ハーバードから楽天最年少執行役員へ、学びの達人に聞く学習の極意

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私たちは「寿命100年の時代」を生きる可能性がある。一部の医学専門家はそう主張しています。すると、定年はじきに75歳まで引き上げられ、ビジネスパーソンには生涯を通じて新しい専門性を培い続ける必要が生じるかもしれません。

そんなタフな時代に第一線で活躍し続けるためには、効率的な学習が必要不可欠。「何を学ぶか」以上に、かぎられた時間を使って「どのように学ぶか」が大切になるのです。

そこで今回は、以前は研究者として世界の学問の最高峰で、現在は楽天の最年少執行役員としてビジネスの世界で活躍する北川拓也さんに、学習を効率化させるノウハウを伺います。

北川さんは、日本の高校からハーバード大に現役で進学し、数学と物理学という2つの分野を学んだ後、大学院で理論物理学を研究。15本以上の論文が科学専門誌に取り上げられました。その後、博士課程修了と同時に帰国、27歳のときに楽天の執行役員に就任。

彼は、学ぶ上で「自らの成長のためには自分自身を見つめ、直観を磨く環境に身を置くことが必要」と説きます。

楽天株式会社 執行役員 北川拓也

PROFILE

楽天株式会社 執行役員 北川拓也
北川拓也
楽天株式会社 執行役員
1985年生まれ。灘中学・灘高校卒業。高校時代に化学オリンピックで国内最優秀賞を受賞。日本の大学を経由せずにハーバード大学に現役で進学。数学、物理学をダブルメジャーで専攻して最優等の成績で卒業。2013年ハーバード大学院にて博士課程修了。理論物理学者。今までに15本以上の論文が科学専門誌に取り上げられた。現在の役職は、楽天株式会社執行役員、データインテリジェンス統括部 ディレクター、ECカンパニー CDO(チーフデータストラテジーオフィサー)&ディレクター

学問の世界から、畑違いのビジネス界へ転身

—北川さんが担う楽天全体のデータ戦略を担う部門は、どのような役割を担っているのでしょうか。

簡単にいうと、社会やお客さまのために、どのようにデータを活用していくのかを考えるチームです。戦略立てから分析、開発まで一貫して行います。

楽天は「エンパワメント」をビジョンに掲げている企業です。そのなかで、「Empowerment with Data(エンパワメント・ウィズ・データ)」という観点から、データを使って、お客さまやビジネスパートナーをどのようにエンパワメントするかということを日々考えています。もう一つは、「Creating Emotional Value with Data」で、私は「感情価値」を重視しています。マーケティングというのは人の行動を変えること、つまりは感情を動かすということです。「感情価値」を動かすために、データサイエンスを活かそうとしているのです。

—畑違いのアカデミックな世界からの転職したのは、どんな理由からでしょうか。

研究者の世界から出たのは、学び続けることが好きだったことがあります。「ストレングス・ファインダー」診断によれば、そもそも自分は学習に向いている特性がありました。

理論物理学の研究は深いものですが、科学や学問を超えた場所での学びを求めたくなりました。特に日々生きている中で「人間のあり方」をもっと学びたいと。

人間と人間がインタラクティブに関わるビジネスの方が、人間を感情レベルで圧倒的に学べる、自分の本質は学者だとは思うけど、意外と経営に興味があるのではないかと思ったのです。

—研究開発のみならず、現在は企業の経営活動にも携わっていますね。そこにいたるまでに困難はありませんでしたか。

何も知らないで入社してきて、ようやく経営というものがわかってきたところです。どうやって学んだかというと伝えるのは難しいですが、まずやりたいことがあり、それに向かうにはどうしたら良いかと日々考える繰り返しは自分に向いていました。

偉大な経営者と自分を比べたとき、自分に足りないものは何だろうと考えたのがスターティングポイントです。何が足りないのかわかれば、それを知りたいと思える。学ぶものが明確なら、素直に学ぶのは簡単です。

本質的な学びの背後には、感情の動きがある

—素直に学ぶうえでの一番のポイントはどこでしょう。

学ぶうえで一番大切なのは「感情」だと思います。知識やスキルを学ぶのではなく、何かの刺激があったときにその感じ方が変わるような、感情レベルで変わらないと本当の学びになりません。

スティーブ・ジョブズもそうですが、一流の経営者やマネジャーは会議で怒ったり、すごく褒めたりすると言いますよね。感情を揺り動かす会議をしないと参加者や従業員の学びにならないからです。

