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脳神経科学が解き明かす感情と行動と成果の秘訣

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「ビジネスの世界は、論理が重要。感情は邪魔なものであり、排除すべき」

この考え方が脳神経科学の発達により、大いに揺らいでいます。

「外部変化が激しい時代だから、社外人材を巻き込んでプロジェクトを推進すべき」と考えていても、実際には逆に社内に閉じこもって議論をしてしまう。

「そのプランは、ロジカルに分析すると不確実で先が見えない」と考えていても、そこに着手した面々が並々ならぬ熱意を燃やし、大成功してしまう。

これら、今までの論理的なアプローチだけでは説明がつかなかった多くの状況について、脳神経科学で「感情」を扱えるようになってきたことで解明が進み、日々の仕事に応用される場面が増えてきています。

そこで『“未来を変える” プロジェクト』では、UCLAで脳神経科学を専攻し、この分野のアプローチを企業と協働で推し進めているDAncing Einstein社の青砥瑞人氏をお招きし、イベントを開催。

青砥氏のレクチャーを基に、40名のビジネスパーソンによる議論を行いました。実際の仕事において「感情」を取り扱うとどのような活路が見出すことができるのか、ご紹介します。

今回のアウトラインです。

INDEX読了時間:10

それでは、本文です。

脳神経科学の基礎知識:「行動」「学習」のカギは感情が握っている

人が何か情報に触れたり、話を聞いたり、命令されたりすると、さまざまな刺激を受けます。その情報が処理され、最終的に人は「行動」します。

重要なのは、この「行動」が「感情」の動きによって引き起こされるという点です。

人は決して、すべてを論理的に考え(これを「認知」と総称します)、それに沿って判断し、決定し、行動するのではなく、「感情」が引き金となって行動するわけです。

ですので、

「論理的に考えたら、先輩の営業のノウハウを聞き、それを基に営業で実践すれば間違いなく成績が上がりそう」

と考えても、

「でも、先輩に話を聞きに行ったら『自分で考えろ』と怒られるかもしれないし、冷たくあしらわれるかもしれない。いやだなあ・・・ 止めておこう」

と、感情面が作用して行動できないということがよくあります。

青砥氏は、この「感情」の重要性をさらに以下のように強調しています。

情動・感情は、外部の刺激が生存上有利かどうかを、伝え、記憶させ、以後の予測確度を高め、刺激への反応を最適化し、生存確率を高める重要な機構である。

人は、より原始的な生活を送っていた時代から、この「感情」の動きによって、何が自分にとって危険なのか、何は安全なのかを他の仲間に伝えたり、自分で記憶したりすることで、次にどんな「行動」をすべきか、何を「学習」すべきかを決めてきたというわけです。

いつもは仕事上で「何が大切なのか?」を論理的な観点で議論し、決定しているつもりでも、実はこの「感情」が大半の行動を支配している。それなのに、今まで仕事上ではあまり「感情」を直接扱うことはありませんでした。

この「感情」の部分にこそ、個人の行動を変化し、学習を変化させる大いなるカギが存在しています。

私見では、男性は特に感情を排したがる傾向がある気がします。『私の理屈が正しい!』みたいな・・・(中略)。モチベーションのマネジメントは自分の責任とも思いますが、上司にもその観点が少しでもあるといいのになあと思います(30代・女性・ソフトウェア企業広報)

脳内の最初のステップ:「刺激」を選び、「キョウフ/アンシン」の感情が生まれる

目から飛び込んでくる新しい情報、会話を通した情報など、さまざまな「刺激」を受けると、人はその中から自分が対応する刺激を選びます。これを、「選択刺激」と呼びます。

脳が対応できるキャパシティはかぎられているので、一度にいくつもの刺激に同時に対処するのではなく、その瞬間、何か特定の「刺激」への処理に脳の能力の大半が割かれます。

退屈な定例会議に出席しながら手元のパソコンで内職をしていて、メールの返信などに没頭しているとほとんど会議の話が入ってこないという状況は、まさにこれにあたります。

刺激により引き起こされる最初の感情「キョウフ/アンシン」

さて、この「選択した刺激」に対して、最初の重要な感情が生まれます。これが、

その刺激は「キョウフ」なのか、「アンシン」なのか?

