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INTERVIEW
「始めは誰もが無関心だった」全国の経済連合会を巻き込むリンカーズの交渉術
INTERVIEW

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BOOK MARK

日本の大企業、特にメーカーにとって、優れた技術を持つ中小企業とのネットワークはまさに「生命線」。消費者のニーズにあった製品をいち早く形にし、世の中に提供する、そのスピードが、変化の激しい時代におけるビジネスの勝敗を決するからです。

しかし、大企業の担当者だけで、全国に散らばる無数の企業の中から要望に応えてくれる企業を探し、また見極めるのは至難の業。そうこうするうち、消費者のニーズが別のところへと移り変わり、商品化を諦めざるを得なくなったケースも珍しくありません。

そうした企業間のマッチングの課題を解決し、今急成長を遂げているのが、「日本最大級」のモノづくり系クラウドソーシングサービス「リンカーズ」です。利用社にはバンダイナムコグループなど大企業が名を連ね、全国3万社以上の中小企業とのネットワークを提供。開始から2年半で「300」超のマッチングを実現し、数々の新商品の誕生を影で支えてきました。

日本最大級のモノづくり系クラウドソーシングサービス「リンカーズ」

中には、「1年以上探し続けて見つからなかった開発パートナーが、リンカーズに頼んだらたったの2週間で見つかった」という声も。なぜリンカーズでは、これほどまでに高精度なマッチングが可能なのでしょうか。

そのカギを握るのが、全国各地の「経済連合会」など産業支援機関に所属し、マッチングの現場で活躍する、3000名以上の「産業コーディネーター」たちの存在。リンカーズは「Web」と「人」の力を組み合わせることで、最適なマッチングを提供しているのです。

リンカーズを運営するのは、京セラ、野村総合研究所を経て起業した、前田佳宏さん。前田さんは、コーディネーターたちを巻き込むため、全国各地の組織一つひとつと交渉。350以上の機関との提携を実現し、ついに国内のハブ企業をすべて網羅しました。

今でこそ大企業、中小企業、双方にとって欠かせない存在のリンカーズですが、始めは多くの産業支援機関に冷たくあしらわれ、訪問した前田さんも厳しい言葉で追い返されるなんてことが何度もありました。リンカーズ、そして前田さんは、どうして全国の各機関を巻き込むことができたのか。その無関心な相手を協力者に変える術について、お話を伺いました。

リンカーズ株式会社代表取締役CEO 前田佳宏

PROFILE

リンカーズ株式会社代表取締役CEO 前田佳宏
前田佳宏
リンカーズ株式会社代表取締役CEO
大阪大学工学部卒業。2000年、尊敬する稲盛和夫さんの下ではたらきたいと京セラに入社、主に海外営業に従事。2006年、野村総合研究所へ移り、製造業を中心に事業戦略、M&A戦略立案などのプロジェクトで活躍。メーカー同士のマッチングに課題を見いだし、2012年、Distty株式会社(現・リンカーズ)を設立。日本最大級のモノづくり系クラウドソーシングサービス「リンカーズ」と、Web展示会システム「eEXPO」の開発・運営を行っている

中小企業がホームページに載せていない技術情報すら持っている

ー主力サービスの「リンカーズ」について教えてください。

リンカーズは、日本最大級の「モノづくり系クラウドソーシングサービス」です。主に大企業である発注企業と、優れた技術・製品を持つ開発パートナー、あるいは出資先となり得る、全国の中小企業とをマッチングしています。

現在、3万社以上の企業、それを支援する450以上の産業機関、各機関に在籍しマッチングの現場で活躍する3000名以上の「産業コーディネーター」にご利用いただいています。国内のハブ企業はすべて網羅していると自負しています。

日本最大級のモノづくり系クラウドソーシングサービス「リンカーズ」

2013年10月にサービスを開始し、2年と半年の間に「300」超のマッチングを行ってきました。そのうち150件以上が直近の半年間で実現したもの。このままのペースで推移すれば、年間500件以上のマッチングを生み出せると見ています。

ーそれだけ企業間のマッチングに需要があったということ。

「社内」のマッチングで事足りるのなら、それに越したことはないんです。社内、もしくは同じグループの中で、優れた技術・製品を持つ部署・会社を探し、見つからなければ「社外」を頼るべき。しかし、多くの大企業では実際にそのようなことは起こっていない。

必要以上に「自前主義」なんです。大企業って「中小企業の集まり」。ならば、まずは社内に目を向けるべきなのに、各部署が与えられた目標に向かって突っ走ってばかり、横につながる仕組みもないから助け合おうにもそれができない。

かと言って、社外に目を向けても、「展示会」でパートナー企業を探すのは非効率。「公的機関のマッチングサイト」だと手続きが煩雑。「技術調査機関」はコストがかかりすぎる・・・。そこに、リンカーズが応えられる、マッチング効率化への需要が生まれたのです。

