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INTERVIEW
フィリップスグローバル本社で働く日本人が出会った世界で活躍する「H型人材」とは
INTERVIEW

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BOOK MARK

ヘルステック分野で世界を牽引するグローバル企業、フィリップスのグローバル本社でシニアマーケティングマネジャーとして活躍する日本人がいます。佐野泰介さんです。

佐野さんは、日本支社にマーケターとして4年半勤めたあと、グローバルに展開する事業開発を学びたいと今年1月、グローバル本社へと転籍。同社で稀なキャリアパスだったそうです。

そんな佐野さんがグローバル本社で出会ったのは、持続的なイノベーションとスピーディーなグローバル展開を可能にする、世界中から集まった優秀な「H型人材」たちでした。

変化の激しい時代に活躍する「H型人材」とは。またそれを目指す佐野さんの試行錯誤について、フィリップスのグローバル本社があるオランダ・アムステルダムでお話を伺いました。

ロイヤル フィリプス シニアマーケティングマネジャー 佐野泰介

PROFILE

ロイヤル フィリプス シニアマーケティングマネジャー 佐野泰介
佐野泰介
ロイヤル フィリプス シニアマーケティングマネジャー
上智大学を卒業後、外資系食品メーカーで人事、営業企画、マーケティングを担当。スタートアップ企業を経てフィリップスに入社。オーディオ部門のマーケティングを経て、ノンフライヤー、ヌードルメーカー、マルチチョッパーなど一連の調理家電立ち上げに貢献

グローバル企業で出会った「H型人材」たち

ーフィリップスの日本支社からグローバル本社に転籍された経緯は

オランダに来て、ちょうど半年が経ちます。日本では4年半、フィリップスがグローバル展開する事業を日本市場に持ってくるための仕事をしていました。ゼロイチというよりは、1を2にする、あるいは2を10にする仕事ですね。それが、グローバル展開のより中枢に入って、ゼロイチがどう行われているのかを見てみたいと思ったのです。

日本支社では家庭用小物家電の部門で、製品ごとのプロジェクトを立ち上げ、成長戦略を描き、その実行までを担っていました。特に「ノンフライヤー」という油を使わない調理器具を扱っていましたが、グローバル本社でも同じカテゴリーで働いています。軸となる大きなグローバル戦略は本社チームが主導となって動いているので、今はそのど真ん中で働いています。

ー日本だけでなくグローバルで通用するビジネススキルを求めていたと。

確かに自分のスキルとキャリアの幅を広げたい思いもありましたが、それよりも単純な好奇心というか、パーソナルな要素が転籍の背景には多分にありました。フィリップスが掲げる「Healthy Eating (健康な食事を)」というビジョンに共感していて、それを商品やサービスに落とし込むところから入り込み、世界で広めることでもっと貢献したい、と。

ロイヤル フィリプス シニアマーケティングマネジャー 佐野泰介

日本で働いていたときから、フィリップスの製品には成功しているものも失敗しているものもあるけれど、イノベーションを生み出す力とグローバル展開がとにかく速いと感じていました。転籍以外にも転職というオプションもあったし、日本支社で引き続き事業のローカライズに携わる選択肢もあったと思いますが、せっかくなら自分の好きな会社で違うフィールドに行きたいと思ったんです。

ー少し先の話になりますが、グローバルビジネスの経験を積んだあとにはどんな挑戦を見据えていますか。

今はゼロイチに近い場所にいるとはいえ、すでにあるノンフライヤーのビジネスをより大きくする仕事をしています。そこで培ったスキルをアイロン、電動歯ブラシ、シェイバーなど他のカテゴリーで活かすか、もしくはまだない「ニュー・バリュー・スペース」、つまり新規事業ですね。そこで活かして、製品カテゴリーの立ち上げをできたら、と。

当然今すぐそこに行けるわけではなく、そこに行くために3年くらいは今のスピード感のある環境で自分を鍛えたい。こっちはとにかく「速い」んです。みんな9時5時で働いているけど、意思決定が速くて、自分はまだそのスピードに乗り切れていない感じすらあります。一般道路から高速道路へ乗せられたというか、日本で働いていたときとの差を感じます。

ーそれは意思決定のフローが日本支社と異なるからでしょうか。

大きいのはマインドセット、とにかくその場で決めてモノゴトを進めていこうというスタンスです。会議でも、今ある情報でここまでは決められるんだから、と曖昧にしない。それが気持ちいいところでもあるし、まだ決めるのに躊躇してしまう自分としてはもどかしさもあります。

ロイヤル フィリプス シニアマーケティングマネジャー 佐野泰介

なぜそんなに意思決定が速いのかというと、チームメンバーは全員、専門性を持った人、例えばデザイナーやエンジニアなどいわゆる「T型人材」が集まるのですが、議論の場で相手が出した意思決定やイニシアティブに対して、「そうだよね」と鵜呑みにするのではなく、同じ共通課題を軸に議論できている気がします。ビジョンや共通課題は、「英語以上に大事な共通言語」だと思っているのですが、実際にそれができるのはすごいことだな、と。

