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INTERVIEW
正論なのに相手が動かない、デキる人ほどぶつかる壁の乗り越え方
INTERVIEW

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「よかれ」と思って課題の解決策を、必要なデータをそろえてまで提案しているのに、なぜか相手に通じない、動こうとしない。この人はやる気がないのか? どうしてだ?

論理的思考やプレゼンテーションが得意なビジネススキルの高い人ほど、上司や部下、ときには取引先に対して、こうした「歯がゆさ」を感じた経験があるかもしれません。

靴修理大手「ミスターミニット」の運営会社の若き社長、迫俊亮さんもその一人。三菱商事やベンチャー企業で培ったスキルで経営戦略を練り上げ、あるメンターにプレゼンしたところ・・・

ウザい。君が言っていることの90%は正しいんじゃない? でも、外から来た人にいきなりそんな正論を言われて、現場の人は誰もついてこないよ。

と完全否定されてしまいました。この論理や理屈、正論で攻める人ほどぶつかる「なぜか相手に伝わらない」壁を、迫さんはどう乗り越え、周囲を巻き込み、会社の再生を果たしたのでしょうか。

ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長 迫俊亮

PROFILE

ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長 迫俊亮
迫俊亮
ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長
1985年福岡県生まれ。2007年カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)社会学部を卒業後、2008年三菱商事に入社。同年バッグなどの製造小売ベンチャー、マザーハウスに転職。国内事業や台湾事業立ち上げに携わる。2013年ミニット・アジア・パシフィック株式会社入社。2014年4月より現職

若干29歳で老舗企業の社長に就任

—迫さんがミスターミニットに入社されるまでの経歴を教えてください。

前職はバッグなどの製造小売ベンチャー「マザーハウス」で海外事業をやっていました。実は新卒で三菱商事に入社したのですが、創業者の山口(絵理子)さんと一緒に働きたいという思いが募り、半年足らずで退社しまして。

もともと「意識高い系」というか、成長したい、大きなことを成し遂げたいという上昇志向が人一倍強くて。マザーハウスでも、決算やマーケティングでもなんでも買って出ては、自分で言うのもなんですがいろいろと一人でこなせるほうだったんですよ。

だけど、さあチームプレイで何かやろうとなった途端に、何をやってもうまくいかなくって。「自分と同じレベルで仕事ができる人がもっといれば、うまくいくのなあ」みたいな、まあ「嫌なやつ」だったんです(苦笑)

ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長 迫俊亮

そんなとき、(五常・アンド・カンパニー創業者の)慎(泰俊)さんから、プライベート・エクイティ・ファンドのユニゾンキャピタルを紹介してもらいまして。そこがちょうどミスターミニットの海外事業を立て直す人材を探していたのです。

「海外で、しかも経営に携われて、チームマネジメントも学べるならちょうどいい」ということで、ミスターミニットへの入社を決めました。それが・・・ 面接で聞いていた話とは比にならないほど当時のミスターミニットはひどい状況でした。

—入社当時、ミスターミニットはどんな課題に直面していたのでしょうか。

何より、雰囲気が最悪でした。話す社員はみんな、顔が疲れていましたし。一言で言えば、経営陣と現場社員の意志疎通がまったくできていなかったんです。

経営陣に話を聞くと、「現場はわれわれの戦略を理解しないし、言うことを聞かない。どうすれば、現場の人間がプラン通りに動くんだ」。一方、現場の社員は「経営陣は現場の話を聞いてくれない。下手に目をつけられるとつぶされてしまう」と言い合っている状況でした。 

当然、経営と現場の社員の間に立つマネジャーは疲弊しきっていて、「給料は半分でいいから頼むから現場に戻してくれ」と申し出たり、心が病んで退職したりする人も出てきてしまう始末。中には、「大五郎(焼酎)のポカリスエット割を飲まないと寝られない」と悩む社員もいました。

ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長 迫俊亮

—それで、迫さんが現場と経営陣の橋渡し役を買って出たと。

はい。かといって、僕は現場のことを知らないし、信頼関係もありません。そこでもう一人、橋渡し役となる「運営部長」を現場から選ぶことにしました。当時エリアマネジャーだった清水という社員です。

なぜ清水だったかというと、他のマネジャー15人くらいに話を聞くと、ほぼ満場一致で彼の名を挙げたからです。しかし、ここでも経営陣の評価はまったくの間逆でした。「なんで清水なんだ? あいつはなんでも反論してくるじゃないか、ありえない」と。

実際には、現場感のない経営陣の指示に対して、彼は現場を守るために必死に反論し続けていたんです。会議で彼の出番になると、1時間くらいかかるものだから経営陣はうんざりしていたけれど、現場からは慕われていた。

