってしまって、いつからか考えなくなる。市場ではなく、その会社の評価に合うように働くようになります。

僕にとってはそれがどうにも気持ち悪い。だから全社会議でも、「名刺とか会社の看板で仕事をするのはやめてください」と言ってます。

フリーランスのような働き方を実現していこうと思うと、一人ひとりが「自分にはどれくらいの価値があるのか」を分かるようにしないといけない。給料を自己申告するというのは、つまり、自分の市場価値を理解するということです。

僕にとってはそれが自然なんです。逆にそれ以外、考えられない。

―高すぎる給料を自己申告してくる人が続出して、人件費が高騰してしまうことはないんですか?

なんの根拠もなく自己申告してもらってるわけではないので、そういうことは起こりませんね。

評価制度は無いんですけど、メンバーが自分たちの仕事やキャリアで振り返るための仕組みは用意していて。1つは、TAMが大事にしているフレームワークである「PGSTシート(※)」、もう一つは「自分の1年間の行動を振り返るワークシート」です。

この2つのシートを使うと、自分が、何を、どれくらいやってきたかが分かります。

PGSTとは、Purpose(目的)、Goal(数値目標)、Strategy(目的達成のための戦略)、Tactics(具体的な戦術)の頭文字をとった言葉。それぞれを記入して整理できるのがPGSTシート。

PGSTシート
PGSTシート
振り返りシート
振り返りシート

「今期、自分はこれだけ成長しました。来期は会社にこうやって貢献します。だから、給料を○万円上げてほしい」と交渉するんですね。時には、「今年から副業をやりたいから、TAMでの仕事はこれくらい減らしたい。だから、給料も下げてほしい」と言ってくる人もいます。それも含めて、自分で決めていい。

あとは「コストくん」という社内システムがありまして、これを使って社内発注を含めた各自の稼ぎを可視化しています。メンバーはコストくんに日報を書くんですが、それぞれが今どんな案件を担当していて、外部仕入れはどれだけあって、自分の実工数はどの程度か、その案件でどれくらい稼いだか・・・ などが、お互いに見えるようになっています。

コストくん
コストくん

―自分が会社にどれくらい利益をもたらしているのかが分かるんですね。

そう。だから、例えば今の年収が500万円だとして、稼ぎが2000万円なら、稼ぎに対して年収が低いのは誰でも分かる。そこで「年収500万円は低い。自分の市場価値は700万円だと思います」と、それぞれが言う。その額に合わせて、全員に「どれだけ稼ぐか」の目標が課せられる。フリーランスと一緒です。

会社の経営が圧迫されずにきちんとまわるのは、チームごとに「これだけの利益を挙げてください」「給与として還元できるのはいくらです」という数字が割り振られていて、その責任をチームリーダーが負っているから。

今はチームが7つあって、それぞれのチームリーダーとメンバーが、申告金額を基に給料を話し合って決めています。言われたとおりに給料を上げるときもあれば、「この貢献度ならこれくらいの昇給が妥当だと思うけどどう?」みたいな話をして。

そういう意味では、TAMは正社員でもフリーランスに近い人たちの集まりですけど、7つの商店の集まりとも言えます。

社内発注でも金額交渉が起こる。それが「あるべき姿」

―各自がいくら稼いでいるかをシステムで可視化して、給料も自己申告制にしている。それは自分の市場価値を常に意識するためだと。

はい。だからうちでは、社内発注でも金額交渉が起きるんです。「このバナーを作ってください」「その金額ではできません、○円ならやります。どうしますか?」と。

普通の会社やったら、そもそもクライアントからもらっている金額さえ知らされずに、「これ、作ってください」「はい、作ります」で、モノゴトが動くのかもしれないですけど、うちではそれはありえません。

社内発注も、例えばAさんに20万円、Bさんに30万円と入力して発注するシステム。それぞれの取り分を明確にしないと請求書も作れない、仕事を受ける人が承認しないと納品書も出せないようになっています。

納品書発行画面
納品書発行画面

―直接クライアントと接して売り上げを担っている営業やコンサルタントは分かりやすいです。では、経理や広報、社内向けのシステムを作るエンジニアなど、間接部門の方の稼ぎはどう可視化していますか?

クライアントと直接は対峙しない人の給料についても、それぞれが「いくらの仕事をしているのか」を知ることは重要です。

うちでは、そこは主に時間で測っていますね。自社のWebサイトを作るときは社内でしか価値は生まないけど、その場合もその仕事をどれくらいの時間でやっているかを見る。

社外からの稼ぎは0だけど、社内では時間的にはこうだよね、と。そのうえで、時間と金額の整合性が取れた、正当なバランスで仕事をしてください、となります。

自分の人生の決定権を取り戻す第一歩は「自分を市場にさらす」こと

―自分の稼ぎを意識したり、市場価値を考えたりするのが重要だというのは本当にそうだと思います。でも、今企業で働いている人は「自分を値づけするのが難しい」という人がほとんどかもしれません。

僕からしたら、「自分で給与を決める、自分の価値を見積もる」ってことは当たり前のことで、みんなそうなっていくんじゃないかと思ってますけどね。つまり、みんなフリーランス化していくということ。

株式会社TAM 代表取締役社長 爲廣慎二

会社に守られている人は忘れがちですけど、本来は市場から評価されるスキルがなければ自然淘汰されていく。そのなかでどう生きていくのか? フリーランスの人って、それに常に直面しているから意識できているんですよね。

