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INTERVIEW
「人の記憶から薄れない」話題の出戻り社長が11年間徹底していた「引き寄せの鉄則」
INTERVIEW

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BOOK MARK

2018年4月、家電ベンチャーのCerevo(セレボ)がその一部を新会社Shiftall(シフトール)として分割し、パナソニックに売却するというニュースが話題となりました。

一見、「大手メーカーがベンチャーを買収した」というそこまで目新しくない産業トピックにも映りますが、それがなぜ話題となったのかーー。

Cerevo創業者であり、このほど新会社Shiftallの代表に就任したのが岩佐琢磨さん。実は彼、Cerevoを創業する前はパナソニックに勤めていました。

株式会社Shiftall 代表取締役 岩佐琢磨

つまり、今回の売却を通じて、彼はパナソニック子会社の代表として、古巣への「出戻り」を果たした。電機業界では「異例中の異例」と言える人事、出世だったのです。

買収劇と岩佐さんの転身。その決断にはどんな背景があったのでしょうか。そして、「出戻り」というキャリアパスの可能性や、それを実現するために必要なマインドセットとはーー。

岩佐さんご本人に、これからのキャリアの築き方についてお話を伺いました。

PROFILE

株式会社Shiftall 代表取締役 岩佐琢磨
岩佐琢磨
株式会社Shiftall 代表取締役
1978年生まれ、立命館大学大学院理工学研究科修了。2003年松下電器産業(現パナソニック)に入社し、ネット接続型家電の商品企画を担当。2008年5月に株式会社Cerevoを設立。ビデオカメラにライブ配信機能をつけるための機器「LiveShell」シリーズなどを世界70カ国以上で販売。2018年4月、Cerevoの一部を子会社化したShiftallをパナソニックへ売却。子会社社長として古巣への出戻りを果たした。

電機業界では異例の「チームで出戻り」

―家電ベンチャーとして特色ある製品づくりを行ってきたCerevoの代表を退任され、新会社を立ち上げて代表に就任。新会社Shiftallをパナソニックに売却し、子会社の代表に就任されました。いわば「出戻り」の形ですが、なぜ、パナソニックへ戻ることにしたのですか。

株式会社Shiftall 代表取締役 岩佐琢磨

「成り行きです」、と答えてしまうと記事にならないですけど(笑)・・・パナソニックとはCerevo時代も共同プロジェクトを行ったり、たびたび仕事する機会があったりしたんです。電機業界としては異例かもしれないけど、広告や人材業界では結構当たり前ですよね、古巣と仕事するのは。

いろいろと関わる中で昨年くらいに宮部さん(宮部義幸パナソニック専務執行役員)から、僕らの培ってきた開発ノウハウを活かして協力してくれないか、という話があり、Cerevoとしても、今後安定的な開発環境を築くためにどうすべきか、という岐路にも立っていた。

パナソニック、Cerevo、そして僕らShiftall、すべてのプレイヤーにとって一定のメリットはあると判断して、今回の決断を下したわけです。

―宮部さんとはパナソニック在籍時代から関わりはあったのですか。

宮部さんとは、在籍時から仕事を共にする仲で考え方は分かっていましたし、マインドセットを理解して、「この人のやろうとしている改革なら」という思いはありました。

それに、宮部さんにかぎらず、津賀さん(津賀一宏パナソニック社長)とも、僕がパナソニックを退職する直前に彼管轄のプロジェクトで一緒に仕事をしていたし、小川さん(小川理子パナソニック執行役員)も直属の上司だったので、気心は知れている。

変革には反論がつきものですし、それを覚悟して実行力のある組織でないと進まない。そういう意味では、信頼できる、力のある方々が本気で取り組もうとしている、という印象を持ちました。

―そうした方々とのつながりがあったとはいえ、今回の出戻りは異例でした。

パナソニック在籍時代の岩佐さん
パナソニック在籍時代の岩佐さん

日本の電機業界ではそうかもしれませんが、アメリカでは「アクハイアリング(Acqui-hiring)」という言葉・・・「Acquisition(買収)」と「Hiring(雇用)」を組み合わせた造語で、「企業買収による人材雇用」という意味の言葉もあるように、特にIT業界ではそういった形の買収が顕著に行われているんですよ。

