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古森剛 イノベーションに欠かせない「好奇心ドリブン」の学習法
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「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」。これは、スタンフォード大学教授で心理学の世界的な権威であるJ.D.クランボルツ氏が提唱する、「プランド・ハプンスタンス理論」です。

言い換えれば、「偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを良いものにしていこう」という考え方のことですが、これはキャリアと背中合わせの関係にある「学習」にもあてはまるのだと思います。

計画され、学習の必要に迫られたテーマだけでなく、予期せぬ出来事やひととのめぐり合わせに触発され湧いて出てきたテーマも好奇心に従い学習することが、キャリアの形成や自己実現につながるのではないでしょうか。

一見行き当たりばったりにも見えてしまう、この学習の動機付けを行うアプローチには、どのような効用があるのか。これまでビシネスパーソンの学習に長年携わってきた、元マーサージャパン日本法人代表の古森剛氏にお話を伺いました。

株式会社CORESCO代表取締役  古森剛氏

PROFILE

株式会社CORESCO代表取締役  古森剛氏
古森剛氏
株式会社CORESCO代表取締役
新卒で日本生命保険相互会社に入社し、人事部に配属。在籍中に米ウォートン・スクールでMBAを取得し、帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、組織・人事マネジメントコンサルティング会社マーサージャパンに移籍し、日本法人代表も歴任。株式会社CORESCOを創業し、代表取締役に就任。マーサージャパンには現在もシニア・フェローとして在籍している。東北の震災被災地支援を行う、一般社団法人はなそう基金の代表も務める。

計画派か偶然派か? 学習の「3つ」のタイプ

ーー「個人のキャリアは偶発的なことによって決まる」と言われると、あらがいたくなります。

そうですね。プランド・ハプンスタンス理論にも通ずるところがありますが、私はキャリア構築におけるひとの考え方は、大きく「3つ」の型に分けられると考えています。1つめは「詳細設計型(がた)」、2つめは「方向感覚型」、そして3つめは「出会い型」です。

「詳細設計型」は、自分の目指す方向やこだわるものなどが明確で、そのために積みたい経験もクリアに設計するという考え方。例えば、将来自分で起業する際に必要となる経営スキルを磨くためにMBAを取得したり、コンサルティング会社に就職するといったひとです。

「方向感覚型」は、目指す方向やこだわるものは明確な一方で、そのプロセスで起こる出来事やひととのめぐり合わせに対しては柔軟な考え方。「何年後にはこうなっていたい」という自分が抱くイメージに近づけるのであれば、受け入れるようなひとです。

「出会い型」は、出会いや縁を大切にして生きるという考え方。目指す方向やこだわるものがないという言い方はネガティブに聞こえますが「自分でも自分の将来がこれからどうなっていくのか分からないけど、楽しみ」という好奇心で動くひとです。

あらがいたくなるのはきっと、ここ20年で形作られてきた就職活動のあり方の中で、「あなたは将来、どのようなひとになりたいですか。そのために、いつまでになにをしますか」と問われ続け、「詳細設計型」のようなひとが社会では良しとされると感じているからでしょう。

キャリア構築のための学習パターン3つ

ーーそのような考え方が、「学習」のテーマ選びにも影響を与えていると感じます。

はい。これは極端な例ですが、「詳細設計型」のひとがMBAを取得することに比べると、「方向感覚型」や「出会い型」のひとがたまたま美術館で目にした絵に触発されて美術について学び始めるというのはキャリアには活かされないとみなされてしまうでしょうね。

あまりカルチャー論議はしたくありませんが、日本では、活かされない恐れがある学習を良しとするようなリスクを避ける傾向にあることは統計的にも明らか。「プランド・スタディー」は認められやすいですが、「ハプンド・スタディー」はなかなか認められません。

私は、先ほどの「3つの型」のひとが混じり合ったチームなどの環境が、個人の学習を促進すると考えています。

詳細に設計されたテーマの学習は利益に直結しやすく、それが仕事に関わるものならばいわずもがな取り組まなければなりません。一方で、柔軟性と長期的な視点を伴う考え方から選ばれた偶発的なテーマの学習の方が、よりイノベーションをもたらしやすいと考えます。

