先が読めない不確実な時代に、ビジョンを持つことよりも大切なこと

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「自分は本当は、何がしたいんだろう・・・」

すぐに答えが思い浮かばず、ビジョンが見つからないこと、ビジョンなきまま人生が過ぎていくことに、不安を感じることは誰にでもあるでしょう。

また、企業の面接官や身のまわりの刺激的な友人から「君のビジョンは?」と投げかけられ、思ってもいないことを無理やり口にして「ビジョンハラスメント」を感じてしまったり・・・。

しかし、個人が働き方や生き方を自由に選び、また柔軟に変えていけるようになりつつある時代に、「ビジョン」は本当に持ち続けなければいけないものなのでしょうか?

ビジネスパーソンのキャリア支援に長年携わり、経営者としての経験も豊富な古森剛さんに、個人にとってビジョンを持つこと、それを自分らしく伝えることの意義について、お話を伺いました。

株式会社CORESCO 代表取締役 古森剛

PROFILE

株式会社CORESCO 代表取締役 古森剛
古森剛
株式会社CORESCO 代表取締役
新卒で日本生命保険相互会社に入社、営業本部や人事部を経験。在籍中に米ウォートン・スクールでMBAを取得し、帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、組織・人事マネジメントコンサルティング会社マーサージャパンに移籍し、日本法人代表も歴任。株式会社CORESCOを創業し、代表取締役に就任。現在もマーサージャパンのシニア・フェローとして協働関係を維持。東北の震災被災地支援を行う、一般社団法人はなそう基金の代表も務める

「ビジョンを持つべき」は本当か?

ー「個人もビジョンを持つべき」という考え方は、いつごろから出てきたのでしょうか。

90年代以降は会社側が人を選ぶ時代で、就職する側としては狭き門の時代でもありました。

「就職する側は自分をアピールし、会社側は欲しい人材を採る」という中で、双方の将来像が合っているという話が必要で、ある意味双方ともビジョンレベルのすり合わせやフィットを重視していた時期だったのかなと。

「ビジョン」という言葉も、「これ」と定まったものではないけれど、5年、10年サイクルで自分のキャリアを考えようというのもビジョンの一種とするならば、あのころから言われ始めたのかなあと思います。

ーなりたい自分や将来像をすぐに思い浮かべることができない人は「個人のビジョンを設定する」ということ自体に何かモヤっとしたものを感じてしまうのではないかな、と思いますが。

「キャリアの在り方」まで戻ると、はっきり言ってこれは「人生の在り方」の一部なんですよね。どういう生き方をしたいかと。生き方は商売の域を超えてしまっていて、自分の幸せの定義にまでなりますよね。

どういうふうに生きれば自分は幸せか。こうなると、考えることができるかどうかというのもあるし、本能的には将来を考えたくない人もいるんですね。将来像を思い浮かべるのが好きじゃない、という好き嫌いの問題もある。

将来のキャリアビジョンが自然にフッと湧く人っていうのは、全人口で言うとむしろ少数じゃないかと思います。

ー「仕事は仕事。最低限稼げればいい」という感じで仕事をとらえる方もいらっしゃいますよね。

だから、それが生き方なんですよ。結局、生業をメインとした人生に充実感を求める幸せの定義もあるし、金銭に関わらないところでもっと大きな意味のあるモノを持ちたい、だから経済性さえ成り立てば何でもいいという人もいます。

株式会社CORESCO 代表取締役 古森剛

本心では何でもいいと思っている中で、5年、10年先とか言われて大変難しい。だけれど面接では「何でもいい」とは言っちゃいけないんですよね。会社側からすると、やっぱりあなたのビジョンが知りたいわけです。売り込んでいく側としては、形式上、合わせていくしかないんですよね。

ーそうなってくると、本音と建て前の差があればあるほど、辛くなってくるところがありますよね。

辛いですよ。仕事ってどんなに好きで入ろうと、かならずしんどい場面があるんですよね。どちらかというと、辛い場面のほうが多いときもある。そういうときにバレるわけです。結局その面接のために作ったビジョンで運よく入ったとしても、それは本当の自分じゃないのでね。

