成功体験は不要。苦手意識を書き換える技術

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「数カ月準備したお客さまへの提案内容が無下に却下されて以来、どうしても外部への提案という話となると、気持ちが滅入ってしまい、積極的に取り組むことが難しくなってしまった」

「案件獲得が抜群に上手な上司は、どんどんと臆することなくお客さまに飛び込んで行き、一歩も引かない積極的なアプローチで、次々と提案を通していく。やっぱり、成功体験があるかないか、というのは大きい・・・ でも、どうしたら切り替えられるのか、よく分からない」

これまで体験してきた仕事の中で、頭では着手すべき、積極的に取り組むべき、と分かっていることであっても、自分がキョウフ・フアンなどの感情を感じてしまい、ついつい及び腰になってしまうことは、誰にでもあるのではないでしょうか?

脳神経科学の知見によると、こうした人間の行動の大半は、実は頭で考える内容ではなく、自分がその場面や、その場面を思い出すような状況になったときの「感情」に左右されることが明らかになっています。

この感情は、その状況に対して成功体験が多い人であるほど、次回もポジティブな感情が生み出されやすい。逆に、成功体験が少なく、失敗体験が多いときには、キョウフ・フアンを感じ、萎縮してしまうことが知られています。

そして、最新の知見では、直接的な成功体験を持たずとも、「記憶の書き換え」というアプローチを使うことで、それまでキョウフ・フアンを感じていた場面でも、ポジティブな感情が生まれ、より積極的な取り組みができるようになることが明らかになってきています。

そこで、本記事では、この「失敗体験を成功体験のようなポジティブな感情、そして解釈」に書き換えるための具体的な手段をご紹介します。

今回のアウトラインです。

INDEX読了時間:8

それでは、本文です。

失敗体験と苦手意識のメカニズム

例えば、会社で上司と口論になり、お互いに険悪になったり、いやな気持ちになったりしてしまうと、それから先の仕事でもその気持ちが思い起こされて、必要な場面であっても上司ときちんと議論ができなくなったりする状況。多くの方が、経験されたことがあるのではないでしょうか。

UCLAで脳神経科学を専攻し、大企業における脳神経科学を用いた育成プログラムを手がける青砥瑞人氏は、そのとき脳内では以下のようなことが起きると解説します。

  1. 上司の顔を見たり、上司の顔を思い浮かべたり、言葉を思い出す
  2. 脳内の「海馬」という部分に記憶されている過去の同様な記憶が呼び出されて、反応する(これを “エピソード記憶” と呼びます)
  3. その活性化された海馬と紐づいている扁桃体に保存されている感情記憶が活性化し
  4. キョウフなどの感情が沸き起こり、萎縮してしまったりする
「ある体験によっていやな感情が引き起こされる」仕組み

つまり、一度自分にとってネガティブな感情で終わってしまっている出来事は、再び出くわしたり、思い出したりしただけで、同じようにネガティブな感情につながり、身体がすくんで動けなくなったり、そもそもそれにまつわることを避けたくなったりしてしまうのです。

記憶同士のつながりは書き換えることができる

ここで、今回のポイントとなるのが、上記のようなつながりは書き換えることが可能であるという点です。

具体的には、元々の体験を思い出させるような刺激が起きたとき、それによって活性化する【エピソード記憶】に対し、ポジティブな【感情記憶】をつなぎ直すことを指します。

書き換わり後

この感情の書き換えが起こることを説明するキーワードとして、神経可塑性、Fire Together, Wire Togetherがあります。神経可塑性とは簡単に言うと、脳を構成する神経細胞同士の結びつきは変わりますよ、ということ。そして、その結びつきの変化を説明する有名な言葉が、Fire Together, Wire Togetherです。これは、同時に活性化された神経細胞は結びつくという意味です(青砥氏)

そして、このようなつなぎ直しを起こすための、実現しやすい具体的な方法が「振り返り会」というアプローチになります。

「振り返り会」とは?

4人1組にて実施し、1人が60分ずつ自分の1年を振り返り、4人で合計4時間にて行う会を指します。自分が振り返りの当事者であるときは、まず簡単に1年の概略を説明し、残りの3人はその内容に対して質問や投げかけを行うことで、お互いに過去の経験を思い出し、それに対して新しい解釈や観点を他の人が提供していく流れとなります。

振り返り会の構造

「振り返り会」の詳細については、こちらの記事「40人のビジネスパーソンが絶賛した「1年の振り返り」完全マニュアル」をご覧ください。

振り返り会が持つ「ネガティブな体験を、ポジティブに書き換える」構造

この「振り返り会」の経験者の多くは、

他者のフィードバックを受けることで、自分自身の振り返りでは気づかなかった発見があった。

自分が意識していなかった振り返りの観点で、ネガティブ面を再解釈できました。

といった、自分がネガティブだと感じていた経験が、ポジティブなものに変わることを経験しています。

過去の経験者の方々の話を聞いていると、“1年の振り返り会”というのは、実はこれをポジティブなものに書き換える、最高のアプローチの1つなんだなと思われます(青砥氏)