彼こそが「現場の代表者」にふさわしい象徴的な存在でした。彼が部長になれば、現場も「今度こそ会社が変わるかもしれない」と信用してくれるのではないかと思ったんです。

しかし、清水には3度も断られました。運営部長に昇格すれば、給料もグッと上がるにも関わらずです。彼は地位やお金がほしかったわけでは、決してなかった。「なぜ断る?」と問いただすと、「今まで昇格した人でも、目をかけてくれていた人がいなくなると、梯子を外されて粛清されて・・・というのを見てきた。同じ轍は踏みたくない」、と。

そういう背景があったのかと、それでようやく理解できまして。では、どうすれば受けてくれるのかと聞いたら、「迫さんが社長をやるならいいですよ」。「清水がそこまで言うなら自分も腹をくくろう」、と。

それで僕も腹を決めて、株主だったユニゾンキャピタルと交渉して、社長になることを了承してもらったんです。「社長でないと、この会社の改革は実現できない」と言って。

「ウザい」若社長が半年間現場で小間使い

—それまで経営者としてのご経験は皆無。どのように社内をまとめていったのでしょうか。

おっしゃる通り、ファンドも僕の経営手腕を不安視していました。それでメンターとして、ファミリーマート代表取締役社長の澤田(貴司)さんを紹介していただいたんです。初めてお会いしたときは意気込んで、会社の状況や戦略を懸命にプレゼンしました。

なのに・・・ 開口一番に「ウザい」と。「えっ」と思いました。だって、「戦略のこの部分が甘い」だとか、経営に関するアドバイスをもらえると思っていましたから。

「靴の修理屋のおやじみたいな感じが、君からはまったくしないんだよね。いかにも三菱商事出身の人って感じ。君が言っていることの90%は正しいんじゃない? でも、外から来た人にいきなりそんな正論を言われて、現場の人は誰もついてこないよ」、と。

それと、当時僕は髭を生やしていたのですが、「君の会社って、店頭に立つ人も髭生やしていいんだっけ?」「いいえ・・・」「だったら、ダメでしょう」「すみません、すぐに剃ってきます」という感じで・・・。その場に座っているのが恥ずかしいくらいでした。

「君がまずやるべきは、現場をまわり、社員がやりたいことをしっかりと受け止めて実現して、信頼してもらうことでしょう。そしたら、そのうち『迫にはいろいろとやってもらったから、あいつのためになんかやってみようかな』と思ってもらえるんじゃない?」、とも。

その言葉が腑に落ちたんです。私自身、マザーハウス時代の上司だった社長の山口と副社長の山崎のことは心から信頼していたのですが、それは二人が私がやりたいことをしっかりと受け止めて、実現に向けてサポートをしてくれていたからだったんですね。

逆に、自分が今までリーダーシップを発揮できなかったのは、自分がやりたいことを他の人に一方的に押しつけていたからではないかと、澤田さんの言葉で気づけたんです。

それからはとにかく、小間使いみたいに店舗をまわって、現場の人がサービスを向上させるために求めることだけをやりました。「何か困ってることはありませんか?」と聞いて、「店が暑くて作業に集中できない」「はい、扇風機つけます」「ユニフォームがダサくて嫌だ」「はい、作り直します」って。

確かにそれまで10年連続で売り上げは下がっていたけれど、現場にいる社員たちは優秀で、お客さまのために歯を食いしばって頑張ってきたんだってことは、話しているうちに伝わってきましたから。

ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長 迫俊亮

だけど最初のほうは、疑心暗鬼だからなかなか本音が出てこないんですよ。経営陣と現場の間に信頼関係がないので、本音を話してくれない。以前は、経営陣の意に沿わない意見を上げると「反対勢力」と見なされて評価を下げられてしまっていた。だからみんな萎縮して、すでに諦めてしまっていたんですね。

だから、なるべく現場の人と同じ目線に立てるように、カウンター越しじゃなくて店の中にまで入って、横で靴を磨きながら「どうですか? 最近」と尋ねたり、喫煙所まで行って、吸わないタバコを吹かしたり、店舗の飲み会に参加したり・・・。

地道に半年、現場の話を聞いて要望に応えていくと、ぽつぽつと本音を言ってくれる社員が現れ始めました。そうやってはじめて、こちらの提案や新しい取り組みを受け入れてくれるようになったんです。

ヒーローになるべき優先順位は、自分<現場社員

—経営陣と現場との距離が縮まったことが、事業内容や業績にも反映されていきましたか。

はい。のちに靴磨きサービスを成功に導いたスター社員に出会ったのも、ちょうどそのころです。あるとき店頭で、靴の修理ではなさそうなんだけど、何か一生懸命作業をしている社員がいて、「何してるんですか?」と聞いてみたんです。

靴磨きサービスの看板(撮影:迫さん)
靴磨きサービスの看板(撮影:迫さん)

