“超”自律型チームの会議に潜入。そして分かった「フラットな組織」とはこういうこと

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変化の激しい環境において、ティール組織やホラクラシーといった「自律的でフラットな組織」こそが、自ら変化し成長しながら大きくパフォーマンスを発揮できると考えられています。組織運営に携わるマネジャーにも、そのノウハウを実際に取り入れたいと考える人は多いでしょう。

けれども、そもそも「フラットな組織」とはどんなチームなのか。どのような環境整備を行えばそれが可能なのか、明確にイメージすることができるでしょうか――?

以前にも取材した株式会社チームボックスでは、上司や部下の区別のないフラットな組織を実践しています。その様子が端的に表れているのが、毎週月曜日に行われる定例ミーティング。今回はそのミーティングに潜入し、どんな議論が行われているのかを取材。その運営思想について、広報の山本暦さんに話を伺いました。

株式会社チームボックス 広報 山本暦

PROFILE

株式会社チームボックス 広報 山本暦
山本暦
株式会社チームボックス 広報
前列右から2番目。北海道出身。早稲田大学時代にマネジャーとして所属したラグビー蹴球部にて代表の中竹竜二氏と出会う。数社を経て、2016年チームボックスに参画。入社当初より総務・人事・経理・広報など幅広くバックオフィス業務を受け持つ。現在は人と組織の成長に興味を持ち、チームボックスを最高の組織にすべく奮闘中。

社外の人も参加OK。なんでもオープンな定例ミーティング

「会議開始5分前ー!」、それまでオフィスでそれぞれ作業を行っていたスタッフたちが、少しずつ中央のエリアに集まりだしました。正面のスクリーンから放射線状に囲むように椅子を配置して、好きなところに座ります。

株式会社チームボックス

「会議開始1分前・・・」。「定例ミーティング議事シート」がGoogleスプレッドシートで共有され、各自必要な事項を事前に埋めておくようになっています。各々、特段の予定がないかぎり基本的に参加ですが、Zoomをつないで自宅や出張先など、遠隔で参加もできるようにしています。

「はい、4時になったので、始めます! 今日は45分をメドに進行します」。今日のファシリテーターは山本さん。ファシリテーターの役割は、アジェンダの進行と今日の共有事項、議論事項の確認です。

ファシリテーター役は毎回持ち回りで、ローテーションしてメンバーが一人ずつ務めます。定例ミーティング議事シートには、アジェンダごとに説明と質問の時間が割り当てられていて、タイムキーパーが目安の時間に鐘を鳴らす形で進行します。

今回は私たち編集部以外に、ゲストが2名参加。そう、チームボックスの定例ミーティングは、オープンであり、希望者は誰でも参加することができます。それぞれ軽く自己紹介を行い、拍手に続いて本題へ。

株式会社チームボックス

現在進行しているプロジェクトの進捗状況、新規案件の方向性など、事業系の共有や報告が各担当者から行われます。一見、通常の会議とさほど変わりはないようでも、チームボックスのミーティングはただメンバーが発表するだけに留まりません。

発表ごとに拍手が起こり、「いいねぇ」「すばらしい!」と明るい反応が返ってきます。何か不明点や別の意見がある場合も「はい!」と手が挙がり、「率直に言って・・・」「どう捉えている?」などとリアルタイムでフィードバックや質問が投げかけられ、自由に意見を言える環境です。

「質問がなさそうなので、次に行きます」「持ち時間残り1分です」と進行中も常にタイムスケジュールを意識し、議論が長引きそうなときには、「今後もこの話は続きそうなので、各自詳細詰めて次回に回しましょう」「あとはSlackで詰めましょう」などと、その場で一定の意思決定が行われます。

予算や売上など、通常、外部参加者がいる場では明かされないようなことさえもオープンに。方針変更を余儀なくされたプロジェクトについては、プロジェクトオーナー自らチーム体制の再整備と配置転換を提案し、「私がマネジメントが不慣れなために、いろいろと反省点しかなかった。これから半年間は〇〇さんにプロジェクトマネジャーをお願いしたい。私はもう一度、イチから勉強して、〇〇さんの元で修行したい」と話すと、全員が拍手でその決断を支持します。

途中、代表取締役の中竹竜二さんが新規の人材採用について報告しているときには、メンバーから「ここ数カ月で人件費が高騰しているが、だからと言って生産性が劇的に上がっているわけではない。その人が入社することでどんな波及効果があるのか、コストも含めてシビアに見ていきたいし、個人的には現段階であまり新規採用に積極的ではない。経営者が『優秀な人材を』とバタバタ採用すると、だいたい失敗するのが目に見えているから、僕はしつこく言い続けていく」と、厳しい指摘がなされる場面も。代表に対しても忖度なく、率直なフィードバックが行われ、ポジションに囚われない、フラットな組織体制が垣間見えます。