例えば、「〇〇氏がGoogleからAppleへ移籍」という報道をたまに目にしますけど、実はその裏では、リーダーである〇〇氏について行く形で十数名のチームメンバーが一緒に転職していることもある。それに近いことを、日本で、しかも電機というトラディショナルな業界で起こせたという点では、先鞭をつけたと言えるのかなあと。

つまり、個人的には、岩佐という「個人が出戻る」ことより、「チームで戻る」ことに大きな意味があった。自分だけが古巣である大企業に戻ったところで、変えられることはそうありません。チームだからこそ成し遂げられるインパクトがあると思っています。

―そんな岩佐さんの決断にチームが賛同してついてきた。それだけの信頼関係が築かれているということですね。

Shiftallのみなさんとのお写真
Shiftallのみなさんとのお写真

このチームを組めたことが、起業家として、この11年の意義のひとつだと言えるかもしれない。

「本当の正解」は後から歴史が決めるけど、ひとまず僕が「正解だ」と信じるものを具現化し、走らせられるようなチームなんです。複数名いないと操縦できないような宇宙船のようなもので、誰が欠けてもうまくいかない。まあ、たまに軽く沈むことはありますけど(笑)、このチームだったら、と思えることは確かです。

「異質な血を透析する」賛否両論起こる変革の真っ只中

―そもそも、一度パナソニックを離れなければならなかった理由はなんだったのですか。

別に、パナソニックのことを「やりにくいな」と思っていたわけではないんですよ。単純に方向性の違いというか、当時僕がやりたかった「ニッチ向け商品を多品種少数生産する」というのはパナソニックではできなかった。

Cerevo時代
Cerevo時代
Cerevoで開発したビデオカメラにライブ配信機能をつけるための機器「LiveShell」シリーズは世界70カ国以上で販売された
Cerevoで開発したビデオカメラにライブ配信機能をつけるための機器「LiveShell」シリーズは世界70カ国以上で販売された

けれども会社の方向性は変わっていくもので、宮部さん曰く、「そもそもパナソニックの前身である松下電器はかつて多品種少数生産でベンチャー的にやってきたんだよ」と。そういうやり方が継承されなくなって、それができる人材が少なくなってしまったけど、今こそ変わらないといけない時代が来た、ということだと思います。

―岩佐さんがパナソニックを退社した2007年当時と現在とでは、日本メーカーの置かれている状況も違いますよね。

そうですね、僕が退社してCerevoを立ち上げたころと比べると、「日本メーカーが世界をリードする」という感じではなくなりましたよね。シャープも東芝も厳しい状況に置かれ、この数年で世界に太刀打ちできているのは、ソニーのPS4くらいでしょうか。パナソニックは売上も利益率も高いけど、世界的に考えれば大した時価総額ではない。

日本人として、というと安易な言葉かもしれないけど、なんとかしなければ、という危機感が強くありました。宮部さんから声をかけてもらって、自分たちがやってきたノウハウを提供することで、日本メーカーの再興を後押しできるのなら、とモチベーションが上がったのは事実です。

株式会社Shiftall 代表取締役 岩佐琢磨

―パナソニックに再びジョインして、いかがですか。

出戻りする前からも、組織を形から変えようとしているのは感じていました。

ビジネスイノベーション本部という新しい組織を作って、その本部長としてSAPジャパンでチーフイノベーションオフィサーを勤めていた馬場(渉)さんを迎えた。「ゲームチェンジャーカタパルト」という新規事業開発プロジェクトもはじめたし、お客さまの声を聞いて、クイック&ダーティでとにかく作ってみよう、という気概は伝わってきていました。

ただ、中身は基本的にはあまり変わっていないだろうな、と正直思っていたんです。で、実際やっぱりそうだった(笑)。意思決定に時間がかかるし、いろんな人からいろんなことを言われるし・・・でも、僕らの役割は、それを変えることだと分かっていましたから、初日からいろいろと始めましたよね。

