生産性の高い企業とは、どんな企業か

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今回は月間150万PVを超える「仕事・マネジメント」をテーマにした人気ブログ「Books&Apps」を運営する安達裕哉さんに、「企業の生産性を高める条件」について寄稿していただきました。

PROFILE

ティネクト株式会社 代表取締役 安達裕哉
安達裕哉
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年、東京都生まれ。Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。現在はコンサルティング活動を行う傍らで、仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営し、月間PV数は150万を超える

政府が打ち出した「働き方改革」の影響もあってか、生産性が話題になることが多い。できるだけ労働時間を減らしながら成果を高めるにはどうすればよいか、どの企業も真剣に考えざるを得ない状況だ。だが現在のところ、日本全体で見ると生産性は低い。

日本生産性本部の発表では、OECD諸国35カ国の中で日本の生産性は22位。決して良いとはいえない。では、「生産性」を向上させるには一体何に取り組めばよいのだろうか。

最悪なのは「個人の能力」にすべての責任を求める態度だ。個人の能力はたしかに重要ではあるが、「極めて優れた人」はほとんど存在しない。大部分は凡人であり、大半の会社には「天才」は存在しない。従って、生産性の議論の重点は、個人の能力の差よりも組織として何に取り組むかに置かれるべきだろう。

そして「組織としての取り組み」は、マネジメントの巧拙に左右される。当たり前だが、マネジメントの稚拙な会社は生産性が低く、巧みな会社は生産性が高い。この事実は昔から指摘されている。そして、それらは以下の点において顕著に現れる。

生産性の高い企業は仕事への割り込みを最小にする

ピーター・ドラッカーが指摘するように「時間は大きなまとまりにする必要がある」。

「報告書の作成に6時間から8時間を要するとする。しかし1日に2回、15分ずつを3週間充てても無駄である。得られるものはいたずら書きにすぎない。ドアに鍵をかけ、電話線を抜き、まとめて数時間取り組んで初めて、下書きの手前のもの、つまりゼロ業案が得られる。時間は大きなまとまりにする必要がある。小さなまとまりでは、いかに合計が多くとも役に立たない」

「人のために時間を数分使うことは、まったく非生産的である。何かを伝えるためにはまとまった時間が必要である。計画や方向づけや仕事振りについて、部下と15分で話せると思っていても、勝手にそう思っているというだけのことである。肝心なことを分からせ、影響を与えたいのであれば、一時間を必要とする」

この事実に関して、まったく無頓着な上司やマネジャーが数多くいることを私たちはよく知っている。

  • 上司が部下に対して、作業中に遠慮なく話しかける
  • 予定にない会議を頻繁に繰り返す
  • メールに対して即時の返信を求める
  • メールや掲示板で済むことを電話や会議で行う

仕事への割り込みを極力小さくしなければ、生産性の向上は見込めない。

生産性の高い企業のマネジャーは「プレッシャーをかければ社員はよりはたらく」とは考えていない

仕事を一生懸命にやるという金科玉条のもとに人をハードワークに追い込む上司は大企業、中小企業、ベンチャー企業を問わず、広く世の中に分布している。

そしてそれを、あろうことか「誇り」に思っている上司すらいる。例えば、プロジェクトマネジメントの第一人者、トム・デマルコはこんな逸話を取り上げる。

「数年前、南カリフォルニアで大規模プロジェクトを担当していたマネジャーと、プロジェクトマネジメントにまつわる体験談を交換し合ったことがあった。彼はプロジェクトが大苦戦に陥っていたとき、部下に起きた悲劇的な事件について話し始めた。まず、2件の離婚騒ぎが持ち上がった。直接的な原因は明らかに部下の異常な残業にあった。別の部下の子どもは、ドラッグで問題を起こした。おそらく、忙しくて父親らしいことをしてやれなかったからだろう。ついにはテストチームの責任者が神経衰弱になったらしい。『大変な事件ばかり続きましてね』と言ってはいるが、その実、自慢話をしていることに私は気づいた。あともう何組かの離婚や、自殺があれば、このプロジェクトは大成功だったのに、と言いたかったのだろう(出典:『ピープルウエア』日経BP社)

