Google→Facebook→TikTok(ByteDance)・・・生ける「世界のIT業界年表」 山口 琢也さんに学ぶ転職術

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以前、Facebookの公共政策部長として取材した山口琢也さんが2018年夏、ショート動画共有アプリ「TikTok」を運営するByteDanceに執行役員として転職しました。TikTokと言えば、2017年8月の日本でのサービス開始以来、若年層を中心に幅広い世代にユーザー数を急激に伸ばし、2018年に大ブレイク。同年第四半期のMAU(月間アクティブユーザー)が950万に上るなど、大きな支持を集めています。

今回の転職を経て、山口さんのこれまでのキャリアは、ソニー→Microsoft→シスコシステムズ→Google→Facebook→TikTokと、まさに「世界のIT業界の発展と変遷」を体現しているかのよう。山口さんのように「勢いのある企業から指名される」ようなオンリーワンなキャリアを築くには、どうすればいいのか――。そのキャリア観や人との出会いを引き寄せる転職術について伺います。

ByteDance株式会社 執行役員 公共政策部長 山口琢也

PROFILE

ByteDance株式会社 執行役員 公共政策部長 山口琢也
山口琢也
ByteDance株式会社 執行役員 公共政策部長
大阪府生まれ。大阪外国語大学卒業後、ソニー株式会社に入社。ドイツ現地法人であるソニーヨーロッパGmbHを含む国内外で人事・採用を担当。2003年より内閣官房情報通信技術(IT)担当室にてIT国家戦略立案に携わり、2005年より日本マイクロソフト、シスコシステムズ、Googleにて公共政策・政府渉外部長を歴任。2015年3月よりフェイスブック ジャパン執行役員を経て、2018年9月より現職。

急成長を遂げるTikTokへ電撃移籍

―Facebookを辞め、転職されたということで、お話を伺いに来ました。しかも、今世界でもっとも勢いのあるサービスの一つ、TikTokを運営するByteDance。ビジネスユーザーの多いSNSから、10代20代前半の若い方がメインユーザーの動画プラットフォームへの転身です。

まさかまた取材してもらえるとは思いませんでしたよ(笑)。

TikTokは確かに、若いユーザーのイメージが強いかもしれませんね。学生たちがダンスを踊って、仲間同士で楽しんでいる、みたいな。けれども最近では、お子さんを撮影するファミリー層やペットを飼っている方、料理や手芸動画をアップされる方など、30代40代にもユーザー層が広がってきています。

海外ではインディーズバンドやファッションブランドがプロモーションに使ったり、日本でもTリーグ(卓球)や常滑市が公式アカウントを作ったり、テレビ番組とのコラボを行ったり、幅広い使い方ができるんです。

「TikTok」
「TikTok」

―山口さんはなぜ、転職を決断したのですか?

以前の取材でも、仕事と自分、自分と会社を分離して客観的に捉え、自分をどんな環境で活かせるのか、第三者的に判断することが大切なんだ、とお伝えしていたと思いますが、自分がOSだとすると、会社はアプリケーションのようなもの。そこを切り離して、どのアプリとの組み合わせでならパフォーマンスを最大化できるのか、と考えるわけです。

前職の時にももちろん、いま自分が置かれた環境で最大限にパフォーマンスを発揮していましたが、それと同時に常にオープンなスタンスを取っていました。そして、自分が50歳という節目を迎えるにあたり、もっと社会に還元できることがあるのではないか、もっと若い人を応援できることがあるのではないだろうか、と、自分の興味関心が移りつつあるタイミングで、この話をいただいたのです。

IT業界にいれば、TikTokを擁するByteDanceの勢いはもちろん噂になっていましたし、そもそもTikTokのビジネスモデル・・・ユーザーが15秒の動画を気軽にアップできて、しかも音楽がついているというシステムにとても興味を持ったんです。

個人的に、私はずっとクラシックをやっていて、2つの市民オーケストラで指揮者を務めているので、音楽がとても好きなんです。若いユーザーがこぞって楽しんでいて、クリエイティブで、新しいカルチャーを生み出している。それに共感したのです。それで、2018年9月にByteDanceへ転職しました。

ByteDance株式会社 執行役員 公共政策部長 山口琢也

―実は、私もTikTokで話題になっている動画をいくつか観てみたのですが・・・若いなぁ、と思ってしまって(笑)。山口さんはその世界観にすぐ馴染むことができたのですか?

上の世代になると、どうしても若い世代のやっていることを否定しがちですよね(笑)。「一過性のものでしょ」とか「そう流行らないだろう」とか。でも、もし自分もその世代だったら、きっと夢中になっていたはずなんですよ。ファミコンだってそうじゃないですか。私は、TikTokを客観的に見て、抵抗感よりは将来性を感じたのです。

前職でユーザーのメディア接触傾向のデータにも触れていましたが、もはやユーザーはなかなか30秒以上動画を観てはくれません。そんな時代に、15秒という制約の中でクリエイティビティを発揮する。そんな動画プラットフォームに可能性を感じたのです。

―「さまざまな話を聞く機会があった」とのことですが、そんな中からByteDanceを選んだ決め手は?

