21世紀のビジネス基礎知識「弱い絆の強い価値」

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「率直なところ、人脈の価値が分からないんです」、そう切り出したのは大手企業に長年勤務するある男性。彼は、こう続けました。

「うちの会社では、製品の企画から製造、販売までをすべて自社グループでやっています。他の会社と協業する文化がないので、社外と交流をしてもそれが仕事につながらないんですよね・・・」

一方で、世界ではSNSの浸透などに伴い、企業の枠を超えて人と人がつながることが大きな潮流となっています。マーク・グラノヴェッター氏が提唱する「Strong Tie/Weak Tie(強い絆と弱い絆)」の理論は、人のつながりには大きく2つのパターンが存在し、それぞれが異なる特性を発揮することで、組織や人、成果に多大な影響を与えることを示唆しています。

マーク・グラノヴェッター氏の強い絆(青)と弱い絆(赤)の概略

冒頭の男性は、この理論に照らし合わせてみると、「強い絆」が機能している一方で、「弱い絆」が退化しており、このままでは外部環境の変化に組織全体が取り残されてしまうおそれがあると指摘することができます。

今回は、「理論上知られている人と人とのつながり、人脈に関する科学」が、実際のビジネスにどのような影響を与えているのか。時代の変化に対応する上で、その理論をどう活用できるかについて深掘りします。

今回のアウトラインです。

INDEX読了時間:7

それでは本文です。

強い絆と弱い絆の理論

人脈に関する最も有名な研究であり、実生活でも応用できる理論が「強い絆/弱い絆(Strong Tie/Weak Tie)」の理論です。中身はいたってシンプル。

世の中の人のつながりには、「お互いに共通の知り合いがたくさん存在している」強い絆と、「自分たち以外に、ほとんど共通の知り合いがいない」弱い絆の2種類が存在するというもの。

青のラインが「強い絆」、赤のラインが「弱い絆」

それぞれの特徴について、以下に解説します。

「強い絆」の3つのポイント

ポイント1:価値観・行動規範の「強化」メカニズム

「強い絆」の1つ目の特徴は、絆の中で大切にされている価値観・行動規範が、下図の手順でどんどん強化され、深まっていくというメカニズムです。これは、「強化」のメカニズムとも呼ばれています。

「強化」のメカニズムが働く

例えば、新卒で入社したコンサルティング会社が、お客さまのために土日も関係なく出社して、自らを追い込んで提案書を作成するのが当たり前という文化を持っているとします。

その仕事によってお客さまに喜ばれたという話を、上司はメールなどで賞賛します。「よくやったぞ、トム!君の週末の努力で、クライアントも非常に喜んでいる。君の行動こそが、うちの会社の誇りそのものだ」といった具合に。

すると、周囲のメンバーも「こうあるべきだよなあ」と感じ、自分も仕事で同じ行動を取ろうとする傾向が強まります。そうして、この行動パターンはさらに強まり、そこから賞賛される人がまた登場し・・・という繰り返しが、この「強化」のメカニズムです。

ポイント2:お互いにどう思うかを推測し合って行動する

「強い絆」の2つ目の特徴は、強い絆に所属する人同士は、お互いの表情や行動などを手がかりに、「きっと彼は、こう思っているに違いない」とおもんぱかり、それに基づいて行動を起こす点です。

これによって、お互いに細かいことは説明せずとも「あうんの呼吸」ですばやく連携でき、格段に行動量が増します。このように、強い絆ではお互いに何を考えているかを類推するためのヒントである「お互いの表情が見える」ことがとても重要になってきます。

ポイント3:特定の個人が突出しないようにお互いに真似をし合う

「強い絆」の3つ目の特徴は、所属メンバーのうち誰か1人だけが突出してしまわないように、他の人がすぐに行動を真似をするという点です。

例えば、オフィスである友人が英語を集中的に学び、TOEICのスコアなどを伸ばすようになると、周りの人はそれに刺激され、彼だけに出し抜かれないように、がんばって英語の勉強を始めます。結果的に、彼が所属する強い絆の面々全体が、英語への意識が高まることになります。

以上の3つのポイントをまとめると、「強い絆」の中ではお互いに自分たちにとって中心的な価値観や行動パターンを強めながら、次にお互いが何をしようとしているかを観察し合い、誰かが取った行動に引きづられ、他の人も連動して行動するようになります。

つまり、「強い絆」は人と人が連携して行動する際の基本的な枠組みとなるわけです。企業の基本的な強みも、この「強い絆」から生み出されているといっても過言ではないでしょう。

