「おもしろい」を意図的に起こすには? 12のパターンでアイデアを生み、人を巻き込む

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人びとの心をつかむサービスを企画したいとき、あるいは社内プロジェクトに優秀な人を招き入れたいとき、あなたならどうしますか――?

さまざまな方法が考えられますが、自分の身に置き換えると、「おもしろそう」と感じたとき、モノやサービスを購入したり、新しいプロジェクトにジョインしたりするのではないでしょうか。もしこの「おもしろい」を意図的に起こすことができれば、ビジネスにも応用できるかもしれません。

実はこの「おもしろい」という一見曖昧な感情を、学術的に著した論文があるそう。その論文を抄訳したのが、神戸大学大学院で准教授を務める服部泰宏さんです。ゼミでは人材採用を行動科学的に研究する「採用学」に取り組んでいる服部さんに、「おもしろい」とは学術的にどう定義できるのかそれをビジネスに活用するにはどうすればいいか、伺いました。

神戸大学大学院経営学研究科准教授 服部泰宏

PROFILE

神戸大学大学院経営学研究科准教授 服部泰宏
服部泰宏
神戸大学大学院経営学研究科准教授
2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。滋賀大学経済学部専任講師、准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授を経て現職。主として、日本企業における組織と個人の関わり合いに関する行動科学的研究活動に従事。2013年以降は、人材の「採用」に関する行動科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた研究・活動にも従事している。

「おもしろい」には12通りのパターンがある

―経営学を専門とされている服部さんが「おもしろさ」に注目するようになったのは、なぜですか。

私たちのゼミでは普段、学生と一緒に、新しい人事や採用のあり方について議論をしているのですが、「こんな採用活動をしてもらえたらおもしろい」「こんな企業だったら自分も働いてみたい」といったように、既存のモノの見方とは違う角度から発想してもらえたら、と考えました。

ただ、一言で「おもしろい」と言っても、ゲームをプレーしているときのおもしろさとはまた違うだろうし、もっと「おもしろい」を要素分解できるのではないかと考えたのです。

それで、過去の研究を探ったところ、1971年に社会学者のデイヴィス・マレーによって書かれた「That’s interesting」という論文に行き着きました。彼自身は特に著名な研究者というわけではないのですが、「おもしろい」ということを生真面目に論じている。

私自身、駆け出しのころによく、「やりたいことは分かるけど、それって、おもしろいの?」「その研究にはどんなおもしろさがあるの?」といった言葉を投げかけられました。学問の世界でも「それはおもしろいのか」「interestingなのか」という議論はよく起こるんです。

「おもしろい」というのは、人間にとってとても本質的な感情ですよね。ですから、その論文に基づいて、「おもしろい」を整理し、研究活動や経済活動に活かすことができれば、その活動に取り組むこと自体が「おもしろく」なるのではないか、と考えました。

神戸大学大学院経営学研究科准教授 服部泰宏

―ビジネスにおいて、データドリブンだけでは「想定の範囲内」に収まってしまい、多くの人を驚かせるような先進的なモノやサービスが生み出しにくいのではないか、という懸念があります。そこに「おもしろい」という判断基準が加わることで好循環を生むこともあるのでしょうか。

そうですね。研究においても、社会学や教育学などさまざまな分野が、学際的に関わり合うことも増えています。そのなかである種、一つの方向性として「おもしろさ」を求めることが、共通言語になっているのかもしれません。

それにアメリカでは近年、組織開発論において「Joyful」や「Playful」が重要だと論じられているんですよ。それこそ教育学でも古くからある「セサミストリート」はまさにそういう考え方。「おもしろいことは、仕事でも重要だよね」という共通認識が広がりつつあると言えるのではないでしょうか。

そんなおもしろさを適切に要素分解して、枠組みとして共有していれば、前もって「今回はどのおもしろさを狙うのか」といったことがデザインできるようになるはず。そうでなければ、ただ「おもしろいかどうか」の結果論になってしまいますからね。

―では、デイヴィス・マレー氏が論じた「おもしろい」とは、どういったものでしょうか。

そもそも一般的に、おもしろさは大きく二つに分けられます。一つは、論理的な説明がつけられないおもしろさ、つまり「Fun」に近いもの。もう一つは、論理的に考えられる知的なおもしろさ、まさに論文名にある通りの「Interesting」です。

そして、特に後者に関して、12通りのパターンがあると指摘したのがこの論文です。比較的硬派な論文ではあるので、個人的に抄訳して解釈したのが、以下のような内容になります。

(1)普遍性 Generalization

ある特定の分野にしか当てはまらないとみなしているものが普遍的だった、あるいは普遍的なものと思われるものが局地的な分野にしか当てはまらないと、おもしろい(例:非効率とみなされていた官僚制組織が、ある条件のもとではイノベーションの要因になる)。

(2)組織性 Organization

無秩序だと思われていたものに秩序を見いだす、あるいは秩序の中に無秩序を見いだすと、おもしろい(例:渡り鳥の群れは一見して無秩序だが、一羽一羽の行動メカニズムは極めてシンプルに保たれている)。