アメリカの行動経済学者であるダニエル・カーネマンが書いた「Thinking, Fast and Slow」という本においても、論理的な思考と直感的な思考は分けて考えられています。それに則って考えると、論理的な思考よりも直感的な思考を改善することのほうが、経営にとっては重要なのではないかと考え始めたのです。

記憶力だとか、そういったレベルでの人の身体能力というのはせいぜい数倍程度の違いでしかなく、実際に経営者が出す、数万倍の差分に比べれば些細なものかと思います。それでも優れた経営者とそうでない人が生まれるのは、1日50回意思決定するとしたら、数回のわずかな差の繰り返しで、1年後には圧倒的な差が生まれるからです。とすれば、直観的な感情に基づく判断力に磨きがかかるよう学ぶ必要があります。

ーそのような学びはどうすれば得られるでしょうか。

自分の感情がもっとも動いているときはいつか、喜びでも、不安でも、そこから目を逸らさない。ちゃんと自分のことを振り返ってきた人が、圧倒的な影響力を得ることができます。

それはとてもしんどいことです。でも、そのレベルで学ばないといけません。安定という状態を求めないのが、これまでも私が一番やろうとしてきたことでした。

直観を鍛えるには、日々の小さな意思決定が大事。ミーティングである人が意見を言ったとき、どう反応するか。自分と違う意見に対して湧き上がる感情、興奮するのか、戦おうとするのか、直観というのはそこからの意思決定のことです。

楽天株式会社 執行役員 北川拓也

自ら感情的に問いを立て、それに答える癖を付ける

—具体的な学びのパターンを伺います。お勧めの学習法というものはありますか。

感情的に学ぶ上で、「アクティブラーニング」は有効だと思います。自ら問いを立てて、それに答える学習法です。

高校生の自分は、とにかく「教科書が面白くない!」と憤りを感じていました。予習のつもりがなくても何の引っ掛かりもなく、どんどん読み進んで行ってしまうんです。

そのつまらなさに憤るあまり、「逆に楽しんでやろう」と思うようになりました。もしかしたら、自分が気づかなかった面白さが教科書に隠されている、これは書き方が悪いのかもしれないと。その一つが、教科書に書かれている理論を疑ってかかること。

教科書に書かれている理論を否定するには、その理論を理解しないといけないことがそのうちわかってきます。自分の中で理論ができていくと、ある程度その先に書かれていることが予想できるようになる。

逆に、教科書に書かれてないものの、自分が立てた仮説をより詳しく調べていくと、まだ研究領域においても回答が定まっていないものだと分かることもありました。

—先端の研究でもそうでしたか。

はい。論文の冒頭にあるアブストラクト(要旨)を読むと、その結論を支える理論や論文の構造がおおよそ想像つきます。

しかし読み進めて、自分の想像と異なることがわかってくると、「自分の理論のほうがいい」とか、「この研究者は本当にすごい視点をもっている」とか、徐々に感情的に考えるようになります。そういうやり方だと学びがすごく速くなるのです。

そうやって自分の中で学ぶ目的や題材が「腹落ち」してくると、直観的に自分の中に考えが出てくるものです。そこにいたると、どんどん学習が効率的になります。「これを学べ」という外付けだけだと学びにはなりませんね。

何を学びたいか見極め、自分の学び方を知る

—学びの原動力となるアドバイスがありましたら教えてください。

私は、学ぶことに関して気難しいほうです。学ぶことの秘訣は、自分が本当に何がしたいのか、知りたいのかを見極めることだと思います。

みなさんは、自分が今学んでいることに対して感情的になることはあるでしょうか。もしなければ、どうしても学びたくなる状態にまで、自分が変わらないといけません。

そのために一番大事なのは「自分を知る」ということです。感情の節目節目は人によって違うので、それを考えることで自分がわかります。

私は、過去に嫌な思いをしたことや怒ったことを振り返って、そのときの状況、なぜそうなったのかと思い返すことがよくあります。結果として、自分が理解できていないときが耐えられない、だから理解するまで考え抜くということがわかってきます。実際、それが私の弱みでもあり強みでもあります。

繰り返しになりますが、感情的に学ぶというのは簡単ではありません。しかし、だからこそ学びの質が変わり、それが数年先の意思決定の差につながってくるのです。

楽天株式会社 執行役員 北川拓也

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[取材・文] 神吉弘邦、岡徳之

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