いま、このオフィスを見てもらうと分かると思うのですが、半年前までは何もない空間だったんですよ。まだスタッフもさほど多くなくて、これからもっと積極的に採用して、日本市場へ本格的に展開しようとしている。まさにこれから伸びていくスタートアップですし、CEOの張一鳴もまだ35歳

前職でもその前でもそうでしたが、スタートアップで、若い才能たちがまさに日本でマーケットを広げようと挑戦していて、それを支える自由なクリエイティビティがある。そういう会社なら、私がこれまでの経験を生かして、支援できることがあるのではないか。それでこの会社に飛び込むことにした、というわけです。

イシューの最前線に身を置きつづける

―山口さんはいまByteDanceでどんな業務に携わっているのですか。

前職と同様、執行役員公共政策本部長として、パブリックポリシー、つまり政府渉外や公共政策を推進していくという役割は変わりません。ただ、アプリやユーザーの特性によってイシューは変わります。

例えば、最近では「バカッター」「バカスタグラム」なんて揶揄されていますが、SNSを使った不適切な投稿などが社会問題化しています。TikTokでも若いユーザーが大勢いますから、青少年が安全に利用するためにはどんな体制を整備し、どんな団体と連携していくか、社会意義的に照らし合わせてどうすべきか、あるいはグローバルでどういった連携を行っていくべきか、課題は山積しています。

Tiktokで安心安全なコンテンツを充実させるための活動(一番左が山口さん)
Tiktokで安心安全なコンテンツを充実させるための活動(一番左が山口さん)

私の場合、これまでのキャリアで現在Bytedanceが取り組むべき多くのインターネット政策課題に関わることが多く、成功も失敗も含めて日本のみならず世界中の例を学ぶ機会がありました。その学びを活かし、現在考えられる最も優れたプラクティスを可能なかぎり短期間で導入し、さらに超えていく――。そうして成長段階にあるこの会社をリードしていくこともグローバルに期待されている役割だと認識しています。

―数々の企業をご経験され、直近ではアメリカに本社を置く外資系企業でのキャリアが続いていましたが、今回はじめて中国に本社を置く企業です。企業文化に違いはあるのでしょうか。

想像以上にグローバル志向だったことは意外かもしれません。はじめから世界を見据えて、スケールしようとしている。一方でローカルも重視していて、「日本だったらどうするか」と常に考えている。世界各国でも地元の文化に触れ、それに謙虚に学ぼうとしている。その姿勢に感銘を受けました。

ただ、TikTok自体、まだ日本でサービスインしてから1年半ですし、これから、というところ。会社としての制度も体制もイチから作って、これから日本法人としてのカルチャーをいかに表現するか、自分たちで作っていけるのがいいですよね。

―山口さん自身は、どのように力を発揮しようとお考えですか。

スタートアップとして、この事業規模から成長を目指すのは、これまで何度もやってきたこと。もちろんベストケースも知見としてありますが、失敗はそれ以上に何回もあります。他社で何年も積み上げてきた経験をひっくるめて、新しいアプリやサービスを、日本市場でいかに安全に適切に使ってもらえるか。またイチから取り組めるというのは、私にとっても新たな挑戦になります。

思えば、ソニーからはじまり、日本マイクロソフトシスコシステムズGoogleFacebookとIT企業を軸足に置きながら、そのフィールドはデバイス、OS、ネットワーク、サーチサービス、アプリと、まるでネットワークのレイヤーを積み重ねていくようなものでした。今回、ウェブサービスでありメディアプラットフォームでもあるByteDanceで活かせる経験は、大いにあると考えています。

―それにしても、ITの発展をそのまま系譜に連ねたようなキャリアパスですね。

ByteDance株式会社 執行役員 公共政策部長 山口琢也

振り返ってみると、そうなりますね・・・。私自身、純粋に人との出会いによって会社が変わってきただけで、それが結果としてすばらしい会社ですばらしい仕事に携わらせてもらった、ということ。IT業界の主戦場の変遷とその時代が、自分のキャリアと重なっていった。本当に感謝の気持ちが大きいです。

特に公共政策はその性質上、イシュー(問題)がある、議論の余地があるところにこそ必要とされる領域。そのなかであえて、霞ヶ関を背景に政策立案者やさまざまなステークホルダーと交渉を行うわけですから、まるでわざわざ台風の暴風域でテレビ中継に飛びこんでいくお天気キャスターみたいなものですよ(笑)。

そしてIT、特にインターネット業界は、次々と新しいサービスが生まれ、未来永劫続くかは分からないけど、その最前線ではつねにさまざまな議論が生まれ、厳しい批判の声を受けることもある。批判も変化もひっくるめて「楽しい」と感じているのかもしれません。

ただ、その最中にいながらも、俯瞰して見ていると、なんとなく潮目の変化を感じるというか、主戦場が少し移り変わってきたかな、と思うことがあるのです。「本音と建前」というか、内向きと外向きの印象にズレが生じてくる。そうなってくると、ちょっと身構えるようになるのです。