(3)因果 Causation

原因だと思っていたことが実は結果だった、あるいは結果だと思っていたことが実は原因だと、おもしろい(例:強い組織や強い職場は、強い個人によって支えられているが、一方で強い組織や職場からこそ、強い個人が生まれる可能性がある)。

(4)反対性 Opposition

類似していると思われていたもの同士が実は正反対の性質を持っていた、あるいはその逆だと、おもしろい(例:政治学において、極右と極左は「自己の真理に対する絶対的信仰」という意味で、同じ根源にある)。

(5)共変動 Co-variation

ある特定の二つの要因は「正の共変関係(同方向)」と思われていたのが、「負の共変関係(逆方向)」あるいは「非線形(U字や逆U字)」であると、おもしろい(例:不確実性が高くなるほど、組織は今までとは違う「新しいこと」を仕掛けていくようになると思われているが、むしろ、組織に「慣性のロック」がかかって硬直的になる)。

(6)共存性 Co-existence

共存しないと思われていたものが共存しうる、あるいは、共存すると思われていたものが相容れない場合があると、おもしろい(例:愛と憎しみは表裏一体である)。

(7)相関関係 Co-relation

相互に独立していると思われていたもの同士の間に関係がある、あるいは相互に依存していると思われていたもの同士の間に実は関係がないと、おもしろい(例:風が吹けば桶屋が儲かる)。

(8)機能性 Function

ある目的を達成するために、まったく意図しないものが実は重要な機能を果たしていると、おもしろい(例:一見無駄と思われた会議が、実はメンバー間の知識共有を重層化し、コミュニケーションを活性化する機能があった)。

(9)抽象 Abstraction

個別事由と思われていたことが、実は社会全体の問題だった、あるいはその逆だと、おもしろい(例:街中で落ちているゴミを拾うかどうかは、その人が「善人」であるかどうかだけではなく、その地域の人間関係の良好さやコミュニティの親密さなど、より社会的な要因にもよる)。

(10)複合 Composition

単一と思われていたものが複数の異質なものから構成されている、あるいは異質なものの集積が、実は同一のものの集積であると、おもしろい(例:「企業文化」とは一つの企業に一つの文化があまねく共有されているものだとされているが、実は、年代や部門、職種によって異なっている)。

(11)評価 Evaluation

否とされていたものが可だった、あるいはその逆だと、おもしろい(例:過度の飲酒は健康を害するが、適度ならストレス解消効果や血行促進効果があるため、健康に良い)。

(12)安定性 Stabilization

不安定なものの中に安定性を見いだす、あるいは安定しているものに不安定性を見出すと、おもしろい(例:経営学者のチェスター・バーナードによれば、一見安定している組織には、1. 共通目標、2. コミュニケーション、3. 貢献意欲の三つの条件が揃わなければ成立しない。そのため、組織は不安定である)。

相手と自分の「おもしろさ」をすり合わせることで最適解が生まれる

―「おもしろい」を12パターンに分類してみると、確かに頷けるものばかりです。服部さんが特にビジネスにおいて重要と考えている要素はどんなことでしょうか。

(8)の「機能性」は特に重要だと思いますね。

例えば、かつて多くの日本企業が朝礼を行い、企業理念を唱和していましたが、「無駄なのではないか」と辞めたところもあります。けれども辞めた瞬間、人間関係がギスギスしはじめ、コミュニケーションがうまくいかなくなった、ということも聞きます。おそらくそれは「企業理念を理解する」という意図以上に、社員同士の声色で調子を知るための機能を果たしていたのでしょう。

「意図しない機能に気づく」というのは、多くの人が持っておくべき視点だと思います。新しいことを始める際、意図しないことや人に影響を及ぼす可能性は常にあるということ。新規事業立ち上げもそうですよね。新たな潜在顧客ばかり見ていると、既存顧客が離れてしまうこともある。

例えば、自動車メーカーのBMWはエントリーモデルでも300万円以上の車を発売していて、それより安い車は出そうとしない。それは、BMWに高級感を期待して購入している既存顧客のためのマーケティング戦略だと思うのです。

それと(5)の「共変動」は、例えば社内調和を図るうえで、定期的に飲み会を開こうという施策があるけど、調和があまりに過度になると、友人関係に近くなって、お互いに気を遣って言いたいことを言えなくなってしまうかもしれない。一つの尺度では測れないことも多いですよね。

神戸大学大学院経営学研究科准教授 服部泰宏

この論文では便宜上12パターンを明確に分けていますが、厳密的には二つ以上がセットになっていたり、密接に関係していたりするんです。そして、先ほどは「Fun」と「Interesting」を明確に切り分けましたが、実は根底のところでつながっていると思うんです。

例えば、落語家で人間国宝の桂枝雀さんはかつて、笑いは「緊張の緩和」によって起こると定義していて、なかでも、私たちが常識だと思っていることが意外な展開で不安定になると、そのギャップによって笑いが起きる、と言っています。それはまさに「Fun」に通じるところがありますよね。