誰もがフリーランスになれ、とは言いません。だけど、フリーランスにはならなかったとしても、少なくとも「市場で自分がいくら稼げるのか」を意識するのは大切です。

要は、自分を市場にさらせばいいんです。今は複業をする人も増えていますから、自分のスキルは果たしてほかでも通用するのか? 会社以外の場所でどのくらい評価されるのか? やってみたらいいと思います。

―自分が市場でどう評価されるのか、向き合うのは怖いことでもあるでしょうね。

思ったより評価されない、というのが分かるだけでもいいですよね。そこから自己研鑽は始まるわけですから。

ただ、自己評価と周りからの評価が合わないということは、うちでもよく起きますよ。自分の貢献や成果を正しく認識し、他人とその認識を合わせ、誰にとっても納得感のある報酬に反映するのは、ものすごく難しい。

メンバーとリーダーとの間で、その認識の違いが生まれることはあり得ます。それは永遠の課題であって、その課題は失くせないんじゃないか、とも思います。

ただ、その交渉やすり合わせも「自分を市場にさらす」ことの一部です。そうした結果、自己申告した給料と実際に決まった給料に差があって、それに納得できなければ、会社を辞めるか、会社への貢献度と給料も下げてでも、複業の仕事を増やしてみるか。

「自己申告制」って突飛に思われるけど、承認・非承認があるから「すべて受け入れます」ってことではない。そういう価格交渉というのは、フリーランスが仕事を受けるときにも発生するもの。それと同じです。普通、自然ですよ。

会社にしがみつくか、独り立ちする力をつけるか。自分の人生は自分で決めて、勝手に幸せになりなはれ

―TAMのメンバーにとっては、常に市場を見て働くのが当たり前なんですね。

うちではそれをみんなに要求しますし、市場を見て働くことができない人は要らないとさえ伝えていますから。それでもいい、それがいいという人が、今いるメンバーです。

僕は、「会社は将来独り立ちするために訓練する場所」だと思ってるんです。だから、給料も自分で決めるし、働く時間も自分で管理してもらう。

株式会社TAM 代表取締役社長 爲廣慎二

フリーランスになると、なんでも自分で決められて自由なんですよ。ただ、すべて自分で決めなければならない。これって、ものすごくストレスなんです。自由な反面、すべてを失うリスクも自分で負わなきゃいけないから。

でも、サラリーマンで「その会社だけで通用するスキルしか持ってません」って、これからいちばん厳しいですよ。会社は守ってくれませんから。

―ずっと会社員として働いてきて、自分の市場価値が分からない、あるいは市場価値のあるスキルがない人はどうすればいいでしょうか?

最近、うちの会社の面接に来てくださった方の話ですが、その人はずっと大手金融機関で働いていた人でした。「今の自分のスキルはこれから活きないので、新たにチャレンジしたい」と。僕は40代前半くらいまではそれでいいと思いますね。市場で評価されるために必要なスキルがないなら、それが身につく会社にいけばいい。

ただ、それが40代後半くらいになるとかなり厳しい印象です。成功体験やプライドから自分を市場に合わせる力が落ちていくし、日本独特の定年制が年齢の高い転職をさらに厳しくしていますから。その場合は、今の会社にしがみついていくべきだと思います。もしくは、しがみつかせてくれる会社を探す。それ以外、やりようがないですね。

―市場に合わせてスキルをつけるか、なんとか会社にしがみつくか。

自由、ベネフィットだけを享受してリスクは負いません、というのはどこまで言っても成立しないですからね。会社に守ってほしいけど、自由はほしい、というのは無理やと思います。

1991年にバブルが崩壊してから経済はほぼ成長していませんから、ほうっておいても給料が上がる、なんてことはない。社会が成長しないなら、せめて自分は成長して市場価値を上げないと、収入も上がりません。

株式会社TAM 代表取締役社長 爲廣慎二

―ちなみに、従業員の給料をできるだけ安く抑えて会社の利益を増やせば、オーナーである社長の報酬や手元に残る、自由に使えるお金は増やせますよね。TAMのオーナー社長として、どういうバランスで考えていますか?

もちろん、会社の利益が多く出たときには少し多めに経費を使ったりしますし、その調整ができるのはオーナー社長の特権かもしれません。

でも、TAMは「勝手に幸せになりなはれ」という方針で運営している組織で、「将来独り立ちするために訓練する場所」なので、利益を最大化することだけが最重要の目的ではありませんでした。もしお金を第一に考えるなら、違うビジネスをやっていたでしょうね。

僕は、社長が従業員を働かせる、という考え方がそもそもない。今は不透明な時期ですし、景気後退も懸念されているので、先々のためにお金は会社に残したいですけど、必要以上の利益は要りません。TAMに参加する人は、成長したいからか、その仕事が好きだから、のどちらかです。

結果として利益が出るよう難しい調整をしていくのが社長の役割で、出た利益は皆で分配する。そうやって27年間赤字無しでやってこれました。

それぞれが個人商店のように稼いで、かつ自分の取り分を自分で決められることが大切で、自然。だから、そうしている。それだけなんです。

株式会社TAM 代表取締役社長 爲廣慎二

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[取材・文] 管大輔、青木麻里那、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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