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INTERVIEW
「HOME’S」のネクストに学ぶ、社員が自発的に学び合う組織の作り方
INTERVIEW

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誰かに「やれ」といわれなくても、「やりたい」と自ら思える気持ち、「内発的動機」。そんな気持ちに突き動かされて仕事を行うとき、人は極めて学習効果が高くなることから、社員の内発的動機を刺激しようとする企業が増えています。

しかし、社員の内発的動機が、組織の目指す方向とそろっていなければ意味がありません。ましてや、「コミットメントが低い人の ”ガス抜き” になってしまった」では本末転倒。しかし、「会社と社員のすり合わせ」は、そう簡単ではありません。

社員の内発的動機を引き出し、その力を会社のビジョン実現に向かって発揮してもらうためにーー。不動産・住宅情報サイト「HOME’S(ホームズ)」を運営するネクストは、社員の自己マスタリーを育み、成果につなげるための人材育成に力を傾けています。

ネクストがその先で目指すのは、「日本一働きたい会社」。今回は、同社の急成長の立役者であり人材開発を主導する、執行役員人事本部長の羽田幸広さんにお話を伺いました。

株式会社ネクスト 執行役員兼人事本部長 羽田幸広

PROFILE

株式会社ネクスト 執行役員兼人事本部長 羽田幸広
羽田幸広
株式会社ネクスト 執行役員兼人事本部長
上智大学卒業。人材関連企業を経て、2005年6月ネクスト入社。ゼロから人事部を立ち上げ、採用、人材育成、人事制度の基礎作りに尽力。2008年からは社員有志を集めた「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、6年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011~2016年)、健康経営銘柄選定(2015年度)などの高い評価を得る

ビジョンよりも先に、すり合わせるべきことがある

ーまずは、御社が目指す「日本一働きたい会社」像について教えてください。

私が入社した2005年から、井上(社長)と「社員にとって日本一の会社」を目指し始めました。そして、2008年に「日本一働きたい会社プロジェクト」を立ち上げ、約80人の社員と人材育成や人事制度のバージョンアップのための施策を開始しました。

「経営理念への共感をベースに集まった社員が、自身の自由な意志に基づいてあふれる機会の中で挑戦し、社会に新たな価値を提供し、成長し続けるチーム」、これが私たちの考える「日本一働きたい会社」のイメージです。「働きやすい会社」ではなく、「働きがいのある会社」です。

ーなぜ、そのような目標を掲げることにしたのですか?

今でこそグループで1,000名以上の社員がいますが、2005年当時は上場もしておらず、社員数も80人ほど。当社の存在意義、目指す世界観を明文化した経営理念はすでに存在していましたが、理念への共感というよりも、「不動産業界を変革したい」という井上が語る「HOME‘S」のビジョンや井上の人柄に惹かれた人たちが集まっていました。

井上をはじめ、当時の経営陣はそんな社員たちの情熱と才能を引き出し、毎年60%成長という好業績を積み重ね、2006年に東証マザーズに上場。ただ、その頃から経営理念に定めているような「住まい」以外の他の「暮らし」領域の不を解消するような新たな事業を生み出していこう、企業としてより成長していこうという機運が高まり始めました。

そのためには、組織と人材の「桁替え」が必要だろうということで、「社内外の人材に、日本で最も働きたい、働き続けたいと思われる会社になろう」と考えるようになりました。

ー「ビジョンの実現」が背景にあったのですね。

一般的に、1人や2人の会社に「3人目」として入るのと、500人や1,000人の会社に入社するのとでは、その入社する動機が異なります。

前者であれば会社のビジョンを実現するために「同志」が集うイメージがありますが、後者だと「成長したい」「良い待遇で働きたい」という動機がより強くなるように思います。

ですが、当社は500人になっても1,000人になっても「同志」が集う会社を創りたいと考えています。そして、その同志たちがさまざまな社会の不に挑戦し、才能を開花させ、社会に大きなインパクトを与えるようなステージを用意したいのです。

ー「日本一働きたい会社」を目指す上で、大切にしていることは?

