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「理想のキャリア」は、昔も今も変わらない

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『“未来を変える” プロジェクト』では、記事の制作段階でさまざまな方と議論し、フィードバックをいただきながら制作しています。今回は月間150万PVを超える「仕事・マネジメント」をテーマにした人気ブログ「Books&Apps」を運営する安達裕哉さんに、「世阿弥が『風姿花伝』に著した理想のキャリア」について寄稿していただきました。

PROFILE

ティネクト株式会社 代表取締役 安達裕哉
安達裕哉
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年、東京都生まれ。Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。現在はコンサルティング活動を行う傍らで、仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営し、月間PV数は150万を超える

『風姿花伝』という書物がある。

「秘すれば花なり」というフレーズで有名な風姿花伝は、今からおよそ600年前、「猿楽(能)」の大家、世阿弥が著した。芸能の理論書であり、著者の世阿弥は観阿弥、世阿弥の親子として日本史の授業で記憶にある方も多いだろう。間違いなく、偉大な芸術家の一人である。

この「風姿花伝」であるが、実は1400年代に著されてから1900年代まで500年の間、世に出ることはなかった。なぜなら、これが一子相伝の秘伝書、芸の奥義であったからだ。映画やマンガなどで「秘伝書」をよく見かけるが、これは正真正銘の秘伝書である。さて、この風姿花伝には何か書かれているのか。

端的に言えば、修行方法や演技に関する見解など、著者である世阿弥の能に対する考え方の集大成であり、芸の道を極めるために必要なノウハウが詰め込まれている。そして、中でも特筆に値するのが序盤に書かれている「修行とキャリア」(年来稽古上々)についてだ。

仕事で「超一流」を目指す際、何から始めればよいのか、500年以上に渡って有効だったノウハウが順を追って書かれており、現在のわれわれが読んでも十分すぎるほど役に立つ。それは、次のようなものだ。

1. まずは得意なことを、本人の好きなようにやる

例えば、新人の部下を持ったとしよう。いくつかやるべき仕事があると思うが、できるだけいろいろやらせてみて、「うまくやれるもの」を自由にやらせてみる。そうすれば、部下はその仕事を好きになる。

基本的にモチベーションは上司が無理やり上げるものではなく、本人の仕事がうまく行ったという成功体験の中で醸成されるものである。まずは、「どうしたらこの仕事を好きになれるのか」を上司がお膳立てしてあげることが重要であり、本人も自分の得意だと思えることをするのが良い。

能の芸においては、おおよそ7歳をもって稽古の開始の年齢とする。この年頃の能の稽古は、その子どもが必ずや自分からやり出すことの中に、得意な演技があるはずだ。舞やはたらきなど、謡、または鬼の物まねなどでもよいから、偶然やり出した演じ方を、干渉せずに、本人の好きなように、させるがよい。むやみに「良い」「悪い」と指導してはならない。あまりに強く注意すると、子どもはやる気を無くして、能をやるのが嫌になってしまうので、そのまま芸の成長は止まってしまう。

2. 次に、一つ一つの基本技術を丁寧に習得する

次にキャリアの始めの数年間についてだ。一通りのことができるようになってきたときこそ、基本的なことをしっかり型通りにやり、最高のパフォーマンスを発揮できる素地を作ることが大切である。

例えば、「なぜこの仕事をするのか」「どうしてこのような手順なのか」などを仕事のプロセス単位でしっかり分析する。また、基本的なビジネススキル、例えばタイムマネジメントや交渉、プレゼンテーションなどを丁寧にこなせるようになっておく。

この時期の稽古には、やすやすとできる芸で魅力を発揮し、基本技術を大事にしなければならない。すなわち、所作でもしっかりと正確に動き、謡も言葉をはっきりと発音して歌い、舞も型をしっかり習得して、一つ一つの技術を大事にして稽古するが良い。

3. 成長が停滞したときには、次の成長のための準備と割り切り、あきらめない

次に世阿弥が注目するのは、「スランプ」。すなわちぐんぐん伸びた「成長期」から一転して成長が止まるときだ。これは「次の成長のための準備」であるから、ここで立ち止まってはならない。

誰にでもスランプはあるし、ある程度経験を積んでくると、「次の高いレベル」が見えてくる。だが、それは到達できるかどうかも分からない厳しい道であり、成功が保証されているわけでもない。

しかし、ここが踏ん張りどころなのだ。一流とその他を隔てるわずかな差は、「成長している実感がなくても、そう簡単に成長を諦めない」という一点に尽きる。

この時期の稽古としては、ひたすら、たとえ指さされて人に笑われとも、そんなことは意に介さず、家では声が無理なく出せるような調子で、夜間・夜明けの謡稽古を行い、こころの中では神仏に願を掛け、意志の力を奮い起こして、一生の分かれ目はここだと、我が生涯にかけて芸を捨てぬ以外には、稽古の方法はあるまい。ここで捨てれば、そのまま芸は終わってしまうであろう。

