一流ビジネスパーソンの共通点「バックキャスティング思考法」

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変化を捉え、活躍するハイクラス層に共通することは何か。日々、ハイクラス層と向き合い、転職をサポートするパーソルキャリア株式会社のヘッドハンター 澤本静さんに寄稿していただきました。

PROFILE

パーソルキャリア株式会社 ヘッドハンター 澤本静
澤本静
パーソルキャリア株式会社 ヘッドハンター
大手人材総合サービス会社にて、法人営業、カウンセラー、新規事業立上げ、マネジメント業務に携わった後、最大手医療ポータル運営会社にて新規事業開発に従事。その後、パーソルキャリアエグゼクティブエージェントに参画。経営企画・新規事業企画職全般の転職支援に強みをもつ


パーソルキャリア ヘッドハンターの澤本です。年間1,000名のハイクラス層の皆さまのキャリアカウンセリングを行っています。

そのなかで常日頃、ハイクラス層の方々に感じることは目標設定が明確なこと。そして、目標設定が明確なことで「なりたい自分」を手に入れる確率とスピードが格段に違うということです。

今回は、そんなハイクラス層の目標設定について、「バックキャスティング/フォアキャスティングの思考」を交えてご紹介したいと思います。

「バックキャスティング」と「フォアキャスティング」の考え

変化の激しい現代では、「変化に柔軟に対応できるスキル」が求められます。特に、ビジネスをリードしている方は思考の枠を取り払う「バックキャスティング(Backcasting)思考」を身につけています。バックキャスティングは「未来思考」の一つです。特徴は、「未来」を起点として、そこから逆算して「現在」を考えること。

一方、「フォアキャスティング(Forecasting)」は「今」を起点とする思考です。現状のシーズを活かし、「カイゼン」を積み上げる特徴があります。バックキャスティングとフォアキャスティングは元々ビジネスシーンにおける思考法ですが、キャリア形成にも同様に有効です。

ハイクラス層の「キャリアバックキャスティング」

自分のキャリアを考えるとき、現在もっているスキルや経験、資格などの資源を中心に考えます(フォアキャスティング)。しかし、私がお薦めしたいのが、バックキャスティングの思考です。

バックキャスティングは、現在の能力を一切無視し、どのような自分になりたいか、どのような仕事をしていたいかをしっかりと明らかにします。その「なりたい自分」に必要な能力・スキルを書き出し、今の能力・スキルと比較することで自身に足りない能力・スキルの「ギャップ」を明確にしていきます。

私が日々お会いするハイクラス層の皆さまは、常にこのギャップを埋めるキャリア形成を意識されています。

「バックキャスティング」でつかんだ未来と「フォアキャスティング」でつかんだ未来

キャリア形成における、典型的な事例を紹介しましょう。

学歴、経歴、年齢が非常に近しい方がキャリア相談に来ました。日本トップレベルの国立大学卒、大手商社勤務、社内選抜で海外MBAも取得されたAさん、35歳。同じ大学卒、大手広告代理店勤務のBさん、35歳です。

Aさん:「私は大手商社に勤務して、大きなプロジェクトに参加するチャンスをいただき、順調にキャリアを歩んでいると思います。社内でも最大限に評価をしてもらっていることは十分承知しています」

澤本:「順風満帆な素晴らしいキャリアですね。しかし、このような輝かしいキャリアを歩んでおられて、なぜ転職をご検討されているのですか?」

Aさん:「おっしゃる通り、友人からも家族からも不思議がられます。それはそうですよね。しかし、私には日々課題感しかないのです。大手商社という看板がなくなったら、私一人でどんなことができるのか。

このような思いをもち始めたのは、海外赴任がきっかけでした。グローバルでは、日本とは比にならないスピードでマーケットが変化し、日々企業が戦っている。そんな戦場に私が一人放り込まれたら、自らの手でビジネスを成功させることができるだろうか。到底、無理です。猛烈な焦りを初めて感じました」

澤本:「海外赴任がご自身のキャリアを振り返る良い機会だったのですね」

Aさん:「そうなんです。そもそも私は何をしたかったのかと振り返る機会にもなりました。エリートになりたかったわけではなく、実は学生時代から思い描いていた事業プランがあって、その実現のための経験を得たかったのです。商社で場数を踏んだつもりでもありましたし、学生時代のプランよりは現実的なプランも描けるようになりました。

しかし、それは商社流です。30歳のときに初めてなりたい未来を時間軸ではっきり目標設定して、私に足りない経験・スキルを埋めていく計画をスタートしました。まずは、経営に必要な『ヒト・モノ・カネ』に関する知識を体系的に身につけたくてMBAも取得しに行きました」

