急成長する企業の落とし穴「社長以外学習しない組織」

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今の会社、どんどん優秀な人がKPIだけを追いかけるマシンになっていって、大きな目標とか、”そもそも” というのを考えられなくなっちゃうんですよね。

そう嘆くのは、インターネット関連企業で数年前まで顧客開拓を行っていた営業担当の若者。こうした企業でよくあるパターンとして、パワフルな若い創業者が事業を自ら立ち上げ、どんどん人を採用しながら、自社の勝ちパターンを組織内で横展開し、社員が明確なKPIを追いかけ続けることで、急成長を遂げていくというものがあります。

しかし、こうした企業ではある時期を過ぎると、冒頭のセリフのように社員の疲弊が進みます。そして、優秀な人材から徐々に離職が始まり、組織の力が落ち、最終的に業績が横ばい、減速に向かってしまう状況が見受けられます。

そこで今回の記事では、こうしたパワフルな経営者にリードされ、急成長する組織に起きる「急速な学習しない組織化」について、具体的に何が起きるのか深掘りしていきます。

今回のアウトラインです。

INDEX読了時間:7

それでは、本編です。

創業者がリードするすばやいPDCAが原動力で急成長

インターネットビジネスを主軸としたベンチャー企業では、成否の大半を経営者本人の資質とその事業スピードが左右します。

伸びているマーケットで大企業が躊躇している間に、次々と試行錯誤を繰り返し、新たなニーズを発掘するこれらの企業では、試行錯誤のスピードそのものが成否のポイントとなります。

スピードを担保するのは、合議制で何かを決めるのではなく、経営者自身が自分のある種思い込みともいうべき仮説を打ち立て、それを半ば強引に反映していく姿勢がベースとなります。

当然、これまで世の中にないビジネスの形を推し進めていくため、社内外の各所から「こんなので本当に大丈夫なの?」「◯◯というところに問題があるよ」といった、反対意見も数多く受けます。

こうした内容に立ち止まらず、聞くべきところは意見としてある程度反映はしつつも、愚直に自分の信じる仮説を試し続ける企業こそが、結果的に成功確率が高くなるという次第です。

横展開が得意な「そこそこの人材」が急増

試行錯誤を繰り返し、初期の顧客を少しづつ獲得をしていくと、徐々に「勝ちパターン」らしきものが見えてきます。また、ビジネス雑誌などに紹介されるような確固たるものにはなっていなくとも、

「最近、ようやく継続してお客さまが自社サービスを使ってくれるようになってきた」

「以前と違って営業で説明機会さえいただければ、かなり高い確率で契約が取れるようになってきた」

「成功事例として紹介できるケースが出てきており、ある程度基本のサービスが固まってきた」

と収益の兆しが見えたり、お客さまの獲得・継続利用が安定的に起きるように、サービスや製品のベースが固まってきます。

するとその企業は、外部のベンチャーキャピタルなどから資金を数千万〜数億円レベルで集め、人員の拡大フェーズを迎えます。

とはいえ、まだ社名やサービスの知名度はそれほど高くなく、採用においては新卒など隅々までは手がまわらず、中途を中心とした即戦力の社員を採用することになります。

急成長する企業の落とし穴「社長以外学習しない組織」

一度成功パターンができていれば、中途で採用された人材の活躍の場は生まれます。経営者・経営陣が自ら試行錯誤してきた営業やサービス導入などのステップを、採用された人材は愚直に実行し続けていきます。「横展開」のフェーズの始まりです。

このフェーズを徹底することで、企業は加速度的に売上や利益を伸ばしていくこととなります。

企業ブランドの確立と新卒力の上昇で「考えるのが得意」な人材増加

こうして、急激に会社の規模が大きくなっていくと、1〜2年後に上場を見込み、さらに資金が集まり、大手の企業が大規模な取引を開始してくれるといった爆発的な成長フェーズが待っています。

急成長する企業の落とし穴「社長以外学習しない組織」

これに伴い、企業の知名度も急上昇。採用専任の担当者も配置し、「急成長している」というイメージを最大限に活用する採用活動によって、以前とは違った、優秀で、考えることが得意な新人を採用していくことになります。

いわゆる「一流大学卒」のメンバーも、もはや社内でそれほど珍しい存在でなくなってきます。

仮説出しは創業者のみ、上司は横展開得意で、「考えるのが得意」な人材はKPIを追いかけ続ける

とはいえ、これまでの成長の流れの通り、この会社では創業者が新しい事業の立ち上げや、既存事業のさらなる成長をリードしていきます。初期に入社した中途メンバーは、こうした創業者の動きを、得意の横展開、体育会的なノリによって支えながら、マネジャー、管理職へと昇進していきます。

急成長する企業の落とし穴「社長以外学習しない組織」

そして、先ほど入社した優秀な新人たちは、このマネジャーたちの傘下で研ぎ澄まされてきたKPI(目標達成指標)の管理を受けつつ、しかし成長の熱狂感が続く社内で勝ちパターンに乗った営業・事業展開を進めていきます。

創業者のセンスと攻め手が曲がり角に達すると、すべてが逆回転を始める

成長し続ける企業も、いずれはどこかで曲がり角、成長の鈍化を迎えます。その企業のモデルが成功すればするほど、そのモデルを模倣し、より安いコストで切り崩しを狙ってくる競合各社が現われるからです。