という感情です。

この動きには、脳の「扁桃体」と呼ばれる部分が大いに関与しており、「キョウフ」の感情が大きくなると、人は防御や回避といった行動を取ります。

特に、新しい情報、新しいことは危険をはらんでいる可能性が高いため、「キョウフ」が生まれやすく、それによって人は、「それを避けよう」「これに踏み込むのは嫌だなあ・・・」と感じます。

同時に、「キョウフ」の度合いが高いと、人が物事を考え、理解するといった認知のはたらきが弱くなります。

この「キョウフ」の仕組みをきちんと理解しておかないと、上司が部下のやる気を引き出すために「もっと頑張らないと、同期の◯◯に負けてしまうぞ・・・」とハッパをかけたつもりが、部下のほうは「キョウフ」を感じ、頭がはたらかなくなり、そこから身体がすくんでしまい、何も行動できなくなってしまうといったことが起こりえます。

もちろん、この「キョウフ」には良い影響もあります。子どもが赤信号を渡ろうとしたとき、「危ない!!」と鬼の形相で怒られると、それによって「キョウフ」を感じた子どもは、「赤信号で道を渡る」ことを回避するようになります。

そしてもう一つ重要なのが、人は概して「新しい情報」に触れる場合、「キョウフ」が生じやすいという点です。基本的に、新しく何かに取り組むということ自体、脳が新しいエネルギーを使う必要があり、取り組みそのものに危険が潜んでいる可能性があります。

言い換えると、「何かこれをやるのは、モヤモヤするなあ・・・」と感じるときは、「キョウフ」や少し弱い感情である「フアン」が生み出されており、新しいことに触れているシグナルそのものなのかもしれません。

青砥氏は、この部分に関して以下のような指摘もします。

エネルギー確保が重要な太古であれば、脳のエネルギー消費にモヤモヤも重要でした。一方、現代の日本では栄養分が足りない、エネルギーが足りないという文脈にはなりづらいので、原始的な脳によって、無駄に危険信号を知らせる脳活動が行動回避に導いているかもしれない、ということにも気をつけたいですね。

刺激と予測の差が大きいほど「オドロキ」が生まれドーパミンが放出される

無事に「キョウフ」による行動回避のフィルターをくぐり抜けると、次に起きる脳内の反応が「オドロキ」という感情です。

この「オドロキ」、自分がこうなるであろうと考えている「予測」と、実際に起きた出来事「刺激」の差が大きいほど、大きくなります。そして、その大きさに応じて脳内に「DA:ドーパミン」が放出されます。

「オドロキ」感情が生まれ「ドーパミン」が放出される

「ドーパミン」が放出されると、脳内では「行動開始」の指示が行われ、注意力が向上し、記憶が定着しやすくなります。

ドーパミン(DA)こそが、「行動」と「学習」のキーとなります。ですから私の会社も、DAncing Einsteinと名づけているくらいです(笑)(青砥氏)

ドーパミンがより多く放出されるためには、「予測」と大いにかけ離れた「刺激」が重要となる。そして、その放出量が多いほど「行動」「学習」が促進される。

「予測」と「刺激」をどのようにコントロールするかが、カギとなります。

いつも仕事上で「予測できる」刺激ばかり受けていると、人はその状況に退屈し、ドーパミンはほとんど放出されず、結果的に「行動」しない。「学習」できなくなってしまいます。

何を予測し、どのように「予測外」の刺激を受け入れるようにできるか? これこそが、人の成長や成果に大いに関係する要素となります。

同じ組織に居続けると「腐って」くるのは「刺激」が無いからですね。水も流れないと「腐る」ので、清らかさを保つには流れ続ける必要があります(30代・男性・元大手銀行勤務)

「オドロキ」とドーパミンの先にある「感情」

このDAの放出が行われた後、人にはさまざまな感情が生まれます。今回の『“未来を変える” プロジェクト』のイベントでは、これらの詳細な解説は省略されましたが、下図に示すように、脳神経科学では感情の変化が、脳内の分泌物質の関係とともに研究・解明されています。

例えば、予測と刺激との差分が良い方向にズレた場合、最初に起きる感情が「モトム」というもの。この感情が起きることで、人は認知力が高まり、行動をどんどん起こしていこうという意欲が高まります。

一方で、予測と刺激との差分が悪い方向にズレた場合、「イカリ」という感情が引き起こされます。「イカリ」も「モトム」と同様に、人が行動する大いなるきっかけとなり、一概に悪いとは言えません。

ただし、「モトム」と違い、脳内の認知機能を低下させる影響があるため、「行動はしたが、思慮に欠ける」といったことにつながる恐れがあります。

感情がどのように発生するかは「海馬」と「扁桃体」が大いに関係する

もう一つ押さえておくべき点として、「刺激」そのものには大きく分けて、「外刺激」と「内刺激」の2種類があり、このうち「内刺激」については自分の過去の長期記憶が大いに関係するという内容があります。