T型人材:特定の分野に関する専門知識や経験・スキルを「T」字の縦棒のように自らの軸に据えつつ、その他の分野に関する知見もT字の横棒のように広げてあわせ持つ人材のこと。

ー日本で働いていたときとはどう異なるのでしょうか。

日本だと、T型人材が集まって自分の専門分野に関する議題になると、どうしても相手に「ソリューション」をプッシュしてしまいがち。例えば、デザイナーがエンジニアに対して「このデザインを形にしてくれ」と言ったり、エンジニアがデザイナーに対して「この設計でデザインし直してくれ」と一方的に押しつけたりしてしまう。

それがこちらだと、相手にソリューションではなく、「課題(イシュー)」をアドレスできる(伝えられる)というか。例えば、「このデザインにしたら、こういう問題が出てきてしまわない?」みたいな発言が出てくる。ソリューションではなく、顧客のイシューにフォーカスするんです。一見遠回りに見えますけど、正しいダイアログ(対話)が行われて、結果、意思決定が速くなる。

みんなそれぞれ専門性は違うわけだけど、あくまで「チームでプロジェクトを成功させるために」、相手とつながり、相手から最高のパフォーマンスを引き出そうとお互いが考えている。仕事に取り組む際の視点が高いし、相手をリスペクトして、相手に正しい質問ができる「H型人材」が集まっていると感じます。

H型人材:自分と専門分野が異なる人とつながり、その人の力と自らの力を組み合わせてイノベーションを生む人材のこと。T型人材とは「他の人の力を活用する」という点で異なる。

H型人材に備わる、相手を活かす「メンタリティー」

ー外資系企業の場合、ジョブ・ディスクリプションが明確で、他人の専門領域には入り込まない印象がありました。

僕の感覚では、ジョブ・ディスクリプションは存在していて、「求められる結果はこうです」というのはある。けれども、何も「チェックボックスを埋めるように」仕事をしているわけではなく、あくまでプロジェクトを成功させるために仕事をしている。そのためなら、相手の専門領域にまで踏み込むことは「よし」とされているというか。

ジョブ・ディスクリプション=サイロ(円筒形の倉庫)の縦割りで、「与えられた仕事をすればそれでいい」というイメージがあるけれど、実際、少なくともフィリップスにおいては、「お互いの間で課題に関する共通認識が生まれれば、きっと今までとは違うものが生まれるはず」という期待感を持って、みんながお互いに働きかけているように思います。

佐野さんとフィリップスグローバル本社の同僚のみなさん
佐野さんとフィリップスグローバル本社の同僚のみなさん

ー具体的に、フィリップスにいる「H型人材」とはどのような人で、T型人材とはどのように振る舞いが異なるのでしょうか。

いろんな上司と話をしていると、それぞれ専門分野は違うんだけど、どのステークホルダーと話しても「相手とつながろう」とする「H」字の横棒が伸びてくる感じがあります。

例えば、新商品を企画して、開発チーム、デザインチーム、各国の販売チームと会議をする際、「こういうマーケティング施策をやってほしい」とソリューションを話すのではなくて、「Healthy Eatingというビジョンにはこういうボトルネックがある。それに対してこのチームはこのスペシャリティーを持っているよね、さあどうしよう」と語りかけるんです。

他にも、会議で自分と違う専門性を持つ人との間で意見がぶつかってしまったときも、「あなたの意見にすべては賛成(Agree)はできないし、もし自分に無限の時間と同じ専門性があったら違うことを考えるかもしれないけれど、あなたのアイデアはこの課題を解決するには十分だと思うので、それで連携(Align)して進めましょう」と、プロである相手を尊重して決断し、プロジェクトを前に進めていける。

これが日本だと、「どうすればあの人と完全な合意が取れるか」に時間をかけてしまい、商品の発売が遅れたり、オーバースペックなものが出来上がったりしてしまいがち。H型人材として、専門性が異なる相手をリスペクトするから、たとえ自分が100%は納得していなくても、チームがスピード感を失わずにプロジェクトを進めていけるんです。

ー当然、H型人材の資質は日本でも求められていきそうですね。

はい。日本でもあらゆる仕事の命題が、「なぜなぜ分析」である程度解決できる「テクニカル・チャレンジ」から、明確な答えや前例のない「アダプティブ・チャレンジ」に変わってきています。それにともない、T型人材が一人で完遂できる仕事自体、少なくなっているのだと思います。

ロイヤル フィリプス シニアマーケティングマネジャー 佐野泰介

それは僕の仕事でも同じで、「Healthy Eatingの定義はこれです」と自分の考えだけを言い切るのは難しかったり、ビジョンを世の中に打ち出すタイミングや、打ち出す国によって受け取られ方もまったく違ってくるわけです。それは、他の話題であっても同じことが言えるでしょう。

