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INTERVIEW
新しい祝日「教師の日」実現のために!Teach For Japan松田悠介さんが育む共感力とは
INTERVIEW

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BOOK MARK

「すべての子どもたちが環境に左右されることなく、質の高い教育を受けられる社会の実現を目指しています。そうした社会の実現に近づくことが、スタッフの報酬の一つとなっています」。こう話すのは、教育NPO「Teach For Japan(TFJ)」の創設者であり代表理事の松田悠介さんです。

TFJは、子どもたちの学習環境の改善と若者たちのリーダーシップの育成を目的に活動している非営利組織。参考にしている組織「Teach For America(TFA)」はいま最もアメリカで成功しているNPOであり、2010年の全米就職人気ランキング(人文学系)では、GoogleやApple、ディズニーといった名だたる企業を押さえて1位となっています。

アメリカではTFAの教職が、優秀な学生が有名企業への入社を蹴ってでもなりたがる憧れの職業となっているとも言われています。

松田さんはそんなTFAの仕組みを日本の文化に合うようにカスタマイズし、学校の内側から教育をより良くしていこうとする一方、学校の外側からもさまざまな企業の協力をもとに「教師の日」を作って教師のモチベーションを高めようと尽力しています。

お金などリソースが限られた中でチームのメンバーに生き生きと働いてもらうにはなにが必要か、松田さんに経験談を交えながら語っていただきました。組織の活性化に頭を悩ませている方にとって、状況を好転させるヒントとなるかもしれません。

Teach For Japan創設者 代表理事 松田悠介

PROFILE

Teach For Japan創設者 代表理事 松田悠介
松田悠介
Teach For Japan創設者 代表理事
日本大学を卒業後、体育教師として中学校に勤務。その後、千葉県市川市教育委員会教育政策課分析官を経て、ハーバード教育大学院(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修士号を取得。卒業後、プライスウォーターハウスクーパース株式会社にて人材戦略に従事し、2010年7月に退職。教育NPO「Teach For Japan」の創設者兼代表として現在に至る。著書に『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」(ダイヤモンド社)』。

「2-6-2」の組織を動かすためにリーダーがやるべきこと

ーTFJの立ち上げから学んだチームの作り方について教えてください。

体育教師時代に学級崩壊の現場を目の当たりにしたことがきっかけで、自分の理想の学校を作りたいと思い、2009年秋にハーバードの教育大学院に留学しました。そこで出会ったTeach For AmericaというNPOの取り組みに可能性を感じたんです。

その取り組みというのは、優秀な学生を独自に訓練して、彼らに貧困地域などの学校で2年間教師をしてもらうというものなのですが、ある中学校ではTFAから3、4人の先生が派遣されたことで、それまで2割前後だった進級率が9割にまで改善しているケースがありました。

私は「これだ!」と思い、修士論文のテーマに選んで研究こそしたのですが、残念ながら日本では実現が難しいという結論にいたりました。日本とアメリカでは寄付文化が違うことや、教育免許の仕組みなどハードルが多々あるからです。

ただ、TFAに携わっているひとやそこで学んでいる生徒の表情を忘れることができず、—-年に帰国した後にカタチにしようと準備に取り掛かりました。TFJを立ち上げるまでに2〜3年かかりましたが、当時はコンサルティング会社に勤務しながらでしたので、勤務時間外の時間しか使うことができず、フラストレーションもありました。

準備が加速したのは、ある学生との出会いがきっかけでした。当時私が書いていたブログ「Teach For Japanへの道」を通じて知り合った方たちとTFAの日本版を設立するための勉強会を開いていたのですが、そこに参加していた大学4年生が本格的に実現させるために就職活動を辞めると宣言したんですね。

中途半端な2足のわらじ状態の私ではなく、まい進する彼の姿勢に感化されコミットし始めた方々の姿を見て、ひとを巻き込むためには、その人自身が本気であるという姿勢を見せることが大事だと感じました。覚悟を示さないリーダーが夢を語ってもひとはついてこないですよね。

このことがきっかけで勉強会は一旦解散となりました。も2010年7月にコンサルティング会社を退職して、この活動だけに集中することにしました。すると、これまでは遠巻きに様子を見ていたひとが積極的に参加をするようになったり、それに伴い資金など必要なリソースが集まったりし始めたんです。

