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INTERVIEW
40歳を超えたらお役御免? 「年齢差別」を克服するこれからの働き方とは
INTERVIEW

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BOOK MARK

今、変化の激しいテクノロジー業界を中心にビジネス上の新たな課題が生まれています。それは「年齢差別」です。

年齢差別は、社会や組織にとっては経験豊富なベテランを活かせないという弊害、また個人にとっても、世代間の断絶が自らのコミュニティをせばめ、多様な価値観への感受性を弱くする、あるいはキャリアの自信喪失にもつながる懸念があります。

今は他人事の若者にとっても、必ずいつかは「差別される側」にまわってしまうこの問題に、われわれはどのように立ち向かえばよいのでしょうかーー。

ソニー勤務、教育テクノロジー系コンサルタント業務、コミュニティ立ち上げを経て、2年にわたるミネルヴァ大学のマスターコースを修了、年齢バイアスを卒論テーマとして扱い、現在はこの問題解決に向けた事業立ち上げ準備中という橋本智恵さんに聞きました。

ミネルヴァ大学院卒 橋本智恵

PROFILE

ミネルヴァ大学院卒 橋本智恵
橋本智恵
ミネルヴァ大学院卒
2007年津田塾大学卒業後、ソニーに入社。2015年渡米。現地でソニーの新規事業である教育系スタートアップで米国市場進出支援、主にシリコンバレーの教育テクノロジー事情の調査に従事。今年ミネルヴァ大学大学院修士課程を修了(Master of Science in Decision Analysis専攻)し、現在は不確実な時代でどの年齢層でも個人の価値を発揮できるよう、新しい働き方、学び方の展開を視野に社会貢献につながる事業を準備中。EdTechWomen Tokyoファウンダー。

問題の存在自体が無視されている「年齢差別」の現状

―西海岸、シリコンバレーと言えば、ダイバーシティへの意識が高い印象です。そういう彼ら彼女らであれば「年齢層も多様な人がいたほうが良い」と考えそうなもの。「年齢差別」が横行しているというのはどういうことなんでしょうか?

私はサンフランシスコに住んで4年になるのですが、働いていたのは最初の2年だけで、後の2年は大学院。だから、西海岸の働き方事情にものすごく詳しいというわけではありません。ですが、それでも外から見ていて分かるのは、おっしゃる通り、アメリカは日本と比べて平等に対する感度が非常に高いということです。

アメリカには「アファーマティブ・アクション(積極的是正措置)」と呼ばれるものがあり、「このマイノリティの人種の人たちのために特別枠を設け、一定数雇用されるように」「男女のバランスも平等になるように」と定められています。その結果として、人種やジェンダーに関して、多様な人が雇用されるようになっています。

けれども、こうした人種バイアスやジェンダーバイアスと比べて、年齢バイアスに関しては認知が遅れているのが現状なんです。

バイアスに関する問題のベストなゴールは、「アンコンシャスリー・アンバイアスド」。つまり、改めて意識するまでもなく差別意識を持たない状態になることだと思うんです。例えば、私はこの部屋にいる唯一の女性ですが、本当に対等なポジションが実現できていれば、「私が女で、ほかの人は男で」ということは、そもそも意識にのぼらない。

ミネルヴァ大学院卒 橋本智恵

アメリカでは、まだまだ人種の問題が残っているのはたしかですが、少なくともプロフェッショナルな仕事の現場において、人種差別的な発言をする人はもはやいません。もしもそういう発言をしたとしたら、あっという間に「レイシスト、非常識な人」として扱われることになるでしょう。それくらいに「無意識に差別しない」状態が目指されている。ジェンダーに関しても、同様のことは言えると思います。

ところが、年齢バイアスに関してはそのレベルに至っていません。今はまだ、そうしたバイアスがあること、またそれが大きな問題であることが十分に認知されていないんです。問題それ自体が無視されてしまっている、とでも言いますか・・・。

ミネルヴァ大学院卒 橋本智恵

年齢バイアスに関しても一応、1967年に制定されたADEA(Age Discrimination in Employment Act)という取り決めがあり、40歳以上の人に対して年齢を理由に解雇したり、差別的な扱いをしたりすることは法律的に禁じられています。アプリカント(採用志望者)も、レジュメに年齢を記す義務はありません。年齢を隠してもいいということになっています。