「弱い絆」の3つのポイント

ポイント1:「強い絆」では得られない新たな情報・刺激の提供元

一方、「弱い絆」は、強い絆では入手できない新たな情報や考え方を入手するルートになります。

例えば、先ほどのお客さまのために土日も関係なく働くコンサルティング会社で社会人となった若者にとって、土日は完全に休みである別の会社の人と知り合うと、そこから得た情報は「お客さまのために土日も働くこともいとわず」と思い込んでいた当人にとって、新鮮な情報となります。

あるいは一部の企業が、「うちの会社では、基本的にオフィスに行かずに家からテレワークをする。会社に行くのは全体での会議や、定期的なパーティーのときだけさ」など先進的なことをしているという情報も、この「弱い絆」でつながっている知り合い経由で知ることとなります。

いつもの「強い絆」とは異なる価値観や情報を提供し、変化のきっかけを作るのが「弱い絆」の1つ目の特徴です。

ポイント2:「弱い絆」経由のインプットだけで人の行動は変化しない

「弱い絆」で知った情報や、自分とは違う行動をしている人たちがいることをリアルで知ったからといって、受け取った本人がすぐに行動を変化させることはほとんどありません。人が継続的に行動を変化させるのは、あくまで「強い絆」の中で周囲との連動があってこそ。

「弱い絆」の大きな特徴としては、「そこから受け取った情報は、本人にとっての優位性の材料にはなるが、いきなり自分自身や周囲への行動に影響を与えることはない」という点が挙げられます。

ポイント3:「弱い絆」を複数つなぎあえば「強い絆」を作れる

「弱い絆」の3つ目の特徴は、複数の「弱い絆」でつながっている知り合い同士を自分が紹介し合えば、新たな「強い絆」を作れるということ。

そして、その「強い絆」には自分自身が推し進めたい価値観や行動規範を色濃く反映させられ、既存の「強い絆」では行われていなかった新たな行動を発生させられるようになります。

「弱い絆」を複数つなぎあえば「強い絆」が作れる

例えば、乾電池型IoT端末「Mabeee」を開発したノバルス岡部氏の例を挙げます。

岡部氏は、大企業に所属しながら起業した時期に、他のメーカーに勤務している知り合いの開発者同士を自分が主催する「ヤミ研の会」という場に誘い、そこで相互に人を紹介をしていきました。

そして各人が持つ「自分の会社では実現できないけれど、個人的に陰で温めている開発案(ヤミ研、ヤミ研究の略)」を、お互いに披露し合い、新しいものを開発しようとする動きを加速させていきました。

その結果、2016年度のグッドデザイン賞を受賞するにいたり、乾電池型IoT端末「Mabeee」の製造、販売にこぎつけました。このように、つなぎあって「強い絆」を作ることで、新たな行動の基盤を形作れるというのが、「弱い絆」の3つ目の特徴です。

大企業内で強固なビジネスモデルが回り続けると外部との「弱い絆」が機能しない

さて、これらの「強い絆/弱い絆」の理論を踏まえると、冒頭に出てきた大企業での人と人のつながりは下図のように描けます。

ビジネスモデルが回り続けると外部との「弱い絆」が機能しない

元々自分たちの組織の中に十分に人材がそろっており、そこで「強化」、発揮される行動が、自社の持っているビジネスモデルと合致すると、高い収益を挙げることができる。

ところが、この構造には「外部の変化を取り入れることができずに、組織全体が世の中のトレンドから取り残されてしまう」というおそろしい副作用が潜んでいます。

上記の図にある通り、世の中のトレンドに接する知り合いが「弱い絆」として数本あったとしても、それだけでは組織内の行動に影響をおよぼすことはほとんどありません。

冒頭のセリフにあった「人脈作りの価値がよく分かりません」という大企業の方の発言は、このような「弱い絆」が行動に影響をおよぼさない構造の欠点を表しています。

先進的外資系企業における社外の「弱い絆」の構築

これに対して、外部の変化を取り入れることが得意とされる、某外資系企業の役員経験者は、下記のような反応をしました。

新たな人とつながる場合には、必ず目的がある。今は持っていないつながりを作り出し、そこからこういう情報を引き出し、抱き込み、新しい行動を行っていくというのが、強いて言えば外資の “人脈” かもしれない。

これはまさに、今の自分の身の回りに不足している観点を、意図的に「弱い絆」から構築するプロセスそのものです。自ら率先して「弱い絆」同士をプロジェクトなどでつなぎ、「強い絆」を作り、外部変化、必要となる行動様式や新しいパターンを組織内に取り組むよう仕掛けていきます。