代表の中竹竜二さん
代表の中竹竜二さん

「次はなっちゃん」「クニさん、お願いします」など、役職ではなく名前で呼び合い、外部参加者によるプレゼンにも活発に意見が寄せられます。そして、ミーティングの最後には、全員で今回のミーティング内容に付け加えたいこと、感想や期待感、報告などを「振り返り」として共有し、一丁締めで終了しました。

株式会社チームボックス

給与も役員報酬も「みんなで決める」

―あっという間でした・・・。普通の会議なら、どこかで停滞感が出てしまったり、議論が平行線をたどったり、あるいはそれぞれが報告するだけの形式的なものだったりしますが、まったくそういったところがありませんでした。

山本 会議の進め方については、常に見直して進化し続けています。現在は、関わるメンバーは30名ほど。働き方は時間や場所が自由なことに加え、複業もOK。関わり方も、正社員から業務委託までさまざま。当然ながら、情報格差が生まれてきました。

情報はいつでもオープンにして、お互いに遠慮せず素直に意見を言える組織にしよう、そのためには会議もそうあるべきだと。今はこのような形ですが、これが正解ではなく常にベストな形を模索し続けています。

株式会社チームボックス

―あらかじめアジェンダに所要時間が設定されていて、その通りに進行するんですね。

山本 今日はほぼ予定通りに進みましたが、「ここはもっと議論したほうがいいのでは?」と意見があがり、みんながそれに賛同すれば、時間を延長することもあります。2018年の5月以降、毎回トータルでかかった時間を記録していますが、最短で26分、最長で129分、平均で68分間となっています。

―つい「会議は最低でも1時間」と考えてしまいますが、それより短く終わることもあるんですね。先ほどのミーティングでは、採用方針や提案など戦略上のシビアな話もオープンにされていたので、見ているこちらがソワソワしてしまいました。

山本 普通、そうなりますよね(笑)。以前は、採用や給与などについては役員が主体となって決めていたんですけど、会社として、メンバー一人ひとりが主体的になり、経営者意識を持つことは大切だよねと話をしました。経営上重要なことを経営者一人、ないしは一部の人だけで決めて、そのプロセスは公開されずに結果だけが共有される・・・というのは、違うんじゃないか、と。一人ひとりがリーダーシップを発揮し、意思決定に必要な情報も共有する、という形に今は落ち着きました。

―給与もお互いに把握しているのですか?

山本 年に一回、決算月に次年度の給与を決定するのですが、毎回決め方はさまざまです。今年度はそれぞれ自分の給与を全メンバーの前でプレゼンして、決めました。ただ、ある程度の基準がないと決められないので、事前に年齢や職種、他社の相場などいくつかの情報は提示しました。それらを参考にしつつ、「自分はいくらを希望するのか」「来年度はどういったことに取り組むつもりか」などをプレゼンし、何度かフィードバックのやり取りをしてから、全会一致で決定しました。メンバーだけでなく、社長や役員の報酬も同様です。

―すごいですね・・・。

山本 そう、なかなかストレスもかかり、大変なんです(笑)。1カ月ほどかけてじっくりと話し合って、真剣にフィードバックし合います。一見すると自由で平等なんですけど、厳しさはあって、自分は「これだけ頑張っている」と思っていても、周りの認識とはギャップが起こる可能性もあるし、逆に「あの人の仕事はよく知らない」と無関心でいるわけにもいきません。会社としては「ここまでしか出せない」という上限もありますし、お互いに対する期待値と実際の成果などと照らし合わせて決めるんです。

―会社の中では、どうしてもセールスなど売上をあげる部門の声が大きくなりがちですけど、お互いにどんな仕事をしているか分かっているなら、納得感もありそうですね。

山本 給与にまつわる議論の中で、長期的に見るとどんな業務が重要なのか、バックオフィスと呼ばれるような部門にもどんな意義があるのか、お互いの仕事を理解することで、共に働く仲間一人ひとりがどう成果を出しているのか、何を頑張っているのかと考えますし、自分にとっても何を期待されているのか、どこを評価されているのかを知るとても大切な機会になります。そういう機会ってなかなかないですよね。ですから、会社への帰属意識も高まりますし、大変ではあるけど、やる意義はあるなと思います。

―ミーティングで印象的だったのが、プロジェクトオーナー自ら不得意なことを打ち明け、助けを求める場面でした。

株式会社チームボックス

山本 プロジェクトの体制を変えることは珍しいことではないんです。できないときには「できない」と言うし、それが会社にとってプライオリティの高いことであればみんなでサポートする。それは、個人の努力でカバーすべきことというより、自分の弱みをさらけ出して、チーム単位でパフォーマンスを発揮すべきことですから。だから、失敗や弱みを話してくれたメンバーには「ナイス」「言ってくれてありがとう」と言葉をかけます。そういったチーム作りをサービスとしても提供しているからには、自分たちでも実践できていないと、本末転倒ですもんね。

