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自分の居場所を、自分で作れているのか

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キャリアの大きな転機となる「転職」。では、これからの転職においてはどのような視点を持つべきなのか。数々の転職やキャリアに関する相談を受けてきた、元大手製薬会社マーケティング部門部長の50代男性の方に「印象に残っている転職相談」について寄稿していただきました。

PROFILE

元大手製薬会社 マーケティング部門 部長(50代男性)
元大手製薬会社 マーケティング部門 部長(50代男性)
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大手製薬会社から介護ビジネスの業界へ転身。現在は介護施設の経営コンサルティングを中心に介護ビジネス業界で活動している

転職の相談を受けたとき、みなさんは転職を後押しする、もしくは引き留める、どちらのケースが多いでしょうか。

私は、部下は当然引き留めます。転職相談というよりは退職交渉という表現のほうが正しい場合もあるでしょうが、職務でもありますのでかならず一次対応の場面では引き留めます。

一方で、知人の場合は後押しします。転職相談をしてくる人は、私の経験上、転職するほうに傾いている状態で相談してくることがほとんど。今回紹介するのは、私のこの常識を覆した転職相談です。

最も印象に残っている「普通の部下」からの転職相談

今回紹介する彼は、私が営業部にいたころの入社5年目の部下です。彼は、すごく慎重な性格で、5年目にも関わらず上からの指示を待ち、受けた指示も計画を立ててから実行に移すスロースターターでした。

営業成績はハイパフォーマーではないものの、なんとか目標を達成するので頭を悩ませる部下でもありませんでした。つまりは「普通」ということです。飲み会には顔を出していましたが、仕事以外の話を二人でする機会はあまり多くなく、彼のユニークポイントを聞かれてもすぐには出てこない。そういった意味では、業務面は普通、印象は薄い感じでした。

普通と評価していた彼が、転職しようと思うと相談してきました。先に述べたように、私は一次対応で彼を引き留めました。

「5年のキャリアを積んで、これから業務の幅も出るから今は辞めるタイミングではない。一度考え直してみてくれ」

通常あれば、「分かりました。あらためて相談させてもらいます」などと返ってくるのでしょうが、彼は違いました。

「なぜ辞めないほうがいいのか、具体的に教えてください」と切り返してきたのです。

業務面の評価は普通、印象は薄い彼になんと返そうと一瞬考えていると、彼が続けます。

「知人は転職したほうがいいというのですが、僕は辞めたくないと思っています」

これまで聞いたことがないセリフを畳み掛けるように言ってきました。私の頭の中には、「じゃあ、辞めなければいいのでは?」という思いが、はてなマークと交互に出てきました。

恥ずかしいことに、私はその場では即答ができず、ゆっくり話す機会を別途設けてもらうことにしました。周囲は転職を勧めるが、本人は転職したくない。転職しないでいい理由を上司として教えないといけないケースなんて、まったくの初体験でした。

まず、彼が辞めたくないにも関わらず転職相談をしてきた真意を聞くことにしました。すると、彼は転職の意思はなかったのだけど、転職に成功した友人に何気なく転職を勧められ、興味本位で面接に行ってみたら内定をもらってしまい、キャリアで初めてビジネスパーソンとしての自分の立ち位置を見たということでした。

当然、面接の場では自分の強みなどは聞かれたようですが、当たり障りのない返答をする中で、自分が今勤めている会社にいる理由と、いなければいけない理由がまったく見当たらなくなったので聞いてみた、ということでした。

自身の上司の役割をあらため、正直に非を認める

私は彼から問いの経緯を聞いて、さらに返答に困りました。

今から15年ほど前の話で、今とは転職の市場感が違うことはご理解いただきたいのですが、当時は営業であればトップでないかぎり強く引き留めることはしていませんでした。トップを取る人間は会社に対する必要性も説明しやすく、ユニークな部分も明確ですから交渉材料がたくさんあります。

一方、今回相談してきた彼は仮に辞めたとしても採用で補填ができそうな人材でした。返答に頭を悩ませましたが、私にも非があると前置きをした上で正直に考えていることを伝えました。返答に困っていること、そして引き留める材料が少ないという事実を。

そして、私は管理者として、彼の持っているユニークさを鑑み、彼でなければ務まらないポジションを作ろうとしなかったこと、ストロングポイントを伸ばそうとしなかったことを詫びました。

続けて、自分のユニークさをアピールまたは意識的に伸ばそうとしなかった彼にも問題があると指摘しました。結果、彼は転職を思いとどまり、このことをきっかけにとは言えないかもしれませんが、会社にとってなくてはならない人材へと成長しました。

自分の居場所を、自分で作れているか

今の転職市場では、退職が会社に与えるインパクトが大きくなっているので、会社も人材を大切にし、人材開発部を中心に育成に注力していることでしょう。

これは私の偏見なのかもしれませんが、今の環境下では会社が社員を能動的に育成するので、自分の意志で能力を開発しようとするビジネスパーソンが少なくなっているのではと感じています。

もちろん、現状を否定するものではありません。社員にビジネスパーソンとして成長してもらうために会社で取り組むことには賛成ですし、うらやましいかぎりです。しかし、みんなが成長しやすい環境下で得た強みというものは、先に述べた当時の彼のように、今後は普通、印象が薄いという評価とイコールになる可能性があるのではないでしょうか。

自分自身が、会社にいなくてはいけないと思わせる理由を作れているでしょうか。それができている人は今後の転職市場でも成功できる確率が高いと、私は思います。

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