優秀なひとが社会的なビジョンやTFJの旗印のもとに集まってくるのを目の当たりにして、ひとを巻き込むためにはやはりビジョンやパッションが欠かせないと確信しました。

TFJ立ち上げ準備をしていた当時の様子
TFJ立ち上げ準備をしていた当時の様子

ーTFJは教育委員会とうまく連携をしているようですが、どのように巻き込んでいかれたのでしょうか。

日本では教育委員会は閉鎖的というイメージを持たれやすく、周囲の方からは「教育委員会との連携ってすごく珍しいケースだよね」と言われることがあります。しかし、実際、地道に100ぐらいの教育委員会とお話して教育現場にいる当事者の方々の話に耳を傾けると、世界観を共有できる方も多くいらっしゃいます。ですので、教育委員会やそこで働く方たちは、必ずしも閉鎖的な組織文化にあるというわけではないのです。

ただ、どうしてもその世界観をカタチにできない理由が各々の背景にあり、また潤沢に予算があるわけでもない。そして、失敗すれば社会からの批判にさらされやすい立場でもあります。挑戦には何事も失敗が付きもの。しかし、特に教育の現場は失敗に対して寛容ではなくなっていると感じました。こうしたことが、外部からや閉鎖的に見えてしまう原因なのではないかと考えています。

また、現実的には、教育現場のすべてのひとがビジョンを持って働いているわけではない。私自身、ある教育委員会に身を置いたときの印象では、先進的なビジョンがあるひとが2割、それに基づいて業務を遂行していくひとが6割、あまり前向きではないひとが2割。いわゆる、2-6-2の法則です。これは、どんな組織にも当てはまるんだなと思いました。

これは組織にとって普遍的な課題であり、もはや「前提条件」なのだと思います。実際、教育委員会という組織は、半分が出向している先生、もう半分は生活保護の窓口や土木の部署など、教育現場以外から来るひとで構成されています。行政ですから、たとえパッションがなくとも進めるべきものは進めなければならない面もあります。それに、パッションはなくとも業務処理能力が高いひとも必要ですから。

ですから、全員が全員、私たちの熱意に対して熱意で応えてくれるとまでは思わず、むしろそのようなさまざまなバックグラウンドを持ったひとがいることを踏まえて、どのようにすればそうした方たちを巻き込んでいけるかを考えなくてはいけない。このように考えて、TFJがやろうとしていることを押しつけるのではなく、教育委員会が目指していることやボトルネックになっていることに耳を傾けながら話し合いを続けるうち、協力してくださる地域の教育委員会が1つ、2つと現れ、TFJから派遣する先生の一期生を迎えることができました。

この過程で学んだことは、先ほどのビジョンやパッション、それに加えてミッションだけでは、ひとはついてこないということ。相手の立場に立って耳を傾け信頼関係を築くことも必要です。こうして、2012年の4月に、11名のフェロー第一期生を学校現場に送り出すことができました。

「多様性によるぶつかり合い」の必要性に対する共通認識を

ー民間企業とも上手く連携しています。どのような連携を行っているのでしょうか?

現在、日本で「教師の日」をつくって、教師が感謝をされる機会やきっかけをつくりたいと考えて、さまざまな企業と一緒になったプロジェクトを進めています。その背景として、私は教育委員会とある自治体で働く1600名の先生方にアンケートをとったことがあるのですが、そのアンケートで明らかになったのは教師のモチベーションの低下なんです。

教師のモチベーション低下は、頑張っても給与や社会的な地位が上がらないことであったり、より内的なこととしてはひとから感謝されることがなく、何でも教育現場が悪いと否定されるような状況が原因です。そうした状況に対してできることは何か。それは、教師が「ありがとう」と言われるような機会をつくることなのではないか。このように思ったのです。実際、以下のようなコメントをよく耳にします。

感謝されるのは卒業式ぐらいしかない。でもその「ありがとう」の言葉で来年も頑張ろうと思える」

ここからは、2つのことが読みとれるでしょう。1つは、教師が教師にとって、生徒から「ありがとう」と言われることが何よりのモチベーションになるということ。2つ目は、そうでありながら、現在は残念なことにその機会が極めて少なく「1年に1回」になってしまっているということです。だからこう考えたのです。だったら、せめてもう1度くらいその機会をつくれないか、と。

実際、教師の病欠もこの10年間で7倍ぐらいに増えていて、とても危うい状況なんです。こうした状況に対して即効性のある対策は難しいかもしれません。でも、学校教育は文科省や教育委員会、学校の仕事だと考えるのではなく、社会全体で関わることとして、私たちのようなNPOや民間企業にできること・やるべきことがあれば、これからも積極的にやっていきたいと思います。

