目標、会社に押しつけられてない? 働く意欲が湧いてくるヤフー流 最高の目標設定術

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一年も終わりにさしかかり、社内で一年の振り返りや来年の目標設定の場を設ける企業も多いでしょう。けれども漠然とした抱負を述べるに留まったり、会社が設定した目標を押しつける形になったりと、その場が形骸化してしまっていることはないでしょうか。

では、「エクセレント・カンパニー」と呼ばれる企業はどのように振り返りや目標設定を行っているのかーー。今回は、ヤフーで「1on1ミーティング」など人材育成の仕組み作りに携わってこられた吉澤幸太さんに、ヤフー流の振り返り・目標設定の方法を伺います。

ヤフー株式会社 コーポレート総括本部カンパニーPD本部コーポレートPD部 吉澤幸太

PROFILE

ヤフー株式会社 コーポレート総括本部カンパニーPD本部コーポレートPD部 吉澤幸太
吉澤幸太
ヤフー株式会社 コーポレート総括本部カンパニーPD本部コーポレートPD部
某出版社の宣伝部にて広告制作ディレクターを務めたのち、ヤフー株式会社に企画職として入社。主にメディアサービスのプロデューサーとして提携事業やコンテンツ調達の仕事に携わる。その後、人事部門に異動し、組織開発および人材育成を中心に社内研修の開発と運営を担当。現在は同社で管理部門の人事業務全般を見ながら、特に管理職の育成に力を注いでいる

目標=会社からの「押しつけ」になっていないか?

ーもうすぐ年末です。来年の目標を設定して部下に奮起してほしいと考える上司もいます。

そうですね。しかし、会社によっては「振り返り・目標設定」の場がタスクの進捗確認や会社から降りてくる目標を部下が押しつけられる場になってしまっているかもしれません。

ヤフーも以前は、部下の話をあまり聞かず、上司が一方的に指示して動かすスタイルが一般的でした。そのほうが成果が上がると信じていた人が多かったのだと思います。

でもそれだと、部下は言われたそのときは頑張りますが、指示がなくなればまた動かなくなってしまう。

「今年成果を出し切って来年たたみます」って会社ならそういうやり方でもいいんです(笑)だけどヤフーは「これから何百年も続く会社にしよう」と言っているわけですし。

ーヤフーの目標設定のあり方が変わったきっかけは何だったのでしょうか。

2012年6月に宮坂が代表取締役社長になってからですね。就任した翌月くらいには「上司の定義を変えます」と言い出して。

「これからの上司の役割は『部下が活躍できる舞台を作ること』。才能と情熱を解き放ち、組織として成果を挙げていくことだ。ヤフーはこれから『人財開発企業』になる」、と。

ヤフー株式会社 コーポレート総括本部カンパニーPD本部コーポレートPD部 吉澤幸太

それとときを同じくして、上司と部下とで週一回30分、1on1ミーティングを始めることに。部下が掲げた目標に照らして、適時フィードバックをするのが上司の仕事の一つとして加わったんです。

ただ一方で、「上司一人に部下が30人もいて、1人につき毎週30分の時間を設けるとか無茶だよ」という意見も当初はありました。

それで、上司一人あたりの部下の人数を数名にするなど、振り返り・目標設定を適切に運用できるよう組織のほうを変えていったんです。

目標と会社の期待値、完璧に一致する必要はない

ーヤフーではどのように振り返り・目標設定を実施していますか。

年末年始に、というわけではありませんが、半年単位での目標設定と、1~2週間といった短い期間での振り返りの場は大切にしています。

以前は四半期サイクルで行っていましたが、短期的な目標だけだと普段の会話が目先の利益・ノルマの話になりがちで、大粒なプロジェクトが前に進まなくなるという課題があったんです。