―50年以上も前にそんな法律が作られているんですね。

はい。それなのに、ですよ。法律はあるんだけれども、企業としてはやっぱり若くて有能な人材を採りたいから、例えばLinkedInでその人の卒業年を見て年齢を推計し、仮に同じ能力を持っている25歳と40歳が候補にいたとしたら25歳を採るということが起きてしまっているんです。

例えばフェイスブックは、従業員の年齢の中央値が28歳くらい。30歳以下の人たちがダントツに多く、平均にしても32歳くらいです。西海岸、シリコンバレーにあるテック企業は、ほかもだいたい似たようなもの。採用担当者は、直接的に年齢を聞くことこそしないけれども、例えば「デジタルネイティブ募集」といった言葉を使って、法律の穴をかいくぐって若い人を採っています

そういった行為が近年職場の高齢化が進んだこともあり徐々に問題になってきて、最近では、アマゾン、フェイスブック、T-モバイルをはじめとする大手数社が、自社求人広告のターゲットから故意に55歳以上の労働者を除外したとして労働組合から訴えられたこともありました。また、最も新しい訴訟ではグーグルが年齢を理由に不当に採用を拒否したなどで200件以上の申し立てに対し、計12億円の謝罪金支払うことで対応しました。

―愚問かもしれないですが、企業はなぜ若い人を採りたいんでしょうか?

理由はいくつかあると思いますが、ステレオタイプ的に「若い人はフレキシブルで、テクノロジーに詳しく、新しい環境に適応しやすい」「年齢層高い社員は創造的な仕事が苦手で、学ぶ意欲に欠け、コストが高い」「なんで40歳なのに25歳の人と同じスキルレベルなんだろう」とネガティブに考えてしまうようです。また、年齢が高い社員は雇うコストも高くなる、若い人のほうが安く雇えるという面もあるでしょう。

あとは、西海岸のスタートアップ、特に「Bro Culture」と呼ばれる男性の体育会系のような文化のある企業の傾向として、「その人が企業のカルチャーにフィットするかどうか」を重視することも、関係があるかもしれません。カルチャーフィットはたしかに大切なことだと思いますが、能力を総合的に評価しないのはやっぱり問題ですよね。ジェネレーションギャップがある場合、自然と不利になってしまいます。

「年齢差別」は企業をイノベーションから遠ざける

―年をとってもフレキシブルな考え方ができる人はいるだろうし、逆に若くても凝り固まった考え方しかできない人がいるのは分かります。一方で、全体的な傾向で見たら「若い人の集団にフレキシブルな人が多い」といったことは言えないのでしょうか? そうだとすれば、確率を考えて企業が若い人を優先的に選ぶというのは仕方がないことのようにも思えるんですが。

コアタスクと呼ばれるもの、例えばフレキシビリティやアダプタビリティ(順応性)、労働生産性などに関しては、年齢との相関がないことが、ここ40年くらいの研究によって裏づけられています。もちろん業種にもよるとは思いますが、基本的には、年齢で仕事に関する能力に差がつくことは科学的には証明されていないんです。

一方でテクノロジースキル、例えばプログラムが実際に書けるといったハードスキルに関しては、若い人のほうが高いということは言えるかもしれません。けれども、いい商品を実際に世の中に送り出すためには、そうしたハードスキルがあるだけでは難しいのが現実ですよね?

例えば、今の日本はもうほぼ3分の1が65歳以上の高齢者です。そんな環境下で、20歳のプログラマーがどれだけ腕が立とうとも、本当にいい商品を世の中に送り出せるかには疑問が残ります。どうしたってユーザーを理解するのが難しいですから。そういう時に年齢層が上の、プログラムは書けないかもしれないけれども高いソフトスキルを持った人がチームに加わることで、もっといい商品づくりができたり、イノベーションが促進したりということは大いにあると思うんです。

つまり、組織にとって年齢バイアスの問題は、本来イノベーションには不可欠なはずの「スキルのダイバーシティ」を高める妨げになっているとも言えるんです。

-「スキルのダイバーシティ」について考える上で、「年齢層が上の人の強み」とはなんなのかをもう少し詳しく伺いたいです。

ミネルヴァ大学院卒 橋本智恵

プログラミングスキルなど個人のハードスキルではなく、例えばチーム全体の士気を上げるとか、顧客理解力や問題解決能力、ソーシャルスキルなど、年齢層が上の人は間接的に組織全体に貢献するソフトスキルが高いことが、研究によって分かっています。