例えば、大学でカリグラフィーに夢中になったアップルの元CEO、スティーブ・ジョブズ氏は「方向感覚型」もしくは「出会い型」だと推測できます。彼のような異才を、一般的に「詳細設計型」の人材を求める日本の企業が果たして採用できたでしょうか。

これは、子どもの教育にも通じる話です。親のパソコンで勝手にゲームをしているうちにコンピュータに興味を持った子どもが将来すごいものを生み出す可能性はあります。しかし、多くの親や学校の先生たちはそれを良しとするかというとそうではないと思います。

私は、社会人になってからの学習においても、子育てにおいても、周囲が「なんだってやらせてみればいいじゃないか」と、本人の湧いてきた好奇心を受け入れ、楽しそうにしていれば放っておくような懐の深い社会になればいいと考えています。

異なる「型」のひとを受け入れよう

ーーご自身は「詳細設計型」でしょうか。

よく言われます。経歴だけ見れば、新卒で入った会社で培った人事と組織変革のスキルを活かしてコンサルティング会社に転職し、そこで培った経営スキルを活かして人材系コンサルティング会社の代表になったのだろうと。

実は私は「方向感覚型」です。経営者や経営コンサルタントを目指したことは一度もありませんし、お金よりも、人との出会いや人から感謝されることを日々追求していたら、今までのようなキャリアを歩んでいました。

このことを象徴するのは、日本生命からマッキンゼーへの転職でしょう。日本生命に一生骨を埋めるつもりでさえいましたが、マッキンゼーで働くひとたちと出会い「なにが学べるかは分からないけれども、なにか学べるかもしれない」と思い、転職を決めました。

そして入社してみたら、自分が働いたこともない業界の企業を、その外から変えるという仕事に携わることになり、おかげで自分の出くわしたことのない問題や、自分が文脈を知らない状態に対処するという、想像もしていなかったスキルを学ぶことができたのです。

学生時代の「英語」の学習についても、自分の「方向感覚型」の性格が如実に表れていたと思います。皆と同じく英語ができるようになりたいと思ってはいたものの、教科書に書かれた英語ではなく、英字新聞に書かれた本物の英語に惹かれて、読み漁って学んでいました。

 

ーー自分が学習したいテーマと周囲が求めるテーマが異なると躊躇してしまいそうです。

自分とは異なる「型」のひとを見ていると、そのひとがとても窮屈に感じられてしまうのが人間の性です。そしてひとは、無意識のうちに、自分と同じ型のひとを是としてひとと接してしまいます。

もしも自分と異なる型のひとに出会ったときは、考え方を共有することが大切でしょう。「あのひとはひらめきで動くひとなんだ。お金で動くひとなんだ。人との出会いで動くひとなんだ」、そう分かれば自分の型を押し付けることは少なくなるはずです。

また、自分の本当の型に、自分でも気づいていない場合もあります。人生の成熟ステージによって変わる可能性があるからです。自分の型に30代で気づくひともいれば、50代になって気づくひともいます。ひとそれぞれなのです。

ジョブズ氏も有名なスピーチで言っていましたが、人生の点は振り返ればつながっているものです。迷っている間はいろいろ学んでみたらいい。あまり世の中との距離は気にせず、自分にとって良いと思うものを見つけて学びましょう。

 

ーー古森さんはこれからなにを学んでいかれますか。

震災の被災地で英語教室を行うNPOを運営していますが、ボランティアのひとたちには、お金ではなく、”Why(活動を行う理由)” に共感して協力してもらわなくてはいけません。非営利組織の運営は、営利組織よりも難しいのですが、だからこそ学びも大きいです。これを「なに学」と呼ぶのかは分かりませんが。

現代はインターネットが普及したおかげで、世界中の個人から何でも学べる時代です。これほど学習のしやすい時代はこれまでなかったわけですから、まさしく「火」の登場以来の発明ではないでしょうか。「プランド・スタディー」と「ハプンド・スタディー」のどちらが良いということではなく、自分も、そしてひとに対しても、どちらも受け入れられるとよいですね。

震災被災地の陸前高田で行われている英語教室の様子
震災被災地の陸前高田で行われている英語教室の様子

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[取材・文] 岡徳之

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