株式会社Shiftall 代表取締役 岩佐琢磨

メールをやめてチャットツールにするとか、いちいち会いに行くのはやめようとか・・・そういう文化を浸透させる、という部分で僕らの価値を認めてもらっていると思っているので、そこは徹底してやっています。

ですから、社名も「パナソニック〇〇」じゃなくてShiftallにしたし、名刺もオフィスも働き方も、会議の仕方もパートナーの選び方も違います。パナソニックと共同開発プロジェクトを数本走らせる形で、社員の方々と一緒に仕事をしていますが、我々とつきあえばつきあうほど変化していくのだと思います。

いわば、「異質な血を透析している」ようなもの。それが果たしてよかったのか悪かったのかは、後世になってから分かる、歴史が決めることだと思いますが。

Shiftallではチャットツールを使ってコミュニケーションをより円滑に
Shiftallではチャットツールを使ってコミュニケーションをより円滑に

―パナソニックの社内から反対意見が挙がってくることもあるのでは?

もちろん、賛否両論あると思いますけど、こっちには聞こえてこないですよね・・・たぶん、あっても陰口になるので(笑)。

でも、そもそも異論や反論のないものは、やってもしょうがないと思うんですよ。だって、それって何も変えてないのと同じじゃないですか。このやり方って、劇薬を使うようなものですよ。「そこしてまでやるんですか」ということですから、反発があるのは無理もありません。僕は、外から見て「このままではヤバい」と思っているので、カンフル剤を打ちましょう、という感じでやっていますけど、その劇薬を使うかどうかは経営陣の判断ということです。

株式会社Shiftall 代表取締役 岩佐琢磨

それに、僕らがやろうとしているのは、何も反発が起きるようなことばかりではなくて。会社の外から来ると、パナソニックが持っている技術や部品が別のものに見えてくるんですよ。「埃をかぶってる」とまでは言わないけど、単純に用途に気づいてないというか・・・「これってこういうことに使えるんじゃない? しかもこれ、むちゃくちゃ高度な技術じゃないですか!」みたいな。

―これまで培ってきた家電ベンチャーとしてのノウハウが、そこで活きてくるわけですね。

やっぱり、パナソニックが持っている知財、技術、設備、ソフトウェアコンポーネント・・・「パナソニックのために」カスタマイズされた部品や、全国・世界に広がる営業ネットワークに至るまで、それらはどんなスタートアップや中小企業も持っていないものなんですよ。そんなの、どうやっても手に入らないものばかりですからね。それを今後活用できるというのは、僕らにとってもパナソニックにとっても、めちゃくちゃ大きいメリットだと思っています。

社外へ出れば「4段飛ばしの出世」も可能になる?

―これから岩佐さんのような「出戻り」キャリアは、ごく一般的なものになっていくのでしょうか。

人によってキャリアのあり方は違うでしょうけど、キャリアパスのひとつとして「一度外へ出る」という選択肢は増えていくでしょうね。少なくともキャリアパスが多様化していることは間違いない。

そもそも、何をもって出世と呼ぶか、というのは難しいけど、「大企業の出世コース」はそう変わらないと思うんです。今でもその多くは水平分業で成り立っているし、「電動パワーステアリングの設計を20年やっています」みたいな人たちが大勢いる。40年働くような時代に、その半分をかけてひとつのことをやり続けるのか、と問われたとき、それを進んでやる人には敬意しかありませんけど、そういうキャリアを選ばない人もいるでしょう。

そうすると、水平分業の真逆を行くような、つまり一人でなんでもやらないとそもそも会社が回らないようなスタートアップを立ち上げて、あるいは参画して、今の自分にスキルがあろうがなかろうが、教えてくれる人がいようがいまいが、全部自分で引き受ける、みたいな経験をして、そしてまた大企業に戻ってくるのは、アリだと思うんです。

