中堅社員こそ武者修行を。“アウェイ型トレーニング”のススメ
“未来を変える”プロジェクトでは、記事の制作段階でさまざまな方と議論し、フィードバックをいただきながら、制作しています。今回は、人材開発系コンサルティングに従事し、現在は独立してベンチャーの立ち上げ・成長を支援する30代後半の方に「中堅社員の学び」について寄稿いただきました。成長し続ける中堅社員には共通項があるといいます。
もう10年以上前に勤務していたコンサルティング会社では、40代を過ぎたベテランコンサルタントが、イギリスなど海外の語学学校に忙しい中数週間滞在し、わざわざ英語の勉強に出向いていました。
その理由は、「完全なる初心者の気持ち」を忘れないため。普段、企業内でアドバイスや相談を受ける立場にあり、研修などでは講師という立場を提供すると、アドバイスを受ける立場の心境、自分が不得手なことを学ぶときの緊張感や難しさや新鮮さなどが分からなくなっていきます。
こうした「完全アウェイ」な経験を通して、普段目の前の仕事に取り組み、熟達していっていることで失われてしまっていること、弱まってしまっていることを鍛える方法が、今回ご紹介する武者修行「アウェイ型トレーニング」です。
この方法ですが、多くの熟達したビジネスパーソンが、意識して、あるいは無意識に取り組んでいる内容となります。今回は、過去に“未来を変える”プロジェクトの議論に参加してきた、ビジネスパーソン達の経験を基に「アウェイ型トレーニング」についてご紹介いたします。
今回のアウトラインです。
それでは、本編です。
中堅社員のススメ:「アウェイ型トレーニング」3つの条件
先程の例であるように、長期で全く違う環境に入ってしまうというのも効果的ですが、以下の点を押さえていれば、もっと手軽に「アウェイ型トレーニング」を行うことができます。
ポイント1:友人や知り合いがほぼ誰も参加していない
友人や知り合いが参加している場は、自分にある一定以上の負荷がかかったときに、ついつい「藁をも掴む」気持ちで、そこに寄ってしまい、負荷が下がってしまいます。同時に、一度そのモードに入ってしまうと、他の参加者との密なやりとりが阻害されてしまう可能性があります。
ポイント2:自分で成功パターンを持っていないことに取り組む
自分が上手くこなせるパターンを持っている内容は、無心になってその方法を踏襲することで心理的負荷を軽減し、なおかつある程度の成果を出して自分の立場を確保できてしまいます。右も左も分からず、聞かなければならないという状況でこそ、頭もフル回転し、より大きな刺激を得られます。
ポイント3:自分は主催側・ホスト側ではない
上記1と2を満たしていても、主催者・ホスト側に回ってしまうと、役割も明確になり、自分が努力しなくても、周囲に対して優位なポジションが確保できてしまいます。ぜひ、自分自身はゲスト・一般参加者として扱われるような場面を選びましょう。
以上のようなポイントを押さえることで、普段の仕事では得られない、高い心理的な負荷を受けることが可能となります。
例えば、普段はマーケティングの仕事を中心に行っている人であれば、全く関係ない簿記に関する勉強会やセミナーに参加してみる。そもそも、仕事にまったく関係のない、社交ダンス教室の体験会に参加してみる、といった方法であっても、こうした条件を満たすことができます。
中堅社員のススメ:「アウェイ型トレーニング」で、何が得られるか?
「アウェイ」な状況を通して、普段にはない高い負荷を味わうとどのようなことが学べるか?実際に月に1回程度、この方法を実施している観点から振り返ると、以下のような要素があります
・0ベースで考える習慣が付く:
自分が成功パターンを持っておらず、頼れる知り合いもいない場合、常に周囲に神経を配り、なんとかいい方法はないものかと試行錯誤することで、ほぼ全ての要素を自分の頭の中で洗い出し、組み立てようとすることを経験します。なんとか乗り切る、どうにも勝ちパターンが見えない状況でも、思考停止に陥らなくなるのが、この方法で得られる第一の効能です
・少しだけ謙虚になれる:
実際にアウェイな状況で物事に取り組んでみると、その場の主催側、主導権をとっている側の態度や気遣いが丁寧であるととてもリラックスでき、逆にそれが横柄であると更に追いつめられることが体感できます。普段、自分がマイペースで居られる状況において、如何にその態度が相手を左右するかを思い起こしてくれることで、少しだけ謙虚な気持ちを高めることができます。
・日々の思考が再整理される:
意外なことに多くの場合、こうした日常と全く別のことに取り組む中で、いつも懸念していること、仕事で悪戦苦闘していることが頭の中で再整理され、ふっと良い解決策が思いついたり、新しい見通しが立ったりします。ジリジリと考え続けていたことから、ちょっと距離をおく間合いを取れることが、こうした効果に大きく寄与します。
中堅社員のススメ:より高い効果を引き出すためのコツ
さて、こうして多大な労力、特に精神的なエネルギーを投入して「アウェイ型トレーニング」を行うとき、下記のようなポイントを押さえておくと、その効果をさらに高めることができます。
コツ1:当日の自分の感情をこまめに記録しておく
例えば、その会場に初めて入ってきたときに、どんな風に緊張をしたのか。セッションの中で普段と勝手が違うことに取り組み、あまりスマートにこなせなかったときに、どんな気持ちになったのか。嬉しさや達成感を感じたのは、どんなときだったか。こうしたポイントを、ポストイットや小さなメモ帳を持参し、都度書き出していくと、後で振り返ったときに大きな効果を生み出す。
コツ2:開始前に「こんなことになりそうだ」という予想をたてておく
漠然とその場に取り組むのではなく、予め「今回のこの時間は、きっとこんなことを学べて、こういうようなことになる」ということを10分〜20分程度、書き出しておきます。やってみると、この予想は大抵の場合大きくハズレますが、その差分があることによって、更に学べる内容の幅が拡がります。
コツ3:自分の家族・友人・仕事仲間に顛末を説明してみる
アウェイ型トレーニングで得られる成果の多くは、文章などでまとめるのが難しい、感覚的な要素が多くなります。こうしたとき、身近な人に、自分が経験した内容をストーリーとして語ってみると、その語りの中で、新しい発見があったり、更に周囲の人からのフィードバックが得られたりと、大きく学習効果が増進します。
いかがでしたでしょうか?いつも仕事に取り組み続けていて、「ちょっと刺激が足りない」「最近マンネリ化している」と感じることがある方は、ぜひ一度お試しになってみるのもいいかもしれません。
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[編集・構成] “未来を変える”プロジェクト 編集部