仮説的な自分を元に辛い場面を乗り越えていけるほど精神力のある人って圧倒的多数じゃないですよね。だから「こんなはずじゃなかった」とか「この苦労の先に自分の幸せがある気がしない」とか、それがある種の鬱的な症状になっていったりだとか・・・これはメカニズムとしては良くないと思っています。

私自身、「自分に嘘をつかないこと」がキャリアの大原則と思っているので、多少の方便はあるにしても、あんまり本質的な嘘をつかないほうがいいと思います。

ーそういう意味で、より「素直なビジョン」を持ったほうがいいんですね。

そうです。とにかく「自分の人生、これがいい」っていうのがあるほうがいいとは思います。予定がない人生がいいなら、本当にそう思っているべきだし、世間の型にはまっていなくても「私はこういう人」というのを自覚できていると、それが自信になるし、ブレなくなる。

そういう自分の心のありようとか、人生はこうあったほうがいいな、というものは自分でちゃんと言葉にしたほうがいいと思うんですね。それは企業から見た場合の都合のいいキャリアビジョンではなくて、もっとすごく「本当の話」なんですよ。

株式会社CORESCO 代表取締役 古森剛

ー日本人は自分の幸せの定義を他者からの見られ方で決める傾向にありますよね。いい大学、いい会社というように、他者から見て「すごいね」というものにどうしても幸せを求めてしまうというか。

「日本人は」とくくれないですが、平均的にはやっぱりあると思います。個を出さないということで躾(しつけ)を受ける人が多いですよね。個が人と違うことで褒められたりする場面は、家庭環境とか教育環境の中で確かに少ない。

自分のあり方とか自分はこれがいいとかっていうのを主体的に言葉にして、ましてや人に話したりできる人は放っておくと育ちにくいのは間違いないと思います。

ー「自分の幸せの定義」を語る言葉を持つには、どうすればいいのでしょうか。

まずは、自分に語ってみることですよね。はっきり言って、自分の人生のあり方がいつ見つかるかには個人差がある。見つけようとして実際に答えが出ない人もいるんですよ。これって70歳まで湧いてこない人もいると思うし、最期までない人もきっといるんですよ。だから、とにかくその人なりにいいと思える状態であればいい、というのが大原則なんですね。

言葉にしたほうが私はいいと思うけれども、ならなかったからといって責める必要もない。ただ、何が自分の幸せの定義か、という問いはあきらめない方がいい。そうすると、どこかでフッと答えに気づくことはきっとある。

私の場合、それは30歳の終わりごろにパッと来ました。だから、それがいつかは分からないけれど、そこから先は自分の人生のあり方が分かるようになるので、就職の面接に臨むときもそういう自分を前提に、求められれば仮説的に、嘘をつくことなく自分のビジョンを語ったりもできる。

株式会社CORESCO 代表取締役 古森剛

自分自身の認識がないときにキャリアだけのビジョンを考える、語るというのは危ないというか、嘘が残る可能性が高いと思うんです。だからキャリアビジョン以前に自分の幸せの定義を問うことをお勧めします。

不確実な時代には、「ビジョン」よりも「進み方」が軸になってもいい

ー現在はすごく不確定な時代で、仕事でも当初のビジョンが通用しない可能性もありますよね。

ビジョンって、ある時間軸の中でどこかでの「写真」なんですよね。将来のある時期にどうなっているかを考えることについては不確実性が高いし、人間20万年、将来が見えたことは一度もないんですよ。だけど、思ってもみないことが起こる度合いは今のほうが高くて、理想通りにならないビジョンもたくさん出てくるでしょう。

だから私はどちらかというと、ある時間軸の中で見えている写真を描くというより、そこに行く「進み方」を軸にしてもいいのかな、と思っているんですね。例えば、出会ったもので面白いものに取り組んでみるとか。これはビジョンでなく、生き方なんですよ。