「すみません。すぐに片づけます・・・」と慌てだしたので、「いやいや、ほんとうに大丈夫ですから。それで、何してるんですか?」ともう一度聞いたら、「お客さまに修理した靴を返す前に、靴を磨いているんです。でも、勝手にやったりしてすみませんでした・・・」と、遠慮がちに。

彼は自前で靴磨き道具を用意して、無償でサービスをしていたんです。けれども彼は、「修理のスピードが遅いから」とそれまで会社に評価されていなかった。それでも自主的にレザーの研究をしたり、ケア用品もいいものを使ったりして、熱心に仕事に取り組んでいた。

さらに他の社員にもヒアリングしてみると、実は一日に何回もお客さまから「靴磨きもできないか?」と問い合わせを受けていたそうなんです。だけど、メニューにはないから断っていたと。これはなんとももったいない。

ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長 迫俊亮

「それなら」と、正式に靴磨きをサービスとして始めようと彼を責任者に任命して、他の社員に靴磨きの指導をしてもらうことにしました。今では売り上げの6%を占めるほど重要なサービスに育っていますし、彼自身も新規サービス全体のマネジャーとして活躍の場を広げています。

経営者としての僕がヒーローになるのではなく、彼のような現場のヒーローが増えていくにつれて、「昔は冷や飯を食わされていたようなやつがすごく評価されている。だったら自分も、お客さまのためにできることはもっとないか」と、ベテラン・若手問わず、新しいことに挑戦してみようと頑張る人が出始めたんです。

ベテラン社員の中でも、最初は「俺の息子よりも若いやつが社長だなんて、ウチの会社は大丈夫か・・・」という人もいたと思いますが、結果的に、今では部長職以上の2/3が現場出身ですし、先ほどの清水も今では営業本部長に昇格しています。

そうやって現場の社員たちが考えるアイデアがサービスとして成功し、会社に貢献して彼らの表情が明るくなる場面に出くわすにつれ、社員がどういうときにやりがいを感じ、「この会社で働いてよかった」と思えるかを知ることの大切さを確信。

そしてそれを知るには、徹底的にコミュニケーションを取るしかありません。今も頻繁に現場へ足を運んでいます。私の会食の9割以上は、今でも社員との飲み会です。

迫さんが「店の中」から撮影
迫さんが「店の中」から撮影

「自意識の塊」から脱し、周囲を巻き込める人になるには?

—しかし、以前はどちらかというと「自分がヒーローになりたい」という思いが強かったのではないでしょうか。

澤田さんと出会う前、まだ意識だけは高かったころの自分は、たしかにそうでしたね。自分が成功したい、周囲に自分をアピールするにはどんな仕事をするのがコスパがいいか・・・ ほんと、「自意識の塊」みたいな人間でしたから。そんな自分が「キャラ変」できたのは、その自意識を超えてやりたいことができたからです。

入社して、目の前で倒れてしまうような社員がたくさんいて、業績は毎年ダダ下がり・・・ でも現場は歯を食いしばって頑張っているし、すばらしい技術も持っている。それが生かされていないのは本当にもったいない。この理不尽をどうにかしたかった。「どうにかしたい」が、自分の成長よりすべてにおいて優先されたんです。

ーどうすれば、自意識の強い人でも他人を巻き込んで行動できるようになるでしょうか。

自意識の強い人が失敗するいちばんの理由は、自分をズラせずに終わることです。特に大きな成功体験を過去にした人の場合、「これが三菱商事のやり方、スタートアップのやり方・・・」と、相手を自分の得意な土俵に引きずりこもうとします。

僕も、マザーハウス時代は同僚と飲みに行ったり、カラオケに行ったり、ましてや社員合宿で仮装して踊るなんて絶対しませんでしたが(笑)、自意識を捨てて、「ミスターミニットらしい土俵」に立とうとしたのがよかったんでしょうね。

ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長 迫俊亮

ーどうすれば迫さんのように自意識を超えてやりたいことを見つけられますか。

「自意識を超えてやりたいこと」って、別に大きなことでなくてもいいんです。まずは、手の届く範囲で誰かの手助けをすればいい。まわりに「営業がうまくいっていない」とか、「長時間労働で困っている」という人がいるなら、話を聞いてみて、自分ができることがあればまずやってみる。

それが、「英語でも始めてみるか」とか、「ビジネススクールにでも行ってみようかな」とかだと、どうしても「自分」のほうに意識が向かっていってしまいます。

手の届く範囲で、誰かのために何かを続けていると、そういう人のところにはかならず、気づいたら大きな仕事が舞い込んできます。僕だって最初は、お店に扇風機をつけたりすることから始めたわけです(笑)

だけれど、結果的に、自分の成長だけを考えていたときよりもずっと成長できましたし、「自分こそがヒーローに」と思っていたときよりもずっと、リーダーシップを発揮できるようになりました。

ミニット・アジア・パシフィック株式会社 代表取締役社長 迫俊亮

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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