「攻めのバックオフィス」は会社を変える。総務の概念を打ち壊したメルカリ

doda X(旧:iX転職)は、パーソルキャリアが運営するハイクラス転職サービス。今すぐ転職しない方にも登録いただいています。
今の自分の市場価値を確かめてみましょう。

企業には「攻めの部署」と「守りの部署」があります。お客さまや取引先などと直接やり取りし、その成果が明確に企業の利益につながる営業やマーケティングなどは、いわば「攻め」。

社内的なやり取りが多く、経費処理や備品管理、福利厚生制度の運用など、企業にとって不可欠ながらも、定型的な業務を行う総務や労務は「守り」と考えられることが多いのではないでしょうか。

けれども、後者は業務を完璧にこなすのが「当たり前」、不注意などでミスをすれば減点あつかいされがち。新しいことに能動的に取り組む機会が減っても仕方ありません。

メルカリ

一方、破竹の勢いで成長を続けるメルカリでは、「攻めの総務」を標榜し、

  • 子育てや介護など家庭生活も支える人事制度「merci box(メルシーボックス)」
  • 社員同士の部署を超えたコミュニケーション活性のための各種「ランチ制度」

など、総務が中心となってユニークな制度を設計・運用。社員の意欲を向上させ、躍進に大きく貢献しています。

メルカリの総務を務める田中裕志さんは、「守りに入りがちな部署で働く人たちも、これからは積極的な攻めの姿勢を持たなければいけない」と言います。

なぜ守りの部署にも攻めのマインドが求められるのか、メルカリの総務はどうして攻めのマインドを持てるようになったのか、本人たちの働き方、会社はどう変わっていったのかーー。お話を伺いました。

株式会社メルカリ PRグループ 総務担当 田中裕志

PROFILE

株式会社メルカリ PRグループ 総務担当 田中裕志
田中裕志
株式会社メルカリ PRグループ 総務担当
東北大学卒業後、株式会社リクルートに入社し、人事部、総務部、経営企画部にて従事。2016年株式会社メルカリに入社し、主に総務を担当

「こうしたらいいのに」を拾ってもらえない「現状維持」の総務

—メルカリでの総務チームは「攻める総務」を標榜されているそうですね。正直なところ、総務はどちらかというと「守り」のイメージなので、意外に感じます。

そうですよね。一般的には「コストセンター」と言われ、直接売上を生み出すわけではありませんし、それこそ「バックオフィス」と呼ばれるくらいですから、経営者でさえそんなに関心を払わない分野かもしれません。

小さい会社だとお金まわりのことは社長が担当して、細々とした雑務はパートさんや契約の方にお願いして・・・みたいな。新卒でいきなり「総務をやりたいんです!」という人もなかなかいないかもしれない。

でも、僕らは「バックオフィス」という言葉があまり好きじゃないんです。「バックオフィス」というとなんとなく「支える」みたいな、支援するイメージがあるけれど、むしろ「牽引」していかなくてはならないと思うんです。

僕の所属先名を見ても分かるかと思いますけど、実は部署としては「PRグループ」なんですよ。というのは、総務という仕事の枠を超えて、会社のバリューを体現するPRに近いような役割も担うから。それだけ、総務の仕事には会社のパフォーマンスや仕組みを変える大きな可能性がある。

一般的に総務の仕事は「現状維持」で動きがちですが、総務がプラスアルファの動きをすれば大きな成果につながるんです。

—なぜ総務にはこれだけ「守り」のイメージがついているとお考えですか。

株式会社メルカリ PRグループ 総務担当 田中裕志

僕自身は前職もリクルートのコーポレート系事業会社にいて、比較的裁量権を持たせてもらっていたのですが、転職してきたメンバーの話を聞いてみると、たいてい前職に不満を持っていた人が多いんです。

「こうしたほうがいいのに」「もっとこうしたい」と業務改善するアイデアを上司に上げても、やらせてもらえなかった、とか。

ささいなことからそうですよ。「請求書のフォーマット、ここを変えたほうがよくないですか?」と提案しても、「いや、これはもう決まってるから」と。僕からしたら、「・・・マジかよ!?」という感じですが。

やっぱり全社に関わるぶん、何かを変えるとなるとその労力が甚大なんでしょうね。大きい会社になればなるほど決裁ルートが長くなって、承認に何カ月もかかって、彼らを納得させるためにいろんな資料を作らなきゃいけなくて・・・。

