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INTERVIEW
新規事業に二度失敗、「SmartHR」宮田昇始さんに聞く ”三度目の正直”
INTERVIEW

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BOOK MARK

「新規事業、成功の秘訣」を見い出すことは容易ではありません。なぜなら、自らがリーダーとして新規事業に携わる機会はそう何度も訪れるものではなく、共通する成功、失敗の要因を抽出することは難しいからです。

「三度目の正直」、まさにこの言葉が当てはまる起業家がいます。開始から11カ月で2,300社以上が導入し、今破竹の勢いで成長を続けるクラウド労務サービス「SmartHR」を提供するKUFU(クフ)の代表、宮田昇始さんです。

宮田さんは過去に「二度」、新規事業に挑戦し失敗しています。そんな宮田さんに、失敗に終わった二度の事業と、軌道に乗せた今回とでは何が違ったのか。そこから導き出される「新規事業、成功の秘訣」について、お話を伺いました。

株式会社KUFU(クフ) 代表取締役 宮田昇始

PROFILE

株式会社KUFU(クフ) 代表取締役 宮田昇始
宮田昇始
株式会社KUFU(クフ) 代表取締役
IT企業でWebディレクターとして活躍していた前職時代に、「十万人に一人」と言われる難病「ハント症候群」を発症。「完治する見込みは20パーセント」と宣告を受けるも傷病手当金(社会保険の一つ)を受給できたおかげでリハビリに専念し、無事完治。一念発起し、2013年に自社サービスの運営と受託開発を行う株式会社KUFUを設立。2015年11月にクラウド労務ソフト「SmartHR」の提供を開始。以来、本事業に専念している

事業の7割は、人がほしがるものにたどり着く前に死ぬ

ークラウド労務ソフト「SmartHR」が好調です。

SmartHRは、企業の社会保険・雇用保険の手続きを自動化するクラウドサービスです。従業員情報を入力するだけで、諸手続きに必要な書類を自動で作成し、Web上で役所に申請することが可能。経営者や人事担当者を、煩雑で手間のかかる労務から解放することを目指しています。

昨年11月にサービスを開始し、主に5〜1,000名規模の企業を中心に、10月末現在で2,300社以上にご登録していただいています。開始から半年が経った今年5月時点では、利用社は1,000社にも達していませんでしたから、それから半年足らずで2倍以上に増えたことになります。

クラウド労務ソフト「SmartHR」

顧客継続率もサービス開始時から約98%を維持しています。SmartHRのようなSaaS(サービス・アズ・ア・ソフトウェア)は、顧客数ベース、収益ベースの解約率が3%を超えると「黄色信号」とされるのですが、いずれも2%以下を維持しています。

ーそれだけ労務の自動化に対するニーズがあった。

社会保険の手続きは、従業員の入社時にきちんとやっておかないと、いざ従業員が病気になったり、怪我をしたりしたときに自治体から給付金をもらえない。そうなると、経営者はたとえ従業員が会社を休んだとしても無理して給料を払い続けるか、払われないという状況になってしまう。

しかし、その手続きに必要な情報は「給与額」など機密性が高く、手続きをできるようになるための学習コストも高くつくため、アルバイトにまかせられる仕事ではない。かといって、経営者は忙しいし、手続きの手順を説明する書類は読むだけでも大変・・・。そんな不満があったのです。

ーSmartHRの前に、二度、新規事業に挑戦されていますね。

一度目は、Webクリエイターと企業のマッチングサイト。登録したクリエイターにサイト上で質問や課題を提示し、彼らがそれに答えたり、こなしたりするとスキルレベルが可視化される。企業がクリエイターを採用しやすくし、仲介手数料で稼ごうというアイデアでした。

ですが、始めてから半年で伸び悩み、一年でたたみました。当時から知人に起業家が多く、中には楽天に買収された、好調のフリマアプリ「FRIL(フリル)」を提供するFablicの創業メンバーなんかもいて、「おれも一発目で当てないとダメだ。うまくいくだろう」くらいに思っていたのですが・・・。

二度目は、法人向けのITサービスを比較できるクチコミサイトの事業でした。しかし、こちらは始めてから早くも二カ月くらいで成長が止まってしまって・・・。

シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタル、Yコンビネーターの創業者、ポール・グレアムの言葉ですが、「事業の7割は、人がほしいと思うものにたどり着く前に死ぬ」んです。サービスの知名度を上げられなかったからとか、競合の製品が素晴らしかったからとかではなく。

この言葉はサービスを出した後に知ったのですが、盲目的になってしまい、「自分が」ほしいと思うものだけを作り続けてしまっていた。事業開発の仕方を変え、SmartHRが軌道に乗り始めて、ようやくその言葉が自分の中で腹落ちしました。

「人がほしがるもの」にたどり着く鉄則の事業開発手法

ー二度の失敗と、三度目のSmartHRでは何が一番違ったのでしょう。

結局、一度目と二度目の事業アイデアは、「人、世の中の課題」から始まっていなかったんです。

一度目と二度目は、「こんなのがあったら便利だろうな」という自分の妄想、机上の空論に向かって、「早く新しいサービスを作りたい」という焦りで突っ走ってしまった。そんな考えだから、当然のように失敗しました。

先ほど、「事業開発の仕方を変えた」と言いましたが、SmartHRが自分たちの想定を超える企業数、企業規模のお客さまにまで使ってもらえるようになった要因の一つは、サービスを開発する前に行った「ユーザーヒアリング」です。

ー一度目と二度目でも、ユーザーヒアリングは行いましたか?