そんな掴みどころのない時代において、それでもプロジェクトを前へと進めていく上では、他の分野のプロフェッショナルとつながり、彼らを頼って知見を引き出し、ともに今のベストを尽くそうという「やってみなはれ」のメンタリティーが必要だと思います。

「ジョブ・ディスクリプションでガチガチ」のイメージがあった外資系企業で、まさかサントリーの創業者、鳥井信治郎の「やってみなはれ、やらなわからしまへんで」の精神に出会うとは、良い意味でのカルチャーショック、サプライズでしたね。

H型人材が相手とつながるために投げかける「質問」

ーH型人材を目指す上で、佐野さんが心がけていることを教えてください。

何か強力なアイデアがあって、単発のイノベーションを起こそうとするなら、外部のデザイナーや広告パートナーを「使ってやろう」と、悪い言い方をすれば「搾取」のような感覚でもモノゴトは進むのかもしれません。

しかし、特に大企業はイノベーションを「持続的に」起こす必要がある。イノベーションはいわば「ジャーニー(旅)」ですから、各分野のプロであるチームメンバーたちに常に気持ちよく働いてもらい、最高のパフォーマンスを出してもらわないといけません。

そのために、相手が何に関心を持って働いているのか、何に喜びを感じるのかを聞くようにしています。過去のプロジェクトで嬉しかったこと、心残りがあって今回のプロジェクトで挑戦したいことなど。「前のプロジェクトでこういうことをやりたかったけど、こんな制約があってできなかったんだ」と言ってもらえれば、相手のために何か工夫ができるかもしれない。

それと、もう一つは相手の「ホットボタン」、押されたら嫌なボタン、つまり他の人にやってほしくないことを聞くことです。例えば、「仕事のリクエストを頻繁にしてくる相手が、自分のメールに対してレスポンスが遅いのは我慢できない」、だとか。

僕と最初の上司のはじめての「1on1ミーティング」でも、実はプロジェクトの話は一切出てこず、こうしたバリューやホットボタンの話しかしなかったくらい、大事なことです。

また、相手をより深く理解するために会議の始めと終わりに「チェックイン」「チェックアウト」を入れます。「会議が始まる前に今自分が考えていたのはこういうこと。今日の会議のあのときの議論について自分はモヤモヤしている」と共有するんです。すると、そのときの発言が「あの人とこのあともう少し話してみよう」というトリガーになります。

ロイヤル フィリプス シニアマーケティングマネジャー 佐野泰介

打ち解けていない間柄のうちは、相手が本音を語ってくれないこともあります。しかし「このプロジェクトを一緒に成功させたいから情報交換しよう」と自分の意図を伝えて、こっちから歩み寄ってオープンに話せば、多くの人は本音を話してくれます。僕も少なくとも今のチームには自分をさらけ出せている気がします。

ー逆に、H型人材として相手とつながる際に気をつけるべきことは何でしょうか。

相手に気持ちよく働いてもらうこと=相手を立てること、自分は良い人に徹する、ではないということです。ときには「その提案は受け入れられない」と、相手に率直にフィードバックする必要があります。

相手の視点からモノゴトを考えようとするあまり、例えば工業デザイナーに気を遣いすぎた結果、コストがかさんだり、プロジェクトが先に進まなかったりするのであれば、それは本末転倒ですよね。これでは、Tでも、Hでもなく、単に両方の軸を失ってしまった― (マイナス)人材なんだと思います。

ですから、僕も上司から「ときにはもっとディサイシブ(決定的)になったほうがいい」とフィードバックされることもあります。プロジェクトが進まないときには、思いきって「Be directive(一方的になろう)」と。T型かH型か、ではなく、2つは共存するような気がします。

しかし、そんなときも ”Let me be directive(これから少し一方的になるから)” と一言添えて、「このプロジェクトは今停滞しているから早く前へ進めたい」と自分のテンションを伝えることが大切。相手に気持ちよく働いてもらうためには、自分の意見だけではなく、自分がなぜそんなモードに入っているのかを伝えることも大事です。

日本人もよく、「ぶっちゃけ、私はこう思っている」と、自分のテンションを伝えた上で意見を相手にぶつけることがありますね。それと同じで、だから相手も受け入れられる。しかし日本だと、「ぶっちゃけ話」は雑談の場でやられがち。それを会議などオフィシャルな場面でもやることが、相手とつながる上では大切だと強く感じています。

H型人材について考えるのが、「日本人って実はH型人材に向いているんじゃないか」ということです。日本企業って、いろんな専門性を持った同期の社員が会社の中のいたるところに散らばっていますよね。実はいろんな人とつながって、イノベーションが起こせるような土壌、文化、働き方ってすでにある気がすごくするんです。

だとすれば、グローバル企業と日本企業ってそんなに大きな差があるのかな。そんなこともグローバル本社で働きながら考えたいと思っています。

ロイヤル フィリプス シニアマーケティングマネジャー 佐野泰介

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[取材・文] 岡徳之

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