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INTERVIEW
人工知能時代に必要なのは一人ひとりを見守り、モチベートするスキル—すららネット代表 湯野川さん
INTERVIEW

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BOOK MARK

活用が進んでいる人工知能技術ですが、実際に教育の現場において、生徒たちの学習データを分析し、学習システムとして運用している企業があります。今回はクラウド型学習システム「すらら」を運営している株式会社すららネット代表取締役社長の湯野川孝彦さんに、人工知能が教育の現場にもたらしているもの、そして人工知能時代において、人が担うべき役割などについて伺いました。

株式会社すららネット 代表取締役社長 湯野川孝彦

PROFILE

株式会社すららネット 代表取締役社長 湯野川孝彦
湯野川孝彦
株式会社すららネット 代表取締役社長
1960年生まれ。大阪大学基礎工学部卒。株式会社日本エルシーエー執行役員の後、株式会社ベンチャー・リンク常務執行役事業開発本部長として数多くの新規事業を手がける。2004年に教育事業に参入し、2005年にEラーニング事業を社内起業。事業責任者として、「eラーニングすらら」を運営。2010年に自ら株式を買い取り、MBOが成立。Japan Venture Awards 2014中小機構理事長賞、2015年の日本ベンチャー大賞の社会課題解決賞など受賞歴多数。現在、教育再生実行会議有識者委員も務める

先生の役割を人工知能が担う?

ー「すらら」はクラウド型の学習システムとして人工知能のしくみを取り入れているとのことですが、具体的にはどういったものなのでしょうか。

初期の学習塾の多くは、一斉授業スタイルで、習熟度や志望校によってクラス分けをすることで個々の生徒に対応してきました。それがより細やかな指導へのニーズが高まり、個別指導業態が出てきたわけです。ただ、その多くは生徒対講師が1対2から1対5程度のスタイルで、はたして「個別」指導と言えるのかという側面もありました。そこで次の段階としてEラーニングを利用して究極にパーソナライズし、子ども一人ひとりに寄り添う指導法というものが生まれてきました。

「すらら」の特長として挙げられるのは、一つは難易度コントロール。子どもたちが気持ちよく解けるよう、過去の学習履歴を見ながら負荷が一定になるように問題の難易度をコントロールする。いわゆる「アダプティブ・ラーニング(適応学習)」と呼ばれるものです。この子にはこの問題が適している、あるいはもう少し難しいのがいいなどと、「ちょうどいい問題」を出題していきます。

もう一つは、つまずき分析。例えば一次方程式問題の点数が低ければ、「この子は方程式が苦手だから、もう一回やろう」となるのが一般的ですが、「すらら」の場合はさらに突っ込んで、「何をxにすべきか、わからなかった」のか、あるいは「方程式の立て方が、わからなかった」「少し前に習った一次関数が理解できていない」「そもそも小学校で学んだ分数がわかっていない」のかを自動的に判定するんです。どこでつまずいているのかを発見したら、その部分のピンポイント再学習を薦めるレコメンドを出します。

さらに4月から導入するのが、人工知能による適切な対話とフィードバック。NTTドコモの自然対話プラットフォームを使って、学習開始時、終了時などにキャラクターが声かけと対話を行っていきます。優秀な先生は生徒の学習の様子をしっかり把握し、モチベーションが高まるよう、適切な対話やフィードバックを個々に適切なタイミングでできるわけですが、そのうちの一部分の対話をAIサポーターとしてアニメキャラクターが担うことになります。そうやって子どもたちをモチベートしていくということです。つまり、

  • 習熟度に合わせた課題の設定
  • 「何につまずいているのか」を分析
  • 生徒の状況を踏まえ、ポジティブなフィードバック

といった、今までは先生が担ってきたような分野を人工知能によって補完していくことが可能になってきているということですね。

努力にフォーカスすることで効果が得られる

ー「1クラスで同じ内容を一斉に学習する」やり方に限界がある、ということに思いあたる節があります。生徒一人ひとりに合わせたフィードバック、というのがポイントなんですね。

そうです。少子化やさまざまな理由で、学校においても学習塾においても、学力のバラツキが問題となっており、従来型の教え方ではうまく行かなくなりつつあります。そのために「個別」に学びフィードバックするという要素を何らかのかたちで導入せざるを得ません。

適切なフィードバックという面では、最新の学習理論で言うと、インプット(努力)とアウトプット(点数)を捉えたとき、インプットを評価し褒めたほうが学習効果が得られるということがさまざまな研究でわかってきています。努力に対してポジティブなフィードバックをすることによってモチベーションは高まります。「◯時間で100問も解いたんだ、すごいね」と。人間だったらつきっきりでなければそういうフィードバックはできませんが、機械ならベースラインからどれだけ上がったか、どれだけ努力したかについて、客観的・定量的にフィードバックができます。

頭の中で「努力と結果」の随伴性認知ができていないと、「どうせ勉強しても、自分はダメだ」と、子どもは自ら努力しようとしません。けれども適切なフィードバックをすれば、「努力次第で、やれば伸びる」という認識が芽生え、学習生産性が上がる。結果としての学力をつけることはもちろん大切なんですが、それ以上に、「努力と結果が結びついている」ことをわかっているかどうかが大事なんです。もしどの子どもにも、しっかり努力を認めて、適切なフィードバックを行うことができる「スーパー教師」がいればいいですけど、そうはいきません。これは大人の学習においても同じです。