この生き方をすると、その都度努力するので、道が開けたりするんですね。今、面白いと思うことや自分が没頭できることをやりながら開いていく人生を良しとする幸せの定義もあるわけでね。「ビジョン型」じゃなくて「やり方」「進み方」のほうに自分の価値観を置く人がいてもいいと思うんです。

株式会社CORESCO 代表取締役 古森剛

最近アカデミアの世界でもイノベーティブな会社の研究があって、いわゆるビジョンを示して人にフォローしてもらって・・・というリーダーシップではなく、ビジョンはないけど、優秀な人を集めて舞台を与え、いろいろトライをし始めるというリーダーシップのほうが、実はイノベーティブなことが起こりやすいという結果も出始めているんですね。

リーダーシップと言われているものでさえ、ビジョナリーなパターンばかりではなくて、「私にもどうなっていくか分からない」「みんなはどう思う?」と問うリーダーのほうが、逆にイノベーションが起きたりっていうことがあるわけですよ。

それって人の人生でも同じで、やっぱり年限を置いて、ビジョンを置いて、それに向けてストラテジーを組んで、プランを作って動く・・・ということを皆がやらなくてもね。そうじゃないと思う人は、「そこに行く進み方のほうで特色を持っています」ということで、もっと自信を持っていいと思います。

会社側とか人を見る側がやってはいけないと思うのは、「ビジョンがないやつはダメなやつだ」と言ってしまうこと。そういう短絡的な見方をすると、それこそ「ダイバーシティ違反」なんですよ。

相手の枠組みを入れ替えて、自分を建設的にアピール

ーそうなってくると、ビジョンのない人には「進み方」や「やり方」をどうしたいのかを明確にすることが重要になってくると思いますが、どのように具体化すればいいのでしょうか。

例えば、面接で「あなたは5年後、10年後、どんなビジョンを持っているの?」と聞かれるとします。そのときに「いや、ビジョンはないです」とだけ言うと、落ちるわけですよ。ここはやっぱり技法が必要で、例えば「世の中本当に変化が速いから、私の場合はある時点を決めたビジョンはないけれども、仕事のやり方やプロセスについてはこだわりがあります」とか言えばいいと思うんですね。

そうすればかならず会話としては、「それは何?」という話になると思う。そうすると例えば、「ひらめいたことを大事にして、その都度穴があくほど努力をして、また次のドアが開くというのを愚直に繰り返していく中で成果を出していきたい」など、いろんな言い方はできると思うんですね。

だから時間軸と輪切りの写真という質問を受けても、それを少し違う形で言い換える。それを自信をもって言えば、通じる部分があると思いますね。そこで、一切の枠組みの入れ替えをさせないような相手とは、私はやっぱり一緒に仕事をしないほうがいいと思います。

株式会社CORESCO 代表取締役 古森剛

少なくとも企業の面接をするレベルの人は、本来、違う枠を受け入れられる人であってほしいですね。ただ、ある種の技法として、建設的に枠組みを変化させて、自分らしさを分かってもらうというのは持つべきスキルかなとは思います。それは、練習できる。

ーそれは内省するということでしょうか。

年限と輪切りという質問が来たときに、どう建設的に答えるといいか、ということを考えるのが必要なトレーニングだと思うんですよね。それは存在しない輪切りの絵を描くということではなくて、ここにはまらない自分だけれども、それをどうポジティブに言うかっていうことですよね。

「企業に入ったら予定したものばかりではないというのも理解しているし、めぐり合わせの中でベストを尽くして、その都度学んで、学んだことを活かして、それがまた自分の道になるかもしれないと思っています」とか。

そう言われて「この野郎」と思う人はあんまりいないですよ。実際は会社が会社の都合で人を異動させたいわけですね。だとすると、「会社の都合に沿ってベストを尽くします」と言っている人が嫌な人材かっていうと、そんなことはないんですよ。ただ、それを建設的に言えるか、ただ何も考えていないやつに見えるかっていう。