個人としては、自分のできる範囲でなるべくずっと最前線に身を置いて、イシューと向き合っていきたい、と考えています。

カギは「変身能力」、その源泉と磨き方

―それにしても、それほど多くの企業で力を発揮するには、変化に順応する力が必要だと思うのですが、どのようにして身につけられるものなのでしょうか。

私自身がそういう性質をもともと持っていたというよりは、環境によって身につけられた側面が大きいように思います。

マイクロソフト、Google、Facebook・・・それぞれカルチャーは異なりますが、「イノベーション」「クリエイティビティ」「チャレンジ」といったキーワードは共通している。ソニー時代に人事として勤めていたとき感じたのは、人って、その環境や役割、つまり「場」を与えられることによって育てられる側面があるということです。

ですから、“ウルトラマン”じゃないけど、「前はFacebookマン、その前はGoogleマンだったけど、今はTikTokマンに変身している。これまでとは違うビームが出せるぞ」と(笑)。それが、勤める会社が変わることの楽しさの一つなんじゃないかな。

―その「変身能力」、身につけたいです。

今でも思い出すのは、ソニーの入社式のことです。私はバブル崩壊直前に滑り込んだ世代で、同期は文系250人と技術系1000人、短大卒が400人、高卒も数百人いたのです。

そこで、当時代表取締役会長だった盛田昭夫さんが挨拶に出てこられて、第一声が「ちょっとこれ、採りすぎじゃないの?」とぼやいたかと思うと、「皆さんは、お荷物です。まずは1日でも早く会社に貢献してください。だけどもし、『違うな』と思ったら、できるだけ早く辞めてください。自分に合ってない会社に何時間もいるなんて不幸だし、もったいない。人生短いのだから、どこか別のところを探してください」とおっしゃるのです。

―・・・強烈ですね。

実際、その翌年からは就職氷河期に入るわけですから、まさに核心を突いた発言だったのですけど、当時はショックでしたね。軽く突き放されたような気もしましたけど、そこで「会社と社員って、対等なんだ」と気づかされたのです。

ByteDance株式会社 執行役員 公共政策部長 山口琢也

もう一つ強烈だったのが、内閣官房時代。霞ヶ関には本当に“クレイジー”というか、スーパーマン並に賢い人がいっぱいいて、法律の文言一つとっても、国民の誰もが等しく解釈し、なにが公正かを判断できるよう、「は」なのか、「も」なのかを延々徹夜して討論するような環境だったのです。

そんな優秀な人たちはみんな、仕事と自分をハッキリと分けて考えているのです。電話で散々罵り合っていたようなふたりが、次の日には一緒にコーヒーを飲んでいる。それを見て、なるほど、賢い人が仕事をするってこういうことなんだ自分と仕事をOSとアプリのように簡単に分離できるんだと学んだのです。

―山口さんのように、優れた企業から「ぜひ」と声がかかるような人材になるためには、どうすればいいのでしょうか。

私自身もそこまで戦略的に考えていたわけではなく、気づいたらそうなっていた、という感じですが、まずはやはり、アンテナを高く張っていることでしょうね。自分の会社だけでなく、世界や世の中の動きを、ミクロ的かつマクロ的に捉えて、さまざまな情報を集めておく。それなしでは、行動を変えられませんからね。常に世の中の変化に敏感で、自分の会社であっても批判的に見るトップの言うことも、すべて鵜呑みにするのではなく、自分自身でも考える

ByteDance株式会社 執行役員 公共政策部長 山口琢也

そういう意味では、公共政策の仕事自体が、自分の会社を第三者的に見ないといけないのです。自社のCEOが何を言っても、どこかで「本当にそうだろうか?」という視点を持っている。その上で、自分で考えるクセが身についているのかもしれません。

もう一つは、自分にしかできないオンリーワンを何かしら見つけていくこと。ひとつの分野でいちばんになれなくてもいいから、結果的に他の誰とも被らない、自分にしかできないことを見いだせるといい。私の場合、公共政策が専門分野ではあるけど、今となっては、「イノベーションの変遷の中で公共政策を見てきた」というキャリアパス自体が「オンリーワン」になってきました。

そう考えると、早い段階からある程度戦略的にキャリアのポートフォリオを組んでいくことも必要なのかもしれませんね。ソニー時代にも人事面談のとき、生意気にも「私はこういうことを学びたいので、これからの3年間でこういったアセットを手にしたい。そのためにはこの仕事をやりたい」と主張していました。ソニーはありがたいことにそれを許してくれた。そういった姿勢も大切でしょう。

自分自身、人事をやっていたからわかりますけど、人事と書いて「人ごと」というか、会社ってそこまで真剣に自分のことを考えてはくれないんです。会社員という所属や肩書きを身ぐるみはがされて、それでも自分がどうなりたいのかを考えて、それに到達するための道を選ぶしかない

外資系では特にポジションありきですから、自分がやりたいと思ったら、手を挙げるしかないのです。それなら、とにかく手を挙げてみる。やってみてダメなら次をあたればいいし、失敗するなら早いほうがいい。そう考えて、私は常に動いています。

ByteDance株式会社 執行役員 公共政策部長 山口琢也

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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