この「振り返り会」でのやり取りを通して、エピソード記憶と感情記憶のつながりが書き換わるメカニズムは、次のような流れになります。

  1. 自分が書き換えたい記憶について、語ることで思い出します
  2. その記憶に該当する「エピソード記憶」が活性化します
  3. 「エピソード記憶」と結びついているネガティブな【感情記憶】が活性化
  4. 語りながら「キョウフ」「フアン」といった気持ちになります
  5. 直後に、周囲の人が、温かい言葉や受け止め、フィードバックを提供
  6. それにより、扁桃体のポジティブな部分が刺激され活性化
  7. ポジティブな感情が生まれ、積極的な気持ちになる

以上のような流れが同時に起きることで、同時に活性化された、2の【エピソード記憶】と、6の【ポジティブな扁桃体】の記憶が新たに結びつきます。

「出来事と感情のつながり」を書き換える仕組み

これによって、これ以降、同じ出来事に直面し、【エピソード記憶】が活性化しても、そこから先でポジティブな【感情記憶】がつながって活性化し、ポジティブな気持ちが生まれるように変化していきます。

仕事が楽しくて仕方なかった時期に、「妻から家庭での会話が少ないといつも文句を言われて、悩んでいるんです」と、年末の振り返り会で語ったときのこと。それまで、妻のことを考えるたびに気持ちがちょっと重くなっていたのですが、自分より二回りほど年配の方から、「人生はマラソン。長期で見たら一番大切なパートナーは、奥さんであり家庭なんだから、短期の仕事の忙しさとは切り離して考えなきゃ」と言われて、ハッと温かい気持ちになりました。それ以来、妻のことを考えたり、家庭のことを考えても、以前のように気持ちが重くなるのではなく、何か温かい気持ちが思い起こされるようになり、実際の接し方や行動がとても変化したと実感しています(30代・男性・コンサルティング)

このように、振り返り会でのやりとりによって記憶同士のつながりが書き換わるのです。

振り返り会における「記憶の書き換え」を加速させる5つのポイント

この「記憶の書き換え」の仕組みを踏まえた上で、過去に振り返り会を開催した方々から寄せられた「振り返り会をこのようにやってみたら、効果が高かった」という点をまとめていくと、驚くほど脳内の書き換えを促進する結果につながっていることが明らかになってきました。

以下では、この5つのポイントをご紹介します。

ポイント1:多様性の高いメンバー同士で開催する

4人1組で集まって開催する「振り返り会」。この参加メンバーが互いに「世代」「バックグラウンド」が離れていたほうがよい。さらには、普段一緒に仕事をしている人ではないほうがよいというのは、多くの経験者が指摘する点です。

この点について、青砥氏は以下のように指摘します。

人の脳は、予測している情報と、実際に入ってきた刺激・情報との差が大きいほど、“オドロキ” を感じ、脳内にドーパミンが発生します。このドーパミンは、感情を結びつけるはたらきに関係しており、認知力の向上や行動を促す感情へつながります。

「オドロキ」感情が生まれ「ドーパミン」が放出される

つまり、予想外の指摘をされるほど、ドーパミンが放出され、脳内で感情の書き換えが起こりやすくなると同時に、認知力が高まって、新たな情報を学び取りやすくなるということです。

その「予想外」のインプットをもたらしてくれるのが、自分とは年代やバックグラウンドが違ったり、普段の自分と一緒にはたらいていない、異なる経験をしている人たちということになるわけです。

ポイント2:柔軟性の低い人を避ける

頭の固い人、教えるモードで参加する人がいると、振り返り会が台無しになる。

年齢や背景に関わらず、やわらかい人が多いほうがいいなあ・・・ と感じます。

これらのコメントも、振り返り会の経験者が多く指摘する点です。

柔軟性が低い人とは、言い換えると、「自分が思っているのとは異なる観点、予想外の情報が入ってきたときに、その内容を理解しようとせず、自分が元から持っている論理にこだわる人」を指します。

この点に関して、脳神経科学の観点では次のような解釈ができます。

認知的に柔軟性が低い人は、オドロキによってドーパミンが発生した後に、それを肯定的に受け止める “モトム” という感情ではなく、それを否定する “イカリ” という感情を生みやすくなってしまいます。せっかくドーパミンが出ているのに、そこから “イカリ” の感情にシフトしてしまうと、認知力が著しく低下してしまい、新たなことが学べなくなってしまいます(青砥氏)

