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INTERVIEW
社員の生産性30%アップ、ユニリーバの「現場目線で始まった」職場作り
INTERVIEW

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BOOK MARK
「生産性」という言葉に会社の論理、会社からの押しつけを感じてしまってーー。

そんな違和感から、生産性を「個人の目線」で再定義。働く場所と時間を社員が自由に選べる制度「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」を中心とする新しい働き方を導入した、ユニリーバ・ジャパン。

導入から10カ月後に実施した社員アンケートでは、

  • 67%の社員が「新しい働き方により、毎日がよくなった」
  • 75%の社員が「生産性が上がった(平均して30%アップ/感覚値)」

と回答するなどの成果が出ています。

人事総務本部長の島田由香さんいわく、生産性とは、「生」き生きと、「産」み出したくなる状態のこと。そのためには、社員が理想の働き方のビジョンと具体的なイメージを「自分で決める」ことが大切ーー。

今回は、社員が生き生きと働ける職場の条件、それを実現するために現場のマネジャーに求められることについて、同社の取り組みに賛同する脳神経科学者、青砥瑞人さんの解説も交えてご紹介します。

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田由香/株式会社DAncing Einstein 代表取締役 青砥瑞人

PROFILE

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田由香
島田由香
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長
1996年慶應義塾大学卒業後、パソナ入社。2000年コロンビア大学大学院留学。2002年組織心理学修士取得後、GE入社。2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門HRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年に取締役人事本部長就任。2014年から現職。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP®トレーナー
株式会社DAncing Einstein 代表取締役 青砥瑞人
青砥瑞人
株式会社DAncing Einstein 代表取締役
日本の高校は中退もUCLAの神経科学学部を飛び級で卒業。帰国後、株式会社DAncing Einsteinを設立し、神経科学を教育・人財育成へ応用し大手企業・学校を支援。また、同分野にて発明活動も行い特許等も取得している

「生産性」という会社目線の言葉に違和感

ーユニリーバの人事制度「WAA」についてお聞かせください。

島田 「WAA」は、”Work from Anywhere and Anytime(どこでも、いつでも働ける)” の略。ユニリーバの日本法人で、2016年7月からスタートしました。

  • 理由を問わず、会社以外の場所でも働ける
  • 平日の朝6時から夜9時の間で、自由に勤務/休憩時間を決められる*1
  • 対象は全社員*2、期間や日数の制限はなし

*1 1日の標準労働時間は7時間35分、1カ月の標準勤務時間=標準労働時間×所定労働日数とする
*2 工場、一部の営業を除く

例えば、保育園に通うお子さんがいる社員なら・・・

  • 子どもが起きる前にその日の会議の準備
  • 子どもを保育園に送ってから、自宅で勤務
  • 自宅からビデオ会議に参加し、夕方に子どもをお迎え
  • 子どもが寝たら、またメールチェックなど軽く仕事

という一日の過ごし方も可能で、残業は月に45時間までと目標を掲げています。

社員の残業時間は平均して10〜15%削減されました。導入10カ月後のアンケートでも、

  • 67%の社員が「新しい働き方により、毎日がよくなった
  • 75%の社員が「生産性が上がった(平均して30%アップ/感覚値

と答えるなど成果が出ています。

WAA(Work from Anywhere and Anytime)

ーWAA導入の発端は何だったのでしょうか。

島田 きっかけは、現在の日本法人のイタリア人社長が着任した際に、日本人の働き方を見てたくさんの質問をしてきたことで、元々私の中にあった「結果さえ出していればどこでどう働くかは問題ではないのではないか」という疑問をアクションに落としたことにあります。

また、グローバル企業としての課題意識もあります。世界190カ国に拠点があり、言語や文化、慣習が異なる中で、ときにはコンフリクト(衝突)も起こり得ます。ですから、会社の文化として共有できるもの・・・「私たちはこうだよね」と立ち返ることができる “Ways of Working(働き方)” を、あらためて考えたいという思いがありました。

私たちはどんな世界を作りたいのか、社員にどんな毎日を送ってほしいのか。そこからスタートしました。当然、生産性の高い働き方を目指そうとなりましたが、この「生産性」って言葉・・・ 会社目線で、それに生み出した成果の質や量だけで社員が評価されがちなことに違和感があったのです。