そうこうしているうちにせっかくの本人の熱量が削がれてしまう。従業員には「もっとこうしたらいいのに」という思いがあっても、それを拾ってもらえない。「そんなのいいから」という空気があるんじゃないでしょうか。

—メルカリにはそんな空気感はないのですか。

僕らの場合、守りに入ること自体が「悪」という感じですね。

もちろん、ミスをしないように現在のフローをしっかり回すというのは前提としてありますが、「これだけをやればいい」というスタンスではありません。チームとして、「これでいい」じゃなく「これがいい」というのをやろう、という意識がみんなに共有されています。

当社には3つのバリューがあって、「Go Bold – 大胆にやろう」「All for One – 全ては成功のために」「Be Professional – プロフェッショナルであれ」という、メルカリが大事にするコアな価値基準を表しています。入社する時点で、このバリューに共感し、かつそれを発揮できる人というのが共通認識としてあります。

メルカリ、3つのバリュー

このような標語を掲げても形骸化しないのか、と聞かれることもありますが、僕らの場合、普段の会話にもしょっちゅう出てくるんです。「それって、Go Boldじゃないよね」とか。

また、採用面接での評価軸や四半期ごとの人事評価面談・フィードバックもこのバリューを元に判断します。自発的に動いていける人が評価される制度になっているんです。

「攻める総務」が実現した「アプリでツケ払いランチ」

—実際に「攻める総務」としての働きが発揮された事例はどんなものがありますか。

例えば、2016年12月に始まった「レストラン立替不要制度」でしょうか。当社には、

  • 「メンターランチ」(社員が入社して1週間、メンターと他部署の人とランチ)
  • 「シャッフルランチ」(毎月5、6名をさまざまな部署からランダムに組み合わせてランチ)

など、コミュニケーション活性のためにいくつかのランチ補助制度があります。

社内ランチの様子

2016年末時点で月に300件ほど活用されていたのですが、立て替えや精算も大変だし、経理の処理業務も大変だったんですね。

ですから、「請求書払いできたらいいんじゃないか」と、お世話になってるレストランを一軒一軒まわって、協力をお願いしていったんです。結果的に10軒ほど(現在は15軒)ご協力いただくことになって、「ランチのツケ払い」が可能になりました。

レストランを予約する際にメルカリ社員であることを伝えて、精算時に名刺などで証明。月に1回、社員はランチに参加した人と店名、訪れた日を管理シートに記入して、総務に提出します。レストラン側からはまとめて請求書をいただくので、それと管理シートを総務で付け合わせて、経費処理を行うようにしました。

—社員がプライベートでツケ払いするリスクはありませんか。

考慮はしましたが、メリットのほうが上回ると考え導入しました。実際に、そのようなことはありませんでしたね。当社の制度は基本的に「性善説」で設計されているんです。ガチガチにしたほうがかえって効率も下がります。

他の例では、PC関連の備品、例えばMagic KeyboardやMagic Trackpad、充電ケーブルやマウスなどいろいろな備品も、依頼を受けて発注するのではなく共有スペースに大量の在庫を置いて、「ほしい人はご自由にお取りください」としています。

申請なしで自由に使えることで、申請の手間もないし、各自が効率的な作業環境を作れる、という考えです。「社員が必要以上に持っていったり、私物化しないの?」と心配されたこともありますが、特に問題なく運用できています。

PC関連の備品

けれども、実際に「ランチツケ払い」制度の運用を始めてみると、今度は管理シートの確認など、総務での負担が多くなってきた。そこで、レストラン立替不要制度のためにアプリを活用することにしたんです。

もともと『どこでも社食』というアプリを開発しているスタートアップさんがいて、そのアプリをメルカリ仕様に改修してもらい、お店での会計から、社内での処理までアプリ内で完結するようにしました。

結果的に、それぞれのレストランから届いていた請求書のデータが1枚にまとまって、社員のリスト記入漏れもなくなったし、社員情報とアカウントが紐づいているから、目的外利用のリスクもなくなった。これまで20時間かかっていた作業が、10分で済むようになったんです。

現状に不満を覚える人は、ルーティーン以上のことができていない

—驚くほどの生産性向上ですね。ただ、総務だけでなく、他の部署とも連動して何らかの業務改善を行うとき、何かを頼むと面倒だと思われてしまいかねないのでは。「こうしたほうがいい」という理想はあっても、本来業務に追われてしまい、何かと後回しになりがちな気がするのですが。

先ほどお話したバリューの1つに「All for One – すべては成功のために」というものがあるので、意義のある内容であれば、頼んでもイヤな顔をされることはないですね。みんなプロとしてそれぞれの価値があって、お互いに連携し合ったほうがパフォーマンスを出せると考えています。