すべての子どもに素晴らしい教育を提供したいと考えるステークホルダーはさまざま、そして大勢います。ですから、教師を応援する仕組みを作らないといけないと考えました。

そこでユネスコが推進している毎年10月5日の「World Teachers’ Day」を日本でも「教師の日」に。そして、その前後1週間を「Japan Teachers’ Week」として、教師にスポットを当てて、社会全体で「教師」という職業の魅力と大切さを見つめ直すムーブメントを作ろうと現在動いています。

そうすることで、教師に感謝を伝えてモチベーションを上げてあげたい。そして、社会全体で教育への当事者意識を育んでいくきっかけにしたいのです。そして、いつかはこの日を国民の祝日にしたいとも思っています。

そうした思いでさまざまな企業と話し、この「”未来を変える” プロジェクト」を運営するインテリジェンスも、その競合企業にもあたるかもしれないリクルートマーケティングパートナーズも賛同してくれているような状況になっています。文部科学省やユネスコ、渋谷区教育委員会からも後援をしてもらっています。

10月5日「教師の日」のキービジュアル
10月5日「教師の日」のキービジュアル

営利企業の中の組織においてもいえることだと思いますが、利益を追求するビジネスパートナーを巻き込む上で最も重要なのは、社会的意義です。NPOやNGO界隈で言われている、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)からCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)への転換ですね。つまり、共有できるビジョン作りが求められます。

ただ単にお金などリソースを持っている企業やひとが、それを持っていないNPOなど組織やひとに投下して「援助」するのではなく、そもそもどのような社会を作りたいのかをともに考えていく関係を作るのです。

いま一緒に取り組んでいる企業は「Give-Give」の関係ではなく、一緒に同じ山の頂を目指し、ソーシャルインパクトを生み出すための仲間です。その上でやはり、参画する企業にとってメリットがなくてはいけません。各々の本業に生きてこなければ、持続可能な取り組みにはなりえません。

 

ー松田さんはどのようにして同じチームや参画する企業のメンバーの力を引き出していますか。

実現したいビジョンが大きければ大きいほど、イノベーションを起こす必要があります。そして、そのイノベーションの源泉となるものは「多様性だと思っています。多様な価値観がぶつかり合って、建設的な議論をするからこそ、いままでにないアイデアが出てきます。

その多様性が必要であるということを、メンバーが理解しなければいけません。ビジョンの伝え方を工夫する前に必要なのは、仲間のそもそものマインドセットを変えていくことなのです。

多様であるからこそぶつかり合うこともあります。TFJの中でもビジョンに共感したからと言って、一つひとつの政策への考え方や仕事への取り組みが一緒とはりません。常に攻めの姿勢のひともいれば、リスクを最小限に回避して守りでやるひともいる。そのぶつかり合いを受け入れ、価値観が異なるひととしっかり向き合うことが、ひとを動かす上では重要ではないでしょうか。

では、私はこれまでそのようなことを上手くやってきたかというと全くそうではなくて、むしろ苦手だとずっと感じながらやっています。私のような体育会系のノリだけでは難しいということも痛感しています。

 

ー収益など利害が一致していても一体感が醸成されないことは多々ありますね。

明らかなのは、ひとはお金だけでは幸せにはなれない、動かないということですね。何千万円と稼いでいても必ずしも幸せそうではない方もいますし、逆に経済的に裕福でなくても社会に対してポジティブに関わることで幸せになれている方もいます。さらにその一方で、お金を社会貢献で有効に活用したいという気持ちを持っている人もいるし、経済的な支援を必要としているひともいる。社会全体ではこういったミスマッチが起きているわけですよね。

看護師の友人からこんなエピソードを聞きました。彼女はがんセンターで末期のがん患者さんをずっと看取ってきた経験があります。誰ひとりとして、最期に「もっと稼げばよかった」とは言わないそうです。

「もっと自分の子どもや社会に貢献したかった」と、身近な家族には明かさなくても、病院内でいつもそばにいる看護師には打ち明けるのだそうです。

それを聞いて、実は人間って「自分自身が社会にどのように貢献できるのか」に対して喜びを感じる生き物なんだなと感じました。金銭的な報酬だけではない、より深い価値観を打ち出し、実際につくっていくことが、組織作りにおいては重要だと思います。

[取材・文] 狩野哲也

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