今ユニリーバでは、WAAの考えに共感・賛同する社外の方々とTeam WAA!というコミュニティを作り、今年から「働き方」に関連するトピックで毎月活動しています。

3月・4月のTeam WAA!では「生産性を定義する」というテーマで各回100名程度のメンバーでワークショップを行いました。その中で、メンバーからも、「生産性って社員をみな同じ人間のように考え、少しでも価値を絞り出してやろうという嫌な印象を持ってしまう」という率直な声も聞かれました。

社員がいいアウトプットをするためには、いいインプットができることが必要。そのためには社員のモチベーションとか幸せとか、感情抜きには語れないと思うんです。

なのに、同じ時間で生み出す成果が100から200になること、費やすお金や人員数などコストが削減されることだけが「生産性が高い」と評価されてしまうところがあるように思います。

だけどそれはやるのは個人。それでもう一度、生産性というものを現場の社員たち自身が、「個人の目線」で考え直してみようと。それが「生産性」という言葉を再定義してみようと思ったきっかけです。

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田由香

大切なのは「メンバーが働き方を自分で決めること」

ー会社目線の「生産性」という言葉、個人目線に置き換えると・・・?

島田 3月のTeam WAA!で実施したワークショップでは、「(生産性とは)やりたいことができること」というような表現が出てきました。

それぞれのチームが各々の表現で生産性を定義したのですが、それを見ていてあらためて会社視点で使う「生産性」という言葉に代わる何かを考えたい、社員視点の表現でもっと深めたいと感じ、4月に再度「生産性」をテーマにして、「生産性を言い換える」というワークショップを実施しました。

その結果、全メンバーから最もいいね!が多かったのが次の5つの表現。

  • 夢中指数 ~ 感情のある集中
  • 自己進化力
  • SMILE発生率
  • モード(ゾーン・夢中)に入る感度
  • Happy感

見ているだけでワクワクしてきませんか? これらを見ていて、ユニリーバで新しい働き方を導入した際に最も大切にしたビジョンとの共通点を感じました。

「よりいきいきと働き健康で それぞれのライフスタイルを継続して楽しみ 豊かな人生を送る」

例えば、「いきいき」に漢字に当ててみると・・・「生き活き」、「生活」ですよね。つまり、生活って当たり前のように「いきいき」しているべきなのに、かならずしもそうなっていない現実がある。

そこに対して、企業として、人事のリーダーとしてできることをしていきたかった。そこで私は生産性を、社員が「生」き生きと、「産」み出したくなる状態と定義しました。作りたい世界を「ビジョン」として掲げ、制度に落とし込んだのが「WAA」なんです。

成果につながったいちばんの理由は、働き方の「ビジョン」からスタートし、制度を設計したこと。ビジョンのない制度だったら無用の長物となってしまい、上手くはいかなかったでしょう。

ー青砥さんは「WAA」の取り組みにどのような印象をお持ちですか?

青砥 まずとても共感するのが、働き方を個人目線で「も」考えるということ。

島田さんもおっしゃったように、働き方や生産性は今まであまりにも他者や企業目線でばかり考えられてきました。その視点ももちろん必要です。

しかし、働いている時間も本人にとって人生の大切な一部である以上、その人の目線に立った働き方、生産性というものはもっと考えられて然るべきです。

とはいえ、いきなり「自分で働き方、生産性を考えて下さい」と言われても社員の方も困ってしまうでしょうし、社員の方が自由に考えてバラバラなことを言われると企業としても困るでしょう。

ですから、島田さんの言う企業が考えた個人目線に立った「ビジョン」というものがとても大切なのです。

そして、島田さんが挙げてくださった「ビジョン」には、脳神経科学的な観点から考えてもすばらしい要素が2つ含まれています。

一つ目は、問題解決からではなくビジョンからスタートしたという点。もう一つは、その内容がポジティブである点です。

ビジョン、つまり「どう在りたいか」という問いについて考えさせることは極めて有意義です。社員は、働いていてハッピーだったときの出来事やどこかで見聞きして感銘を受けたことを脳内の記憶から引き出すでしょう。社員たちの海馬にある「エピソード記憶」が探られるのです。