今振り返ると、一度目のサービスではまったくヒアリングをせず、二度目も二人くらいにしか話を聞いていませんでした・・・。

私も含め、事業で失敗するのは、ユーザーヒアリングを十分にしていない場合が多い。単純に「ヒアリングをするのが億劫」という人もいれば、「ヒアリングでアイデアを否定されたくない。最初のアイデアで当てないと恥ずかしい」と考える人もいるでしょう。

中でもよくあるのは、「コンコルド効果」にハマるケースです。超音速旅客機、コンコルドの失敗に名前が由来する心理現象で、「投資し続けることが損失につながると分かっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資を止められない状態」のことです。

例えば、起業家から相談を受けて、「このサービス、あまりニーズがないだろうから止めるか、もう一度課題のヒアリングからやり直したら?」と言っても、「でももうここまでサービスの開発が進んでしまっているので・・・ 少ないもののユーザーがいるので・・・」と固執してしまうのです。

宮田さん自身も、最初のアイデアに固執し、二度失敗
宮田さん自身も、最初のアイデアに固執し、二度失敗

ー人がほしがるものにたどり着くためのユーザーヒアリングの秘訣を教えてください。

ヒアリングは「2段階」で行います。第1段階は「課題」のヒアリング。第2段階は、その課題の解決策としての「プロダクト」のヒアリングです。

第1段階として、ユーザーの課題に関する仮説を多く立てます。その課題を持っていそうな職種の人に話を聞いて、「そもそも違った」というのはすぐに潰すなどして、次の課題の仮説に移ります。

SmartHRのときは反応が違いました。「書類地獄に悩んでいる」「役所手続きがあり得ないくらい面倒」と、深刻な意見が続々と。そのおかげで社会保険・雇用保険関係の課題の深さに気づくことができました。

第2段階として、その課題について深掘りしていきます。社会保険・雇用保険と一口に言ってもいろんな手続きや、困り事があるのです。「一番大変な手続きはなにか?」「書類の作成が大変なのか? 役所に行くのが大変なのか?」、これらのヒアリングを直接的にならないよう、なるべくファクトを引き出すようにヒアリングをして深掘りしていきます。

ちなみに、2つ目のサービスと、3つ目のサービスであるSmartHRの間には、9つの実現されなかったアイデアがありました。その他の9つのアイデアは、「言われてみたらそうだけど・・・」くらいの反応で。そういうサービスは、実際に世の中に出ても使われないんです。5人以上が同じように厳しい言葉を発したら、それは世の中の課題、人がほしがるものと言ってよいでしょう。

ーヒアリングの精度を高めるコツはありますか? 誘導尋問のようにならないように。

そうならないよう、「台本」を作って臨むべき。例えば、「労務手続きって大変ですか?」だと、相手はもちろん「大変です」と答えますよね。これではダメです。

そうではなく、「従業員が新しく入社したときの手続きの仕方を教えてください」「その手続きは誰が担当していますか」「手続きにどのくらいの時間がかかっていますか」「役所までの移動時間は片道どれくらい?」など、日々の行動についてファクトベースで質問します。

もし相手が本当に課題を感じていれば、途中で「自分から」大変だったエピソードを語り始めてくれるんです。「役所でかなり待たされたのが嫌だった・・・」とか。

「相手が『自分から』語り出すかが、ポイント」
「相手が『自分から』語り出すかが、ポイント」

語り始めたら、定量的に聞き返すことが大事。「かなり待たされた」ではなく、「何時間待たされましたか?」と。

「かなり」でも人によって差がありますし、他のメンバーにフィードバックするときにも、「毎月2回ずつ、3つの役所に、片道30分かけて行って、2時間待たされながら手続きをやっているんだって」と、実感を持って伝えることができます。

方向転換することを「前提」とした事業計画作りを

ー相当な数のユーザーヒアリングを経て、SmartHRのアイデアに行き着いたのですね。

はい。100件超のヒアリングを経た結果、10回の「ピボット」(ベンチャーが当初の事業アイデアに行き詰まり、軌道修正を余儀なくされること)を経験して、現在のSmartHRのアイデアにたどり着きました。