私自身が主観的に思う彼らの強みもやっぱりそこにあります。というのも、40代50代の方々というのは、今あるようなテクノロジーが出てくる前の、人間同士がぶつかり合う大変な時代を生き抜いてきていて、その中でたくさんの問題解決を行ってきた人たちだと思うんです。だからこそ、人間同士のコンフリクトがどのようにして起こり、またそれを解決するためにどういう策があるのかということをとてもよく分かっている。

今の世の中、ハードスキルが高い人はたくさんいますが、そうしたスキルを人類にとっていい商品づくりに本当に活かせるかどうかは、文脈次第だと思います。40歳以上の経験豊富な人がそうした才能のある若い人たちをサポートし、方向づけやメンタリングをしてあげる、そういうチームワークができたら、今まで以上にスピーディなイノベーションが実現するのではないか、と。

―「組織の中の “分かってないおじさん” たちがイノベーションを邪魔している」とはよく言われるところですけど、むしろそうした年齢層が上の人たちの力を組織にインクルージョンできれば、イノベーションは加速し得る、と。

確かに、従業員が一つの企業に長く勤め、年功序列で賃金や昇進が決まる日本的な雇用慣行が多様性の弊害となり、生産性の向上を妨げてもいることは、日本政府が今年の「経済財政白書」でも発表したとおり。従来の日本的雇用慣行システム全体の問題が根深いので、その直接的影響を受けた年齢層の高い人たちがネガティブなイメージを持たれやすいのでしょう。

しかし、だからといって今後も年齢層の高い個人に対して偏見をもち、組織から排除する傾向に走ってしまうのは危険ではないでしょうか。そういう人たちにも仕事の範囲、評価制度の明確化を突きつけ、スキルアップのインセンティブを作り、同時に彼らが参画しやすい工夫やインクルージョンを促す組織側の動きも大事だと思います。

私が尊敬する人に、エアビーアンドビーのシニアアドバイザーを務めるチップ・コンリーという人がいます。彼は現在58歳ですが、ひとまわり以上年下のCEOにメンタリングすることで、同社のグローバルな急成長を支えた人物として知られています。

チップ・コンリーさんと
チップ・コンリーさんと

従業員の平均年齢が30歳を切るような若い組織に参画し、一人だけテック用語も分からない中だったけれども、過去にホテル業界で事業を作ってきた経験を活かし、主にホスピタリティの面から組織をナビゲートしていきました。こうした自身の体験をもとに、年齢バイアスの問題や、主に40歳以上の人が組織の中でどうあるべきかを説いた彼の著作『Wisdom at Work』は、アメリカにおける昨年のベストセラーの一つにもなっています。

イノベーションの創出には本来的にアイデアの対立や揉み合いが必要です。コンリーも著作の中で「いろいろな角度からの視点が戦った末に生まれるのが、真にイノベーティブな商品なのだ」と説いています。

若い人からすれば、目の前にあるビジネスチャンスになるべく早くに飛びつきたい、事業をどんどん進めたいという思いがあるでしょうし、そこに業界用語すら分からない人が入ってくることには、苛立ちを感じることもあるだろうと思います。けれども、本当にイノベーションを起こしたいのであれば、そういう “分かってない” 人に対してイライラして排除するのは得策ではありません。多様な視点を持った人をインクルージョンする必要があるというように、大きく意識を変える必要があるのではないでしょうか。

「年齢差別」が一層強い東アジア。その原因は?

―ここまで西海岸の年齢差別事情を伺ってきましたが、日本に関しても同じことが言えますか?

ニューヨーク大学で職場における年齢バイアスの研究をしている教授の方が書いた論文に、世界中の年齢バイアスに関する23カ国、2万人以上のサンプルの研究をメタ分析し、東アジア諸国と欧米諸国とでどちらが「年齢層が上の人たちに対してネガティブな立場をとっているか」を定量化し、統計比較したものがあります。その論文によれば、東アジアのほうがネガティブな態度が強かった

その主な要因は、急速なデモグラフィックな変化にあると言われています。日本であれば、1970年に人口全体に占める高齢者の割合は7%にすぎませんでしたが、2007年には21.5%まで上昇しています。さらに10年以上が経過した今では30%のレベルまできているはずで、非常にわずかな期間で超高齢化社会へと変化しています。この急速度合いは世界的に見て東アジアがダントツ。中でも高いのが日本です。急増した高齢者を支える労働人口が減り、税金など高齢者のために負担するコストが高まっているといったことから、年齢層が上の人たちに対するネガティブなイメージが生じたことが考えられます。