このエピソード記憶は、偏桃体という部位の「感情記憶」を引き出します。当然、ポジティブなエピソードを引き出しているので、それに伴う感情もポジティブなものになるでしょう。このポジティブな感情が、人が行動する上でとても大切。いわゆる「モチベーション」にもつながります。

よく「自分ゴト化が大切」と言われますが言葉だけが独り歩きしてますよね。要は自分のエピソード記憶と絡めて、ポジティブな感情を引き出し、そのエネルギーを元に自分の脳で考え、決め、行動する、その一連の流れのことなのです。

ですから、働き方、生き方のビジョンについて社員に考えてもらうということは、生産性を高める上で結果的に理にかなっているように思います。

株式会社DAncing Einstein 代表取締役 青砥瑞人

ポジティブな感情を生み出すビジョンの力は本当にパワフルです。未来への期待感という脳の状態は、脳に「ドーパミン」という物質を誘発します。誘発されると、ワクワク感はもちろん、集中力、記憶力、思考力も高まります。

このドーパミンは、実際に報酬を得たときよりも、報酬を予期したり、期待しているときにこそ多く出ます。ビジョンにも、その効果もきっとあるでしょう。

ー働き方を自分で決めることが大切、だから “Anywhere and Anytime” と社員にゆだねたのですね。

島田 はい。では、働く場所と時間を自由に選べるようになった社員が、どのような環境だと生産性が上がると感じているかというと・・・

  • 集中できる
  • 電話や会話などで邪魔されない
  • 静けさ
  • 心と時間に余裕がある
  • ラッシュ時の通勤や業務の重複など、価値を生まない(NVA)ことをしなくていい

などです。

青砥 この ”Anywhere” も “Anytime” もとても意義深いです。重要なポイントは、AnywhereもAnytimeも「オプション」として提示しているということ。

人によっては、いきなり「働き方を考えろ」と言われても難しい。考えること自体脳のエネルギーを消費しますし、決められた枠の中で仕事するほうが心地よく感じる人もいるわけです。

そのような人は、会社に決められた場所で、決められた時間に働くのが良い人はそれを選択することもできる。その上で、自分で働き方を考えられる、あるいは考えたい方にとっての選択肢を拡張するための ”Anywhere, Anytime” なのです。

AnywhereとAnytimeをうまく使いこなせるとさまざまなメリットが考えられます。

Anywhereのメリットは、記憶の引き出しやすさです。例えば、いつもと同じデスクで頭にインプットした情報が訪問先の会議室で思い出せなかったという経験は誰しもあるでしょう。これは、いつもと同じ場所という背景の情報が記憶の助けになっているからです。

情報をインプットする場所を変えれば、こうした事態を防げるかもしれません。場所というバイアスを制限し、必要な情報を脳から引き出すことができるようになるのです。

Anytimeのメリットについて、そもそも人のバイオリズムは皆同じではありません。眠気など集中に影響をおよぼす脳内の伝達物質の分泌度合いは、人や時間によって異なります。朝型を推奨する風潮がありますが、全員に画一的に働いてもらうのは生産的とは言えません。

ですから、社員一人ひとりが自分の体のサインに気づき、どんなときに、どんな場所で、自分のパフォーマンスがどう変化するのかを見つめ、自分に合った働き方を追求していけるとよいでしょう。それを企業がサポートする体制や環境を整備すれば、新しい働き方が生まれる気がします。

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田由香

島田 自分で決めると自己効力感は高まるし、仕事の責任を自分で取れるようになる。「WAA」を始めてから、「会社から信頼されていると感じるようになった」と社員も言います。