「内刺激」というのは、何かのきっかけにより、自分が過去に持っている記憶そのものが刺激を生み出すことを指します。

例えば、ふとした場面で仲間外れにされている子どもを見て、自分自身が小さいころにいじめられたことを思い出し、そこからさまざまな気持ちが沸き起こるというのは「内刺激」となります。

この「内刺激」から始まる感情の変化に関しては、下図のような関係があります。

「自分の記憶から生まれる刺激(内刺激)」と感情の関係

昔すでに見たことのある映像や状況に直面すると、脳の中で長期記憶を司る「海馬」と呼ばれる部分が反応し、この長期記憶と結びついている「感情記憶」を持っている「扁桃体」を刺激し、それによって感情が生み出されていきます。

ですので、ある事象に関して「それが良い体験につながった」という感情をセットで持っていることは、大きな財産となっていきます。

例えば、小さいときに人前でスピーチをして、みんなから良い反応を得られず、惨めな思いをしたことがある場合。スピーチの場面に遭遇するたびに、本人の中では「スピーチする」という状況の長期記憶が「恥をかいた、恐怖」という感情記憶と結びついており、勝手に恐怖を感じてしまいます。

ですが、自分の結婚式で、親しい友人たちが見守る中、スピーチをしてみると、それによってみんなが大いに反応し、温かい声をかけてくれることで「スピーチする」という長期記憶は、「楽しい・嬉しい」という感情記憶と結びつきます。

こうした、成功体験の蓄積が増えることによって、ある事象に対してポジティブな感情を抱きやすくなり、「より、そういった機会に取り組もう」という姿勢が強くなっていきます。

以上、今回の青砥氏による内容の要点を整理すると、

  • 人の「行動」「学習」は、「感情」によって大きく左右されている
  • 刺激に対して発生する最初の感情「キョウフ」が大きいと、人は回避してしまう
  • 予測と大きくかけ離れた「刺激」を得るほど、ドーパミンが放出され「行動」と「学習」が引き起こされる可能性が高まる
  • 「長期記憶」と「感情記憶」のセットをどのように持っているかによって、感情の発露は大きく左右される

これらを基に、今回の『“未来を変える” プロジェクト』の議論では、仕事における脳神経科学の応用について、次のような議論が行われました。

仕事上で「新しい刺激」に恐怖を感じて回避していないか?

一つの会社、一つの組織で長年はたらいている場合、徐々に仕事のパターンを掴めていくにつれ、普段から顔を合わせるメンバーが固定化し始めます。

社内の同僚はもちろんのこと、取引をしたり、協業したりする社外の面々も、馴染みである比率が高くなり、最初の頃よりもスイスイと仕事をこなせるようになっていくのは、多くの方が経験のあることではないでしょうか?

今回、『“未来を変える” プロジェクト』のイベントに参加した方々からは、

「社内で同じ面々と仕事をする機会が増えていくと、だんだんと社外に出るのが面倒になってくる」

「久々に社外で話をすると、まるで新人のときのように緊張する」

といった話に代表されるように、徐々に社内組織での仕事が増えると、社外で異質な人に出会う、あるいは自社とはまったく違う状況で会話をするといったことに、抵抗感や軽い「キョウフ」を覚えるようになっていくとの指摘がありました。

こうして、

「社外と接する機会が減少する」→「たまに社外の人と接すると抵抗を感じる」→「社外の人と接する機会がさらに減少する」→「さらに、たまに社外の人と接すると抵抗を感じる」→・・・

といったように、社外の刺激に対する「キョウフ」の感情、あるいは先ほどの青砥氏の指摘にあったような、太古の脳がエネルギー消費を抑制しようとして「フアン」「モヤモヤ」を生み出し、そこからどんどん社外などの刺激を得られないループにハマってしまう可能性があります。

新しい人、新しい考えに触れても、自分の期待に沿って話を聞いていないか?