しかもそれは、ギャップが大きすぎてもおもしろくなくなってしまう。日常と地続きのことを話しているからおもしろいのであって、SFやファンタジーのように日常とかけ離れてしまうと、「そんなことありえない」と感じる人もいるでしょう。社内のレクリエーション活動が、あまりに日常と離れすぎてしまうと、おもしろくなくなるのもそういったことです。

―この12の「おもしろい」のパターンを、服部さんのゼミでは具体的にどのように活用されていますか。

ゼミの風景

学生たちがこれからの採用のあり方を考えるうえでアイデアを出す際、この12パターンを使って、他者とおもしろさを共有するために活用しています。何か特定のアイデアに対して、「このおもしろさは、組織性と複合性が関連しているね」などと、振り返るための枠組みとして使っています。アイデアを比較検討する際に、「20代にとっては、機能性は堅苦しく感じられるけど、普遍性は共感を呼びやすい」といったような感じです。

例えば、「面接の代わりに三日三晩キャンプをする」という企業があって、選考を受ける学生たちにとっては「おもしろい」と感じるけど、日常との距離の許容度も人によって異なりますから、実際に導入する人事部の部長にとっては「飛躍しすぎなんじゃないか」と感じられることもある。そういったとき、自分の主観的な基準で「おもしろいからいいじゃないですか」ではなく、相手にとっての常識を聞いて、相手にとっての「おもしろい」の幅を理解したうえで、お互いの「おもしろさ」をすり合わせて納得してもらう

相手からヒアリングすると、自分たちの常識が常識じゃなかったのに気づかされることがあるんですよね。そしてそこから飛躍したり、ズラしたりすることで適切なギャップが生まれて、「おもしろい」を共有することができるんです。

―確かに、人によって何をおもしろいと感じるかどうかはかなり差がありますね。

学生たちに採用に関するさまざまなアイデアを出してもらうと、「飲み会で選考をして、本音ベースで語り合ったほうがおもしろい」みたいなのが出てくるんですけど、現実にはそれが多く広まっているわけではないじゃないですか。だから、学生たちと企業の採用担当にはかなり差があるということですし、逆に企業側が「おもしろい」と思っていたことが、学生にとってはそうでもないこともありますよね。

自分だけが笑う笑いと、人が笑う笑いとは違います。いちばん理想的なのは、自分がいいと思うことが、他人にとってもいいと思えることですよね。そのベクトル合わせをするときに使えるのが、この12パターンなんです。

神戸大学大学院経営学研究科准教授 服部泰宏

「おもしろそう」は、多くの人の興味を引きつける

―服部さんご自身は「おもしろさ」にどんな可能性を感じていますか。

アカデミックの世界では当然、成果物におもしろさは求められていませんが、それを取り入れることでより他の人にも伝わりやすくなるのではないか、と考えています。

「おもしろさ」って、すごくパワーがあると思うんですよ。「この人の話を聞いてみようか」と、一度でも思わせられる。芸人さんは、一つのネタに「つかみ」と「オチ」を用意しているからこそ、みんなの興味を引きつけることができる。それなら、私たちもそれを取り入れてみてもいいんじゃないかと思うんです。

―ビジネスにおいても、何か横断的なプロジェクトに取り組む際、より多くの人を巻き込む必要があります。そういった面でも「おもしろそう」と思ってもらうことが、成功への道筋になるかもしれません。

そうですね。そもそも、人に語れなければ、研究内容を言語化できないんですよ。「自分はこういう理由でおもしろいと思っている」と伝えて、それが共感されなければ、独りよがりに閉じてしまうかもしれない。そこに科学との差があると思うんです。

神戸大学大学院経営学研究科准教授 服部泰宏

―とはいえ、多くの人が仕事に対して、「おもしろさの対極にあるもの」というイメージを持っていると思います。そんな人の意識を変えるためのヒントをいただけませんか・・・?

やはり昭和、平成と「おもしろいことは就業時間以降にある」と、多くの人が考えてきましたよね。でも令和になって少しずつ変わってきたと思うんです。最近注目されている「心理的安全性」も、要はぶっ飛んだアイデアやジョークをメンバーや上司に言えるかどうか、ということ。

実際、おもしろい採用活動を行っている企業を観察してみると、アイデア出しのときに場所を変えていたりするんです。上司もいないところで、若手だけでカフェに行って、コーヒーとケーキを食べながら、ブレストしている。何もない堅苦しい会議室でアイデアを出そうとしても、飛躍的な発想は生まれませんよ。

―確かに。

それに、やはり「異分野から学ぶ」というのは、イノベーションの鉄則なんですよね。同じ分野の書籍を読んでいても、なかなかアイデアは出てこない。

私自身も、お笑いライブを観に行ったり、『(人志松本の)すべらない話』を観ながら「これがおもしろいのはどういう要素なんだろう」と考えたりするんですけど、そうやって、面白さを観察しながら12パターンに要素分解することを習慣づけていると、まったく関係のないことを考えるときにも思いがけないアイデアが出てくるんです。

神戸大学大学院経営学研究科准教授 服部泰宏


[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 八月朔日仁美

 

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