仕事を明確にし、結果を出して、会社に「NO」と言う

ーWAAのような制度がないチームの場合、働く環境をメンバーが自分で最適化・個別化するのは簡単ではありません。

島田 そうですね。社員の生産性が高まり時間的な余裕が生まれると、会社はそこに新たな仕事を入れようとする傾向があるかもしれません。

マネジメントの立場である私がこんなことを言うのもなんですが、今の私たちは「やらされ感」で仕事をしすぎなのではないかと思うんです。

必要なことは、会社や上司、相手に対して「NO」と言えること。そのためにまずは、「仕事をやらされている」自分の状態に気づくことが重要なポイントです。

—会社や上司に「NO」と言うなんて・・・と臆する人もいそうです。

島田 でも、新しい働き方を受け入れ、率先して行動しているリーダーもたくさんいますよね。これからの時代、変われないリーダーはこっちから「NO」ですよ(笑)。そして今のこの流れは「NO」ということに対する私たちが無意識に持っている恐れを手放すとってもよいチャンスだと思うのです。

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田由香

「この会社にはお世話になったから」と骨を埋める美徳もありますけど、もっと主張していいはずだし、自分がハッピーでないなら辞めたっていい。

企業だって、社員に仕事をやらせることを考えるのでなく、「社員にハッピーに働き続けてもらうためにどうするか」がこれからの命題。変われない企業は、もはや個人に選んでもらえなくなります。だからこそ大事なのは、自分にとってハッピーとは何かを一人ひとりが分かっていることだと思います。

—そうした気概を持った上で、「どこでも、いつでも働ける」を実現するためにメンバーとその上司であるマネジャーに求められることは?

島田 「WAA」を通じて多くの企業とやりとりする中で確信したのは、個人の生産性を高める上で重要なのは「自分の仕事が明確であること」なんです。

自分たちはどんな働き方をしてもいい。だけどその代わり、自分のやることは明確にして、結果は出す。働き方だけ変えてもダメなんです。

そして、自分たちの仕事を明確にするためには、メンバーとマネジャーが対話をすること。相手のニーズを聴き、自分のニーズを伝える。

会社が目指していることをマネジメント・マネジャーが本当に理解して腹落ちさせていれば、それを実現するのに自分が何をするべきなのかが分かります。そこで初めて、マネジメント・マネジャーは自分のチームメンバーに何をしてほしいと思っているのかを伝えることができます。

つまり、マネジャーは会社の目標や優先順位を自分ゴトとして理解している必要があります。また、メンバーには、自分がどうすれば成果が出せるのかを理解してもらう対話を行い、メンバーを信頼してまかせながらもチームとして成果が挙げられるようにファシリテートしていく力が、これまで以上に求められます。

青砥 大切ですね。社員一人ひとりは、自分の仕事や働き方、環境、ひいては生き方を誰の脳でもなく、自分の脳で考え、自分で決めるんです。

しかし、それが独りよがりであっては結局は機能しません。会社での他者との関わりも含めてどう在りたいかを、自分で考え、行動することが大切です。

株式会社DAncing Einstein 代表取締役 青砥瑞人

人と人との関わりの世界において、「完璧」という環境はありえません。だからと言って、仕事がうまくいかない理由を会社や他者に求めてはいけません。自分の問題、自分ゴトとして捉えなければいつまで経っても成長できないのです。

「上司にいつも話しかけられるから集中できない」ではなく、「上司と話すタイミングをうまく設定して作業の中断を回避できる方法はないか」。「まわりがうるさいから集中できない」ではなく、「まわりがうるさくても集中できる環境を作るにはどうすればよいか」、と考えることが大切です。

では、自分にとって良い環境とは何か。自分で自分のことを知るのは簡単ではありませんが、自分のことを一番見られるのは自分であることもまた事実。毎日5分でもいいので、自分のことを観察すると良いでしょう。自分の感情、ワクワク、ストレス、集中状態が、どのような環境でどのように変化したかメモするといいかもしれません。

そしてチームをマネジメントする上司の方は、「一人ひとりが異なる」というマインドセットを持つことが大切です。もちろん、一人ひとりに異なる対処をすることは大変ですが、その違いを認識し、少しでもその想いを持って接することが必要です。

島田さんの例はそのお手本です。チームの部下に寄り添うということは、耳を傾けるということ。すると、彼らは自分の脳でモノゴトを考え始めるので、自分ゴト化されやすく、ですから生産性にも良い影響が表れているのでしょう。

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[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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