ログインして記事ブックマーク、コメント投稿などすべての機能を使う。

close

INTERVIEW
和製ムハマド・ユヌス 深田洋輔が語る、アジアで勝てる日本人「3つの条件」
INTERVIEW

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
BOOK MARK

「過去の成功体験を捨て去る、Unlearningの姿勢がアジアで勝つための条件」

そう語るのは、東南アジア3カ国でこれまでに100万人以上の会員を獲得してきたモバイル広告サービスを展開するYOYOホールディングスの代表、深田洋輔氏。順風満帆だった大手IT企業でのキャリアパスを断って一念発起。アジアで「モバイルインターネットの無料化」という壮大な目標を実現するべく奔走する彼に、世界で戦う上で大切にしている「信条」について語っていただきました。

YOYOホールディングス代表 深田洋輔氏

PROFILE

YOYOホールディングス代表 深田洋輔氏
深田洋輔
YOYOホールディングス代表
大阪大学卒業後、大阪大学大学院にて経営学と工学のダブルディグリーを取得。大学院修了後、ディー・エヌ・エーに入社。退職し、単身フィリピンへ渡り、2012年10月にシンガポールでYOYOホールディングスを創業。フィリピン、インドネシア、ベトナムの3カ国で、モバイルユーザーが広告を視聴する代わりに報酬がもらえるサービス「PopSlide」を運営。2013年、AERA「アジアで勝つ日本人100人」にも選出された。

「明日死んだら絶対に後悔する」震災がキャリアを変えた

ーまずは、起業にいたるまでの経緯について教えてください。

大学院で経営学を学んでいたときに「BOP」(Base of the pyramidの略。世界の低所得者層からなる市場のこと)という概念があることを知り、その市場が40億人規模であることに衝撃を受け、グラミン銀行創設者であるムハマド・ユヌス博士が提起したマイクロファイナンスというコンセプトに行き着きました。

貧困という社会問題を金融システムで解決するユヌス博士の取り組みは2006年にノーベル平和賞を受賞しました。ユヌス博士の取り組みは、当時の私にとって非常に画期的でした。なぜなら、社会をよくしたいという人の善意や情熱に支えられているビジネスは事業化が難しく、存続することすら難しいという考えにとらわれていたからです。

ユヌス博士のアイデアに魅了され、そのビジネスモデルを研究する過程で、アフリカのマサイ族が携帯電話を使用しているというニュースに触れ「将来は新興国を中心とした技術革新が起き、新興国 ✕ モバイルの波が必ずやってくる」と確信したのです。

 

ー大学院修了後、一度就職したのですね。

本当はすぐにでも新興国向けのモバイル事業を行いたかったのですが、通信関連のビジネスを立ち上げるのに必要な知識と資金がなく、自分はまだ力不足だと感じていました。そこで「3年」という修行の期限を自分に課し、ディー・エヌ・エーの新規事業開発チームで、マーケティングやサービス開発、営業など、起業に必要なノウハウと経験を蓄積しました。

しかし、3年も立たないうちにある「転機」が訪れました。東日本大震災です。誰もが想定していなかった突然の震災によって、私の価値観は激変しました。ディー・エヌ・エーは本当に居心地が良かったのですが「もし自分が明日死んでしまったら、絶対に後悔する。後悔しないために、自分が本当にやりたいと思うことを今しよう」と考えるように至り、本格的に起業準備をすることになりました。

アジアで勝つための条件1「現地の生活に入り込むこと」

ー提供しているサービスの内容とそのビジネスモデルについて教えて下さい。

スマートフォンのロックスクリーン画面に企業の広告を表示させ、スライドして解除した際にプリペイド携帯の通信料をチャージできる「PopSlide」というサービスをフィリピン、インドネシア、ベトナムの3カ国で提供しています。各国の企業から広告収入を得ています。

このようなサービスを設計している背景には、日本とは異なる、新興国ならではのモバイル端末の使い方と現地の人々のある「悩み」があります。

「プリペイド」は日本では馴染みがないかもしれませんが、東南アジアで通信料を支払う手段として主流になっています。全世界でも人口の約8割が、新興国にいたっては9割以上の人々がプリベイドでモバイル端末を利用しています。

私が今暮らしているフィリピンでは、ほとんどのひとは端末料金が3000円以下の安価なアンドロイド携帯を利用しています。その携帯に頻繁に通信料をチャージして使っているのですが、彼らの所得を考えるとその通信料金は決して安くなく、インターネットに接続できる時間は非常に限られています。

もしも彼らがより自由にインターネットを使えるようになれば、より多くの生活に役立つ情報を得て、生き方や働き方により多くの選択肢を持つことができるはずです。モバイルインターネットを無料化できれば、教育や医療など、これまで接することができなかった機会に触れることができるようになるため、彼らの人生をきっと大きく変えることができると信じています。

日本でソフトバンクの孫さんが安価なブロードバンドを大量に提供したように、インターネットをもっと自由に使える社会を作っていきたいです。

 

ー日本人である深田さんがアジアの新興国の課題に気づけた経緯を教えて下さい。

アジアの貧困問題を解決するために、まず「貧困とはなにか」を定義することから始めました。「貧困」は持っている「お金」で定義されがちですが、私は持っている「機会」で定義されるべきだと考えています。働く機会、食事を選択できる機会、医療を受ける機会が整っていれば豊かな暮らしになりますし、その逆であれば貧困な環境だと言えると思います。

「教育機会」についても同じです。たとえ仕事と収入があっても、その場所に学校がなければ教育を受けることはできません。教育を受ける「機会」が無い、これも貧困だと思うのです。カンボジアなど各国に学校を建てようとするプロジェクトがありますが、現実には先生や教材が揃っていても、子どもは両親の手伝いをしなければならないという理由で学校に行く時間を確保できていません。これでは教育環境を整えたとは言い難いでしょう。