これはまた別の研究ですが、欧米と東アジアの大学生が年齢層が上の人とコミュニケーションをした際の満足度を調査・比較したところ、東アジアの大学生のほうが圧倒的に満足度が低かったという結果も出ています。どう満足度が低かったのかというと、「年齢層が上の人たちが一方的な身内話に終始していて、自分たちはそれをただただ聞かなくてはならなかった」と。まったく言葉のキャッチボールができない状況にフラストレーションが溜まっていったというんです。

ミネルヴァ大学院卒 橋本智恵

一方で欧米の若者は「普通に楽しかった」という感想を残しています。シニアな方も自分に合った面白い話をしてくれるから、自分の側からも自然と話すことができた、ミューチュアル・アンダースタンド(相互理解)になっていたというのが、満足度の違いとして表れていた。

この結果は、日本で育った私自身の経験を振り返ってみても納得できるものだと感じました。日本にいた時の私は、自分の主張はとりあえず置いておいて、まずは年長者の話を聞かなければならないという意識でいた気がします。こうしたことがだんだんと若者のフラストレーションになって、相互理解は一向に進まず、年齢バイアスへとつながってしまっている可能性があります。

―要は日本の「おじさん」の話が一方的すぎてつまらないって話・・・。

日本でもちょっと前に「おじさん」にまつわる話がバズったことがあったと思うんですけど、「おじさん」というのも実は差別用語なんですよね。相互理解が進まないからこそ、相手を自分とは違うものとしてグルーピングしてしまうし、そのことが相互理解を一層難しいものにしてしまう。これはアメリカにおける人種問題と通じるものがあるのではないでしょうか。白人が黒人とコンタクトする機会がなかった時代に、相手の人間性を理解できないがゆえに「彼らは野蛮だ!」と言っていたのと性質が似ているのではないか、ということです。

―どうすればそのループから抜け出せますか?

日本では老人の単独世帯が急速に増えていますし、世代間で交流する機会が極端に減ってしまっていると感じます。意識してコンタクトの機会を増やすというのは一つの手だと思います。コンタクトする時間を増やせば相互理解が深まるのは自然な原理。おそらく人種バイアスやジェンダーバイアスの問題の対応策が考えられた際にも、まずこの原理が使われたはずです。

けれどもそれ以前に問題なのは、冒頭にもお話しした通り、年齢バイアスの存在自体がまだまだ認知されていないということで・・・。人種バイアスにしてもジェンダーバイアスにしても、今日のように理解が広まったのには長い戦いの年月があったからで、いきなり「アンコンシャスリー・アンバイアスド」な状態は望むべくもない。まずは意識して年齢バイアスを理解する必要があるだろうと思います。

そのためにはおそらく、政府や企業組織などが率先して一般の人をナビゲートするところから始める必要があるでしょう。人種やジェンダーバイアスでも、まずは意識的に問題を認知する過程を経ていました。マネジャーたちへの教育も一つでしょう。

ミネルヴァ大学院卒 橋本智恵

私なんかが言うのはおこがましいんですが、日本では政府も企業もその意識が低いと感じます。先日もたまたまインターネット上で「ミレニアル世代が多く利用しています」という人材紹介サービスの広告を目にしてしまって、「ああ、日本はまだそういうレベルにあるんだなあ」と。「ミレニアル世代」「団塊世代」と広告に書いてしまうこと自体が年齢差別にあたることに意識がいっていないのではと感じました。

―ぼくらメディアも、そういうキャッチーな言葉を見つけてはくくりたがりますからね。

はい。一般聴衆の目線に合わせやすく、直感に訴えかけますからね。でも、そういった公共に出回る広告が人びとのステレオタイプの意識に与える影響はとても大きいので・・・。

でも逆に言えば、年齢層が上の人たちに対してポジティブな印象を受けるキャッチフレーズをつけることで、人の意識をいい方向に持っていくこともできると思うんです。同じことを表現するのにも、例えば「われわれの組織には経験豊富な、ダイバースなスキルを持った人たちがいる」といった感じで言い方を変えるだけで、人の意識も変わってくる。

「差別される側」の人たち自身も同様のことはできるはずで、「もうこの年齢だから」と自分でリミットを設定してしまうのではなく、「今までいろいろと経験をしてきたからこそ、こんなスキルを獲得できた。これとこれを掛け合わせれば、こんな新しい価値だって生み出せるはず」と意識を変え、発信することで、周りの人たちの受け止め方を能動的に変えることだってできると思うんです。

このように、年齢差別の問題を解決するためには、社会や組織の意識はもちろん、シニアの人自身が持っている年齢バイアスについてもポジティブに変えていく必要があるのだろうと思います。

「人生100年時代」をギフトにするために

―ところで、これまでジェンダーや教育に関する活動を行っていた橋本さんは、なぜ年齢差別に関心を持つようになったんですか?