例えば、当社には「merci box」という産休・育休支援の拡充や妊活の支援、育児・介護休暇の有償化など、「Go Boldに働ける環境をより充実させていくため」の仕組みや制度があります。その運用にも当然、労務や法務などと連携を図っていかなければなりません。

会社全体に良いインパクトを与える、単なる思いつきじゃない「こうしたい」というものに対して、誰よりも考え抜いていること。その思いがあれば、All for Oneでやってくれる。むしろ、頼まれたのにそれをやらないような人こそ、会社にとっては不利益になります。

株式会社メルカリ PRグループ 総務担当 田中裕志

メルカリの総務業務には、「JIRA」というタスク管理システムが用いられており、社員からの要望、提案などをすべてこのシステムに入れて、誰がいつまでに何をするのか、進捗を可視化してフォローできるようになっている。目的や部署に応じて、総務以外にもさまざまなスレッドが設けられており、部署を超えた連携がしやすい。

—お話を伺っていると、「メルカリのバリューに共感し、発揮できる人」だからこそ、「攻める総務」になれるのかな、という気もします。なかなか明確な評価を得られないような一般企業の総務の人でも、どうしたら「攻め」の姿勢へマインドセットできるのでしょうか。

厳しいことを言うようですが、そもそも、「業務の成果が見えにくい」「あまり評価してもらえない」と不満に思っている人は、どこかで「ルーティーンさえやっていればいい」と、思考停止しているところが実はあるのではないでしょうか。

例えば、社員から「ペンどこにありますか? それとノートは?」と聞かれたとして、「あそことあそこの引き出しに入ってますよ」と答えたとします。そしたら、「あっ、ペンとノートって一緒に使うものじゃん。今は不自然な動線になっているんだ」と気づくべき。

僕も常に一つひとつ、自問自答しているわけではありませんが、「社員がGo Boldに働くためには、ペンの場所をいちいち聞かれるのはお互い時間の無駄。聞かれるような現状ではダメだ」という考えを持つ。小さいところにもアンテナを張り、改善を続ければ、小さい信頼を社内で勝ち取ることができるんです。

攻めの部署の人には申し訳ないですが、総務ほどやりがいのある仕事って、なかなかないと思っています(笑)だって、仕組みやシステムを一つ変えるだけで、会社全体に影響を与えられる。社員一人ひとりが働きやすくなったり、生産性が上がったりするんですよ。

そういうところを少しでも見つけていこうという意識があれば、「評価されていない」とは感じないはず。ルーティーンに不満を覚えている人は、「それ以上のことをやれていない」ということですから。

株式会社メルカリ PRグループ 総務担当 田中裕志

僕らの場合、加速度的に社員が増えているから、という面もありますが、誰かに頼まれてやるとか、対応するだけでてんてこ舞いになると、忙しいだけで仕事をしていない感覚になるんです。

それなら、なるべく先回りして、課題を見つけて、仕掛けておくほうが、より付加価値の高いものができるし、時間も作れる。結果的に、先回りしないほうが大変なんです。基本的な業務は当たり前にやって、その上でプラスアルファをやることこそが自分の価値だと思うんです。

—その上で、上司や経営者が現場からの改善を求める声や気づきを潰さないことが重要なんですね。

そうですね。いろんなユニークな制度も、本来は会社のバリューを保つために存在するのであり、「なぜこれをやるのか」というそもそもの思いから全社員にちゃんと伝えることが重要。ですから、社長と想いを共有する時間を大切にしています。

経営陣も「世界を獲るためには総務の貢献が不可欠」と信じ、総務担当者の採用にも「そのビジョンに貢献してくれる人か」という視点で臨んでいます。だから僕らも、「総務で入ろうが、エンジニアで入ろうが、とにかく世界を獲るために来た」と胸を張れる。

多くの会社で、総務や労務の部署って「コーポレート」と呼ばれますよね。つまり、自分の仕事一つひとつが、会社のメッセージになるんです。だとすれば、攻める会社は、総務も攻めていないと。「バックオフィス」「コストセンター」なんて呼び方されるの、悔しいじゃないですか。

株式会社メルカリ PRグループ 総務担当 田中裕志

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

今すぐ転職しなくても、
まずは自分の市場価値を確かめて
みませんか?

変化の激しい時代、キャリアはますます多様化しています。
ハイクラス転職サービス「doda X(旧:iX転職)」に登録して、
ヘッドハンターからスカウトを受け取ってみませんか?