―代表の中竹さんに対してもシビアな意見が投げかけられていたのも驚きでした。本当にフラットな組織なんですね。

山本 今日は、中竹が「こうしたい」と話していたことに対して、反対意見が出ていましたが、これは会社の中では「言える化」という言葉で呼んでいます。何らかの意思決定を行う際、本来は全会一致が基本となるのですが、誰かがどうしても「こうしたい」と意思表示することに対して、「私は賛同できません」と、自分の違和感を示すことはできるんです。

まだまだ試行錯誤ではありますが、このような取り組みによって少しずつ自分の本音を言い合えるような関係性はできてきたのかなと思います。もちろん、まだまだ遠慮して言えない人もいますが、そういうときに「遠慮してるよね?」と気づいて言ってくれるメンバーもいるんです。私たちも少しずつ主体的に意思決定を行うことができるようになってきたと思います。

―リモート参加の方もいらっしゃるそうですが、情報共有はどのようにされていますか。

山本 チャットベースのやり取りは基本的にSlackで行っていて、資料共有はGoogleドキュメントやスプレッドシート、Dropbox、Conflunence(コンフルエンス)も活用しています。ミーティングの内容はリアルタイムで議事録係がシートに書き込んでいって、ミーティングに参加できなくても内容が把握できるようにします。

情報や意見のやり取りはすべてオープンにするようにしていて、Slackには原則クローズドチャンネルは作りませんし、DMでのやりとりは最小限にしようとしています。プロジェクト単位や雑談などさまざまな種類のチャンネルを共有していて、どのチャンネルに入るかも自分で決められます。「自分にあまり関係ないな」と思ったら抜けても構いません。無理やり一体感を出すというよりは、自分の意思のもと有機的につながっている感じなんです。

Slackでのオープンなやりとり
Slackでのオープンなやりとり

―確かに、ミーティングでも無理やり指名して、みんなに発言させようとするというより、それぞれが自分の関心や必要に応じて、発言したいようにする、という感じでした。

山本 場の空気を作ることはとても大切なことだと考えています。それこそ20代から40代後半と幅広いメンバーがいて、それぞれの経験や課題意識を持っているからこそ、エネルギーがぶつかることもある。それをうまくミックスして、チームとしてパフォーマンスを出していくことが大切ですから、そこに変な上下意識は不要です。

さらけ出すことで互いを認め合える

―そうやって互いに忖度なく言い合えるためには心理的安全性が必要だと思いますが、それを醸成する秘訣は?

山本 ひとつは、社内の行動指針のなかにある「さらけだし」という言葉。弱みを見せることは、悪いことではない。間違ったときに「ごめんなさい」と言える環境を作ってあげることは大事だと思います。

それと、ミーティングの最後にも行いましたが、個人の振り返りをスプレッドシートで共有しているんです。毎週、「前週の作業進捗」「Good」「Bad」「Next」「今週の予定」など書いてもらって、個人の課題意識や目標を把握するようにしています。これは、仕事に関することだけでなく、体調やプライベートなど、個人的なことでも構いません。

個人の振り返りシート
個人の振り返りシート

自分のことを振り返るのは、自分自身のためでもありますけど、周りの人のためでもあって、「最近疲れているみたいだけど、大丈夫?」「忙しそうだけど、何か手伝えることある?」と声をかけることができる。リモートで働く人もいますし、オンラインでもそうやって「ここは素直な自分をさらけ出せる場なんだ」と認識してもらうことで、お互いがお互いを認め合うことができます。

―逆に「仕事は仕事、プライベートはプライベート」と割り切りたい人にとっては、少し居心地が悪いかもしれませんね。

山本 確かに、慣れない人にとっては「ここまでさらけ出さないといけないの」と思われるかもしれませんね。ただ、このやり方が必ずしも正解だとは思っていなくて、チームの人数が増えれば、またやり方も変わっていくと思います。大きな会社では難しいところもあるでしょうし、トップダウンのほうがいい場合もある。組織のフェーズや時代によって変化していくものだと思います。

起こることに対してどう対処するか、常に考えていかなくてはなりません。企業理念にも「大人が素直に学びあえる場をつくる」と掲げているように、私たちは人が学ぶこと、学び続けることを大切にしていますから、その理念を体現していかなくてはと考えています。

ただ、「素直に背伸びせず、さらけ出して、オープンにすること」は、この先も続けていくんじゃないかと思います。そうすることで圧倒的にメンバー一人ひとりが主体性を強く持つことができるんですよね。経費一つとっても、「これってなんで必要なの?」と深く考えられる。もちろんその分の責任やストレスもかかりますけど、それ自体に楽しみを感じられるメンバーが集まっているんですよね。

―フラットな組織に必要なマインドセットはどういったものでしょうか。

山本 ミーティングの最後にも中竹が話していましたが、一人ひとりの意思決定に委ねられている分、やはり責任が伴うんですよね。何かをやるにしてもやらないにしても、その意思決定をすることによって、チームや取引先にどう影響するのか。自分の影響力を考えた上で主体性を発揮することが大切だと思います。

株式会社チームボックス

[取材・文] 大矢幸世 [撮影] 山内滋晴

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