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INTERVIEW
自信を失くしかけた百貨店従業員の士気を蘇らせた、最年少店長の「復元力」
INTERVIEW

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BOOK MARK

変化の激しい時代において、企業や組織のみならず、個人単位で必要となってくるのが「レジリエンス(復元力)」。既存の業界構造や個人の強みを揺るがす環境変化が起きたとき、その衝撃を「ゴムまり」のように吸収し、その力を蓄え、新たな勝ちパターンを見つけることで成長へつなげる力のことです。その「しなやかな復元力」はどのように身につけられるのでしょうか。

百貨店業界といえば、2016年の全国百貨店売上高はピーク時から約4割減少の5兆9780億円となり、既存店ベースでも2.9%減少と、厳しい状況が続いています。都心店を中心にインバウンド需要による下支えはあるものの、郊外店は近隣住民の生活習慣の変化や競合店との競争激化などによって、さらに厳しい局面に置かれているのが現状です。

そんな中、横浜市の郊外にある「髙島屋港南台店」では、店舗史上最年少の店長を抜擢し、構造改革を推し進め、成果を上げています。それが、2016年3月から店長を務める中川徹さんです。過去にはリーダーとしての大きな失敗の経験があるという中川さんに、その店舗改革の一端と、自らのマネジメントスタイルを模索しながら見つけた「理想のリーダー像」を伺いました。

株式会社髙島屋 港南台店 店長 中川徹

PROFILE

株式会社髙島屋 港南台店 店長 中川徹
中川徹
株式会社髙島屋 港南台店 店長
1975年生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、1998年髙島屋に入社。横浜店で婦人雑貨販売を経験した後、同店特選サロンルシック売場マネジャー、婦人靴セールスリーダーを務める。組合専従の後、2007年玉川店へ異動。紳士服・紳士雑貨売場マネジャーなどを務め、2013年横浜店にて特選サロンルシックシニアマネジャー、販売部総括担当などを歴任。2016年3月から現職。2015年からグロービス経営大学院で学ぶ

1日3回の店内巡回で引き出されたスタッフたちの当事者意識

—2016年に髙島屋港南台店としては史上最年少の店長職に着任されたとのこと。社内でもやはり異例のことだったのでしょうか。

自分自身も驚きましたし、まわりの皆さんも驚いていました。等級を考えても、私より先に店長を経験してもおかしくない方も多くいましたから。「なぜ自分が選ばれたのか」を客観的に考えることは難しいですが、おそらく店舗マネジメントの経験もなく、まっさらな状態だったから、というのはあるかもしれません。

1983年に港南台駅前に開店した髙島屋港南台店は、いわゆる郊外型店舗。開店当初とは百貨店を取りまく環境も変わりました。これから変革に取り組むにあたって、これまでの経験や成功体験にとらわれることなく、その推進役を果たす必要があったのです。内示をもらった当時、上司である横浜店の店長からは「たくさん失敗して来い。その代わり、チャレンジをしなかったら許さんぞ」と、厳しくも温かい言葉をもらいました。

—港南台店店長としてはどのようなミッションがあったのでしょうか。

一つはハードの部分。百貨店でありながら百貨店部門を縮小し、代わりにテナント店舗を拡大するというフロア構成の改革がありました。百貨店としては全国で2店舗目となる「ニトリ」をテナントとして迎え、屋上には「デジキューBBQテラス」が出店しました。

そしてもう一つは、ソフトの部分。組織風土の変革というミッションがありました。

—着任当初、港南台店の組織風土はどのようなものだったのでしょうか。

これは着任前、私が横浜店にいたころの話ですが、港南台店に来てみると、従業員は少し元気がないな、自信をなくしているな、という印象がありました。外部環境として、車で行ける範囲内にさまざまなショッピングモールやアウトレットモールがありますし、厳しい状況であるというのは確かでした。

しかしながら、着任してみると、どこでも明るい挨拶が返ってくる。お客さまとも密な関係性を築いていて、接客しているときはものすごくいい雰囲気を出していました。おそらく、厳しい状況であることを真摯に受けとめ過ぎて、自信を失っているのではないかと考えたのです。

