Amazon米国本社の日本人に聞く、ビジネスで英語を使えるようになる「3つのマイルール」

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社内公用語に英語が導入され、外国人を採用する企業が増えるなど、ビジネスにおいて身近なものとなりつつある「英語でのコミュニケーション」。一度は海外で働いてみたい読者もいるのでは? けれども「うまく発音できない」「語彙力が足りない」など、英語に苦手意識を持つ人も多いのではないでしょうか。

Amazonシアトル本社で働く鵜飼勇至さんは、本業の傍ら、ブロガーとして海外就職や海外生活、英語学習に関する情報を発信しています。そんな鵜飼さん曰く、英会話で自分の思いを伝える際に重要な「3つのルール」がある、とのこと。果たしてどんなことなのでしょうか。実際にアメリカで働くなかで身につけた「伝えるコツ」について話を伺いました。

Amazon Game Studios シニアプロダクトマネジャー 鵜飼勇至

PROFILE

Amazon Game Studios シニアプロダクトマネジャー 鵜飼勇至
鵜飼勇至
Amazon Game Studios シニアプロダクトマネジャー
東京大学工学部及び同大学院にてロボット工学を学ぶ。新卒で外資系コンサルティングファームに入社。数年後、ITメガベンチャーに転職。モバイルゲームのデータ分析業務に携わった後、サンフランシスコ支社に移籍。アナリティクスチーム及びプロダクトマネジメントチームのヘッドを務めるが、サンフランシスコ支社の閉鎖に伴い、Amazonシアトル本社に転職。現在はAmazon Web Services傘下のAmazon Game Studiosにて、シニアプロダクトマネジャーとしてゲームの開発及びデータ分析基盤の構築に携わる。

半年の“無職期間”を経てアマゾンへ入社

―普段は何時頃出社されているのですか。

出社の時間が厳密に決まっているわけではなくて、朝会が10時に始まるので、それに間に合えば、という感じで。いつもは5時起きでジムへ行って、8時か9時くらいに出社しています。午後に予定があって早退する日などは在宅勤務にすることもありますね。「Work from Home」っていうんですけど。

―いい制度ですね。鵜飼さんが現在取り組んでいるのはどういった業務なのですか。

僕はAmazon Game Studiosというアマゾンのゲーム部門に所属しているのですが、いまはローンチ前のゲームを粛々と作っている感じですね。まだ構想段階で「どんなゲームを作ろうか」なんて話している状態なんですけど。

プロダクトマネジャーなので、本来はビジネスケースの作成や進行管理をして、ローンチ後はデータをもとに改善の方向性を示していくような役割ですが、プロジェクトもまだ初期段階なので、“なんでも屋さん”ですね。実際にコーディングすることさえあります。

チームは10名ほどで、全員自社社員です。つねにやり取りするのはエンジニアやゲームデザイナー、UI・UXアーティストといった人たち。基本的には自社のチャットツールでコミュニケーションを取って、必要に応じてビデオミーティングを行います。

Amazon Game Studios

―鵜飼さんがアマゾンへ入社された経緯をお伺いしてもいいですか。

2017年の3月終わりから働き始めましたから、ちょうど3年目に入ったところですね。

それまでは日本のITベンチャーに勤めていて、サンフランシスコ支社の立て直しのためにこちらへ派遣されたんです。当初は2年限定の駐在員という形でしたが、もう少し時間がかかりそうということで、駐在員という立場から正式に現地法人の社員に移籍になったんです。よし、これから頑張っていこうか、という矢先に本社の方針が変わって、アメリカから撤退することになりました。移籍前ならそのまま日本の本社に戻るだけですが、移籍後でしたからね。それで、僕は無職になったわけです。

―日本に戻る選択肢はなかったのですか。

実は、日本の本社から「戻ってこないか」とオファーをもらいました。ありがたかったんですけど、思うところあって断ってしまいました。

というのも、支社が潰れる何週間か前にグリーンカードが取れたばかりだったんです。ご存知の通り、永住権を取るってめちゃくちゃ大変なんですよ。証明書類も膨大で、手続きにも時間がかかるし。「これで帰ったらもったいないな」と、つい日本人的な発想が出て(笑)。

