相手に本音を話させる人は「3つのステップ」で話を聞いている

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顧客へのニーズヒアリングやチームビルディングの場など「相手に心を開かせ、本音を引き出す」ことが求められる場面はビジネス上で多々あります。その際に有効なメソッドが「アクティブリスニング」。

トニー・ブレア氏(元英首相)、スティーブ・ウォズニアック氏(アップル共同創業者)など名だたるリーダーをして「私がインタビューを受けるときはYukaで頼む」と言わしめる、一流インタビュアー谷本有香さんが編み出した「聞く技術」です。

今回はその谷本さんに、「相手に気持ちよく話してもらいながら、相手の言語化を促すような問いを投げかけるメソッド」の効果とビジネスシーンへの応用法についてお話を伺いました。

フォーブス ジャパン副編集長 谷本有香

PROFILE

フォーブス ジャパン副編集長 谷本有香
谷本有香
フォーブス ジャパン副編集長
山一證券、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年に米国でMBAを取得。その後日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターとして従事し、2011年からフリーのジャーナリストに。2016年から現職。著書に『アクティブリスニング なぜかうまくいく人の『聞く』技術』(ダイヤモンド社)、『何もしなくても人がついてくるリーダーの習慣』(SBクリエイティブ)など。跡見学園女子大学マネジメント学部兼務講師

他人と話すことが、実は苦手だった

ー谷本さんは名だたる国内外のリーダーたちをインタビューされてきた「話を聞くことのプロ」。しかし、以前は引っ込み思案で人と話すのが苦手だったのだとか。

昔から人前に出たり、目立つのが得意ではなく、小さいころは存在感が薄い子だったんです。通信簿に「今学期はがんばって喋ってくれました」と書かれてしまうくらい(笑)

にも関わらず、新卒で入社した山一證券では「経済キャスター」にたまたま配属。毎朝15分、全社員に向けて経済ニュースをアナウンスする仕事で、当時は嫌々やっていました。

そもそも他人と話すことが苦手だったんです。一番辛かったのは目上の人と話すときで、「相手の時間を無駄にしてしまうんじゃないか」と敬意を過剰に抱いてしまって。

相手の顔色を伺いながら無理して話すものだから、「君の敬語はおかしい」と面と向かって指摘されたこともありました。

フォーブス ジャパン副編集長 谷本有香

けれどもご存知の通り会社(山一證券)が廃業して、金融や経済の道に携わりたいと、経済キャスターとしてのキャリアを歩んでいくことになったんです。

ー「アクティブリスニング」の技術を編み出したのはそのころでしょうか。

いいえ。嫌々始めた仕事ではあったのですが、その後は意外とのめり込んでいったんです。

経済に関する知識に基づいた確かな質問力でスクープを取れるようになるため、アメリカにMBA留学もしました。

留学から帰国した後、「日経CNBC」では来日する著名人のインタビューはかならずと言っていいほど私が担当していたころもありました。

「日本の女性キャスターは『バービー』みたい。声が高くて、広報に言われたとおりの質問しかしない。だけど、君のことは初めて『プロ』だと思ったよ」と外国のVIPから言っていただけたことも。

だけど、あるとき「海外のリーダーとはこんなに打ち解けられるのに、日本のリーダーは通りいっぺんのことしか話してくれない」と気づいたんです。

心を開かせる「アクティブリスニング」3つのステップ

ー海外のリーダーと日本のリーダーとでどんな違いを感じましたか。

海外のリーダーの場合、私が「それはなんで? どうして?」と突っ込むと、気持ちよくどんどん話してくれたんです。

相手より先に自分が足を組んだりすると「ここではリラックスしていいんだ」と感じてくれて、思わぬ発言がスクープにつながることも。

フォーブス ジャパン副編集長 谷本有香

それが日本のリーダーだと、こちらが目を見て質問しても、あちらは想定問答集とにらめっこ。そこに書かれていないことを聞くと、怒り始める人もいて。

「日本人は明確な答えがあることは話してくれるけど、より深い答えを引き出すには日本人的な傾聴を取り入れる必要があるんだ」とハッとしました。

それで「アクティブリスニング」のメソッドを少しずつ構築していったんです。

ー「アクティブリスニング」とはどういったメソッドなのでしょうか。

まず「聞く」姿勢を示し、気持ちよく話してもらいながら、相手の言語化を促すような問いを投げかけるメソッドです。

アクティブリスニングの3ステップ
アクティブリスニングの3ステップ

アクティブリスニングには、「準備」→「本番(傾聴と問答)」→「フォロー」という3ステップがあります。その基本となるのは「傾聴」と「問答」という、2つの「聞く」動作です。