株式会社Shiftall 代表取締役 岩佐琢磨

例えば、メーカーで画像処理の開発に携わって、普通にそのままいれば10年経つところを、3年くらいで辞めて、自分でベンチャーを立ち上げる。人によってはその会社をIPO寸前まで大きくして、大手企業に数十億円で売る・・・というのは分かりやすいサクセスストーリーだけど。

そこまでしなくても、会社経営を経験してメーカーに戻る、となればそのままメーカーにいたころの「4段飛ばし」くらい上の役職にはいけると思うんです。だって、少なくともメーカーにずっといた部長や室長よりは、「経営者」として幅広い経験を積んできたことには間違いないだろうから。

だけど、そんな幅広い経験を大企業で得ようとするには、広い領域を管轄する、それこそ執行役員くらいまでは上り詰めないと、難しいじゃないですか。そんな機会、20代は当然、30代、40代でもなかなかないんじゃないかなあ。

―それは岩佐さんご自身のキャリアにも重なります。仮に出戻りを出世と呼ぶなら、どうすれば実現できるでしょうか。辞めた会社の人と関係を続けていくことは意識されていたのですか。

宮部さんとかとちょくちょく会う機会があった、というのは確かですけど、別に自分の身に何かあったらもう一度雇ってもらおう、とか思っていたわけではありませんからね(笑)。

株式会社Shiftall 代表取締役 岩佐琢磨

でも、シンプルに答えると「個としての情報発信を続けること」「社外の人とも積極的に関係を作っていくこと」、このふたつに尽きると思うんです。

僕自身、2006年頭からブログを書き始めて、これからは会社名ではなく、個人として発信して、仕事につながっていく、という働き方になっていくのだろうと考えていました。実際、まわりのブロガーの人たちは10年前の時点でそういった働き方をしていましたから。

「私はこういうことに興味がある」「こういう技術が提供できるから、何か一緒にできそうな人は連絡してほしい」って、SNSやブログで発信し続けていれば、頻繁に会ってない人でも「会っている感」が出るんですよ。

それで、久々に会って話そうか、と飲みに行くと、2、3年くらい会っていなくても全然タイムラグを感じない。それで、「今、そういうことしてるんだ。それなら、仕事頼んでみようかな」となると思うんです。

―確かに、情報発信で近況を共有している関係なら、単刀直入に本質的な話から始められそうです。

個としての情報発信、というのは、別になんでもいいんです。「私は歌うのが好きなセミプロです」って社内でも社外でも言ってみるとか。

アウトプットには何かフェロモンのようなものが宿っていて、社会へとりあえず情報を放り出してみると、業界の近い人や志を同じくした人が引き寄せられる。すると、いろんな人との関係性が構築されてきて、それ自体が本人の力になることもある。

そういえば、僕がCerevoを立ち上げたのもそういうことがトリガーになっていったんです。ブログでネット業界の人とつながりができて、「〇〇さんを知ってるなら、紹介してもらえないか」と頼られるようになって、「家電ベンチャーを立ち上げたいけど、代表する人がいない」となって、「じゃあ俺がやります」となった。

個人としてもそうだし、Cerevoとしても情報発信をきっちりやっていこうと続けてきた結果、パナソニックの人たちも僕らの活動を知ってくれることになった。「人の記憶から薄れていかないようにする」ことはとても大事だと思うんです。

―最後に、先ほど「何をもって出世と呼ぶか難しい」とおっしゃっていましたが、これからの出世のあり方はどうなっていくとお考えですか。

もちろん、食うに困るとか、結婚できないとかだとつらいですけど、少なくとも今の時代はお金じゃないと思うんです。では、何が出世で何が成功なのかというと、難しいところで・・・。

これまでの出世観を否定するわけではないんですよね。別に、最年少で部長になるとかでもいいんですけど、僕自身としては、今のメンバーと一緒に働けること自体が幸せなんですよね。で、定年したときか、お墓に入るときにどう思えるか、ってことなんじゃないかな。それは、今パナソニックで働いている人たちにも聞いてみたいですね(笑)。

株式会社Shiftall 代表取締役 岩佐琢磨

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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