いいアイデアは、いい問いから生まれる。元IDEO石川俊祐が語る、メンバーの創造性を引き出すリーダーシップ

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イノベーション、新規事業創出・・・ 私たちはいま、新しいものを生み出すことを求められています。こうした「創造性」が重要になる時代において、リーダーシップはどのようにあるべきでしょうか。それはおそらく、いまあるものをひたすらに改善していればよかった時代とは、まったく異なるかたちをしているはずです。

創造性を引き出すいいリーダーとは、「いい問い」を設定できるファシリテーターのような存在である――。

こう話すのは、デザインファーム「IDEO Tokyo」に立ち上げ期から参画、デザインを軸にさまざまな新しいプロダクトやサービスを世に送り出してきた、デザイナーの石川俊祐さんです。英国から日本に拠点を移した2013年以降、当時まだ日本ではなじみのなかった「デザイン思考」を普及・浸透させてきた功労者の一人でもあります。

石川さんの言う「いい問い」とはなにか。どうして「いい問い」を設定できる必要があるのか。「いい問い」を設定するためにできることとは――。「メンバーの創造性を引き出すリーダーシップ」をテーマに、石川さんにお話を伺いました。

AnyProjects inc 共同創業者/パートナー 石川俊祐

PROFILE

AnyProjects inc 共同創業者/パートナー 石川俊祐
石川俊祐
AnyProjects inc 共同創業者/パートナー
ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーティンズを卒業後、パナソニックデザイン、PDDイノベーションUKなどを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに参画し、デザインディレクターとして多様なプロジェクトを担った。2017年、AnyProjectsを設立すると、2018年にはBCGデジタルベンチャーズに参画。Head of Designとして大手企業の社内ベンチャー立ち上げなどのプロジェクトに携わった。そして2019年3月、新たなパートナーも加えAnyProjectsでの活動にドライブをかけている。著書に『HELLO, DESIGN 日本人とデザイン』(幻冬舎刊)がある。

メンバーを“自由”に走らせる「放牧」的リーダーシップ

―いま、マネジャーやリーダーにはどんなリーダーシップが求められていますか?

大企業からベンチャーまで、さまざまな企業と一緒に仕事をしていて感じるのは、参加メンバー一人ひとりの「自分がこれをやりたいんだ」という主観的な思いがないプロジェクトは失敗するということです。一人ひとりが「自分が見つけた課題」に対して「自分でなんとかするんだ」という形にならないと、優秀なコンサルタントやデザイナーが入って、外からいくら言ったところで、いいものになり、世に出されるまで走りきれないでしょう。

だからマネジャーには、社内にどうやってそういう状況をつくるか、自分のチームのメンバー一人ひとりが主体的に参加できるような環境をいかにつくるかが求められています。

新規事業というと、すぐに結果を求められるじゃないですか。「来年には利益を出してね」とか、「3年後には100億円のビジネスにしてね」とか。プロジェクトがスタートしてからの進め方もそうです。ヨーイドンでスタートしてすぐ、「この日までにアイデアを出せ」みたいな雰囲気がある。アイデアというものが、時間の経過とともにリニアに出てくると思われている節があります。まず、これが良くない。

外の世界を幅広く経験してもいないのに、急に「アイデアを出せ」と言われたって、出てくるはずがないでしょう。本来は「最初の1週間はとにかくインスピレーションを得るためだけに使っていい」などとなっていなければならない。要は、実験とそこから学ぶイテレーション(反復)ができる環境になっている必要があるということです。

いま求められているリーダーシップのあり方をぼくなりの言葉で表現するとするならば、それは「放牧」です。

AnyProjects inc 共同創業者/パートナー 石川俊祐

セルに入っている牛と、その辺に解き放たれている牛。どちらも飼われているという点では変わりありませんが、放牧されている牛はとても幸せそうに走り回っていますよね。同じようにミルクは求められるし、食べられたりもするけれども、自由な感じがするでしょう?