株式会社髙島屋 港南台店 店長 中川徹

大型店では頻繁にフロアの刷新が行われますし、多くのお客さまにお越しいただけますから、比較的モチベーションの上がりやすい環境下ではあります。その反面、港南台店はは郊外店で、従業員にはある種の停滞感や危機意識があった。でも、それはある意味、「強み」ではないかと思ったのです。

厳しさを真摯に受けとめ過ぎるというのは、それだけ自分を「当事者」だと考えていることのあらわれ。そうであるならば、何か「きっかけ」さえあれば、大きく意識や方向性を変えられる土壌があるのではないか、と。そこでまず、従業員満足度(ES)を高める取り組みから始めました。

—具体的にはどんなことですか。

極めてシンプルな行動なのですが、Management By Walking Around(MBWA)・・・つまりひたすら売場を巡回してマネジメントすることです。どんなに忙しくても1日に朝、昼、夕方の3回、店長代理と2人で、地下1階から上層階まで売場を自分の足ですべて見てまわって、従業員たちと直接話をしています。

株式会社髙島屋 港南台店 店長 中川徹

そして挨拶や笑顔がよかった人には小さな「グリーティングカード」を私のサインと判子を押して渡して、彼らからそれを現場のリーダーへ報告してもらうようにしています。

最初のきっかけは、自身がこの店のことを知りたい、従業員から知見を得たい、というものでしたが、想像以上に一人ひとりと会話することがモチベーションにつながるのだと実感しました。

—「偉い人」が現場をまわっていると、従業員としてはなんとなく煩わしく感じそうな気もしますが。

会うたびに何か苦言を呈すような店長なら、そう思われるかもしれません。私は基本的に良いところに着目して、それを褒めるようにしました。「今接客していたときの笑顔、すごく素敵でしたよ」「お客さまへの挨拶が明るくて気持ちがいいですね」と。

涙を流して喜んでくれた人もいました。販売員だけでなく、清掃員や警備員の方、炊事場や外の花屋さんの方など、あらゆるスタッフに声をかけるので、「気づいてくれたことがうれしい」と感じてくれたようでした。

グリーティングカード

一日3回の店内巡回を始めてからしばらく経つと、私から声をかける前に気軽に話しかけてくれたり、気づいたことをどんどん言ってくれるようになりました。空調や電球といった身のまわりのことから、品揃えやサービスなどお客さまに直接関連することまで、日々現場で起きている大小の問題をすぐに私に知らせてくれて、それに対する改善や提案がすぐになせるようになったのです。

例えば、食料品売場で地産地消の品揃えを充実させたり、「銘菓百選」という各地の銘菓を集めた売場で冷蔵品の比率を高めたり・・・。どれもお客さまや売場からの声が活かされ、売上アップにもつながっています。

実はこうした取り組みは港南台店だけでは難しく、横浜店と連携して商品を仕入れたからこそ実現できたことなのです。つまり、従業員が顧客視点に立って既存のルールを壊してくれた。今では「港南台髙島屋はわが家の冷蔵庫だから」とおっしゃってくださるお客さまもいらっしゃるんですよ。

他にも基本的なことではありますが、徹底的に笑顔の挨拶を推し進めました。まずは店内巡回の際に従業員に対して、「おはようございます」「お疲れ様です」と笑顔で声かけを行う。すると、自然と笑顔で元気な挨拶が返ってくる。そして、従業員がその挨拶をお客さまに向けても率先して日々実践してくれたこともあり、結果的にサービス評定も髙島屋全店最下位から「2位」へ飛躍的に改善されました。

この結果を全従業員が集まる朝礼の場で伝えたところ、どよめきがおこり、みんな手と手を取り合って満面の笑顔で喜んでいました。今でも忘れられない光景で、日々の積み重ねが成果につながると全員が実感できた瞬間でした。スタッフにも「一人ひとりが運営に参画している」という意識が高まってきたのかもしれません。

中川さんと従業員の方々

「成功したかどうか」でなく「チャレンジしたかどうか」を問う

—百貨店には正社員だけでなく、契約社員や取引先からの派遣社員など、さまざまな雇用形態のスタッフがいます。一元的にマネジメントするのは難しいのでは?