  1. 内発的動機付け
  2. 心理的安全の確保
  3. ビジョンフィット

の3点です。

まず「内発的動機付け」ですが、人は自分のやりたいことに取り組んでいるときがいちばん熱中しますし、自分の好きなことなので自発的に学んで成長していきます。社員の内発的な欲求に耳を傾け、それに沿う仕事をまかせることが大切だと考えています。

当社の人事施策は、一貫してこの考え方をベースに設計されており、社員が日々の業務はもちろん、新規事業の提案や全社の活性化に関する活動においても、積極的に挑戦する企業文化が醸成できていると思います。

例えば、当社では職種の変更を伴うジョブローテーションは行っていません。

「キャリア選択制度」があり、上司と部下がキャリアビジョンを共有し、上司がアドバイスすることで部下のキャリア形成を支援するのですが、部下は部署の異動意向を申請することも可能で、多くの場合、その意向は尊重されます。この際に希望があった場合にのみ、職種の変更を実施します。

また、新規事業提案制度「Switch」や社員が業務時間の10%を使って合宿形式で新たな技術などに取り組める「クリエイターの日」、新規事業部門への異動や外部の財団法人への出向のチャンスがある「社内公募制度」など、業務に直接関連しない挑戦もしやすい仕組みを作っており、多数の社員が積極的に活用してくれています。

さらに、ビジョンの浸透活動を行う「ビジョンプロジェクト」や、「クリエイターの日」実行委員会、社会貢献活動支援制度「One P’s」委員会、社員旅行実行委員会、オフィス移転プロジェクトなど、会社を活性化するためのプロジェクトが常に複数走っており、延べで全社の30%近い社員が有志でプロジェクトに参画し、会社を盛り上げてくれています。

ー社員の内発的動機を引き出したとしても、それが会社のビジョンとすり合っていなければなりません。

おっしゃるとおりです。会社とは、ビジョンを実現するために組成するチームだと思っています。ネクストであれば、「常に革進することで、より多くの人びとが心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」という経営理念を実現したい。

ですから、ただ単に社員が「やりたいこと」をやってもらうのでは意味がありません。会社が実現したいビジョンと社員の「やりたいこと」のベクトルが揃っている「ビジョンフィット」が重要です。

ーどうすれば、会社と社員の方向をそろえることができるでしょうか?

「ビジョンフィット」を図るさまざまな試みを実施していますが、当社では、「ビジョンのギャップ」を埋めていく前に「感情のギャップ」を埋めるようにしています。

株式会社ネクスト 執行役員兼人事本部長 羽田幸広

ギャップを埋めるための「心理的安全」の作り方

ーなぜ、「ビジョン」よりも先に「感情」のギャップを埋めるのでしょうか。

社員が力を発揮できる組織の条件の一つは、ハーバード・ビジネススクールのエドモンドソン教授らが提唱されている「心理的安全」が確保されていることだと考えています。

メンバーが上司や他のメンバーに対して自分の考えや感情を率直に伝えることができ、間違ったことを言ったり反対意見を言ったりしても安全だと感じられる雰囲気のことですね。

ーたしかに、そのような関係でなければビジョンや戦略について語り合うことは難しいです。

おっしゃるとおりです。私たちは毎年期初のタイミングで、例えばスポーツやサバイバルゲーム、料理対決など、コミュニケーション活性化のためのチームビルディングをほとんどの部門で実施しています。チームビルディングを導入した当初は人事の組織開発チームが支援していましたが、今では各部門長がそれぞれ独自のアイデアを出してプログラムを実施してくれています。

新卒社員や若手は、上司に対して、たとえまだ「事業」の戦略は語れなかったとしても、「サバゲー」の戦略なら語れますよね。またこのような場でのコミュニケーションによって、自己開示のタイミングが早まります。

そうやって、「反対意見を言ったら、無知・ネガティブと思われるかも」といった必要以上の心理的な壁を、メンバーが感じなくて済むような関係が徐々に作られていきます。

ーまさに「心理的安全」が確保された状況ですね。

他にも、管理職には「裁量予算」という自身の成長や社内外の人たちとのコミュニケーションなど、自分が必要だと思ったことに自由に使える予算を持たせており、これを使ってメンバーと食事しながらコミュニケーションを図る管理職も多いです。

また、年1回の社員旅行や前述の全社横断のプロジェクトなど、部門を超えて心理的安全が確保された状態を作り出す努力も続けています。

そうした機会を活かして、自分と異なるいろいろな部門の人と交わることで、自分や自分の課に無意識に染み付いている前提やメンタルモデルを自覚し、誰とでもオープンに会話できるようなマインドを育んでいるとも言えます。

ー他の企業のリーダー人材の方が、会社と部下、あるいは自分と部下の間で「感情」のギャップを埋める際のポイントを教えてください。

リーダー個人の振る舞いとしては、

  • メンバーと直接話をする
  • 自身のこと(自分の考え、最近の出来事、過去の失敗など)を開示する
  • たまには非公式なコミュニケーションの場(食事に行ったり飲みに行ったり)を設ける
  • (たとえ良い提案でなくとも)メンバーが提案してくれたこと自体を褒める
  • メンバーが反対意見を出しても、ネガティブな人・邪魔をする人だという評価をしない
  • メンバーが間違ったことを言っても、評価を下げるなどの不利益な取り扱いをしない
  • 最後の2点は事前にメンバーに宣言する

などは重要だと思います。

ー「感情」に続いて、「ビジョン」のギャップはどのように埋めていますか?