いま必要とされているマネジメントは、まさにあれに近い。チームのメンバーに創造性を発揮してもらうためには、マネジャーや経営陣がいかに「自由に発散・収束していいよ」という環境をつくれるかが重要になるんです。

また、いまの時代は特にもう、「なんのためにこの仕事をするのか」が分からないままでは、みんな働く気がなくなってしまっています。従前の「こういう風にやれ」みたいなやり方だと、「でも、そこに共感できないんです」みたいになって、誰も走りたがらない。モチベーションが上がらない。

だから、従来とは異なるリーダーシップが求められています。これまでの理想のマネジャーは「常に先頭を走る一番足の速い人」だったかもしれないけれど、これからは、みんながリーダーのように感じて・考えて・答えを出そうとできるように、環境を整えるファシリテーターのような役割が求められていると思います。

誤解してほしくないのは、「放牧」というからには、決して完全に野放しにするわけではないということです。自由にさせつつも、メンバーがより創造性を発揮できるために、マネジャーや経営陣がやるべきことはたくさんあります。例えば、メンターのようにして第三者の視点を入れることで、アイデアが出るフレッシュな状態にしてあげたり。メンバー全員が気兼ねなく発言できる安全な砂場のような環境をつくり、コラボレーションが円滑に進むよう働きかけたり。

中でも特に重要になってくるのが、「いい問い」を設定できることではないでしょうか。

AnyProjects inc 共同創業者/パートナー 石川俊祐

「問い」とはすなわちチャレンジです。「いい問い」が設定できると、メンバー一人ひとりのモチベーションが上がります。「自分で解決したい」「自分なら解決できそうだ」と思える。だから、そう思えるような「いい問い」を設定することが、マネジャーには求められているのではないか、と。

ところが、大企業のマネジャーや経営陣の多くは、この「いい問い」を設定する方法を知らなかったりします。「新規事業をつくれ」とか、「モビリティに関してなにかいいアイデアはないか」などと、漠然としたことを言う。それではメンバーとしては、大海原に投げ出されるようなもので、考えるための軸がありません

アイデアが出る「ちょうどいい粒感」の問いを設定する方法

―どうすれば「いい問い」を設定できますか?

問いの中には必ず「どんな人に対して」「どんな価値を」提供するかくらいの、ゆるやかな方向性が入っていなければなりません。けれども、大企業の人たちはまず、この「どんな人に対して」というターゲット設定ができない。

なぜか。ターゲットを絞るとは、すなわちそれ以外の人を捨てることを意味するからです。捨てることには、かなりの勇気が必要なんです。

だから「とりあえず全員入れておきたい」と考える。「年齢層20~40代」のようなふわっとしたターゲット設定をして、「このうちの10%=10万人に当たれば儲かりますから」みたいなことを言い放つんです。一見ロジカルなようで、この数字にはなんの意味もありません。要は、「それって誰のことなんですか?」という話になるわけです。「絞る」というのは、自分たちなりの意思決定をするということ。日本企業はそれがすごく苦手です。

AnyProjects inc 共同創業者/パートナー 石川俊祐

ターゲット設定をする上では、もう一つ大事なことがあります。それは、ザラザラとした手触り感が感じられるかどうか。これがないと、いいものは作れません。

セミナーなどで「どうすればいいサービスが作れるか」といったテーマでお話しする際、ぼくはよく、「高校時代に初めて異性をデートに誘った時のことを思い出してください」と言うようにしています。たいていの人は経験があると思うんですけど、待ち合わせ場所ひとつとっても、「迷わずにちゃんと会えるかな」とか、「スムーズに次の場所に移動できるかな」とか、ものすごくたくさんのことを考えた上で決めていたでしょう?

つまり、大切な誰かをデートに誘う時、ぼくらは徹底してUX(ユーザー・エクスペリエンス=顧客体験)を考え抜いている。であれば、プロダクトなりサービスなりを作る時にも、なぜ同じように考えないのか、ということです。

AnyProjects inc 共同創業者/パートナー 石川俊祐

例えば、化粧品の会社にとっての「いい問い」にはどんなものがあるか考えてみましょう。まず、「売り上げを上げなさい」や「売れる化粧品を作りなさい」は当然ダメです。「売れる」というのは結果だし、誰もワクワクしないから。

次に、「そもそも美しいとはなにか」。これはちょっとおもしろそうですよね? だけど、このままだと広すぎてアイデアが出てこない。では、「男性にとっての美しさとはなにか」まで絞ったらどうか。最近は男性にも美を意識する人は増えているし、結構おもしろそうだぞ、となりませんか?