短期的に税制や社会トレンドによって盛り上がっていた市場の冷え込みも加わり、それまで神がかり的な創業者の力で成長を続けていた企業の多くは、どこかでその急成長の熱気が冷める状況を迎えます。今まで右肩上がりの成長を続けてきた企業は、創業以来初めて業績の横ばいやダウンを経験します。

すると、それまで順調な伸びを静かに見守っていたベンチャーキャピタル、株式市場から「なぜ成長が減速したのか?」「どのように成長を回復させるのか?」といった、厳しい批判が寄せられるようになります。

急成長する企業の落とし穴「社長以外学習しない組織」

その圧力を受けた経営陣は社内に対して、「原因を分析しろ」という今までなかった「犯人探し」の仕事を増やし始めます。同時に、既存メンバーの多くに対しては、「とにかく、今まで以上に徹底的にお客さまの新規開拓の回数を増やすように」といった、横展開してきた施策のさらなる徹底を指示することとなります。

市場の構造やトレンドが変化してしまっているとき、あるいは根本的に自社で太刀打ちできないような競合が現れつつあるときなどは、これらの徹底した行動は、問題の先延ばしとなる「対処療法的」なものに留まってしまいます。

そして、今まであれほど成長によって熱気に包まれていた同社は、嘘のように重苦しく、そして冷めきった雰囲気が充満していきます。

優秀だった若手はソーシャル上で同世代と比較し転職へと向かう

こうして、今までは急激な成長による熱気に身をまかせていたものの、「自分がやっている仕事って、すごく単純で与えられたKPIを追いかけるだけだった・・・」と薄々感じるようになり、毎日遅くまで仕事に打ち込んでいた優秀な若手たちのモヤモヤはますます増幅し始めます。

他の会社に就職した友人と飲み会をすると、ついつい語ってしまうのは、「うちの会社って、結局本当に新しいことを考えているのは創業者の◯◯さんだけだからさ・・・」といった自虐的なセリフ。

何気なくスマホでチラチラとSNSのタイムラインを見ていると、新しいサービスの発表などに「一年間ずっと取り組んできたウチの事業、ようやく形になりました!」などと、友人の名前がちらほら。

さらには、そうした友人がWebメディアなどに「あの◯◯サービスの開発チームの紆余曲折と成功までの話を聞いてみた」といった形で登場したりすると、焦りを感じずにはいられなくなります。

急成長ベンチャーを転職で検討するときチェックすべきこと

では、個人としてのキャリアを築く上で、こうした急成長のベンチャー企業を転職先として視野に入れる場合、どのような注意が必要か? この点を、実際に多くの転職者を見てきた現役の転職コンサルタントたちに聞いてみると、以下のような回答が返ってきました。

アドバイス1:特にネットベンチャーなら、短期で得る内容を検討すべし

ネットベンチャーの成功率は数%と言われており、9割以上の企業は売上拡大→増資→投資家圧力→ダウントレンドをたどります。そのため、ネットベンチャーでチャレンジする上では、「転職者自体の意味づけ」がポイントになります。

その「短期間」で何を得たいかを、その次の転職を鑑みた中長期キャリア視点で見定めることです。

  • 裁量(今まで大手の課長→社長直下で経営観点を持ちながら推進できる事業責任者など)
  • 技術(より高度な技術、ノウハウ、個人で名前を売れる可能性など)

上記はあくまで一例ですが、中長期のキャリア視点を持って検討するのが良いかもしれません。

「逆に『人』『組織』の魅力だけに引っ張られた仕事の選択は勧めていません。(文中のとおり、逆境により経営者の性格や組織文化は簡単に壊れてしまうため)『面白そう』『自由そう』といったフワッとした感じで応募する転職者は多いのですが、かならず早期退職するので面談時に釘を刺し、まずはじっくり検討いただくことにしています(インテリジェンス エグゼクティブサーチ エグゼクティブコンサルタント Y・Tさん)」

アドバイス2:レガシーな業界の急成長企業はより注意が必要

「個人が転職する際にチェックするとすれば、業界がレガシーでないところをチョイスするほうが良いですし、レガシーな業界でもイノベーティブな挑戦を発信し続けているのかどうか?(直近で新規事業をどのくらい挑戦したのか、またそのような仕組みはあるのか)などをチェックすると良いです。

またレガシーな業界は、マーケット自体が規制ビジネスだったりするケースが多いです。参入障壁が高いから先に入ったもの勝ちで、『オペレーションエクセレンス』であればよく、BPRを徹底する必要がなく成長していきます。

創業時(できれば早い時期)に、『これだ!』と思えるKPIを設定できれば勝ちで、そもそも『変える』ことがリスクな状況になっていますから、本文にある状況は特に起きやすいと思います。

そうすると、必要な人材の要件が『イノベーター』ではなくて、『オペレーター』となってしまうので、『毎日コツコツと、文句を言わずオペレーションをしっかりとまわしてくれる人材』がほしくなる。『そもそもこのKPIで合っているんだっけ?』『毎日この繰り返しはつまらない・・・』と本質を突く方は、管理職からすると対応が難しいこともあるかもしれません(インテリジェンス エグゼクティブサーチ エグゼクティブコンサルタント S・Sさん)」

いかがでしたか? こうした要素も考えながら、転職先の候補として急成長ベンチャーを自分のキャリアの中にどのように置いてみるか、一度振り返ってみるのも良いかもしれません。

[編集・構成]doda X編集部

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