宮坂はニーチェの言葉を借りて「脱皮しない蛇は死ぬ」という表現を使うんですが、新しくてより大きな仕事を長期的な目標に置くことで、新陳代謝を上げようとしています。

ヤフー株式会社 コーポレート総括本部カンパニーPD本部コーポレートPD部 吉澤幸太

目標を設定するときは、ヤフーではできるだけ「社員個人がやりたいこと」に目を向けるようにしています。

なぜなら、この世で一番小さいユニットは「個人」。その個人が今は偶然ヤフーという会社で一緒に仕事をしている。だけどそれぞれ時期が来れば、いつかは散らばっていくのも事実だからです。

宮坂も「自分株式会社」という言葉をよく使っていて、「自分という会社には仕事事業部だけでなく、趣味事業部、家族事業部もある。それを一人ひとりが自分でマネジメントし、意思決定する。そのうち仕事事業部(ヤフー)では、自分一人では解決できない規模の課題に取り組もう」、と。

ただし、チームで課題を解決していくということは、会社からの期待にも応えなければいけません。個人がやりたいことに目を向ける一方で、会社と目標のすり合わせはしないといけません。

だけどそのとき、「自分がやりたいこと」と「会社がやってほしいこと」がかならずしも完璧に一致している必要はありません。実際この2つが完全一致することなどあり得ませんよね。

ポイントは、同じか違うかの二択ではなく、重なる部分はどこなのかを探っていくことです。

自律的な目標設定を助ける「カルテ」に書かれた3つの質問

ー振り返り・目標設定の場ではどのような工夫をされていますか。

「人財開発カルテ」というツールを使い、一人ひとりが自律的なキャリアを描くための支援をしています。人財開発カルテで社員が答える質問は、大きく分けると3つ。

1つめは「自分は今どういう状態にあるか」。自分の強みと業務上の課題、「ヤフーバリュー」という行動規範と照らし合わせて自分はどうか、ということ。2つめは「3年後にどうありたいか」。3つめは「そのためにこの会社(ヤフー)でどんな経験をすればいいのか」。

上司はそれを読んで、「こういうことを考えていたのか」と分かる。また、1on1ミーティングなど普段話す際の材料にもなりますよね。「こんなこと書いてたよね。あの考え、最近はどう? 変わってない?」とか。

ー目標を上司と共有することで部下の納得度が上がりそうです。

はい。ちなみにヤフーでは目標を「山」に例えることが多い。「山」という例えは宮坂が山登りが好きで、よくいろんなことを山登りに例えて社員に話すのでそれが浸透してしまったんですけど(笑)

登る山は多くても3つにしようと。4つ、5つだと結局登りきれませんから。1つだっていい。「この山はこういうテーマで、だけどこういう課題があるから自分はこういうことをやる。そうすることでこんな結果になるんじゃないか」と、自分の言葉で語れるようになろうと。

会社が期待する成果とのすり合わせをしたうえで、その人にとってちょっとだけ高く感じる、背伸びしてやっと届くくらいの高さの山がいい目標ですね。高すぎると、登り始める前から諦めムードになってしまいますから。

部下に答えを急がせない、一番大事なのは「傾聴」

ー部下と目標の振り返りやすり合わせをする1on1ミーティングではどんな会話をするのでしょうか。

ヤフーにとって1on1ミーティングは、部下一人ひとりの才能と情熱を解き放つことを目指し、部下自身が仕事での経験を言語化することで学びに変える経験学習を促進する場です。そのために上司は部下に内省を促し、気づいたことをフィードバックしています。

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「今回と同じような事態がもう一度起きたら次はどうするか? 思いついたアイデアを試す機会はどうやって作ればよいか?」と、部下に自分の頭で仮説を立てさせ、言語化させる作業を繰り返すんです。

人って「どうだった?」と尋ねられることがきっかけで、過去のことを振り返ったり、深く考えさせられるものだと思います。すべて自問自答だけで上手に振り返りができる人ってそう多くない。他者から率直に尋ねられることが、振り返りにとって強力な後押しになるんです。

そのとき上司に求められるのは「傾聴」です。部下がどんな意見を言ったとしても、とにかくその話を最後まで聞き切る。そうすれば、部下は「聞いてくれている」と感じ、「自分のやりたいこと」をもっと語り始めます。