確かに、当店にいるスタッフの約8割が取引先からの派遣社員や有期雇用社員で、よくある「全店予算達成」「店舗収支を改善」といった目標では、なかなか心に響きません。

代わりに、私が店長になった初日からこれまでずっと言い続けてきたのは、「お客さまにとっても従業員にとっても “ワクワク” するお店にしよう」ということでした。店の経営方針にも掲げましたしあらゆることの判断基準にも「ワクワクするかどうか」を軸に考えるようにしました。

正直に申し上げると、最初は「ワクワク」なんて言葉を仕事で使うのは少し恥ずかしいと思っていました。でも、いろいろな雇用形態の従業員の心を一つにするためには、「みんなに伝わる言葉」が大切だと思い、言い続けたのです。お客さまを楽しませることはもちろん、自分たちも楽しもう、と。

毎日売場を歩きながら話をして、「ワクワク」という言葉を繰り返すことで、次第に雰囲気が変わってきました。ニトリの百貨店導入事例は珍しいので、視察に来られる方も多いのですが、「明るいお店ですね」と言われるほどになって。

—長年勤めているベテランスタッフや既存のマネジメント層からの反発はありませんでしたか。

確かに私よりも経験のある方ばかりですが、皆さん率直に考えをぶつけてくれます。お互いの認識や考えが食い違うとき、1、2時間も議論におよぶことがありますが、それこそコレクティブ・ジーニアスというか、それぞれの知見を持ち寄って、最終合意に至ることは組織として健全ですし、だからこそ新しいアイデアが生まれることもあります。

これだけお客さまのニーズが多種多様になっていく中で、お客さまに最も近い売場にいるスタッフの意見や考えは、極めて貴重な情報源となっています。小規模で、経営資源がかぎられている店舗ですが、それでも何か新しいことができるのではないか、と。

株式会社髙島屋 港南台店 店長 中川徹

マネジャーやバイヤーなども含めて、従業員から今までにやったことのないアイデアが提案される頻度は上がってきました。それと同時に、権限委譲も進めています。方向性とビジョンはしっかり決めて、それに合致しているのであれば、現場の判断で進めていこう、と。もちろん、もし迷うようなことがあれば、いつでも相談してください。一緒に解決しましょう、とは話しています。

—理想的なリーダー像ですね。

ありがとうございます(笑)前提として、失敗してもいい。新しいことをしても、それが十中八九成功するとは思っていないのですよ。新たな施策をしてみて、思うような成果が得られないことのほうが多いくらい。

例えば、あるテレビ局とコラボレートした催事を初めて企画して、Facebookなども活用してトライしたのですが、目標の売上にまでは至らなくて。担当してくれた社員はガッカリしていましたでも「新しいことを形にした」ということに対しては、拍手ですよね。

たとえ失敗したとしても、次につなげるなら、それは「成果」のうちだと人事考課運営の中でも明文化しています。「どうしてうまくいかなかったのだろう」と考えたり、お客さまの声を聞いたり、自律的な行動ができるようになってきたなと思います。

でも、実際のところ、それは私自身が上司にされてきたことなのです。去年店長になってから、失敗して叱られたことは一度もありませんが、「これぐらいでいいかな」と妥協したり、ちょっとチャレンジの手を緩めたりしたときには、すぐに見透かされて厳しく叱られました。

例えば、今はタイ・バンコクのサイアム髙島屋社長になっている元上司から、昨年末、厳しい状況下にあったときに、「この1年間、せっかく従業員たちがやってきてくれたことが水の泡になるぞ」と檄を飛ばされました。私から今後、それに対してどう取り組んでいくかを説明すると、一言、「分かったか、これが経営や」と。

株式会社髙島屋 港南台店 店長 中川徹

自分がこれまで経験してきたことと比べて、店長としてこれから成し遂げていかなくてはならないことの重さを思うと、震えましたね。でもそれが経営者として持つべき覚悟なのだろうと思いました。

「ナメられてはいけない」、ゴリ推しのマネジメントが裏目に

—ここまでお話いただいた中川さんご自身のマネジメントスタイルはどのように確立されたのでしょうか。

まだ試行錯誤しながらですが、大きかったのは入社6年目の「失敗」ですね。横浜店の特選サロン・ル・シックに売場マネジャーとして配属されたときのことです。初めてのマネジメント職だったのですが、お客さまも従業員も自分より年上の方ばかり。「ナメられちゃいけない」と肩肘張って、知識も経験も豊富な方に自分の考えや方向性を一方的に押しつけてしまったのです。