リンカーズ株式会社代表取締役CEO 前田佳宏

ーリンカーズで生まれたマッチングの事例を教えてください。

例えば、バンダイナムコグループのVIBEと、福島県で「段ボール」を製造している神田産業。VIBEが自宅でカラオケの練習をするための段ボール防音室「だんぼっち」を企画し、段ボールの加工が得意なメーカーを探していました。

だんぼっちの企画はVIBEの社内で評判で、商品化もすでに確定。が、1年経っても開発パートナーが見つからず、それでリンカーズにご依頼をいただいたんです。すると、「2週間」も経たないうちに、先ほどの神田産業さんが見つかりました。

ここの開発部長がとてもユニークな方なんです。趣味が「ギター」なのですが、仕事の休憩中に会社で練習すると、音が漏れてまわりに迷惑をかけてしまう。だけど、気晴らしに練習したい。そこで、防音の段ボールを独自に開発していたんです。

「せっかく作ったこの段ボール、どこか音響系の会社に売れないか」と開発部長の方が模索していたのを、東北経済連合会の「産業コーディネーター」の方が知っていて。VIBEさんに紹介したら、トントン拍子で開発が進んでいきました。

作業服を着ているのが神田産業の方々
作業服を着ているのが神田産業の方々

ーとてもニッチな技術・・・ よくマッチングできましたね。

リンカーズの強みは、この「産業コーディネーターとのネットワーク」なんです。彼らが地元企業の「表には出てこない」情報を持っていて。「神田産業さんが防音の段ボールを作っている」なんて情報、神田産業さんのホームページにすら書いていなかったですよ(笑)

今だから白状しますが、リンカーズを始める前は「Webだけでマッチングを完結させるサービスで当ててやろう」と思っていたんです。クラウドワークスさんとか、フリマアプリで言えばメルカリさんみたいに。しかし、そのねらいがことごとく外れまして・・・。

リンカーズの前身にあたる、マッチングをWebで完結させるサービスを開発したものの、利用者数がなかなか伸びず。それで頭を抱えていたとき、前職時代から親しい仲だった「日本能率協会」の方が、開発パートナーを探している企業を5社も紹介してくれたんです。

Webだけでのマッチングに行き詰っていた私は、知り合いの産業コーディネーターの方に「こういう技術を持った中小企業を探しているのですが・・・」と相談。すると、5つの案件すべて、マッチングが立て続けに成功したんです。その中には先ほどの「だんぼっち」も含まれていました。

それで、大企業と中小企業のマッチングは「人」を介さないとダメだと気づいたんです。産業コーディネーターとのネットワークを核とするサービスに、方針転換しようと。

リンカーズ株式会社代表取締役CEO 前田佳宏

よくよく考えれば、まだ世に出ていない企画、独自の技術に関わる情報を、Web上の、しかも誰が見ているか分からない場所に企業は出したくないですよね。それからは、全国の産業コーディネーターの方々に、「うちのサービスを使ってください」と売り込み続ける日々でした。

自分に無関心な相手を動かすには、熱意を行動とスピードで示せ

ー人間関係で成り立つ世界に新参者として足を踏み入れてみていかがでしたか。

まず無関心ですよね。それに相手からすれば、こちらはどこの馬の骨とも分からないようなベンチャーです。そう簡単に話を聞いてくれるわけがありません。それに、産業コーディネーターの方々、一人ひとりにアプローチしていたらキリがありませんでした。

ここで、コンサル時代に鍛えられた業界分析のスキルが活きました。全国の産業コーディネーターを効率的に巻き込むには、まず誰にアプローチすべきか。300以上の業界の構造を分析し、ネットワークの「キー」となる組織が4つあることを突き止めました。

ネットワークの「キー」となる組織

1つは、「自治体の外郭団体」。大企業のOBが所属し、彼らが地元の中小企業に入り込んでアドバイスやサポートをしているんです。この外郭団体のまとめ役を説得すれば、一気にコーディネーターに使ってもらえるようになるぞと。2つ目が、「自治体」そのもの。

3つ目が、「第3セクター・民間団体」。中でも「地方銀行」の存在がカギで、これまでに約50行とネットワークを築きました。実は地方銀行が、地元企業のマッチングのハブとなっているのです。そして4つ目が、企業と連携している「大学・研究機関」です。

各団体に実際にアプローチしてみて、前田さんのお話に乗ってくれましたか。

いいえ。今では提携にいたっている団体でも、サービスを始めたばかりの2013年ごろは半年間通い続け、その間ずっと、「お前の力なんて借りなくたって、自力でやれる」とか、きついことを言われていました。

それでも、40以上の機関にひたすら「飛び込み」でアプローチをして、でも断られて・・・ というのを続けまして。東北地方を営業でまわってきたとき、コーディネーター200名をネットワークしている、東北経済連合会の「竹内さん」という東北電力から出向で来ていた方がリンカーズに興味を持ってくれたんです。