ここまでくると、例えば「LGBT系の美の専門家に話を聞いてみよう」とか、「サウナブームも美への意識からきているとして、サウナに異常な頻度で通う人にリサーチしてみよう」とか、具体的な行動のアイデアが生まれます。このように、「いい問い」はメンバーのモチベーションを上げるだけでなく、次のアクションにもつながりやすいんです。

モノごとには拡散と収束のフェーズがあります。いきなり狭すぎる「問い」を設定すると、いいアイデアは出てきません。例えばいまの例で言えば、化粧品会社はついつい「男性にウケる化粧品とは」といった問いを設定しがちだけれども、それではリサーチの対象がいきなり化粧品のみに絞られてしまって、出てくるアイデアに幅が出ない。

一方、「男性にとっての美しさとはなにか」のような問いであれば、「そもそも男性は美のためにどんな行動をしているのだろうか」という発想になるから、スパ、食事、フィットネス、タブレット・・・ などなど、化粧品以外のさまざまなものもリサーチの対象になるじゃないですか。そうすると、出てくるアイデアの粒の幅がまったく違ってくる。

AnyProjects inc 共同創業者/パートナー 石川俊祐

このように、新しいアイデアが出てこないというのは、そもそもの「問い」の設定がそうなっているから、というケースが非常に多いんです。「問い」は、広すぎるとそもそも問う意味をなさないし、逆に狭すぎると現実的なアイデアしか出てこなくなってしまう。「いい感じの粒感」の問いを与えてあげることが、マネジャーのスキルとしてとても大切です。

―その「いい感じの粒感」が難しそうですよね。センスが問われるというか。

「いい問い」かどうかは、実際に10分程度のアイデア出しをやってみれば分かります。10分やってみて全然アイデアが出ないのであれば、その「問い」は使わないほうがいいのかもしれない。狭すぎるか広すぎるか、どちらかに寄ってしまっている可能性があります。

いきなり「いい問い」を設定するセンスがないというのであれば、その「問い」にたどり着くためのリサーチを行えばいいんです。その場合も、なんとなくのターゲットくらいはいるだろうから、まずはその人たちにベッタリとくっついて、ライフスタイルを探ってみることから始めるのがいい。

「密着」というと大変なことのように聞こえるかもしれませんが、人間が24時間のうちにやることなど、実は高が知れています。朝起きて、ご飯を食べて、会社に行って、ご飯を食べて、働いて、ご飯を食べて、寝る、みたいな感じ。その間にジムに行ったりスパへ行ったり映画を見たりするのを見て、その人たちが課題に思っていることや、美意識がどうなっているのかを観察するんです。そのジャーニーの流れの中で、好き嫌いや欲求や潜在意識にあるなにかがあぶり出されてきます。

「本当は昼休みにジムに行けたらいいんだけどねえ」といった、ポロポロとこぼれてくる言葉や学びは、すべてキャプチャする。そこから「じゃあ短時間で体験できる美とはなんだろうか」とか、「20分でも身体にいいことをしていると実感できるビジネスとは」といった「問い」が立てられると、アイデアが出せるようになります。

AnyProjects inc 共同創業者/パートナー 石川俊祐

ヘルスケア、モビリティ、健康、家族、働き方・・・ 世の中にはいろんな課題があるようでいて、その時代に考えるべき大きな課題自体は、意外と数が限られています。薬の会社も食の会社も美容の会社もホテルも、あらゆる会社が「健康」というテーマでビジネスをつくろうとする。「問い」というのは、そこに「自分たちだったらどう切り込むか」という話。それを設定できるというだけでも、マネジャーとしてはかなりいい感じだと思いますね。

「好き嫌い」を起点に「違和感を捉える力」を再起動せよ

いまの大企業には「言われたことを確実にやれるプロフェッショナル」な人びとはたくさんいます。しかし、「なぜこの仕事をしているんですか?」と尋ねられても、「上司が決めたことなので」とか、「数値目標なので」という答えを返してしまっていないでしょうか。「自分自身がどう思うか」という部分が決定的に不足しているんです。繰り返しになりますが、それでは新しいことは起きないし、ワクワクしてプロジェクトに取り組むことなんてできません。

誰かに指示されたことを頑張ってやることももちろん大事です。でも、今回のテーマである新しい事業をつくる上では、自分が世の中に対して感じている違和感を「問い」に変換して、解決していくことが必要不可欠になります。スタートアップやベンチャーで成功している人たちにしても、自分自身が感じた強烈な欲求や違和感から事業が始まっているケースは多いですよね。新しいものを生み出したいのであれば、大企業の人であっても同じ。社員一人ひとりが自分の主観を軸にしゃべることができなければならない