澤本:「素晴らしいご経験ですね。未来の目標からの逆算でご自身が不足しているスキルも明確になり、あとはギャップを埋めていくだけですね」

Aさん:「そうなんです。私は大手企業のルールのなかである意味、『社内調整力』や『根回し力』をフル活用してビジネスを動かす経験はしてきました。しかし、ルールが決まっていない小さな組織でビジネスを推進した経験がないことを自覚しています。このままでは、自身のコアスキルが『大企業の部長』になってしまいます。

そこで、小さな立ち上げフェーズのベンチャー企業か、中小の老舗企業で再生フェーズにある厳しい環境で経験を積みたいのです」

澤本:「未来に向けてご自身のキャリアに足りないものを身につけるために、もっとも厳しい環境に行きたいのですね?」

Aさん:「その通りです。すでに知名度がある企業では意味がありませんので。よろしくお願いします」

Aさんは、結果100名前後の老舗中堅オーナー企業へご転職され、日々社長のビジネス哲学を実践で学ばれています。目標に近づいている自分が手に取るようにわかり、「毎日が楽しくて仕方が無い」と、いつお会いしても満面の笑みでおっしゃっており、本当に充実されているご様子が伝わってきます。

一方のBさんです。

Bさん:「私は現役で一流大学を卒業し、大手広告代理店に入りました。同期の中でもトップクラスの実績を出して表彰もされています」

澤本:「すばらしい実績ですね」

Bさん:「もちろん、誰よりも努力をしました。昼夜を問わず仕事で実績を出す事を第一に考え、寝る間を惜しんで仕事をし、プライベートも犠牲にしてきました。会社から推薦もされて、国内のMBAも取得しました。

ただ、先日私よりも実績が芳しくない同期が先に昇進をしたのです。これは納得がいきませんでした。思い余って上司に抗議をしたのですが、納得を得られる回答ではなくて」

澤本:「なぜ、そんなに昇進を早くされたいのですか?」

Bさん:「早く部長になりたいのです。私の父も広告代理店勤務で、彼は最年少部長になった。昔から『男たるもの部長にならなければ、一人前のビジネスパーソンとは言えないぞ』と言われて育ったもので」

澤本:「そうだったのですね。『部長になって○○をやりたい』というご希望があるのですか?」

Bさん:「希望ですか・・・ いや、部長になりたいんですよね。課長ではなく、部長。みんなそこを目指しているので、出世レースに勝ち残らないといけません。同期に先を越されてしまった今、厳しい状況になってしまったわけです。なので、私の実績を評価してくれて、課長として転職できる企業を紹介してほしいのです」

澤本:「そうなのですね。例えば、Bさんの思い描いていらっしゃる未来が『部長』だとして、今のご自身では足りないスキルは何だと思われますか?」

Bさん:「どんな難しいクライアントでも対応できる自信はありますし、数字は残せると思います。強いて言うなら、マネジメント力でしょうか」

澤本:「そうかもしれませんね。課長職はマネジメント力が必須になりますから、難しい転職活動になるかもしれません。課長職という点はこだわりますか?」

Bさん:「課長職が絶対条件です」

結果、Bさんは、大手企業での面接においては苦戦をし、中堅の広告代理店にてリーダークラススタートの転職をされましたが、2年経過した後もまだ課長への昇進はされておりません。

未来の考え方一つで結果に大きな差が出る

AさんとBさんは何が違うのでしょうか。Aさんはバックキャスティング、Bさんはフォアキャスティングの思考法です。もちろん転職において「正解」はありませんので、どちらが良いかはわかりません。

言えることは、BさんよりAさんのほうが確実に「なりたい未来」に近づいていることです。お二人とも優秀なビジネスパーソンであることは間違いありませんし、企業で活躍していた事実も変わりません。

ただ、Aさんは「なりたい未来」が明確で、未来からの逆算で今のキャリア形成の意思決定をされています。Bさんは「なりたい未来」が曖昧で、ご自身の経験や実績を評価してもらえる場所を選択したために、現在も「なりたい姿」に近づけていないのです。

定期的に「理想的な自分の未来」を描く機会を

私がお会いするハイクラス層の方は、「理想的な自分の未来」を描く機会を定期的に整理しています。

1年に2〜4度、年始や年度初め、また四半期の振り返りというタイミングでご自身の「未来年表」を振り返っており、オンスケジュールで進んでいるのか、遅れているのかを認識し、打ち手を変更しています。

先日お会いしたハイクラス層の方は、「自分の信頼するメンター」をもち、その方と一緒に振り返り、次の打ち手を考える機会がもっとも有効であると断言していました。定期的なキャリアの棚卸しを私がお付き合いさせていただくこともあります。

バックキャスティング思考そのものは、「なりたい未来」を常に描き続けるという、非常にシンプルな考え方です。しかも、「今の自分」を考えずにピュアに「こうなりたい!」だけでいいのです。

大事なことは、自分で決めた「なりたい未来」であること。それぞれの「幸せ」が違うように正解はありませんから、日々内なる自分と向き合い、定期的に更新をしていくことが重要です。

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