脳の仕組みを知ればひらめきは起こせる、「クリエイティブ脳」の作り方 ー石川善樹さん

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今は情報に溢れている。しかし、取り入れる情報が少なければ少ないほど、人はひらめきやすい。

気鋭の予防医学研究者、石川善樹さんは前編でこう述べています。

それでは、新しい情報のインプットを制限し、いま手元にある情報だけでひらめきを起こすために、私たちには何が必要なのでしょうか。

人がひらめくとき脳ではなにが起こっているのか、そのような状態に自分を意図的にもっていくにはーー。後編では、「クリエイティブ脳」の作り方について石川さんに伺います。

予防医学研究者 石川善樹

PROFILE

予防医学研究者 石川善樹
石川善樹
予防医学研究者
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科を卒業、米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。専門は行動科学、マーケティング、計算創造学、計算社会科学など。ビジネスパーソンを対象にしたヘルスケア、ウェルネスの講演、執筆活動を幅広くおこなっている。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣(プレジデント社)』、『最後のダイエット(マガジンハウス)』、『友達の数で寿命は決まる(マガジンハウス)』など

クリエイティブな人=冷静と情熱の間にいる人

ー人が何かをひらめくとき、脳ではどのようなことが起きているのでしょうか。

脳の活動には、データを(1)取り入れて、(2)分析し、(3)行動の指令を出す、という三つのサイクルがあり、それぞれ異なる脳波が出ています。データを取り入れるときにはシータ波、分析するときはベータ波、行動の指令を出すときはアルファ波が関係しています。この三つの脳波を順番にうまく回せる人が、学習が早い人といえます。

一方で、人が何かをひらめくとき、脳内ではガンマ波のスパイクがみられると報告されています。

ー脳を意図的にそのような状態にもっていくためにはどうすればよいのでしょうか。

これまでの研究では、感情がネガティブなときほど論理的思考がはたらき、ポジティブなときほどクリエイティブになる、つまりひらめくと、単純に考えられていました。

しかし、最近の研究によると、創造的な人はネガティブ感情もポジティブ感情も、たくさんの感情が同居していると報告されています。例えば、お笑い芸人というのはとてもクリエイティブな職業だと思いますが、島田紳助さんが昔テレビで次のように言っていました。

おもろい芸人は、喜怒哀楽が激しい。

しかし、疑問が残ります。

なぜ、さまざまな感情を経験している人のほうが、クリエイティブなのか? これはおそらく、感情と思考が結びついているからだと考えられます。

例えば、怒りという感情は人を楽観的な思考に導きます。どう考えても勝てないような強敵にも、人は怒れば立ち向かえるようになるのは、なんとなくわかってもらえると思います。

一方、不安や恐怖という感情は、人を悲観的にします。必要以上に目先のリスクを過大評価してしまうのです。

このように、人間は感情によって特定の思考パターンをすることが知られるようになってきています。そのため、さまざまな感情を経験すると、物事をいろいろな角度から考察できるようになるため、結果としてクリエイティブになるのだと考えられます。

ひらめきに欠かせないゾーン=超集中状態を作り出すには?

ひらめきを生み出しやすくするためには、スポーツの世界でよく言われるゾーン状態、つまり極限の集中状態に入ることも大切です。

このために必要な要素が二つあります。

  1. 極端なストレスを感じる
  2. 一気にリラックスする

例えば、仕事の締め切り直前、人はストレスを感じますよね。しかし、ヤバいと思っているだけでは何も変わらないことに気がつき、「どうせ終わらなくても死ぬわけじゃないし・・・」と開き直ると、いきなり超集中状態=ゾーンに入れたりします。

先日、アメリカのある有名な施設を訪れたのですが、そこではスポーツ選手やチェス選手、さらにはビジネスパーソンも、このゾーンに入るためのトレーニングを提供していました。

ーどのようなトレーニング法があるのでしょうか。

まず、ストレスを感じるために効果的なのは、いろんな感情を経験することです。

私たちの脳というのは怠け者で、すぐパターンで処理しようとします。これは行動や思考だけでなく、感情についてもいえます。例えば、怒りっぽい人は、いつも怒ってる(笑) そう考えると、普段経験していない感情を経験すると、それは人にとって新しいストレスになります。クリエイティブな人の多くは、そのための状況を意識的に作り出しています。

例えば、著名プロデューサーの秋元康さんは、年に一度、自分が大嫌いな人にわざわざ会いに行くといいます。会いに行った結果、やっぱり嫌いだったということもあるそうですが(笑)

つまり、人がゾーン状態に入りやすく、クリエイティブになるためには、歳を取れば取るほど避けたくなるような不快やリスクを負うことが必要だと考えられます。

しかし、ストレスを感じるだけでは不十分。先ほど述べたように、その後、リラックスしなければなりません。ただ、ビジネスパーソンの多くは、酒を飲むことをリラックスだと思っていますが、それはただ酒を飲んでいるだけ(笑) リラックスとは違います。

集中するのにお作法がいるように、リラックスするのにもお作法があるのです。

ーストレスを感じた後に、リラックスするための方法を教えてください。

まず姿勢を整える必要があります。猫背だったりすると、呼吸が浅くなり、イライラしやすくなります。

もう一つ必要なのは、呼吸を整えること。人は息を吸うと緊張し、吐くとリラックスします。そのため、ゆっくりと息を吐くことで、人はリラックスできます。シンプルではありますが、この生活習慣を続けることに尽きます。

ルーティーンの生活習慣から脱するためには?

ー正しい生活習慣を送ったり、喜怒哀楽のいろんな感情を経験するというのは、実は子どもが当たり前にできていることかもしれません。

そうですね。子どもがいつも元気なのは、正しい生活習慣を送れているからです。

また、大人になると、いろんな感情を経験することは難しくなります。変化やストレスを避けようとするからです。いつも決まったルートで通勤したり、コンビニで毎回同じものを買ったりしているうちに、自分にとって楽なルーティーンにハマりがちなのです。

そんなルーティーンから脱して、いろんな変化やストレスを受け入れるためには、自分の感情や行動を日々モニターすることが大事ですね。

例えば、野球のイチロー選手は、毎年200本安打の達成が近づいてくると、プレッシャーから極度のスランプに落ちていました。しかし2006年、「プレッシャーを克服することはできない」ことに気がつき、「プレッシャーはあるもの」と、ある意味開き直ることで、新たな境地に達したと述べていました。

彼のように自らを客観視することで、ときには自分の絶不調さえも受け入れながら生活習慣を変えていくことができます。そうしてルーティーンになっている今の習慣から脱せた人が、クリエイティブ脳を作るためのスタート地点に立てるのだと思います。

(前編)一生学び、活躍し続ける人の「頭の中」は何が違うのか? 石川善樹さんに聞く
https://doda-x.jp/article/323/

『疲れない脳をつくる生活習慣―働く人のためのマインドフルネス講座』(プレジデント社)

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[取材・文] 狩野哲也、岡徳之

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