AnyProjects inc 共同創業者/パートナー 石川俊祐

では、どうすればメンバー一人ひとりがそうした「違和感を捉える力」を再起動することができるのか。感じた違和感を「問い」に変換する能力をはぐくむことができるのか。そもそもそんなことがいまさら可能なのか・・・。方法はある、とぼくは思います。それは「好き嫌い」をはっきりさせることではないか、と。

違和感は「好き嫌い」から始まります。自分の「好き嫌い」に照らして、それと異なるから違和感を覚えるわけです。けれども、いまは自分の「好き嫌い」に対する感度が下がっている人が多いと感じます。

―組織で働いていると、むしろ個人の「好き嫌い」は押し殺すことが求められますよね。「それはあなたの見方でしょう? 客観的な事実を示してください」って。

そう。でも、それでは「問い」につながるような違和感を捉えることはできません。だからまずは、「好き嫌い」をはっきりさせることから始めるべきだと思うんです。

例えば、自分のモードを「好き嫌い発見モード」に切り替えて生活してみるというのはどうでしょうか。「なんかこの四角、好きだな」とか、「あれ? このカフェなんとなく嫌いだな」とか。なんでもいいから自分の「好き嫌い」を収集する。昨日までライン業務をやっていた人にいきなり「モードを切り替えろ」と言ってもできないでしょうから、とりあえずインスタグラムのアカウントを作って、毎日好きなものを5個集める宿題を課す、とか。

その上で、集めた「好き」や「嫌い」に対して「なぜ自分はこれが好きなのか」「なぜ嫌いなのか」と考えてみる。これをやるだけで、自分の目線は変わっていきます。それまではなにも考えずに「会社の規定内だから」とビジネスホテルに泊まっていた女性も、「実は自分はビジネスホテルが好きではない、または嫌いだった」ことにあらためて気がついたりするでしょう。では、なぜ嫌いなのか。部屋がタバコ臭いから? 通路が狭くて、すれ違う時に他の人と身体的な距離が近いから? ひょっとしてビジネスホテルって男性向けに作られているのではないか。じゃあ、女性も男性も両方が居心地の良い滞在場所のあり方ってどういうものだろうか

―おお! 「問い」が立ちましたね。

違和感の素みたいなものを捉えたら、自分自身に向けて「なんで?」を2、3回繰り返して、深掘りしてみるのがコツです。そうすると自分なりの仮説が出てくる。ここまで来たらもう、やっていることはほとんど「デザイン思考」と言っていい。デザイナーやデザインファームで働く探求型のリサーチャーなどは、こういうことを自然とやっているんです。

HELLO, DESIGN 日本人とデザイン

―きょうのお話を伺っていると、ぼくらが日々行っている「編集」の仕事ととても似ていると感じました。編集者もよく「朝、電車に乗ってオフィスに来るまでになんの発見もなかったのだとしたら、その時点で編集者失格だ」と言われるので。

ぼくが所属しているAnyProjectsの仲間にも、元Forbes Japanの九法崇雄というすばらしい編集者がいますが、本当にそう思いますね。

「デザイン思考」というとよく「人にヒアリングして、その人の抱えた課題を教えてもらってるんでしょ?」と言われますけど、そうじゃないんです。テレビのニュース、雑誌、人びとの行動、過去に読んだ哲学書、テクノロジーの進化・・・ そうした一つひとつはバラバラに存在するパーツをぼんやりと眺め、そこから時代の空気みたいなものを捉えて、自分なりの解釈を構築するのが本来の「デザイン思考」。だから、そこには常に「自分」がいるんです。おそらく「編集者」がやっているのもそういうことなのでしょうね。

主観から発想するからこそ、ほかにはないおもしろいものができるんです。中学生ベンチャーや高校生スタートアップからおもしろいものが生まれやすいというのもそうで、売れる売れないとか、競合がどうとかいう以前に、自分が捉えた違和感を起点にパッとかたちにしているからこそなんだと思います。

いま、経営者の間で「アートシンキング」だったり「右脳思考」だったりという言葉が流行っているのも同じ文脈で理解できます。「自分がどう感じて」というところから発想することの大切さが、いろいろなところで表層化し始めているんです。

「私はこう思う」という自分なりの視点をもてるかどうか。この部分を鍛えることは、この先どんな時代になるにしても、私たち一人ひとりがビジネスパーソンとしてサバイブするために、ものすごく重要になってくるような気がします。

AnyProjects inc 共同創業者/パートナー 石川俊祐

[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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