4. 一人前になったら、初心に立ち戻れ

仕事を丁寧にこなし、一人前としてそろそろ成果も出てくる頃になると、どうしても「驕り」が心の中に生じてくる。特に、「社内No.1の成績」「立ち上げた新規事業がうまく行った」など、社内外から評価を得るようになってくると、どうしても精進することを忘れてしまう。

ただ、この時期に上げた成果は、実は「まぐれ当たり」である可能性も高い。「若手が頑張っている」というだけで、周りが支援してくれるからだ。

実は、この時期には初心に立ち戻ってもう一度、ベテランから教えをもらったり、さまざまな勉強をしたりすることで、「若手の頃には見えなかった世界」がもう一度見えてくる。従って、「まぐれ当たり」を本当の実力とできるかは、この時期の努力にかかっている。

この時期こそは、たとえ花が一時的にあったとしても、初心時代というべき時期なのに、もう申楽の世界を極めたかのように自分で思って、さっそく申楽について的外れの独善的見解を開陳し、名人気取りの演技をするのは、嘆かわしいことだ。たとえ周囲が賞賛し、名声のあった役者に勝ったとしても、これは一時的な珍しさの生んだ魅力だ、と自覚してますます能を正しくしっかりやり、名声を獲得している役者に細々と具体的に質問するなどして、稽古を一層進めなければならない。

5. 40歳以降の活躍は、34、5歳までに名前が売れるかどうかにかかっている

34、5歳になり、この時期に「仕事の真髄」を体得していれば、おそらく世の中にそこそこ認められていることだろう。逆にこの時期に世の中に広く知れていないようであれば、まだ未熟であると自覚すべきだ。

要するに、40代以降も活躍できるかどうかは、この時期に大きな仕事をしているかどうかにかかっている。この時期には、社内に閉じこもっているのではなく、自分の名前が世間に知られる仕事を意図してやらなければならない。

もし「花」を極めていなければ、40歳以後は芸は下がっていくであろう。それはあとになって出てくる。この時期の未熟の証拠であろう。要するに芸が向上するのは34、5歳までの頃、下落するのは40歳以後である。返す返すも、この時期に都での名声を獲得できなければ、芸の奥義を極めたと思ってはならない。

6. 40代半ばでは徐々に「優れた部下」にまかせていく

40代も半ばになると、次第に年齢が高くなっていくので、自分の魅力も仕事も下がり気味になっていく。

「自分は元気だ」といくら思っていても、体力的な衰えがある。また残された時間を考えても、「自分がうまくやれること」にしか時間を割くべきではない。この時期から苦手なことを克服しようとしても、本当に一流になれる可能性は低い。

従って、この頃から、自分が主役になるのではなく、優れた部下に活躍の場を譲り、人を育成するとともに優れた部下たちの力を借りながら、さらに大きな目標を狙っていくべきである。

この年頃からは、あまりに手の込んだ能はしてはならない。大体のところは、自分の年齢相応の能を、楽々と、無理なく、二番手の役者に多くの演目を譲って、自分は添え物のような立場で、控え目控え目に出演するが良い。

7. 50歳過ぎでは「本当に得意なことだけ」をやる

この年頃まで第一線で活躍できる技能は、「真に自分の得意なこと」であるから、得意なことに集中して成果を出すのが最も良い。

例えば、世阿弥の父親である観阿弥は、50歳を過ぎても能を演じ続けたが、50代となっては演目の大半はすでに若い世阿弥にまかせて、自分は得意なことを少しずつ工夫して演じ、高い評価を得ていたという。

また、ピーター・ドラッカーの恩師の一人は、ドラッカーが13歳のとき、「何によって憶えられたいか」と聞いたという。誰も答えられなかった。するとその先生はこう言った。

「今答えられると思って聞いたわけではない。でも50になっても答えられなければ、人生を無駄に過ごしたことになるよ」

この言葉こそ、キャリアの本質を示していると言える。

演目の大半はすでに若い頃の私に任せて、無理のない曲を、少しずつ、面白く工夫して演じていたが、芸の魅力は一層際立って見えたのである。これは真に悟得した「花」であったがゆえに、芸としては、できる演目も僅かになり、演技も枯れてしまってはいたが、それでも芸の花は散らずに残ったのである。

以上、世阿弥はキャリアを7つの段階に分けて解説している。

非常に有用で、今でも十分キャリアプランの参考となるので、ぜひ原典も読んでみていただければと思う。下手なビジネス書を読むより、はるかに役に立つだろう。

*出典『風姿花伝・三道 現代語訳付き』世阿弥 著(角川ソフィア)

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