ミネルヴァ大学院卒 橋本智恵

一番のきっかけはリンダ・グラットンの『LIFE SHIFT』です。

あの本の中で彼女が言っていたのは、「人生100年時代」に突入した今、私たちはそれまでの「教育・仕事・引退」の3ステージでフィックスされた人生から、「働いて、学び直して、また働いて、80歳くらいでゆっくりと引退して暮らす」というような、マルチプルな人生へのトランジションの只中にいる、ということ。

そして、このトランジションに対して準備ができている社会や組織はまだ少ない。しっかりと準備し、トランジションに成功すれば、100年時代は私たちにとってすばらしいギフトになるだろう。けれども、トランジションに失敗したり、この問題を無視したりすれば、おそらくそれは私たちにとっての呪いになる、と彼女は言っています。私にはこの言葉がとても引っかかったんです。

私自身は彼女が言うようなマルチプルなステージを生きたいと思った。一つの組織にコミットして60そこそこで定年を迎え、70になって「でもスキルがないからこの先どうしよう」みたいな寂しい人生は送りたくないな、と。そして、年齢、性別にとらわれずいろいろな人がマルチプルなステージを自分らしく追求し、ポテンシャルを十分に発揮し、幸せに生きることができる社会はいい社会だろうな、とも。

―そういう社会にはぼくも共感します。

教育の領域では今、ようやくではあるけれども、なにか外的なものに縛られるんじゃなくて、もっと内的なものに正直に従って、その人らしくポテンシャルを発揮できる子供たちを育てようという方向に変わってきているじゃないですか。「21世紀型教育」「アクティブラーニング」「プロジェクトベース型の教育」といったことが盛んに言われていて、そういうものに関心の高い親御さんも増えていますよね。

けれども、日本の現実は3分の1以上が高齢者だし、あと10年も経てば団塊世代以上の人たちがリタイアして、その労働力をまかなえるかという問題が迫っている。今の30代〜50代が長く働き続けることができなければ、日本は著しく労働生産性が下がってしまうところに来ています。

であれば、全体から見ればマイノリティである若年層にだけ「21世紀型教育」を施し未来を託すのでは不十分で、その親世代とか、もっと上の世代も長く働いて、自分の内的な目的を見出し、そのために必要なフレキシブルなスキルを身につけていく、そのための学びの場が必要ですよね。

私自身、ミネルヴァで社会人になってから学び直すことを経験し、いくつになっても遅くないんだということを実感できました。人が変わるのは、重ねた年齢ではなく、その人がいかに「ピボタル・イベント(変革のきっかけとなる重大イベント)」を経てきたか、だと信じています。

―年をとっても何度でも学び直し、獲得したいろいろなスキルを組み合わせることで自分らしいキャリアを追求する。前回のインタビューで伺った「エキスパート・ジェネラリスト」のお話とつながりました。けれども一方では、現状は社会の側に年齢バイアスが強いので、そうしたシニアが活躍できる場がない。だから年齢差別の問題に取り組むってことなんですね。

おっしゃる通りです。年齢だけで判断してしまうという社会の現状は、リンダ・グラットンが描いた100年時代の理想像からはあまりにかけ離れてしまっている。マルチプルステージへとトランジションする上での最大の敵は、おそらくこの年齢バイアスの問題になるのではないかと感じています。

繰り返しになりますが、今はまだ年齢バイアスの問題自体が意識されていない状況。ですから、これから始める事業では、企業などに対し、年齢や性別などの属性にとらわれず、個人が活躍していけるよう、その人自身の強みが評価される組織づくりを後押していきたい。

そのために、年齢層が上の人が参画し、イノベーションを加速させるような成功事例をつくると同時に、何歳になっても自分の価値を表現している大人を増やすサポートをしていこうと思っています。

ミネルヴァ大学院卒 橋本智恵

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[取材・文] 鈴木陸夫 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

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