それに子どもが二人いるんですけど、こっちで育てたいなあと。日本での子育ては何かと大変そうじゃないですか。ベビーカーを押してバスに乗ったら、なんか言われるとか・・・イヤだなあ、と思って。

あと、サンフランシスコ支社ではそれなりの役職をもらえていたけど、それはあくまで「本社からの駐在員」というアドバンテージがあったからで。そのアドバンテージが無くなったとき、客観的にアメリカでどんな評価をしてもらえるのか試してみたいな、まあなんとか仕事も見つかるんじゃないか、と楽観的に考えていたんです。でも結局、それから半年間無職になっちゃったんですよね・・・。

―ああ・・・サンフランシスコはいま家賃も高騰していて、収入が断たれると厳しそうですね・・・。

そうなんですよ。1LDKで毎月の家賃が4000ドルくらいかかるんじゃないかな。医療費も高くて、ちょっと手術とかすると平気で数万ドルかかってしまうから、保険に入っていなきゃやっていけないんですけど、会社の共済プランも使えないものだから、本当に半年間ツラかったですね(苦笑)。

―なぜ、転職活動に半年かかってしまったのでしょうか。

Amazon Game Studios シニアプロダクトマネジャー 鵜飼勇至

はじめのうちは書類選考でバンバン落とされちゃったんです。というのも、アメリカでいう「レジュメ」と、日本の履歴書や職務経歴書とは「思想が違う」んですよね。

日本の場合、「〇〇大学出身で、〇〇会社でこんなことをしていた」と事実を並べて、それをどう評価するかは先方の会社に委ねるものみたいな意識があるじゃないですか。でもアメリカの場合、「私はこんなすごいことをやってきて、こういうスキルがあって、こんなに優秀です。私を取らないと貴社が損しますよ」ぐらいのマインドになって書かなきゃいけなかったんです。それに気づかなかったんですね。それで、レジュメコンサルにお願いすることにして、ようやく書類選考は通るようになったんです。

でも今度は面接でもどんどん落ちてしまって。「いままでどんなことをしてきましたか」と聞かれて、具体的なエピソードを思い浮かべて英語に変換して伝える、というのにタイムラグも生じるし、言わんとするニュアンスもなかなか伝わらなくて。そこそこいいところまでは行くんだけど、結局落ちる、というのをさんざん繰り返して・・・サンフランシスコにあるめぼしいゲーム会社は全部落ちてしまいました。

そんなとき、たまたまアマゾンのゲーム部門で知人が働いていることをLinkedinで知って、ダメ元でコンタクトを取って、選考にねじ込んでもらったんです。これでダメだったら日本に帰るしかないな、と思ってめちゃくちゃ準備したんですけど、その甲斐あって、なんとか受かりました。

Amazon Game Studios
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英語で伝えるときに重要な「3つのルール」

―実際にアメリカで働くなかで身につけた「英語でコミュニケーションを取るコツ」はありますか。

マイルールが3つあって、一つ目は「大きな声でゆっくり話すこと」。外国人って声がよく通る気がしませんか?

もし周りに日本語を話せる外国人の方がいたら分かると思うんですけど、日本語で話すときはわりとマイルドなのに、英語で話すときだけすごく大きな声になるんですよね。そもそも英語って、大きくハッキリと発声する言語で、日本語は小さな声でも通用する言語みたいなんです。

どうしても、われわれ日本人が英語を話すときって、自信がないから小さな声になってしまうじゃないですか。すると、ただでさえ大きな声に慣れている英語話者には全然通じないんですよ。勇気を出して英語を話しても通じないから、自信もなくなるし、声も小さくなる・・・みたいな負のスパイラルに陥ってしまいます。

日本人でも声が大きい人は、英語がめちゃめちゃでもわりと通じるんですよ。通じるから自信もつくし、さらに喋るから上達する。そうやって「正のスパイラル」に入ったもん勝ちです。

僕らの部門はもちろんアメリカ人が多いんですけど、インド人や中国人もいて、特にインド人の英語の発音は「ヒングリッシュ」というくらい訛りが強いんです。僕は最初のうち全然聞き取れなかったんですけど、ネイティブスピーカーはわりと理解できているみたいなんですよね。それはインド人が臆さずに大きな声で話して、周りもだんだんその発音に順応していくから。