嘘をついて守るというのではないんですよ。本当の自分を本当の自分として尊厳を持って認めてもらうために、工夫をするということですよね。

ーそのスキルは就活の面接だけでなく、仕事を始めてからも役に立ちそうですね。

実際に職場で人間関係を作ったりとか、営業先でお客さんとの関係を作ったりとか、ほぼ100%同じスキルが必要とされるといってもいいですね。

例えば、営業だとプライシングが合わないとか、ニーズに100%応えているわけじゃないけど何とか買ってほしいとか。結局、嘘じゃなくて、あるものをいかに良く受け止めてもらうかということの連続なんですよ、仕事って。そこが弱いままだと、結局入ってからもずっと苦労するんです。

ただ、勘違いして欲しくないのは、自分を殺す嘘もいけないけど、自分をよく見せすぎる嘘もダメだということですね。持っていないスキルをあると言ってしまうと、これは偽装なんですよ。

マイナス方向にもプラス方向にも嘘じゃないけども、自分や自分の持ち物というものを、いかに相手から見たときに相手の枠組みから見てもポジティブに見えるような話をするとか、相手の枠組み自体を相手が納得できる形に変えていくとか、こういうのが対人の仕事のスキルなんです。

最後はやっぱり「自分らしさ」を問い直す

ー自分のやり方やプロセスというものを会社の中で発揮しようとしたときに、マネジャー層か実務層か経営者層か、それぞれのフェーズによってそのやり方は変わっていくものなんでしょうか?

本質は変わらないと思いますよ。ただ、組織の階段を上に上がるというのは何を意味するかと言うと、より会社らしい人じゃないと困るということです。組織の上部層にいるということは、放っておいても会社らしい考えが持てる人であり、会社のビジョンを自分ゴトにして語れる人であり、自己と会社をすり合わせていける人。逆にそうやって選別されていくと思うんですね。

ある管理職から上に行くと、何かを判断しなければならない場面が出てくる。モノを決めるとかならず嫌がる人が出る。でもその人の嫌がる顔を見ながら、やっぱり進むみたいなことは上に行けば行くほど増えるんですよ。

株式会社CORESCO 代表取締役 古森剛

こういうときに自分の心が釈然とできるか。やっぱり組織って方向性があって成り立っているものですからね。上に行けば行くほど、そこは自分の方向性とすり合っていかなければダメ。

だから合わないな、と思ったら合う会社に移るか、それとも自分でその場を作るか。最後は全部自分の幸せに戻るんですけど、私は「これでよかったなあ」と思える終わり方をすることだけが究極の人生の目標と思っていて、やっぱりそうならない場所にずっといるということは、自分の幸せに対して違反行為だと思います。

ー最後は「自分の幸せの定義」に戻るんですね。

そうなんです。だから、形にならなくても問い続けていれば、せめて感度は高まるのかなとは思うし。

会社の都合から来ることを、嘘をついて飲み込んでしまうのではなくて、自分を表現し直すために枠組み自体を入れ替えて建設的にやりとりできるスキルを身につける。自分が嘘をつかずに、人がそれを好意的に受け止めるような位置づけ方とか、リフレーミングをできるかどうかというのは、もしかしたら面接とかを考えたときの真のスキルかもしれないですよね。

ただ、そういうトレーニングを受けられる場って確かに少ないと思う。人材業界にかぎらず、親であったり、学校であったり、いろんなところでそういう学びの場が増えていくことを期待します。人が人生観を形成する過程で、「自分のありたい人生」というものがあるほうがいかにいろんなことが楽になるかということを、もう少し情報量としては発信すべきじゃないかと思いますし、大人がそういう生き方をしないとね。逆にそれって永遠に繰り返すんですよ。

つまりは「やっぱり私、これでよかったんだよね」と思い直せる瞬間が時々あるかどうかっていうことですよね。他者と同じじゃなきゃいけないという強迫観念ではなく、親でも先生でも友達でも、他者との差を感じながら自分を肯定できるような相手を持つというのは、何よりだと思います。そうして自分らしさを取り戻した後、それをどう建設的に認知させるかというスキルは自分で考えるべきですね。

株式会社CORESCO 代表取締役 古森剛

[取材・文] 山本直子、大矢幸世、岡徳之

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