こういった、「ハードワーク」を尊ぶ上司が認識しなければならないのは、「人はプレッシャーがかかると生産性が上がる」が完全に間違っているという点だ。実体は、労働時間は増えるが大して成果は上がらない。

実際、1985年の生産性に関する研究『目標設定者が異なると、生産性は変わるのか?』(Jeffery and Lawrence 1985)において、プログラマー、マネジャー、プログラマーとマネジャー、システムアナリスト、そして目標なしの5パターンを比較した結果、「目標なし」のプロジェクトの生産性が最も高く、マネジャーが目標設定した場合の倍近くの生産性を出している。

繰り返すが、人はプレッシャーをかけられるとやる気を出すどころか、反発し、「どうすればマネジャーや経営者に仕事をしているように見えるか(そしてうまくサボるか)」を真剣に考えるようになる。

生産性の高い会社は、上司がプレッシャーをかけるようなマネはしない。「自己管理」が可能なように、部下にツールと方法論を与える。

例えば、マネジャーは目標達成のために「PDCAのマネジメントサイクルを回せ」と言われる。ここでマネジャーがやるべきは、自分で計画を立て、チェックし、対策を考えるのではなく、社員一人ひとりがPDCAを勝手に回せるようにするための環境、例えば計画に必要な情報、実行に際しての人脈紹介、チェックフォーマットの提供、対策会議の招集などである。

生産性の高い会社では仕事が面白い

「仕事なのだから、苦しいのは当たり前じゃないか」と考えているマネジャーの下ではたらくことは、この世で最も大きな不幸の1つである。生産性を高く保つのであれば、マネジメントは、

  • 仕事は面白くあらねばならない
  • 仕事は趣味と実益を兼ねたものでなければならない
  • 仕事はチャレンジ意欲をかき立てられるものでなければならない
  • 仕事は好奇心を充足させるものでなければならない

と考えるべきだ。

これらはいずれも昔から言われていることである。ウソではない、今から約2500年前の中国でも「孔子」という人物が、「汝の愛するものを仕事に選べ、そうすれば生涯一日たりともはたらかなくて済むであろう」と言っている。

当時は「はたらきがい」という考え方はまず無かったと思うが、その当時であってもこのような発言をした孔子は、仕事の本質を捉えていた。

もちろん、現代においても同様である。心理学者のミハイ・チクセントミハイは「フロー」を提唱した。「フロー」とは、人がしていることにのめり込み、精力的に集中している状態である。

その状態において、目標を選び、注意集中の限界まで自分自身を投射するとき、われわれが行うことはすべて楽しいものになる。そしてそれを味わうと、それを再度味わうために努力を倍増させる。

生産性が高い状態とは、まさに「フロー」である。チクセントミハイは、フローに入るための条件をいくつか挙げている。

  1. 達成できる見通しのある課題に取り組んでいる
  2. 自分のしていることに集中できている
  3. 作業に明確な目標がある
  4. 直接のフィードバックがある

(出典:『フロー体験 喜びの現象学』世界思想社)

「オンラインゲーム」のような、人を深い没入に誘うための仕掛けには上のような仕掛けが施されており、製作者の大きな工夫の跡が見て取れる。経営者やマネジャーは、いわば仕事をゲームとして社員のために演出する必要があり、それがうまくいったとき、生産性は大きく高まる。

「生産性を高める」ことは、すでにどの会社にとっても経営上の最も大きな課題であり、マネジメントの腕が最も問われる領域だ。

そしてそのために「工業化社会」において常識となっていた、「機械的な時間割」「目標必達のプレッシャー」「仕事は苦役」をどう否定し、作り変えていくかがすべての経営者、マネジャーに問われている。

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