必要な場合は個別に注意をすればよいものを、自分のポジションを見せつけようという誤った考えを持っていて、あえて、複数の人が見ている中で注意するようなこともありました。自分自身がそれまでに接してきた上司も先頭に立って引っ張っていくタイプが多く、「マネジメントするなら、しっかり叱ることができなければダメだ」と言われていましたから、それが当たり前だと思っていたのです。

でもこれが、まったく通じない。自分の思うような組織にならないし、一体感も生まれないし、スタッフからの信頼も下がる。「無理して叱っている」自分も辛いし・・・。あぁ、これは自分のマネジメントスタイルに合わないな、と思い知ったのです。

株式会社髙島屋 港南台店 店長 中川徹

そして、2011年の大震災。私は組合専従だったのですが、震災自体もショックでしたし、日々めまぐるしく組合でも対応を行っていた中で、求められる責任を果たせていないと自分を責めたり、体調を崩したりすることもありました。体力的にも精神的にも絶対の自信を持っていたのに、誰しもいつどうなるか分からないものだ、と身に沁みて。

若いときには自分が求められる成果と、実際に出せる成果とのギャップに苦しんだこともありましたが、そんなふうに「自分がすべてを担っている」と思うなんて、実はおこがましいだけなのかもしれません。組織としては、誰かが休んだり、パフォーマンスが下がったりしていても、一人ひとりの力を集めて、助け合いながら成果を上げることが大切なのではないか、と考えるようになりました。

—2015年からグロービス経営大学院に通われたことも、良い影響をおよぼしたのでしょうか。

そうですね。これまで百貨店に勤めて、業界内の情報は入ってきましたが、これからの百貨店には業種や業態を超えたつながりが必要だと考えたのです。自分も40代に差しかかって、チャレンジしてみたい、経営の全体像を体系的に学びたい、と思いました。

まわりの尊敬するリーダーは皆さん先頭に立って、強い力で引っ張っていくようなカリスマタイプ。けれども自分が実践するとなると、しっくりこないのですよね。これからの時代、従業員一人ひとりの個性も雇用形態も違う中で、組織を一つにまとめながら、新たな方向へ導いていくには、どんなことが必要なのだろうと考えたのです。

—なにかご自身なりの答えは見つかりましたか?

株式会社髙島屋 港南台店 店長 中川徹

いや・・・「これが正解だ」「今、成功している」とはそもそも思っていないです。まわりを見渡しても、自分よりもすごい人がたくさんいると、日々実感しています。

新入社員や若い世代はデジタルネイティブ世代で、新しいことに貪欲ですし、私が同じくらいの年次のときよりもよほどよく考えていて、尊敬しています。この夏も、新入社員にお中元ギフトセンターで承り業務をしてもらいましたが、なんて清々しい気持ちでお客さまと会社のことを考えてくれているのだろう、と。

もちろん、上の世代の先輩方も知識や経験に裏打ちされた判断力にはかなわないものがあります。もっともっと追いついていかなければならないし、吸収しなくてはならないことは山ほどあります。

私が目指すのは、リーダーも組織もそうですが、「しなやかに強い」ということ。さまざまな環境の変化を前にして、自分の道を推し進めるというよりは、柔軟に向き合って、時には凹んだりしながらも次の成長へつなげる。

すべてが順風満帆に行くなんてことはそうそうありませんから、一人ひとりがリーダーシップを持っていけるような組織が、理想のあり方なのかなと考えています。

—「しなやかな強さ」はどのように身につけられるのでしょうか。

私もまだ身についているとは言えません。わりと「いろいろなことを気にするタイプ」なのです(笑) でも今、マインドフルネスが注目されているように、「今ここに集中する」というのは大切な意識なのかなと思います。家族4人みんなで空手を習っているのですが、それもまた心と身体を同時に鍛えるのに役立っている気がします。それと、頭も鍛えないといけませんね。日々勉強、ですよ。

株式会社髙島屋 港南台店 店長 中川徹

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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