慣れないと部下の話をさえぎって上司が話し始めてしまうこともあるでしょうけど、傾聴は「スキル」なんです。つまり、練習すればできるようになる。

極端な言い方をすると部下の話に適切にうなずいたり、部下の言ったことを丁寧に反復したりするだけでも、部下とのコミュニケーションがかなり変わるんです。

部下から出てきた意見が、上司の考えや会社の方針と合っているか、世間的にどう思われるかはあとで考えればいい。まずは部下の考えを表に出すことに集中し、傾聴することが肝心です。

ー傾聴して、部下から自発的な目標を引き出すのですね。

はい、そのうえでフィードバックします。「部下の話をよく聞く」というマネジメントスタイルって人に優しい感じがしますけど、かならずしもそうではない。しっかり話を聞いた上で、部下の成長に役立つなら、厳しいこと、言いにくいことでもハッキリと伝えることがセットです。

上司からの問いかけや周囲からのフィードバックがあって、部下は考えを深めたり幅を広げたりします。部下からすれば「その人の下で成長できるか」が重要ですから、上司はきちんと導かなくてはなりません。

問いかけに対し「3年後のことなんて分かりませんよ」と、その場では部下が答えられなかったとしても、聞かれることで一人の時間に戻ったときに「あの場では思い浮かばなかったけど、そういえばこんなことやりたかったんだったよな」と、考えるきっかけになります。

ヤフー株式会社 コーポレート総括本部カンパニーPD本部コーポレートPD部 吉澤幸太

できれば、1on1ミーティングのように立てた目標について定期的に話す場があるといいですね。

毎週、「今週はどうだった?」と同じ質問で始まることが分かってくると、部下も「今日はどんなことを話そうか」と事前に準備するようになります。その準備が、すでに部下にとっては振り返りなんですね。

目標設定の土台となるのは信頼関係、上司からアクションを

ー部下の目標設定を手助けする上司にアドバイスをお願いします。

まずは「部下が本当は何を思っているのか」を一度聞いてみることから。最初からは素直に答えてくれないかもしれないけれど、「実はどう思ってるの?」と聞いてみるのはありです。

いきなり「将来、何やりたいの?」なんて尋ねるのは照れ臭く感じたり、踏み込み過ぎだと遠慮する気持ちが働きそうなものですが、聞かれた部下のほうはそれほどでもないと思います。

案外ポロっと今まで聞いたことがないような話が出てくるかもしれません。その話は今後、その部下と接するうえで上司にとっては大事な情報になりますよね。

こうしたやり取りの中で大切なのは、ヤフーの管理職向け研修では「承認」という言葉に絡めて紹介していますけど、まずは相手の考えを一旦そのまま受け止めることです。

簡単ではないけれど、部下の意見に賛同するかしないかは後まわしにして、「部下の考えは何か」そして「部下がなぜそう考えたのか」に耳を傾けてほしい。

また、1on1をどんなムードでできるかは、普段どれだけきちんと信頼関係を築いているかにかかっています。席の後ろを通るときに一見無駄に思えるような声かけをする、廊下ですれ違ったときに自分から声をかける、とか。

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もうすぐ正月休みですし、振り返り・目標設定にはいい時期、いいタイミングですよね。

普段自分の話を誰かがずっと聞いてくれることってなかなかないですよ。たとえ言いたいことを言い合うようなお酒の席であっても、あなた一人の話だけを30分さえぎらずに聞いてもらえることなんて、日常の中ではきわめて稀なことです。

「今の仕事、どう?」って投げかけられて、上司がずっと話を聞いてくれたら、もしその場で答えが見つからなくても、その問いは部下が里帰りしたときにでも頭の中に残っていたりするんじゃないですか。

「◯◯さんに尋ねられて上手く答えられなかったけど、実際のところ自分はこれからどうしたいんだっけ?」って。

[取材・文] 岡徳之、大矢幸世

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