まずは当然ですが、会社がビジョンに対して一貫した経営を行う必要があります。

当社では「役員の心得」という、経営陣が理念に対して一貫したマネジメントを行うことを約束した5カ条を定めており、これを記載したポスターが社内に掲示されています。経営陣はこの「役員の心得」を遵守するように常に注意を払っています。半年ごとに、各役員が「役員の心得」を実行できているかについて社員にアンケートに答えてもらい、結果を各役員にフィードバックしています。

また、当社では本部、部、グループ(課に相当)などのすべての部門がビジョンを策定しています。それにより、経営理念から自分が所属するグループのビジョンまで順番に読んでいくと、経営理念と自分の仕事のつながりが掴めるようになります。これを視覚的に理解しやすくするように、組織図の各部門名の下に各部門のビジョンを記載した「ビジョンツリー」というツールを作成し、公開しています。

ビジョンが自分の中で腹落ちしているか、行動に移せているかを確認するための無記名の「ビジョンアンケート」も半年に一度実施しています。こうした仕掛けのおかげで、会社と個人とのビジョンのギャップに戸惑う社員は少ないと思います。

また、当社の採用基準で最も重視しているのは「ビジョンフィット」で、経営理念と採用候補者のやりたいことのベクトルが合わなければ絶対に採用しません。

ー「日本一働きたい会社」を目指して、社員の行動は変わりましたか?

経営理念の実現に向けて、自由にアイデアを出す社員が増えたと思います。「HOME’S」においては、不動産業界を変革していくためのさまざまな提案が社員から出てきています。

また、新規事業提案制度「Switch」では、前期は160件の事業提案がありました(前期の社員数は約570人)。現在子会社化している事業のうち、5社はSwitchでの提案を事業化したものです。

全社員が携帯する「ビジョンカード」も会社と社員のギャップを埋めるため
全社員が携帯する「ビジョンカード」も会社と社員のギャップを埋めるため

ー他の企業のリーダー人材の方が、会社と部下、あるいは自分と部下の間で「ビジョン」のギャップを埋める際のポイントを教えてください。

ビジョンを描くのは基本的にはリーダーの仕事だと思いますが、当社ではビジョンをメンバーと対話を重ねながら作り上げていくことを推奨しています。

管理職の研修などで、仕事を進めていく際にはメンバーの「Acceptance(受容)」の度合いが重要であるということを伝えていますが、ビジョンについてもできるだけメンバーが「主体的に」受容し、組織のビジョンを「自分のビジョン」として仕事に取り組むことが望ましいと思います。そのためにいちばん手っ取り早いのは「一緒に作る」ことだと考えています。

社員の学びを成果につなげるリーダーに求められる意識

ー社員の自発的な学習を、組織の成果につなげるための取り組みはありますか?

分かりやすいのは「ネクスト大学」でしょうか。いわば、「社内大学」です。

クリティカルシンキングやファシリテーションなどを学ぶ「必須プログラム」、次世代の経営者を育成するための「選抜プログラム」、勉強会の集合体で「ゼミナール」と呼んでいる「選択プログラム」に分かれています。

「ゼミナール」は、講師も社員が担当します。今年の上期だけで36のゼミが開催され、延べ556人が受講しました。講座は、「こんな知識があるからゼミを開いて共有したい」「これについて知りたいから誰か教えてくれないか?」という社員の声がきっかけで始まります。事務局はゼミナール全体の運営こそしますが、講座の内容などについては細かく管理していません。

ー「自発的」に学習の場が作られているのですね。

全社横断プロジェクトにも言えることなのですが、管理職向けの研修の場などで井上がよく話しているのは、「自部門の短期的な成果だけを考えて、(ネクスト大学のような)成長の機会や全社横断の取り組みを阻害するマネジャーは、『ミドルのフリーライダー』だ」ということです。

そんなトップの声かけによりさらに心理的安全が確保され、「社員が自発的に教えあう、学び合う」「全社横断施策に参加する」ということが当たり前になっているんです。

学びの質は、当社の全社戦略と同様、社員の内発的動機づけに沿って「多様」でありながら、会社の経営理念や企業文化と「一貫」している、そのバランスを大事にしています。

株式会社ネクスト 執行役員兼人事本部長 羽田幸広

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会社は真面目に経営されるほど「学習しない組織」になってしまう
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[取材・文] 岡徳之、大矢幸世

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