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「無知を自覚できる能力」の重要性が増している

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『“未来を変える” プロジェクト』では、記事の制作段階でさまざまな方と議論し、フィードバックをいただきながら制作しています。今回は月間150万PVを超える「仕事・マネジメント」をテーマにした人気ブログ「Books&Apps」を運営する安達裕哉さんに、「情報過多の時代における情報を受け取る側に求められる力」について寄稿していただきました。

PROFILE

ティネクト株式会社 代表取締役 安達裕哉
安達裕哉
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年、東京都生まれ。Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。現在はコンサルティング活動を行う傍らで、仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営し、月間PV数は150万を超える

かつてわれわれが触れることのできる情報は、限られていた。知人から直接会話を通じて得られるものと、マスメディアを通じて得られるものの2つである。この2つだけが情報源である場合、その信頼度についての判断はそれほど難しくない。

知人については、その人の信用力に。マスメディアについては、そのメディアの実績にそれぞれ依存しており、「この人の言うことならば信じよう」「この雑誌の言うことは話半分としておこう」「このメディアは信用できそうだ」と、簡単に話を済ませることができた。

この場合、皆が等しく知っており、皆が等しく無知である。従って、「自分が持っている知識」についての判断は比較的やさしかった。

翻って現在、Webにはさまざまな情報が溢れており、情報は圧倒的に手に入りやすくなった。記事になっているもの、SNSのタイムラインに表示されたもの、何気ないつぶやき、意図的に流されたデマなど、「情報の洪水」という表現は必ずしも大げさなものではない。だが、その信頼度については、ますます判断が難しくなっている。

例えば、ある著名人が「ITを導入して、劇的に業績が改善しました」と語ったとする。それはたしかに事実なのだろう。「ITを導入」「劇的に業績が改善」という2つのフレーズ。ここに関しては疑いを差しはさむ余地はない。

しかし、その間をつなぐものは何もない。皆がよく知っているとおり、多くの会社でITを導入しただけで業績が改善することはないし、実際にはそれを導入しようと思った経営者の手腕や、現場の意識改革のための努力、場合によっては体の良いリストラの口実としてITが導入されただけで、実際には業績が良くなった理由はリストラの影響である、という可能性もありうる。

要するに、事の真偽は依然として不明であり、ここから分かることは「ITで業績が上がったと主張をしたい人がいる」という客観的事実のみである。

個人が情報を発信しているSNSやブログは、さらにこの傾向が強い。そこで発信されていることのほとんどは、「彼らの目を通してみた世界の姿」であり、必ずしも事実や正確な因果関係が描かれているわけではない。

近頃よくある、「ブログで儲ける」「◯日間で◯千人集客した方法」と言ったタイトルが付いた情報を信じる人がたくさんいるのは、そのためだ。おそらくそれはウソではない。ウソではないが、事実でもない。それは筆者の「主観的な真実」に過ぎない。

人のアテンションは有限である。その限られたリソースを取りに行くために、メディアは記事を事実に比べて「面白く」加工する。人の話や記事になっているエピソードは、実際にはもっと地味で、つまらなく、ありふれたものである可能性が高い。

「非同期化、非マス化」の流れの中で、われわれは何が信頼に足る情報なのか、何が信頼の置けない情報なのかを判断する目を保つことはかなり難しくなっており、現代において、「自分がどの程度知っているのか?」についての情報を得ることは以前に比べて格段に難しくなった。

———–

ここで注意していただきたいのが、「だからWebはデマばかりで、信用するに足らない。ダメな媒体である」と言いたいわけではない。

そうではなく言いたいのは、情報の洪水の中では「自分自身の無知」に対してより鋭敏でいる必要がある、ということだ。

「こんな話を聞きました」「こんな話を読みました」に対して、どれだけ批判的、客観的に眺めることができているかが問われる時代になった。

ではそんな時代に、われわれは情報をどのように眺めればよいのだろう。やれることはそう多くないが、3つほどある。

1つは同じ問題に対して、複数の記事を当たることだ。それも、あえて逆の見方をしている記事を眺めるのが良い。情報のソースが多いということは、必ず1つの見解に対して別の見解が手に入るということでもある。

2つ目は出典を当たることだ。記事のデータソースは何か、著者の引用している文献は何か、引き合いに出している記事は何か、しっかりと出典を明らかにし、信頼のおけるデータを取り扱っている記事は、そうでない記事に比べて信憑性は高いはずである。

3つ目は、その人物の他の記事と情報を当たることだ。記事を書いた人物が他にどのような主張をしているか、意見はどちらに偏っているか、公平な人物か、それとも思い込みの強い人物か。そう言った情報は、一つ一つの記事を見ているだけでは分からない。だが、全体を眺めれば自ずと著者の人間性が浮かび上がってくる。

要は、「自分の知識や主観を一旦排除し、できるだけ広く知識に当たることが重要」である。

ヘブライ大学の歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリは、著書『サピエンス全史(河出書房新社)』の中で、次のように述べる。

近代科学は「私たちは知らない」という意味の「ignoramus」というラテン語の戒めに基づいている。近代科学は、私たちがすべてを知っているわけではないという前提に立つ。それに輪をかけて重要なのだが、私たちが知っていると思っている事柄も、さらに知識を獲得するうちに誤りであると判明する場合がありうることも、受け容れている。いかなる概念も、考えも、説も、神聖不可侵ではなく、異議を差しはさむ余地がある。

進んで無知を認めることが、さらに大きな知識を手にするための条件である以上、「情報の洪水」においてはさらにそれを意識する必要があることは言うまでもないだろう。

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