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経営者に「謙虚さ」が求められる最大の理由

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『“未来を変える” プロジェクト』では、記事の制作段階でさまざまな方と議論し、フィードバックをいただきながら制作しています。今回は月間150万PVを超える「仕事・マネジメント」をテーマにした人気ブログ「Books&Apps」を運営する安達裕哉さんに「経営者に求められる謙虚さ」をテーマに寄稿していただきました。

PROFILE

ティネクト株式会社 代表取締役 安達裕哉
安達裕哉
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年、東京都生まれ。Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。現在はコンサルティング活動を行う傍らで、仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営し、月間PV数は150万を超える。

ある会社で、皆で昼食を取りに行ったときの話だ。たしか「はなまるうどん」の店舗の前での出来事だったと記憶している。ある社員がこう言った。

「すごいですね。レタス一個分の食物繊維が、うどん一玉に入ってると書いてありますよ。健康によさそうですね」

見ると、はなまるうどんの店頭のPOPに、「はなまる食物繊維麺」と書いてある。何人かは「いいですね」と同意していた。

すると、別の男性社員がこう言った。「レタス一個分の食物繊維の量って、一日に取るべき量のどれくらいなんですかね」

その場にいた人は、誰も知らないようだったが、誰かがWebで調べて言った。「一日の所要量の3分の1か、4分の1くらいだそうですよ」

すると、「なんか多そうじゃない」「かなり助かるよね」と、皆が言う。

するとまた男性社員が、「日本人に、食物繊維って不足気味なんでしょうかね」と言った。

また誰かがウェブで調べる。「不足気味らしいよ」。皆、「やっぱり、そんな気がしていたよ」と言って、この会話は終わった。

後に、男性社員はポツリと言った。「なんで、食物繊維がどの程度とれるのかも、そもそも必要な量も知らずに、『健康に良さそう』って、思い込むんですかね。食事くらいならいいですけどね。仕事でも、ロクに調べもせず決定してしまうことって、多いんですよ。やりにくくてしょうがないです」。

———————————————

また別の会社での話だ。採用担当者が「役員面接」が問題になっていると話してくれた。

「何が問題なの?」と聞くと、彼は「いや、うちの役員がね・・・」と言う。「人事と、現場の中では高評価だった人が、役員面接で落とされちゃうんだよね」。

「考え方が違うだけじゃないの?」

「うーん、そこなんだけど、役員にその理由を聞くと「金融出身の人間はダメだ」とか、「大学に留年歴があるから、だらしないやつに違いない」とか、そういう話が多くてね。とにかく思い込みが強いんだよ」

「なるほど」

「そうなんだよ。『オレには人を見る目がある』っていうんだけど…。その役員さ、人事評価もちょっと問題になってて」

「なぜ?」

「たまたま目につくところで遅刻した人がいて、評価のときに『遅刻をするやつは信用出来ない』っていう趣旨のことを言ったらしいんだよね。いや、遅刻はダメなんだよもちろん。言っていることは正しい」

「んー、それのどこがダメなの?」

「問題なのは、『遅刻した』という事実だけに引きずられて、全体の評価を下げてしまっていることなんだ。こういうのをたしか、『ハロー効果』って言うんだっけ。『何か一つでも突出して悪いことがあったり、良いことがあったりすると、全体の評価もそれに引きずられる』っていうやつだよね」

「評価者訓練とか、してないの?」

「もちろん彼もハロー効果は知っているはずだ。けど、知っていることとやれることは別だから」

彼は悟ったように言った。「こういうのって、いさめるのも難しくてさ。下手にいさめると『あなたはバカですね』と言っているようなものだろ。そんな勇気はオレにはないよ」

———————————————

人間の認識には、さまざまなバイアスがかかる。特に顕著なのが「先入観」だ。

レタスにどの程度の食物繊維が含まれているのか、食物繊維がどの程度必要なのかを知らずに「体によさそう」と思うこと。一度の遅刻を見ただけで「だらしないやつ」と思ってしまうこと。いずれも、客観性を欠いている。

もちろん、印象をもつことが悪いというわけではない。日常から先入観をすべて排するのは不可能だし、手間もかかる。だが、仕事においてはどうかといえば、たしかにこれは困る。

特に、経営者が「今日聞いてきたセミナーの内容」などを、突然「正解を見つけた」かのごとく言い出したら、用心すべきだ。それは経営者の思い込みである可能性が非常に高い。

実際、「成功企業の事例」が大好きな人は多いが、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは著書『ファスト&スロー』の中で、こういったコンテンツを厳しく批判し、「統計的事実に比べて、誇張されすぎている」と述べる。

ビジョナリー・カンパニーで調査対象になった卓越した企業とパッとしない企業との収益性と株式リターンの格差は、おおまかにいって調査期間後には縮小し、ほとんどゼロに近づいている。また、フォーチュン誌の「最も賞賛される企業」にランクされた企業を25年にわたって追跡調査したところ、最下位あたりにランクされたいた企業の株式リターンが最も賞賛された企業を上回っていたという報告もある。

私もまったく彼と同感である。多くの「成功事例セミナー」を見てきたが、それらは「個人のやる気を鼓舞する」ことには役立つが、意思決定の根拠となるには値しない。

もちろん、人間の認識から完全にバイアスを外すのは不可能だ。その上、「どんなことも数字の裏付けがなければ信じない」というのも単なる非効率に堕ちる。

だが、仕事の中の決定、とりわけ採用や評価といった人に関わる重要な決定を、バイアスを持った人間がやることについては問題がある。

上に立つ人間ほど「バイアスを外す」能力が求められるが、それは通常、部下から言ってもらえることはない。

自分の決定に対して常に「これはバイアスがかかっていないだろうか」と検証する謙虚さこそ、マネジメントの条件なのだ。

だから、経営者は配慮に配慮を重ね、「謙虚」でなくてはならない。

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