日本人が思っている以上に、声の大きさって伝わらない要因の一つなんです。だから、どんなに自分の発音がイケてなくても、大きな声で話しつづければ、周りが慣れて聞き取ってくれるようになる。多少発音に難があっても問題ありません。

Amazon Game Studios シニアプロダクトマネジャー 鵜飼勇至

そして「ゆっくり」というのは、話している途中で文章がなるべく途切れないように気をつけるということです。

日本語は、例えば「持っています。ペンを、私が」みたいに、順番をどう入れ替えても通じるけど、それは「てにをは(助詞)」があるから。だけど、英語にはないじゃないですか。英語だと“I have a pen.”と、語が出てくる順番で主語や目的語が決まるから、ブツ切れで話すと途中で流れが分からなくなって、「“pen”って主語なの? 目的語なの? どっち?」と通じなくなってしまいます。ですから、なるべく途切れないように、ゆっくりと話しながら次のワードを続ける必要があるんです。

はじめのうちは考えながら話さなきゃいけないので、なかなか難しいとは思うのですが、途切れるよりはゆっくり考えながら話したほうがいいと思います。

―二つ目は?

「とにかく何か言うこと」です。日本では会議で発言しなくても「〇〇さん、どうですか?」と話を振ってくれるけど、こちらではそういう概念がないんですよね。発言しないのは言いたいことがないからであって、それならなぜここにいるのか?となってしまう。

それに、自分から発言せずに聞くだけで話の内容についていくのって、大変なんですよ。例えば、映画を観るとき、あまり聞き取れないことがあるけど、それは自分がまったく介在しないまま会話が進んでいくからなのではないかと思っていて。的外れでもいいから、自分が何か発言すると、相手の次の発言は、自分の発言を受けてのものになる。

だから、会議でも早めに発言するようにしているんです。すると、ある程度自分の言った言葉から展開が予測できるから、相手の言葉も理解しやすくなるんです。

Amazon Game Studios シニアプロダクトマネジャー 鵜飼勇至

―日本では、発表者の報告を聞くだけの情報共有が目的の会議もあると思うのですが、アメリカでは何かについて議論することが基本なのでしょうか。

そうですね。何か意思決定を行う場合がほとんどなので、「発言をしない」というのは、それだけで評価が下がってしまいます。

―よりよい発言をするために会議の事前準備のようなものはされますか。

これはアマゾン独特の文化なのですが、会議のはじめに資料が渡されて、5分くらい時間をとってザッと黙読してから、議論を始めるんです。A4用紙5、6枚にびっしり文字が書かれているので、僕もそこそこ読むのは速いほうだとはいえ、全部を読もうとすると追いつきません。

ですから、読む量を減らします。取扱説明書をはじめから最後まで読むことってほとんどないじゃないですか。それと同じように、見出しだけ流し読みして、全体の構成を把握したら、その会議で自分はなにをどうしたいのかを判断して、その判断を下すためには何を知るべきなのか、疑問点を書き出して、それと連動する答えを資料から探していく・・・といった読み方をします。

―そして最後の三つ目は?

「一つの手段にこだわらないこと」です。まず、英語にさえこだわりません。伝わらなかったら図を描けばいいし、抽象的なイメージなら、検索して写真を見せれば一発で伝わる。英語は目的ではなくてあくまで手段だから、別に英語を使うことにこだわる必要はないんです。

それに、口頭にこだわる必要もない。言いたいことを全部伝えられないと思ったら、メールやチャット、文書など自分が言いたいことを伝えられるフォーマットで伝えればいい。「このまま話すのはしんどい」と思ったら、状況に応じて最適な手段を選ぶようにしています。

ですから、ホワイトボードはよく使いますね。元コンサルなので、たくさん図解スライドを作っていたんですよ。比較的、図で説明するのが得意なので、言葉で言い表せないような抽象的なことや、物事の相関関係はすぐに図を書いて説明しますね。会議でも基本的にはホワイトボードのすぐ近くに陣取って座るようにしています。ホワイトボードに書き出すと、手元に注目が集まるので、自分の話を聞いてもらいやすくなるメリットもあるんですよ。