次に指摘されたのは、

大組織の年配の人と会話をすると、こちらが考えやアイデアを述べても、「ああ、それって◯◯ということですよね」というふうに、自分の知っている考えに無理やり話をつなげようとする(30代・男性・EC系サイトマネジャー)
あまり活き活きとした感じのしない人にかぎって、こちらの興味・関心を考えず、自分が言いたいこと、聞きたいことばかりを言ってくる傾向があります(20代・女性・Webメディア関連)

という、人との会話で、自分の聞きたい話ばかりをし、相手の話を深掘りしたり、きちんと質問したりしない人が、概して魅力的でないという点でした。

「最近、YouTubeで『ピコ太郎』っていうのがすごい流行ってるんですよ〜」

「ああ、最近の若い人って、Youtubeでいろいろとお笑い芸人とか見るよね。それって、昔の波田陽区みたいな『一芸芸人』ってことだよね」

「(シーン)」

といったやりとりのように、自分がすでに知っているもの、自分の頭の中のフレームに沿って、新しい情報を受け取ることで、結果的に「予測」と「刺激」のギャップが大きくならず、せっかく新しい話を聞いても、ドーパミンが放出されず、退屈そうにその情報をやり過ごしてしまうということは少なくありません。

面白い人、活力がある人ほど、人の話をじっくり聞くという共通項がありますが、それってつまり、「相手が自分の知らないこと、予測のつかないことを言ってくれるだろう。それによって、大いに嬉しい誤算と刺激を受けられるだろう」というふうに準備している人だからかもしれませんね。そういう人は、脳内でドーパミンが蔓延しているのかも(50代・男性・ファンドマネジャー)

「モトム」や「イカリ」による「行動」と成功体験を持っているか?

3つ目の指摘として出たのが、「実際に、モトムやイカリという感情をベースに行動し、成功した、良い結果をもたらした」という経験があるかないかによって、仕事上で新しい刺激を活かせるかどうかがとても左右されるという点でした。

成功しているベンチャーと、今ひとつ成功しないベンチャーの違いは、新しい情報に出会ったときに、戸惑い、混乱しながらも、「こういう感じだから、上手くいく」というふうに加速できる、過去の成功体験を持った人がいるかどうかにかかっている(30代・男性・ベンチャー支援)
いつも、新しいチャレンジ、何かよく分からないものに取り組むということをしていると、最初はフワフワしてるけれど最後には大成功になるという体験を持っているので、あえてどんどんそういう環境を選んじゃうんですよね(50代・男性・外資系メーカー役員)

こうした方々の指摘にある通り、新しい刺激に触れて、そこから行動を起こし、それによって成功した、良いことがあった、という人は、

  • 「未知のものに触れ、そして成功した」(海馬の長期記憶)を持っているために、
  • それが「モトム」「ヨロコビ」(扁桃体の感情記憶)と結びつき、
  • さらに新しい刺激を得て、さらにドーパミンが放出され、
  • さらに「行動」し「学習」する

というポジティブスパイラルをもたらすというのが、今回の議論で多いに盛り上がった点でした。

言い換えれば、「あなたの組織の中には、新しいものに触れることで成功した経験を持っている人がどれだけいますか?」というのが、大きなポイントになる、ということかもしれません。

仕事上での刺激・感情・行動に関するセルフチェックの観点

以上のような議論を整理すると、日々の仕事、日常での経験の中で、刺激・感情・行動について良いパターンを持っているかどうかは、例えば、下記のような観点で振り返ることでセルフチェックができます。

刺激・感情・行動に関するセルフチェックの観点

これらの観点は、個人として仕事に取り組む際に重要であるのはもちろんのこと、組織やチームを運営する観点からも、欠かせないものであるという指摘が今回の参加者からも相次ぎました。

「機械的組織」(人は機械のように右ボタン押せば右に動く)ではなく、「生物的組織」(人は感情・やる気を持った生物なのでボタン押しだけでは動かない)へ移行することで、より時代に合った組織運営ができるでしょう(30代・男性・組織開発コンサル)
翻って自分を見ると、最近の本業(戦略コンサル)はほどほどに、夜のお仕事でスタートアップ支援をしていますが、それを思うと、前者のアドレナリンやドーパミンを全力でもらいにいくことをしているんでしょうね。もちろん、本業はほどほどにやって回るので、それはそれという感じで。報酬の話でみれば、本業のほうが金額は圧倒的に上ですが、社会に対するインパクトは意外と地味。夜の仕事は、金額はグズグズですが、仮にビジネスとしてハマると社会インパクトがスタートアップはデカい。これに意義を見いだしているんでしょう(30代・男性・戦略系コンサル)

「ロジカルに考えれば、仕事上の問題は解決する」

「感情は仕事にとって邪魔なもの、排除すべきもの」

といった考えに一石を投じるこの脳神経科学のアプローチを使って、一度ご自分の仕事を振り返ってみてもいいかもしれません。

[編集・構成] “未来を変える”プロジェクト 編集部

[編集協力] DAncing Einstein社

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