リンカーズ株式会社代表取締役CEO 前田佳宏

その頃、東北は震災復興支援の後押しもあって、食品メーカーの調子が上向きつつありました。一方、モノづくりはギブアップ状態。竹内さんはそれをなんとかしたいと思っていたんです。それで、「まず無理だろう」と思われていた東北経済連合会との業務提携をねじ込んでくれました。

後日談で、竹内さんいわく、「日本を、中小企業を変えたい」と語ったときの私の目が輝いていた。それで「一緒にやりたい」と思ってくれたそうなんですね。私からすれば、竹内さんのほうこそ思いが強かった気がするのですが。

それからは、この竹内さんと地元の企業や他の地方の連合会をまわりました。

ーそれから提携先を全国に広げるまでは早かったですか。

そうですね。竹内さんと出会って、「キーパーソンの心をつかむ」ことの重要性をあらためて認識しました。それでも、キーパーソンを介せばすべてうまくいくというわけではもちろんなくて、当たり前ですが。

他の地方の機関に行けば、もちろん最初は竹内さんが窓口になってくださるから、私の話であっても聞いてもらえる。しかし、基本的にはまたイチからのスタートですよね。菓子折りを持って通っては、「手書き」のお礼状を出し、通っては、お礼状を出し・・・の繰り返し。

でも粘り強く通い続けるうち、始めは提携に難色を示していた連合会などの方から「宿題」をもらえるようになるんです。「予算を持っている大企業は、今どんな技術へのニーズを感じているのか」など。各団体とも意外と大企業とのパイプがなくて、それを課題に感じていたんです。

その宿題を事務所に持ち帰っては、すぐ調べ、すぐ次のアポを取って、すぐプレゼンする。

リンカーズ株式会社代表取締役CEO 前田佳宏

その「行動」と「スピード」が肝で、それらと相手に伝わる「熱意」は比例する。「熱意があるなら、行動とスピードで示せ」ということです。

なんだか、「古き良き営業マン」みたいなことを言っていますね(笑) でも実際、そうなんです。スピードやレスポンスが遅いと、「口では言うけど、どうせやらないんじゃないの」と思われてしまう。

もし、行動とスピードで熱意が伝われば、たとえ始めは無関心だった相手も、徐々に「こっちも何か返してあげないといけない」と思ってくれるんです。「返報性」というか。

「熱意」の大切さ、これは京セラの稲盛さんから学んだことでもあります。

『人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力』

ー「京セラの稲盛さんから学んだこと」とは。

稲盛さんの「人生方程式」というのがあるんです。それが、

『人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力』

「考え方」とは、事業のアイデアや戦略のこと。「熱意」とは、努力を重ねるために必要なやる気や覇気、情熱。そして「能力」とは、知能や運動神経、健康など、両親あるいは天から与えられたもの。

これら3つの「掛け算」ですから、例えば、熱意が「ゼロ」なら、能力が高くても、考え方が良くても、ゼロ。逆に熱意がプラスなら、優れた考え方や能力をより引き立てて、人生や仕事を好転させるということ。だから、「熱意」が大事なんですね。

前田さんは稲盛さんを尊敬し、京セラ以外入社試験を受けなかった
前田さんは稲盛さんを尊敬し、京セラ以外入社試験を受けなかった

ーでは、熱意を保ち続け、また相手に伝えるには。

これも稲盛さんの言葉ですが、「利他の心」です。いかにして、相手を利するかという思い。この言葉があったから、ときにはある企業の方にオフィスがある山奥で、「こんなサービス、無駄だ」と1時間説教されたこともありましたけど、しつこく通い続けた。

相手に熱意を伝えるときには、「ビジョンを語る」ということを大切にしています。「中小企業を変えたい、日本の産業インフラを変えていきたい」と。竹内さんには、それが伝わったんですね。嬉しかった。

人生方程式にならえば、熱意だけではもちろんダメで。だから、組織のリーダーとして、部下には「考え方」も伝えています。いつも社内で話しているのは、「『ROTI』(Referer of Time Investment)、時間の投資効率を考えよう」ということ。

なぜ、「時間」か。それは、「人・モノ・金・情報・時間」という企業が持つリソースの中でも、時間だけは「非可逆」だからです。空白にしてしまった時間は、もう戻ってこない。ですから、「目の前の打ち合わせをより良くするために、いつ、何をすべきか」、考え方を伝え、また一人ひとりに考えさせています。

ー稲盛さんから学んだことを胸に、今後の展望は。

今ちょうど、リンカーズのシステムを大企業に入れてもらおうとしているんです。そうすれば、大企業や同じグループの中でも、部署や会社の垣根を超えたマッチングを実現できるようになる。

もう一つは、「日本の中小企業を、世界へ」ということ。海外の大手企業とのネットワークを構築し、中小企業の技術を海外へ輸出していきます。

リンカーズ株式会社代表取締役CEO 前田佳宏

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[取材・文] 多田慎介、岡徳之

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