しかし、一般的に企業の新規事業は、「やることが決まらないと始められない」「一度始めたら、やることを変えられない」ということが多いでしょう。しかし新規事業を一発で当てるのはほぼ不可能であり、「方向転換できない」となると相当、難易度が高いと思います。

ー方向転換する可能性を始めから計画に盛り込むべき、と。

はい。そうでないと、いつまでも自分たちの妄想に固執してしまうことになります。新規事業を始めるときに決めていいのは、「ものすごく遠いゴールと予算だけ」。最初の頃の事業計画はあってないようなものです。

もちろん、「一発で当てなくていい。いつか当てればいい」と言いたいのではありません。当事者は「当然、一発目で当てる」という気概を持って始め、一方で周囲は、その当事者とターゲット市場のポテンシャルを信じて見守るべきということ。

そして、少しでも早く当てるために、「なるべく早く、たくさんの、小さい失敗」をする機会を設けることが肝要です。

「学習サイクルをいかに多く回せるか、が勝敗の鍵」
「学習サイクルをいかに多く回せるか、が勝敗の鍵」

ーどのようにして失敗の機会を設ければよいでしょうか。

例えば、ユーザーヒアリングを経て、事業アイデアが固まったら、サービス開発に長い時間をかけず、2週間〜1カ月のような短期間で開発し、一日でも早く公開し、ユーザーからフィードバックを得る機会を増やす。

実際のサービスを作り始める前に、プロトタイプを作ってテストユーザーに試用してもらうのもよいでしょう。最近は、紙芝居形式で簡単にサービスのプロトタイプを作れるサービスもありますから、大いに活用したいですね。

学習サイクルを早めるべく、メンバーの自発性を引き出すには?

ー宮田さん自身はもちろんのこと、メンバーの方々の学習サイクルも早めなければいけません。

メンバーの中には、これまで15年以上、労務畑にいたり、親が社労士だという者もいます。しかしほとんどのメンバーは、労務とは縁遠いキャリアを歩んできました。

そんな彼らが自発的に動けるよう、彼らの目線を「労務」よりもさらに上に引き上げるんです。

例えば、エンジニアで、これまでゲーム会社で開発を担当していたけど、年数を重ねるうち、「自分は何のためにゲームを作っているんだろう」と考え始めるようになって転職してきた。そんな人に、「SmartHRで、KUFUで、国や役所を変えてみないか」と伝える。

ビジョンも、「テクノロジーとKUFU(工夫)で社会構造をハックする」と、その思いを言い換えたような言葉にしています。

ー自発的に動くためには、目線が上がり、会社とそろうことが欠かせないと。

はい。実際、営業担当もカスタマーサポート担当も、サービス改修のアイデアを出してくれています。

また、「自発的に何をやってもいいよ」というまっさらな状態だとメンバーも動きにくいでしょうから、最低限の行動規範として「バリュー(価値観)」も定めています。

KUFU社のバリュー

  • 人が欲しいと思うものをつくろう
  • 早いほうがカッコイイ
  • 自律駆動
  • 最善のプランCを見つける
  • ワイルドサイドを歩こう
  • 一言一句に手間ひまかける

このバリューも半期に一度の社員合宿で、毎回7割くらいの内容はそのまま、3割はそのときの事業フェーズやメンバーの意思によって変更しています。

各人が大事にしている価値観を出し合い、それらをグルーピングして整理。一人10点ずつある持ち点を振り分けて決定して、キャッチコピーを詰めていく、という具合に。

合宿の一コマ
合宿の一コマ

そうやってバリューを自分たちで決めると、メンバーたちの中で腹落ちし、普段の会話の中でも使われるようになるんです。

「新しいお店ができたから今度ランチ行こうよ」「今から行こうよ、『早いほうがカッコイイ』し」。「週末は山に行きたいね」「俺は海に行きたい」「じゃあ川でBBQしよう」「それ、『最善のプランC』だね(笑)」

こんな、冗談半分のような使われ方でもいいんです。とにかく行動規範をチームで共有できていれば、メンバーはリーダーの想像以上に自発的に動いてくれるようになります。

自発的な動きの積み重ねで、サービスが社会からの評価を得ていく
自発的な動きの積み重ねで、サービスが社会からの評価を得ていく

これは、先輩経営者からの受け売りなのですが・・・

上場の実現、ユーザーの解約率低下など、リーダーが100問の問題を解かないといけないとします。でもリーダーだけで一問一問解いていると、スピードや精度が落ちてしまう。では30人で、一人三問ずつ分担するとどうなるか、きっとスピードも精度も上がるはずですよね。

その問題の「解法」として、会社や事業の「バリュー」があるといいなと思うんです。そうやって、「0〜1」が終わり、これからの「1〜10」のフェーズを突き進んでいきたいと思います。

株式会社KUFU(クフ) 代表取締役 宮田昇始

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[取材・文] 多田慎介、岡徳之

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