「決断できない上司」と「それを責める部下」のすれ違いの話

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今回は月間150万PVを超える「仕事・マネジメント」をテーマにした人気ブログ「Books&Apps」を運営する安達裕哉さんに、「決断できない上司と部下のすれ違い」について寄稿していただきました。

PROFILE

ティネクト株式会社 代表取締役 安達裕哉
安達裕哉
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年、東京都生まれ。Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。現在はコンサルティング活動を行う傍らで、仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営し、月間PV数は150万を超える

今でもよく憶えている。あの「決断できない上司」に遭遇したのは、神奈川県の製造業の仕事においてだった。

その会社は、全社的なプロジェクトとして品質管理能力を高めるプロジェクトを推進していた。私がアドバイスを担当した部署では作業手順のマニュアル化、チェックリスト化を行うという方針が打ち出されていた。

ところが、マニュアル化、チェックリスト化に伴い、業務の中で次々に不明確な点が出てきたのだ。例えば、不良品一つをとっても・・・

「不良品が発生した場合に誰に相談すべきか」

「不良品をどこに分けておくべきか」

「不良品の修正・再検査はどのような手続きとするか」

「不良の再発防止策はどのような手続きで進めるべきか」

そう言ったさまざまな手続きが「なんとなく」行われていたのだが、それらはすべて属人的であり、手続きが決まっていたわけではなかった。従って、マニュアル化、チェックリスト化を推進する際には、それらのルールについて決定・明確化しなければならない状況だった。

そこでプロジェクトチームは現場の状況に従って、ある程度慣行を明文化し、マニュアル化を進めた。そして数週間後、最初のたたき台に対して部長の承認をもらうべく、チームリーダーは説明をした。

「部長、以前にお話しした不良品の取り扱いのマニュアルです。もうご覧いただいているかとは思いますが、何かございますでしょうか」

「あ、見させてもらったんだけどね。この手続きで本当に問題ないのかね?」

「と思います。ですが、改善案の多くが新しい試みなので、実際にはやってみないと分かりません」

「困るよ、それじゃ。きちんと効果が出るようにしてもらわないと」

「…申し訳ありません。逆に部長はこちらのマニュアルにご指摘はないでしょうか?」

「んー、それを考えるのがリーダーだろう。他社の事例とかはないのか?」

「先にご覧いただいたとおり、1〜2例ありますがウチでうまくいくかどうかは分かりません」

「もっと事例を集めないと分からんだろうが。これだけじゃ上に承認を上げたとき、社長が判断できないぞ」

「は、はい…」

私は当初、「部長の言うことも、もっともなのかもしれない」と思っていたが、何か部下が提案するたびに「事例はないのか?」と言う部長は、本当は責任を取りたくないだけなのではないだろうかと思い始めた。

案の定、マネジャーと飲みに行くと彼は言った。

「ウチの部長、ホントに決められないというか、責任を取りたがらないというか…。なかなか進まなくて、すみません」

「いえ、よくある話なので」

「まあ、私が入社した当時から、あまり主義主張がない人なんですよね」

「そうなんですね」

「なんというか、社長のイエスマンなんですよ。部長」

私は話を聞き、「部長のクセに決められないなんて…」とマネジャーの肩を持つようになった。

だが後日、今度は部長と二人で話をしたとき、彼はポツポツと話を始めた。「私がメンバーから『意見がない部長』って言われているの、聞きましたよね?」

おそらくはメンバーからさまざまな突き上げがあるのだろう。私は隠しても仕方がないと思い、正直に「伺いました」と言った。すると、部長は言った。

「いつも言われるんですよね。私も若いときはいろいろと主張したんですが、もうこの歳になると、上の考えていることが分かりすぎてしまってね…」

「ええ」

「そして徐々に、社長に言う前から、『ああ、これは通るな』とか、『これは通らないな』とか分かるようになってね。だから、メンバーたちにもそれを伝えようとしているんですけどね。なかなかはっきりとしたNOは言いづらいので」

「そうなんですね…」

私は部長の意図を知り、自分の一方的な見方を恥ずかしく思った。部長は「決断できない」のではなく、むしろ「部下に気を遣っていた」のだ。ただ、そのやり方が不器用なだけだ。本当の愚か者は少なく、「人にはそれぞれの事情がある」ことを、私は知った。

—————–

それ以来、私は数多くの中小企業において、強力なリーダーの下で長年はたらいてきた人たちは、しばしば「自分の主張を持たない」ことで組織に適応し、組織のまとまりを保っている現実を見た。

「決断できない上司」は、

  • 決断することを許してもらえない
  • 決断することを上から求められてない
  • 強力なリーダーとメンバーの間を取り持たなくてはならない

そういった状況の中で、ある意味仕方なく選択してきた処世術の結果であるのだろう。

ただ、そんな人であっても決して自分の意見がないわけではない。実は「真のイエスマン」、すなわち何も考えていない人は意外にも少ないのだ。

最近では「決断できない人」を揶揄する風潮もある。しかし、「先送り」が正しい決定であるときもまた多い。

ピーター・ドラッカーは著書(*)の中で、

「何もしなければどうなるか」との問いに対して「うまくいく」との答えが出るときには手を付けてはならない。多少頭痛の種ではあるが、大した問題ではないときも手を付けてはならない。

と述べた。

功を焦って新しいことをやろうとする若手も多いが、現実はバランスが大事だ。だから一見非効率だが、はたらく人にとっては「上が決断しない理由」に思いを馳せることもまた、重要なのだ。

*『マネジメント』(ダイヤモンド社)

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