私自身の経験を振り返ってみると、小学校のクラスの三分の一は農家の子、三分の一は漁業、三分の一は街の大手企業・・・ みたいな田舎育ちで、中学くらいまでは何もしなくてもトップクラスだったんです。けれども県下の進学校に進学すると、さすがにそれでは通用しなくなって成績がどんどん下がってきてしまった。そこで、自分に合った教材を探し、高三の夏休みに近くの図書館に毎日通って自分がつまずいたところまでさかのぼり、一からやり直しました。高一分野から復習し、高三分野に行き着いたときにはすべてわかるようになりました。教育事業に携わるようになって、そのことを思い出したんですよね。「落ちこぼれ」とよく言われるけれど、それは誰しも起こりうるし、挽回できるんです。

株式会社すららネット 代表取締役社長 湯野川孝彦

これからの上司に必要なのはモチベーターとしてのスキル

ー人工知能を事業に活用されている中で、それでもやはり人工知能には限界があると感じられる点はありますか。

中学や高校で教えるような「答えが出せる定型的な知識」を効率よく学ぶことについては、正直なところ人工知能はすでに人を超えている面があります。特にアダプティブかつパーソナライズという点で、既存の教育の仕組みではできないことを可能にした部分はある、と。ただ、文科省が提唱しているような21世紀型スキル・・・ 例えば対人能力、業務設計力、プロジェクトに必要な段取り、人にどう動いてもらえばよいか・・・ など、社会に出たら、答えがないような問題ばかりですよね。そういった探索型の問題、答えが出ない問題に関しては、人が教えないといけません。

また、より身近なところでいうと、「見守る」ということ。勉強を習慣化できる子は、ちゃんと親や先生に見守られているんだっていうことを感じている場合が多いんです。「すらら」の学習ログを見た先生から「今朝は、7時からちゃんと勉強できたね、えらいね」と言われると、がんばれる。「自分の努力を誰かが見てくれている」というのが大事なんです。もちろん機能として人工知能ができないことではないけれど、それがすべて人工知能に取って替わるということはないでしょう。

 

ーそうすると、人工知能がますます活用されていく時代において、人が担うべき役割とはどういうものでしょうか。

すららは約600の学習塾に導入していただいているのですが、先生としてうまく取り組んでいらっしゃるなと感じるのが、外資系保険セールスマン、大手企業の管理職など、対人能力に長けている方々です。Eラーニングを使うと、教務経験は必要ないですが、ヒューマンスキルはより必要とされます。先生の役割が変わるんですね。これからの先生の役割は、「教える」というよりも、モチベーター、あるいはプロデューサーとして、目標管理、進捗設定など学習をマネジメントする役割になっていくのではないかと思います。

 

ーそれはビジネスの現場で、上司としてマネジメントしていくうえでも重なる部分がありそうですね。

そうかもしれませんね。人が努力し、成長していく過程をしっかり見守ってあげられるかどうか、その根本に尽きるのでしょう。これからの世の中は定型的な仕事や、結果がすでにわかっている仕事については人工知能に置き換わっていくかもしれません。一方で、人はどういう結果が導き出されるかわからないことに挑戦しないといけない。私自身、前職では新規事業を担当していましたが、結果が出るかどうかわかりませんし、それを結果だけで評価すると人間は疲弊してしまう。そのためには一人ひとりと対話し、コミュニケーションを取ること、そして適切に目標やプロセスを管理していくことが重要です。

 

ーコミュニケーションもさることながら、いかに一人ひとりに合った目標を設定するか、難しい判断が要求されそうです。

目標がやたら簡単すぎて、負荷が軽ければいいというものではないですし、もちろん無茶な負荷をかけることもふさわしくありません。当社では「すららカップ」というコンテストをやっているのですが、その際も評価基準となるのはアウトプットとしての点数ではなくてインプットとしての努力なんです。総学習時間とクリアしたユニット数をポイント化し、ランキングで競い合います。テストの結果をランキングするのでは、オール1の子は端からムリだと参加を諦めてしまいますが、努力だったら誰でもできますよね。それでみんな、猛烈にがんばるんです。ただ、がんばりすぎて燃え尽き症候群にならないように、適度なラインを設定することが必要なのですが。

また、慶應大学で教育経済学を専門とされている中室牧子准教授と共同研究を行ったのですが、学習の仕方によって、生徒の学習行動がどう変わるかをデータ分析しました。そうすると、いくつかのポイントが出てきました。例えば、個人とチームで比較した場合、男子はチームでがんばったほうが学習生産性が高かった。別の研究では、学習における「先送り行動」においても男女差がかなりあることがわかりました。もちろん性差という面ばかりではなく、さまざまな要因によって、目標設定のやり方が変わってくるということですね。チームのほうがパフォーマンスを上げられる人はそういう環境を用意したほうがいいし、先送りしがちな人は、長期的な目標を設定ではなく、より短期的な目標を設定したほうがいいかもしれない。そういう分析が進んでくると、誰でも優れたモチベーター、マネジャーになることができるかもしれませんね。

株式会社すららネット 代表取締役社長 湯野川孝彦

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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