アジアにおける機会の欠如は、教育のほかにも、医療や職探しなど多岐にわたる分野で起こっています。あらゆる分野で彼らに機会を提供していくことの必要性や、その機会の多くがインターネットを無料化することによって提供できると気づけたのは、現地の生活に入り込んでいたからです。

日本で仕事を辞めた直後にフィリピンのセブ島に渡り、現地の人々と毎日顔を合わせながら暮らしをしていました。毎週のように起きる停電や断水、信じられないほど混みあった渋滞、遅くて繋がらないインターネットなど、現地の人々にとっては日常の出来事はとても新鮮でした。

特に、現地の人々が毎朝携帯電話の通信料金を購入している姿や、その料金がなくなって家族と連絡ができずに困る状況などは日本では目にすることができない問題で、現地に暮らさないと分からなかったことです。新興国で戦うためには、その環境に生活ごと入り込まないと、ユーザーが抱える本当の「Pain(痛み)」に気づけません。

アジアで勝つための条件2「過去の成功体験を捨て去る Unlearning」

ーアジアでの苦労を乗り越えるために大切にしている信条があれば教えて下さい。

自分でも100%できているとは言い切れませんが、「Unlearning」は常に意識しています。これは、過去の成功体験や自分自身がしていたことにあえてこだわらず、新しいことにゼロベースで取り組む考え方です。アジアでビジネスをする上でこの考え方が大切な理由は、日本でのやり方がアジアで通用するとは限らないからです。

たとえば、日系大手IT企業がアジアに進出して組織をマネジメントしようとする際に、日本で用いていた「スーパーマイクロマネジメント」と呼ばれる、従業員の働きを数値化して徹底的に経営の合理化を図る手法を展開していました。、しかし、この手法は現地スタッフに受け入れてもらえず、非常に苦戦しているという話を耳にします。

私も最初は日本で学んできたような細かい数値管理とスケジュール管理を行なったマネジメントを行なっていたのですが、それだけではスタッフのモチベーションが低下してしまうことに気がつき、従業員との関係をゆっくりと構築するようなコミュニケーションとマネジメントを心がけています。またコミュニケーションに限らず、日本のやり方のよいところをアジアに持ち込みつつも、その進め方や従業員への気持ちの伝え方を柔軟に対応させることが、アジアで戦っていく条件の1つだと思います。

シンガポールで行われたスタートアップイベントで投資家に対してプレゼンテーションする深田氏
シンガポールで行われたスタートアップイベントで投資家に対してプレゼンテーションする深田氏

アジアで勝つための条件3「問題解決先進国として培ったスキル」

ーこれから日本の展望についてどのように見ていますか。

各国で出稼ぎ労働者を目にするうち、日本の少子高齢化による労働力不足の問題について考えるようになりました。日本ではフィリピンやインドネシアの優秀な若者を、ブルーワーカーやホワイトワーカーの移民として日本に受け入れるという話がありますが、もう昔ほどは通用しないと思います。

なぜなら「日本はもうお金を稼げる場所ではない」という認識が世界で定着し始めているからです。むしろ自国の貨幣を思う存分に使える場所という認識が広まりつつあります。その典型的な例が中国人観光客。団体ツアーで訪れては日本製品を買い漁っている様子を報道で目にします。「品質が高い商品を安く購入できる国」。これが、今の世界から見た日本のイメージなのです。

日本は「問題解決先進国」です。日本は少子高齢化問題など解決するハードルが非常に高い社会問題をアジアの他の国よりも先に経験しています。前例がない問題にいち早く直面しているからこそ、もし解決策となるスキルを日本人が手に入れることができれば、世界のロールモデルになることができます

世界の人々に平等なのは「時間」

ー日本人はアジア人のロールモデルになれるでしょうか。

アジアで会社を経営して感じるのは「日本人は本当に優秀だ」ということです。過去にトヨタ自動車や松下電器など、日本を代表する企業が世界を圧巻させてきたのは、やはり人材が優秀であり、日本人が仕事に取り組む姿勢や生み出す製品の品質が世界に誇れるものだったからと感じています。

しかし残念ながら、現在世界の尊敬を集めている企業の多くは、アップルやマイクロソフトなどアメリカの企業です。これはとても悔しいことです。日本人は本来、世界で活躍できる力を持った人がたくさんいますが、「海外」というものに対して異常に苦手意識がある。勇気を出して海外に挑戦すれば、世界を舞台に戦える力があると気がつくので、ぜひ多くの方に海外で戦ってもらいたいと思います。

時間は有限で、世界は私たちの想定よりもずっと速く変化し続けています。「まだ時期が早い。自分に知識が足りない。結婚したから」など言い訳はいくらでもできますし、誰しも「失敗したらどうしよう」と足踏みしてしまうと思います。しかし、失敗を恐れるよりもまずは行動に移すこと人生にはタイムリミットがあるということを強く自覚し、一人でも多くの方が海外、特に変化が大きくエキサイティングな新興国の市場に挑戦してもらえればと思います。

【 本記事の読者にはこちらもお薦めです 】
思い込みを払拭せよ|海外経験者50人が教えるグローバルとの付き合い方3つの観点
変化し続け、正しく捉えるのが困難な「グローバル」を理解し、キャリアを拓くためには・・・

[取材・文] 井上美穂

キャリアの強み・弱みを無料診断。
最適な働き方や企業風土を提案します。
キャリアの可能性を広げる
キャリアタイプ診断
キャリアタイプ診断
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
BOOK MARK

いいね!していただくと
最新記事をお届けします。

コメントを送る

関連する記事

連載一覧を見る

タグ

タグ一覧を見る