「弱い絆」同士をつなげ「強い絆」を作り、組織内に取り込む

昨今、急速に「社外とのイノベーションを推進する」という目的で、多くの企業が社外での営みをコンソーシアムや “アクセラレーター” と呼ばれる、組織化された形式で進めようとしています。これも、「外部変化を “強い絆” 化して取り込もう」という動きの表れと捉えることができます。

【国内外で活況を迎える、大企業がベンチャーと協業するアクセラレーターの例】

  • エアバス「Airbus Bizlab」
  • スプリント「Sprint Accelerator」
  • インテル「Intel Education Edtech Accelerator」
  • ナイキ「NIKE+ FUEL LAB」
  • コカ・コーラ「THE BRIDGE」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ「MUFG Fintech アクセラレータ」
  • 学研ホールディングス「学研アクセラレーター」
  • 野村総合研究所「NRIハッカソン」

これらの動きも、初期は「元々大企業に勤務していた面々が、少しでも外部と新たな試みを行い、そこに別の “強い絆” を作ろう」という、小さなトライアルから成長を重ねていき、現在の形に落ち着いています。

まとめると、これからの変化の激しい時代に求められるパターンは、組織全体であっても個人であっても、以下のようなサイクルに集約されるのかもしれません。

変化の激しい時代に求められる「絆のパターン」

「強い絆/弱い絆」を日々の仕事に活かすための3つのポイント

こうした議論を踏まえ、参加者から出された「明日からの仕事でぜひ試してみたい人脈に関するポイント」を、最後に3つ紹介します。

1:めんどくさい場に顔を出し「弱い絆」を作り出す

たまたまの誘い、あまり知り合いのいないイベントへの出席などアウェイな状況は、精神的にパワーを使うもの。

ついつい、言い訳をして欠席しがちですがちょっと待ってください。こうした抵抗感があるときほど、脳が負担を感じ、無意識に避けている「未知との遭遇」のチャンスになります。

自分の組織の中で日々慣れ親しんだ考え方とはまったく異なることに接するとき、「弱い絆」としての異質な人たちと接する機会。

こうしたときに、最初の出会いを次につなげるために以下のような工夫を行うと、さらに「弱い絆」を確実につなげられるようになります。

  • 会う前に相手の信念や最大の功績を調べる
  • すぐに連絡を取れる人のリストを常に整理しておく
  • 共通の知人を見つける
  • 自分で会えるか会えないかを判断せず、すぐに連絡する
  • 4人1組の場をセットする
  • 自分が夢中になっていることを話す
  • 全力で相手にしてあげられることを考え提案する
  • 自分の弱みをオープンにし、助けを求める
  • 次に会う口実・約束をとりつける

※出所:『Never Eat Alone』キース・フェラッジオ 著

2:「弱い絆」同士をつなげる営みを開催する

弱い絆でつながっている友人を3、4人集め、パーティーや飲み会、勉強会を開催すると、新たな強い絆が生まれ、新しい営みや行動につながることが少なくありません。

多くの参加者も「実際に、気の合いそうな人たちを集めて飲み会を開催したら、そこから新たな動きになり、プロジェクトが始まった」という経験が数多く披露されました。弱い絆は1本では行動につながりませんが、3、4本と束ねれば強い絆となり、行動へとつながります。

これこそ、「弱い絆」をつなげて「強い絆」を作る第一歩です。

3:会社の「強い絆」メンバーと、自分の「弱い絆」メンバーを引き合わせる

3つ目のアプローチは、すでに強い絆ができている会社の同僚などと、社外でのつながりのある「弱い絆」の相手を引き合わせてみるパターンです。

このとき、「強い絆」側の人数よりも、「弱い絆」側の人数を多くするのがポイント。それによって、「強い絆」側である同僚も、「弱い絆」側である外部の人とのやりとりに対して、マイノリティーであることで素直に耳を傾け、そこから新たなつながりが生まれやすくなります。

面白い人が社外の「弱い絆」で見つかったら、その人を会社の会議室に招いて打ち合わせをするのではなく、同僚を誘って社外で打ち合わせをするほうが、既存の「強い絆」の考え方にとらわれず、新たな考えやつながりが生まれやすくなります。

いかがでしたか? 変化の激しい時代にあって、自分の会社が、あるいは自分個人が、明日から「どのように人とつながっていくか」を振り返り、試してみてはどうでしょうか。

[編集・構成]doda X編集部

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