つまり、柔軟性の低い人が混じってしまっていると、その人にとって新しい情報が出てくるたびに、イカリの感情が生み出され、その人はもとより、その場全体にイカリの感情が伝播し、学習が起きづらくなり、感情の書き換えなども停滞してしまうことになります。

バックグラウンドが異なっているとしても、柔軟性の低い人は避ける、これが振り返り会でのメンバー集めの大きなポイントとなります。

ポイント3:エピソードごとに細切れで説明し周囲にコメントをもらう

他の人の振り返りを聞いていると、とても良いやり取りを他の参加者としていて、良いインプットを沢山もらっているのに、自分の場合は何か、説明だけでひと通り終わってしまい、今ひとつインパクトが薄い気がする。

生き生きとしたやり取りになる振り返りと、そうでないときがあるように感じるんですが、その差が何か、今ひとつピンときていません。

このように、振り返り会における自分の持ち時間(通常は1時間)について、生き生きとしたものになるときとそうでないときがあることも、多くの経験者が指摘する点です。

結論から言うと、これを生き生きとしたやり取りにするポイントは、下図のように自分の今年の出来事を1つ話したら、そこで話を止めて、周囲の人に質問やコメントをもらうというやり方が有効です(下図)。

自分の持ち時間:良い進め方と悪い進め方

感情の書き換えでは、先ほどの例にあったように、ネガティブな感情が発生しているときにすかさず、他の人から温かい言葉やフィードバックを受け、ポジティブな感情を生み出すことが重要になります。この “同時性” が、感情の書き換えに極めて重要なんです(青砥氏)

青砥氏の指摘の通り、1つの出来事を話すと、そのときの記憶がありありと自分自身に浮かんできます。このとき、中断をせずにそのまま次の出来事の説明に移ってしまうと、生み出された感情はそのままいつもと同じように発生し、書き換えのきっかけとなる他者からのインプットを受けることなく、消えていってしまいます。

論理的に、一年分の流れをざっと説明し、その後に分析したいという人ほど、この「自分の状況をひと通り話してしまい、それからフィードバックを受ける」という進め方をする傾向にあります。

ですが、もしも感情の書き換え、周囲からのフィードバックによる刺激を活用することを主眼に置くならば、

  • 1つの出来事を話すたびに周囲にフィードバックを求める
  • 1年を4つの期間に区切って、その期間の説明が終わるたびにフィードバックを求める

といった方法が有効になります。

ポイント4:自分の持ち時間の最後と全体の最後に総括コメントをする

4つ目のポイントは、「自分の順番が終わる最後と、全体が終わる最後に、“今回、印象に残ったこと、学びになったことは何ですか?” という問いによる総括コメントをする」という点です。

これは、脳内での記憶の書き換えは、先ほど出た新しい結びつきの流れを何度も繰り返すことで強化される、というメカニズムを活かすものとなります。

書き換わり後

上記の図にあるような、振り返り会で書き換わった感情のつながりを、自分の持ち時間の最後、全体の最後に繰り返し語ることで、この新たなつながりがより強固なものになることが、そのポイントです。

「今回、印象に残ったこと、学びになったことは何ですか?」という問いかけは、振り返り会を通して何度も繰り返したい質問となってきます。

ポイント5:参加者同士で “その後” をモニタリングするグループを作る

振り返り会の効果、特に感情の書き換えを強固にするための最後のポイントは、参加者同士で、振り返り会終了後に互いのその後の状況をモニターし、確認し合うグループをFacebookやLINEなどのチャットグループとして運営する点です。

これは、ポイント4での “書き換わった後の感情の流れ” を、さらに日常に戻ってからも繰り返すためのアプローチとなります。例えば、先ほどの事例で妻に対する接し方が変化した男性はその後、このモニタリンググループの中で、

最近、仕事が忙しくなってきたので、こういうときこそ妻と会話をしなきゃ・・・ と思って、寝る前に妻と一緒に、お茶を飲んでドラマを観たら、なんだか疲れが取れました。やっぱり、振り返りで話題に出た “長い目で妻との関係を捉える” って、大切ですね。

というコメントをすると、他の参加者からは「えらい!」などのコメントが集まり、「やっぱりこの行動はとても良いこと。妻とのコミュニケーションは素晴らしいことである」という感覚が定着するようになります。

いかがでしたか? 年の瀬がせまるこの時期、ぜひとも今回の内容、そしてこの方法の詳細マニュアルである「40人のビジネスパーソンが絶賛した「1年の振り返り」完全マニュアル」を使って、振り返り会を開催してみてはいかがでしょうか。

[編集・構成]doda X編集部

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