「傾聴」は、相手の話に相槌を打ったり、頷いてみたり、聞くことに徹することで、相手が気持ちよく話してくれる土台を作ること。

しかし、これだけではあくまで「聞き上手」。アクティブリスニングでは「問答」も重要で、質問の表現やタイミングを工夫して、より深い答えを引き出すのです。

本音を引き出す一番のカギは「肩書きを取り払うこと」

傾聴と問答において最も重要なのは、「肩書きを取り払う」こと。会社の役職ではなく「人と人として」対話する、ということです。

フォーブス ジャパン副編集長 谷本有香

仕事上では、つい業務の範囲内のことばかり話してしまいがちですが、パーソナリティや生い立ち、家族観、キャリア観・・・相手と何らかの共通項を見いだして、自分の話も交えると、より信頼感も高まります。

例えば、スターバックスのハワード・シュルツさん(会長兼CEO)には何度か単独インタビューをさせてもらいましたが、私自身、アメリカで暮らしたこともあるので、

「アメリカ本国では〇〇という商品が人気だけど、日本ではローンチされていませんね。でも、それは正しい。日本では流行らないと思いますよ」

なんて話してみると、「え、それってどういうこと?」とシュルツさんがメモを取り始めて。

相手と共有できる話題を持ちかけるんです。すると「この新商品は妻も『おいしい』って言ってくれてね。やっぱり自分の身近な人、愛している人が『おいしい』と思ってくれるコーヒーを作りたいんです」と、いきいきと話してくれました。

アンカー時代の谷本さん
アンカー時代の谷本さん

会話の他に「場作り」でも工夫ができます。世界的に著名な投資家のジム・ロジャーズさんに話を聞いたときには、ちょうどお子さんが生まれたばかりで、「キティちゃんにハマっている」という情報を事前に知っていたんですね。

それで、日本限定のハローキティグッズをプレゼントに用意しておいたんです。すると、本当に喜んでくださって、話が盛り上がっただけでなく、その場でメールアドレスまで交換して。

「Yukaしか知らないこれから上がる株があったら、俺にこっそり教えてくれよ(笑)」なんて、次につながる交流がそこから始まりました。

アクティブリスナーこそ、次世代のリーダー像

ーインタビューではなく、普段のビジネス上の会話においてもアクティブリスニングは機能するのでしょうか。

フォーブス ジャパン副編集長 谷本有香

もちろん。さまざまなリーダーにお会いして実感するのが、多くの方がやはり「聞き上手」であり、「アクティブリスナー」。アクティブリスニングのスキルを自然に身につけていらっしゃるんです。

例えば、玉塚元一(現ハーツユナイテッドグループ代表取締役社長)さんはMBAの先輩なんですけど、あれほど人たらしというか、人に好かれる方はいないと思います。

会合の場で、皆さん「玉塚さん、玉塚さん」と押し寄せるんだけど、玉塚さんも「あぁ! どうもどうも! 最近どうしてるの?」と握手で迎えるんです。すると、相手はうれしそうに、自分のことを話し始めるんですね。

おそらくたくさんの人に会っている方ですから、全員の顔と名前を覚えていらっしゃるわけではないと思うんです(笑)だけど、話しているうちに相手のことを思い出して、会話の糸口を見いだしていくわけですね。

DMM.comグループ創業者、現DGホールディングスの亀山(敬司代表取締役)会長もそうですよね。確か数年前までは普段スーツを着ていらっしゃったけど、今はカジュアルな格好で、Facebookメッセンジャーで「今度オフィスに遊びにおいで〜」って(笑)

他にもエルピーダ(メモリ・現マイクロンメモリジャパン)の坂本(幸雄元)社長も、社員に「坂本社長じゃなくて『坂本さん』と呼んでください」、TABI-LABOの久志(尚太郎)社長もアルバイトの人にも初日から「ビンちゃん」ってあだ名で呼ばせていたり。

みなさん、肩書きを取り払うことで、相手に「バカにされるかも」なんて微塵も思わせず、どんどん話したいと思わせる。そういうアイデアの中にこそ、イノベーションの種って埋まっていたりするじゃないですか。

今後、理想のリーダー像のスタンダードになっていくのは、トップダウンではなくボトムアップで現場からどんどん情報が上がってくるような環境、関係性作りができる人。

アクティブリスナーで、まわりから隙があるように見えるくらいのリーダーが、これからの時代に合っていると思います。

フォーブス ジャパン副編集長 谷本有香

[取材・文] 大矢幸世、岡徳之

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