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ネイティブにはかなわないから「英語以外」の強みを

―それにしても英語を話すときのポイント、本当にシンプルですね。「TOEICのスコアアップ」や「語彙を増やす方法」みたいなものをイメージしていました。

詳しい勉強法みたいなのはブログには書いてますけど、正直なところTOEICってあまり意味がないと思うんですよ。

ITベンチャーのときに受けたTOEICで985点を取りましたが、そのときの僕の英会話能力はかなり低かった。「TOEICで満点を目指そう」みたいに考えている人もいるかもしれませんが、900点を取れたら、それ以上がんばってもコスパは良くないと思います。

そこまで来たら十分基礎はできているはずですから、インプット重視からアウトプット重視に切り替えて、ビジネスで本当に必要になるであろう語彙表現に注力したほうが、意味はあると思います。

―基礎力をつけた後は、「3つのルール」を念頭に置いたうえでアウトプットしていくといいわけですね。

そもそも、「完璧な英語」なんてないし、無理だと思うんです。

もちろん、できるに越したことはないけど、たとえどんなに英語がうまくなっても「ノンネイティブにしては英語がうまいね」くらいで、絶対ネイティブにはかなわないじゃないですか。しかも、海外で働くというのは、ネイティブスピーカーと同じ土俵で戦うということですから、英語で太刀打ちできないぶん、それ以外に強みを持たなければならない。

英語だけを頑張っていると、それ以外のスキルを磨く時間を割くのはやはり難しいですよ。だから、絶対にかなわない英語で完璧を目指すより、それ以外で何か自分の強みを見つけて、それを伸ばしたほうが先の未来につながると思うんです。

―鵜飼さんご自身はどういった強みがあると考えていますか。

いま、僕のチームにいる日本人は僕一人なんですけど、日本の最新ゲーム情報にリアルタイムで触れられることは大きなアドバンテージになっています。幸い、ゲーム業界では日本って「イケてる国」なので、とても重要視されているんです。そこから情報を得られるのはやはり強みですね。

Amazon Game Studios

それと本来、プロダクトマネジャーは手を動かさない役割なんですけど、大学時代にロボットを作ったりプログラミングをしたりしていたので、テクノロジーも理解していて、モノづくりもできる。つくる難しさを理解したうえで、何をどう作るべきなのか判断できることは強みかな、と思っています。

―英語でコミュニケーションが取れるようになって、鵜飼さんのキャリアにはどんな変化がありましたか。

日本で当たり前と思っていたことが全然当たり前じゃないんだ、というのが僕にとっては大きなインパクトでした。

Amazon Game Studios シニアプロダクトマネジャー 鵜飼勇至

日本にいたころは、朝9時に出社して、夜19時くらいになると「よし、そろそろ第2部かな」みたいな感じで、終電近くで帰るのがデフォルト。でもアメリカでは、出社時間こそ変わりませんが、退社するのは17時くらい。「ちょっと髪切ってくるわ」とフラッといなくなったり、「家族が来るから」と15時に帰宅して、夜になってからちょっと家で仕事をしたり・・・本当に自由なんです。

あのまま日本で働いていたら、平日は子どもに会えなかったでしょうね。実際、コンサル時代の上司は長時間労働で離婚率も高かったし、アメリカに来てよかったなあ、って正直思います。

マネジメント方法もまったく違っていて、日本では上司から細かく指示を出されて、作業をして、上司に見せたらまた直されて・・・みたいな感じだったけど、アメリカではそもそもその方法は「マイクロマネジメントだ」と言われて、やってはいけないことだとみなされますね。

どうしても日本では性悪説というか、オフィスにいないと「サボっているかもしれない」と思われて、オフィスに遅くまでいたほうが「仕事している」とみなされる。僕がまさに前々職ではそうでしたからね。

でもこっちでは性善説に則って、はじめに大きなゴールを示して、あとは各自の裁量に任せる。細かいスケジュール管理もされません。オフィスに来ても来なくても、いつどこでどう働いても、成果を出せばいい。それって、本質的な働き方だなあと思うんです。

Amazon Game Studios シニアプロダクトマネジャー 鵜飼勇至

[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] ギブソンまり子

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